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第7章
7-11採血
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嫌な予感はずっとあった。
決して悪意がないことはよくわかってる。
しかしルイーナの性格上、自分と湧を最大限にからかうことは十分に予測できたはずだ。
逆に言えば悪意がないだけ、余計にタチが悪いとも言える。
でも大介から、ルイーナに協力を頼まれた以上、拒絶もできない。
湧は知っていたのだろうか?
いや、多分知らさせていなかったと思う。
いずみは深い闇の中で、ひどく冷静に考えていた。
そして…、
「戻ったら新技の実験台にしてやる!」
と心に強く誓った。
? 戻ったら?
どこに戻るんだっけ?
ともかく、今自分がどこにいるのかすら分からない。
“私…何してるんだろ?…”
そこまでが限界だった。
いずみの意識は再びさらに深い闇に落ちていった。
・ ー ・ ー ・ ー ・
目覚めは唐突だった。
まぶたが開いている感覚はある。
しかし何も見えない。
視力の低下によるものだと気付くまでは時間がかからなかったが、徐々に見えてきた視界も目を凝らさないと見えないくらい暗かった。
「ううっ…ここは…あれ? 動けないっ!」
いずみはもがこうとするが、身体が鉛のように重くビクともしない。
拘束されているらしいが、それ以前に身体の感覚がほとんどないと気付いた。
「あ、目覚めましたか?」
ルイーナがいきなり至近距離から視界に入ってきた。
「ひっ! あ、ルイーナかぁ びっくりした」
薄暗いがルイーナの顔ははっきり見える程度だった。
指はなんとか動く。
首も左右に回すことができ…!
「ふぎゃぁ~~、あ、頭がっ、頭が痛いっ!」
「大声を出さないでください。YOUが起きてしまいますよ」
ルイーナはごく自然な口調で咎めた。
「ル、るうぃ~~ぁ~~~」
最後は悲鳴になってしまった。
頭の中に血が巡る度に、ズキンズキンと激痛が走った。
それからしばらくは固く目を閉じて、激痛に耐えたいずみだが、ふと湧が気になって左隣のベッドに視線だけ、向けてみた。
よく見えないが、いずみと同じようにベッドの拘束具にがっちり抑え付けられているらしいことは確認できた。
「ルイーナ。湧は…大丈夫なの?」
「YOUはまだ目覚めていません。ギリギリまで採血したので、後4時間くらいは目覚めないでしょう」
“ギリギリまで”? なにそれ?
いずみはルイーナの言葉を反芻して…、自分たちが採血されていたのだと思い出した。
「ルイーナっ! ウァァァァァ~頭がぁ~」
「大声を出したら頭に響きますよ?」
少し楽しそうにルイーナは囁いた。
「ぎ、ギリギリってどういうこと?」
「YOUからは1600ml、いずみからは1200ml採血させていただきました」
「へぇ… …?… せ、1200ぅ? 1.2リットル? そんなに採られたら死んじゃうじゃないっ! !頭がぁ~…痛いぃぃぃぃ~、割れそう!」
もんどり打つこともできず、頭に手を当てることもできないため、顔をしかめて激痛に耐えるいずみ。
「そんなに騒がないでください。まだ血が足りていないから身体を動かそうとしたらダメですよ」
まるで自分には、いずみの激痛とは無関係ような冷めた口調のルイーナを睨み返す。
「ふ、普通、女子だと1.2リットルも血を採られたら、ショック死…するんじゃないの?」
「でもいずみは普通の女子じゃないですよ?」
「だからって勝手に1.2リットルも採るなぁ、干からびるだろうがぁ!」
いけしゃあしゃあと返すルイーナに歯ぎしりしながら怒鳴り返す。
抗議するポイントが違うが、ルイーナはそれに対する答えを用意していた。
「抜いた血液分の生理食塩水点滴してるから、干からびることはありません。まあ血の濃度は半分くらいになってますが…」
「は? 半分? し、死ぬ。死んじゃう…」
そこまで呻いて、いずみは再び気絶した。
「あらら、意外と繊細?」
ルイーナは悪い笑みを浮かべて、湧のベッドに近づいた。
「YOU! 起きてください~」
「うう…」
「まだ無理そうですね。そのまま寝ててください」
そう言い残して、二人分の血液パックを台車に乗せて、ルイーナは採血ルームから出て行った。
それから3時間後、採血ルーム横のリビングにて、いずみはルイーナを床に正座させてその前に仁王立ちしていた。
「いずみ、やりすぎだ。せめてソファに…」
「湧は黙ってて! 協力するって言ってるのにあんなことするなんて許せないわよっ!」
ルイーナは黙ったまま俯いていた。
「ルイーナ、はっきり答えてよ。なんであんなことしたの?」
「いずみっ! ルイーナを責めるんじゃない」
突然、部屋に入ってきた大介がいずみを諌める。
「だ、大ちゃん?」
「失血による体温の低下を防ぐための保温や、心拍数、脳波モニター、生理食塩水の点滴など、さらには痙攣を防ぐためには必要な処置だ」
「え? どういうこと?」
「あのベッドはICUでも使われている最新式の処置ベッドだ。まあ固定用のアタッチメントは特注だが、体温調節や全身モニターは正規の医療機器だ」
「…ってことは、あれは必要なことだったの?」
「まあ、普通の採血には使わないけどな。事情が事情なので、通常の3倍以上の採血が必要だったから大事をとって、購入した」
止むを得ないと言いたいのだろうが、なんだか後付けの言い訳にしか聞こえない。
「大ちゃん。他にも何か隠してるでしょ?」
「ああ、まだまだ隠してるぞぉ。だけどいずみが混乱するから追々話す」
大介は悪気もなくぶっちゃけた。
「大ちゃん。私前々から思ってたんだけどぉ~、ルイーナと会ってから随分性格悪くなったよね」
「いや、性格はむしろ良くなっている。今までは表に出してこなかっただけだ」
「はぁ?」
毒気を抜かれていずみはその場にしゃがみ込んでしまった。
「…もういいや。どうでも。で、クリーチャーの対抗策って説明してもらえるんでしょうね?」
「当然だ。ルイーナ準備を頼む」
大介はルイーナの手をとって立たせながら、指示をした。
「はい」
それだけ言うと、ルイーナは一度リビングを出て行った。
「まあ、ルイーナのいたずらだと思って、大目に見てやってくれ」
閉まった扉を見つめて、大介は二人に告げた。
「やっぱり全部知ってたんだ…」
いずみは大介の背中を睨みつけた。
「対抗策と言っても暫定的なもので、決定打になるとは考えていません。そこを理解しておいてください」
さっきまでのいたずらっぽい雰囲気は微塵も感じさせず、ルイーナは真剣な表情で話し出した。
「まずはこれを見てください」
と言って、ルイーナはテーブルの上に奇妙な形の銃らしきものを置く。
「………なにこれ?………」
いずみはまた何か、からかわれているんじゃないかと猜疑心MAXの目つきで聞いた。
「FN P90と言うサブマシンガンのガスモデルガンだ」
「? …へ?」
いきなり大介がその物体について説明を始めたが、いずみの思考ではついていけなかった。
「え~と、マシンガンの…モデルガン??」
「そうだ」
どう見てもおもちゃにしか見えないFN P90のモデルガンを見て、いずみは何をどこから突っ込んでいいのか途方に暮れる。
「モデルガンでクリーチャーに対抗するんですか?」
湧も理解が及ばない…というより、本物であってもクリーチャーには効果がないと思っているようだ。
「問題は銃が本物かおもちゃかということではない。この先はルイーナが説明するので、馬鹿にせずきちんと聞いてくれ」
と言って、大介は少し離れたチェアに腰掛けた。
「ところでさ、賢者の石でクリーチャーをやっつけられるの? 私にはエネルギーを与えてより強くさせるだけだと思うけど…」
口を横に長く開き、心底嫌そうに呟く。
「まさにその通りエネルギーを与えるんです。ただ、強くはなりません。先日の銀座事件で人を襲ったクリーチャーがどうなったか覚えてますか?」
「? 人を襲って、ある程度エネルギーに変換したら自然消滅した? んだよね?」
「半分は当たりです。しかし自然消滅ではありません」
「どういうこと?」
「クリーチャーは人を襲ってエネルギーに変換します。けれど、そのエネルギーはクリーチャー内部に一時的にでも保管されるわけではないのです」
「? あ、そういうことか!」
湧が突然理解したような声を上げた。
「湧はわかったの? どういうこと?」
「つまりエネルギーに変えた時点で、どこかにエネルギーを送ってるんだ」
「YOUの言う通りです。クリーチャーは自らのエネルギーを使って、変換したエネルギーをパッケージ化して転送していたようです。そのためどんどん自らのエネルギーを消費し、最終的には消滅するのです」
「へえ、そうなんだ。あれ? じゃあ…」
「分かっていただけましたか。人を襲ってエネルギーを得る前に、こちらからエネルギーを与えてしまえば、犠牲者を激減できます」
「無くせるとは言わないのね…ははは(汗)」
「そこまで楽天家ではないので、過大な効果は期待しません」
ルイーナは悲しげな表情で呟いた。
今までの人生(エルフ生)で、幾多の絶望を経験してきたのだといずみは直感した。
「あ~、それでこのモデルガンなのかぁ~」
「そういうことです」
「でもさあ、もっとかっこよくて持ちやすそうな銃はなかったの?」
それでもいずみには、FN P90の形が不恰好に思えて嫌そうだ。
「この銃は機関部がグリップとトリガーより後ろにあるため、全長に対して銃身が長いのです。そのおかげで他のサブマシンガンより全長が短いのに集弾率が高くなっています。さらに銃身にはアルミのパイプを使っていますが、モンスターを召喚するための術式を書き込むにはこの銃の長さの銃身が必要だったのです」
「え~と、つまりその術式を書き込むために必要な銃身の長さがある中で、この銃が一番小さいってこと?」
「はい。その通りです」
その返事を待ってから、いずみはFN P90を始めて手にとってみた。
「あれ? 軽~い。 おもちゃだから? かな?」
「いえ、内部機構はガスガンですが、重さは実物とほとんど変わりがありません」
「え? 本物もこんなに軽いの?」
FN P90の実銃は弾倉に実弾を装填した状態で3.0kgだ。
同等の能力を持ったサブマシンガンは、ほとんどが4kg以上なので見た目の大きさ以上に軽く感じるのだろう。
サブマシンガンのカテゴリーの中には、より小型で軽量の物もあるが、ほとんどが銃身が短くFN P90のようにライフル弾ではなく、拳銃弾を使う物が多い。
「あのさ…」
「? なんでしょう?」
ルイーナはいずみの声の変化を聞き逃さなかった。だからいずみが不穏な雰囲気を発していることが分かり、思わず身構えた。
「この銃って、“賢者のBB弾”が何発入るの?」
「本体には120発、専用のマガジンには600発入ります。だから最大で720発ですね」
「へえ、…720発… …ええっー!? じゃあ私や湧の血でどのくらい“賢者のBB弾”作れるの?」
「400mlで約1万発。いずみは毎回1200mlなので、3万発ですね。YOUは4万発なので、一回の採血で7万発作れます」
ルイーナはドヤ顔で宣った。
「ち、ちょっと待て! 一回の? あ、それより3万発? 二人で7万発? それだけ作れるのに何回も採血する気?」
いずみは顔面が蒼白になりながら呻いた。
「それだけって、何言ってるんですか? 7万発じゃ全然足りませんよ。水無月スタッフ250人全員に配給するんですから、一回で約2万6千発、予備も最低でも2本以上必要ですから30万発、少なくとも最初の配給時には33万発以上必要となるんです」
「33万? あと4回も採血させられるの? そんなにポコポコ血を抜かれたら、死んじゃうわよっ!」
「大丈夫ですよ。いずみとYOUなら(ニコニコ)。それにちゃんとインターバルは考えて、無理のないスケジュールを組んでいますから」
ルイーナはニコニコしながら答えているが、もういずみは信用していない。
「普通の人だと400mlの採血後は3ヶ月以上採血できないけど、お二人は2週間でほぼ全快するので、そのタイミングで採血させていただきます」
「え? なにそれ? じゃあ10週間…約2ヶ月で6リットル、湧は7.2リットルも抜かれるってことぉ??」
「そういうことになりますね」
全く悪気も譲歩も情けもないルイーナの返答。
「死ぬ。絶対に死ぬ。もう死ぬ。すぐ死んじゃうぅぅぅぅぅぅ~」
と言って、いずみの意識は闇にぶっ飛んだ。
<続く>
決して悪意がないことはよくわかってる。
しかしルイーナの性格上、自分と湧を最大限にからかうことは十分に予測できたはずだ。
逆に言えば悪意がないだけ、余計にタチが悪いとも言える。
でも大介から、ルイーナに協力を頼まれた以上、拒絶もできない。
湧は知っていたのだろうか?
いや、多分知らさせていなかったと思う。
いずみは深い闇の中で、ひどく冷静に考えていた。
そして…、
「戻ったら新技の実験台にしてやる!」
と心に強く誓った。
? 戻ったら?
どこに戻るんだっけ?
ともかく、今自分がどこにいるのかすら分からない。
“私…何してるんだろ?…”
そこまでが限界だった。
いずみの意識は再びさらに深い闇に落ちていった。
・ ー ・ ー ・ ー ・
目覚めは唐突だった。
まぶたが開いている感覚はある。
しかし何も見えない。
視力の低下によるものだと気付くまでは時間がかからなかったが、徐々に見えてきた視界も目を凝らさないと見えないくらい暗かった。
「ううっ…ここは…あれ? 動けないっ!」
いずみはもがこうとするが、身体が鉛のように重くビクともしない。
拘束されているらしいが、それ以前に身体の感覚がほとんどないと気付いた。
「あ、目覚めましたか?」
ルイーナがいきなり至近距離から視界に入ってきた。
「ひっ! あ、ルイーナかぁ びっくりした」
薄暗いがルイーナの顔ははっきり見える程度だった。
指はなんとか動く。
首も左右に回すことができ…!
「ふぎゃぁ~~、あ、頭がっ、頭が痛いっ!」
「大声を出さないでください。YOUが起きてしまいますよ」
ルイーナはごく自然な口調で咎めた。
「ル、るうぃ~~ぁ~~~」
最後は悲鳴になってしまった。
頭の中に血が巡る度に、ズキンズキンと激痛が走った。
それからしばらくは固く目を閉じて、激痛に耐えたいずみだが、ふと湧が気になって左隣のベッドに視線だけ、向けてみた。
よく見えないが、いずみと同じようにベッドの拘束具にがっちり抑え付けられているらしいことは確認できた。
「ルイーナ。湧は…大丈夫なの?」
「YOUはまだ目覚めていません。ギリギリまで採血したので、後4時間くらいは目覚めないでしょう」
“ギリギリまで”? なにそれ?
いずみはルイーナの言葉を反芻して…、自分たちが採血されていたのだと思い出した。
「ルイーナっ! ウァァァァァ~頭がぁ~」
「大声を出したら頭に響きますよ?」
少し楽しそうにルイーナは囁いた。
「ぎ、ギリギリってどういうこと?」
「YOUからは1600ml、いずみからは1200ml採血させていただきました」
「へぇ… …?… せ、1200ぅ? 1.2リットル? そんなに採られたら死んじゃうじゃないっ! !頭がぁ~…痛いぃぃぃぃ~、割れそう!」
もんどり打つこともできず、頭に手を当てることもできないため、顔をしかめて激痛に耐えるいずみ。
「そんなに騒がないでください。まだ血が足りていないから身体を動かそうとしたらダメですよ」
まるで自分には、いずみの激痛とは無関係ような冷めた口調のルイーナを睨み返す。
「ふ、普通、女子だと1.2リットルも血を採られたら、ショック死…するんじゃないの?」
「でもいずみは普通の女子じゃないですよ?」
「だからって勝手に1.2リットルも採るなぁ、干からびるだろうがぁ!」
いけしゃあしゃあと返すルイーナに歯ぎしりしながら怒鳴り返す。
抗議するポイントが違うが、ルイーナはそれに対する答えを用意していた。
「抜いた血液分の生理食塩水点滴してるから、干からびることはありません。まあ血の濃度は半分くらいになってますが…」
「は? 半分? し、死ぬ。死んじゃう…」
そこまで呻いて、いずみは再び気絶した。
「あらら、意外と繊細?」
ルイーナは悪い笑みを浮かべて、湧のベッドに近づいた。
「YOU! 起きてください~」
「うう…」
「まだ無理そうですね。そのまま寝ててください」
そう言い残して、二人分の血液パックを台車に乗せて、ルイーナは採血ルームから出て行った。
それから3時間後、採血ルーム横のリビングにて、いずみはルイーナを床に正座させてその前に仁王立ちしていた。
「いずみ、やりすぎだ。せめてソファに…」
「湧は黙ってて! 協力するって言ってるのにあんなことするなんて許せないわよっ!」
ルイーナは黙ったまま俯いていた。
「ルイーナ、はっきり答えてよ。なんであんなことしたの?」
「いずみっ! ルイーナを責めるんじゃない」
突然、部屋に入ってきた大介がいずみを諌める。
「だ、大ちゃん?」
「失血による体温の低下を防ぐための保温や、心拍数、脳波モニター、生理食塩水の点滴など、さらには痙攣を防ぐためには必要な処置だ」
「え? どういうこと?」
「あのベッドはICUでも使われている最新式の処置ベッドだ。まあ固定用のアタッチメントは特注だが、体温調節や全身モニターは正規の医療機器だ」
「…ってことは、あれは必要なことだったの?」
「まあ、普通の採血には使わないけどな。事情が事情なので、通常の3倍以上の採血が必要だったから大事をとって、購入した」
止むを得ないと言いたいのだろうが、なんだか後付けの言い訳にしか聞こえない。
「大ちゃん。他にも何か隠してるでしょ?」
「ああ、まだまだ隠してるぞぉ。だけどいずみが混乱するから追々話す」
大介は悪気もなくぶっちゃけた。
「大ちゃん。私前々から思ってたんだけどぉ~、ルイーナと会ってから随分性格悪くなったよね」
「いや、性格はむしろ良くなっている。今までは表に出してこなかっただけだ」
「はぁ?」
毒気を抜かれていずみはその場にしゃがみ込んでしまった。
「…もういいや。どうでも。で、クリーチャーの対抗策って説明してもらえるんでしょうね?」
「当然だ。ルイーナ準備を頼む」
大介はルイーナの手をとって立たせながら、指示をした。
「はい」
それだけ言うと、ルイーナは一度リビングを出て行った。
「まあ、ルイーナのいたずらだと思って、大目に見てやってくれ」
閉まった扉を見つめて、大介は二人に告げた。
「やっぱり全部知ってたんだ…」
いずみは大介の背中を睨みつけた。
「対抗策と言っても暫定的なもので、決定打になるとは考えていません。そこを理解しておいてください」
さっきまでのいたずらっぽい雰囲気は微塵も感じさせず、ルイーナは真剣な表情で話し出した。
「まずはこれを見てください」
と言って、ルイーナはテーブルの上に奇妙な形の銃らしきものを置く。
「………なにこれ?………」
いずみはまた何か、からかわれているんじゃないかと猜疑心MAXの目つきで聞いた。
「FN P90と言うサブマシンガンのガスモデルガンだ」
「? …へ?」
いきなり大介がその物体について説明を始めたが、いずみの思考ではついていけなかった。
「え~と、マシンガンの…モデルガン??」
「そうだ」
どう見てもおもちゃにしか見えないFN P90のモデルガンを見て、いずみは何をどこから突っ込んでいいのか途方に暮れる。
「モデルガンでクリーチャーに対抗するんですか?」
湧も理解が及ばない…というより、本物であってもクリーチャーには効果がないと思っているようだ。
「問題は銃が本物かおもちゃかということではない。この先はルイーナが説明するので、馬鹿にせずきちんと聞いてくれ」
と言って、大介は少し離れたチェアに腰掛けた。
「ところでさ、賢者の石でクリーチャーをやっつけられるの? 私にはエネルギーを与えてより強くさせるだけだと思うけど…」
口を横に長く開き、心底嫌そうに呟く。
「まさにその通りエネルギーを与えるんです。ただ、強くはなりません。先日の銀座事件で人を襲ったクリーチャーがどうなったか覚えてますか?」
「? 人を襲って、ある程度エネルギーに変換したら自然消滅した? んだよね?」
「半分は当たりです。しかし自然消滅ではありません」
「どういうこと?」
「クリーチャーは人を襲ってエネルギーに変換します。けれど、そのエネルギーはクリーチャー内部に一時的にでも保管されるわけではないのです」
「? あ、そういうことか!」
湧が突然理解したような声を上げた。
「湧はわかったの? どういうこと?」
「つまりエネルギーに変えた時点で、どこかにエネルギーを送ってるんだ」
「YOUの言う通りです。クリーチャーは自らのエネルギーを使って、変換したエネルギーをパッケージ化して転送していたようです。そのためどんどん自らのエネルギーを消費し、最終的には消滅するのです」
「へえ、そうなんだ。あれ? じゃあ…」
「分かっていただけましたか。人を襲ってエネルギーを得る前に、こちらからエネルギーを与えてしまえば、犠牲者を激減できます」
「無くせるとは言わないのね…ははは(汗)」
「そこまで楽天家ではないので、過大な効果は期待しません」
ルイーナは悲しげな表情で呟いた。
今までの人生(エルフ生)で、幾多の絶望を経験してきたのだといずみは直感した。
「あ~、それでこのモデルガンなのかぁ~」
「そういうことです」
「でもさあ、もっとかっこよくて持ちやすそうな銃はなかったの?」
それでもいずみには、FN P90の形が不恰好に思えて嫌そうだ。
「この銃は機関部がグリップとトリガーより後ろにあるため、全長に対して銃身が長いのです。そのおかげで他のサブマシンガンより全長が短いのに集弾率が高くなっています。さらに銃身にはアルミのパイプを使っていますが、モンスターを召喚するための術式を書き込むにはこの銃の長さの銃身が必要だったのです」
「え~と、つまりその術式を書き込むために必要な銃身の長さがある中で、この銃が一番小さいってこと?」
「はい。その通りです」
その返事を待ってから、いずみはFN P90を始めて手にとってみた。
「あれ? 軽~い。 おもちゃだから? かな?」
「いえ、内部機構はガスガンですが、重さは実物とほとんど変わりがありません」
「え? 本物もこんなに軽いの?」
FN P90の実銃は弾倉に実弾を装填した状態で3.0kgだ。
同等の能力を持ったサブマシンガンは、ほとんどが4kg以上なので見た目の大きさ以上に軽く感じるのだろう。
サブマシンガンのカテゴリーの中には、より小型で軽量の物もあるが、ほとんどが銃身が短くFN P90のようにライフル弾ではなく、拳銃弾を使う物が多い。
「あのさ…」
「? なんでしょう?」
ルイーナはいずみの声の変化を聞き逃さなかった。だからいずみが不穏な雰囲気を発していることが分かり、思わず身構えた。
「この銃って、“賢者のBB弾”が何発入るの?」
「本体には120発、専用のマガジンには600発入ります。だから最大で720発ですね」
「へえ、…720発… …ええっー!? じゃあ私や湧の血でどのくらい“賢者のBB弾”作れるの?」
「400mlで約1万発。いずみは毎回1200mlなので、3万発ですね。YOUは4万発なので、一回の採血で7万発作れます」
ルイーナはドヤ顔で宣った。
「ち、ちょっと待て! 一回の? あ、それより3万発? 二人で7万発? それだけ作れるのに何回も採血する気?」
いずみは顔面が蒼白になりながら呻いた。
「それだけって、何言ってるんですか? 7万発じゃ全然足りませんよ。水無月スタッフ250人全員に配給するんですから、一回で約2万6千発、予備も最低でも2本以上必要ですから30万発、少なくとも最初の配給時には33万発以上必要となるんです」
「33万? あと4回も採血させられるの? そんなにポコポコ血を抜かれたら、死んじゃうわよっ!」
「大丈夫ですよ。いずみとYOUなら(ニコニコ)。それにちゃんとインターバルは考えて、無理のないスケジュールを組んでいますから」
ルイーナはニコニコしながら答えているが、もういずみは信用していない。
「普通の人だと400mlの採血後は3ヶ月以上採血できないけど、お二人は2週間でほぼ全快するので、そのタイミングで採血させていただきます」
「え? なにそれ? じゃあ10週間…約2ヶ月で6リットル、湧は7.2リットルも抜かれるってことぉ??」
「そういうことになりますね」
全く悪気も譲歩も情けもないルイーナの返答。
「死ぬ。絶対に死ぬ。もう死ぬ。すぐ死んじゃうぅぅぅぅぅぅ~」
と言って、いずみの意識は闇にぶっ飛んだ。
<続く>
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