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第7章

7-12純度

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 「不幸だぁ~!」
 「理不尽だぁ~!」
 いずみは意識が戻るなり、頻繁に怒鳴り続けていた。
 「まあ、全く対抗策がなかった時よりも、多少は希望が見えてきたんだから我慢しよう。それほど長くは続かないと思うし…」
 湧は少しでも落ち着かせようと、色々と言葉をかけるが、
 「湧は平気なのっ? こんな卵を生まされるだけの養鶏場の鶏みたいに扱われることがっ!」
 と、怒りの矛先を向けられてしまう。
 「だからと言って、俺たち以外の血では役に立たないことも知らされただろう?」
 ルイーナの解説では、“賢者の石”をそのまま当てても全く効果がなく、思念エネルギーに見たてた“リッチ”や“ウェンディゴ”などのモンスターを召喚するしかない。
 ところが召喚するためのエネルギーを得るためには、大介たちの血ではピンポン球ぐらいの大きさが必要で、しかも扱いが難しい。
 スリングショットを使ったり、ボウガンの矢に加工しても、召喚のための術式詠唱を行う余裕がない。
 そこでエネルギー量(召喚できる強さ)が、桁違いのいずみや湧の血で試したところ、先の説明通り数十体のモンスターを召喚できた。詠唱は撃つ前に行ったが目標のポイントに到達するまで、モンスターが出現することはなかった。
 大介たちの血とは、コントロール性に関しても、いずみと湧の血は次元が違っていた。
 そこで、扱いやすい大きさの限度をテストしたところ、直径が5mmの球でも大介たちの血から造った“賢者の石”以上の強度が確認できた。
 操作性を重視し、詠唱が簡略できる方法として、ガスモデルガンを利用することを思いつく。そしてその銃身に使用されているアルミパイプに術式を刻印する方針が決定したそうだ。
 「でもさぁ、大ちゃんたちの血は使えないの?」
 「いずみが気絶してる間に聞いたんだけど…、400mlからでは2個しか作れないそうだ。しかもピンポン球以下にはできない」
 「え?」
 いずみは“何か”が頭の隅に引っかかって、言葉が続かなくなった。
 結局、大介始め、水無月スタッフの誰の血も使えないことが判明した。
 「あ、そだ。湧は解るけど、私の血がそこまでの力を持ってるとはどうしても信じられないんだよね?」
 「どういうこと?」
 「だって、私も水無月家の一員で、他のみんなよりズバ抜けて血の力を持ってるとは考え難いっていうか…」
 「そういえばそうだな。でも、それを言うなら俺だって自分の血がそこまでの能力があるとは思えないんだよな」
 二人は眉間に皺を寄せて考える。
 「ルイーナに聞いた方が早いのかな?」
 「そうだな」
 二人はリビングを出て、ルイーナの作業している“工場”と呼んでいる“賢者のBB弾”製作ルームに向かった。

 「…何から話していいのか分かりませんが、もっと不可思議な現象があるのです」
 「「え?」」
 二人は顔を見合わせて、今以上の不可思議というのが想像できずにいた。
 「今度は何?」
 途端に険悪なオーラを発散するいずみ。
 最近はこのパターンばかりなので、湧ももう放置することに決めていた。
 「完成した“賢者のBB弾”ですが、YOUの血から作ったものといずみの血から作ったものの展開した時のエネルギー強度というか、持続時間が明らかに違うのです」
 「なんだそんなことか。だって湧のお父さんはアルフが融合してるんでしょ? だったら私の血と違いがあるのは当たり前じゃない」
 「… … はぁ …」
 ルイーナは心底脱力したような深いため息をついた。
 「な、何よ? その馬鹿にしたようなため息は…」
 「いずみの言った通りなら、私も何も驚いたり、不思議に思ったりはしてませんよ」
 そう言いながら流し目で湧を見るルイーナ。
 「…逆なんですよ。全く」
 「「え?」」
 いずみと湧は一瞬、ルイーナが言ってる意味を理解できなかった。

 「仮説でしかないんですが…」
 「何でもいいから話して…」
 苛立たしげにいずみがせっつく。
 「たぶん、いずみの新生に関係すると想います」
 「新生? 蘇生じゃなくて?」
 ルイーナの仮説によれば、ウェンディゴ小菅に殺された時、いずみの体組織の70%が破壊された。
 残った30%もほとんどが死滅する直前だったが、湧の血によってコピー細胞が造られ、最小限の生命活動を再開する。
 その後、細胞分裂を起こし、いずみの身体の再現を始めた。
 その頃には、ルイーナによって湧の血でコクーンが形成されていたため、断言はできないものの一旦いずみの身体は、湧のアルファブラッドを原料にして完全なコピー体が作られたらしい。
 「それが今の私? じゃあこの身体は湧の血から造られたってこと?」
 「私も最初はそう思ってました。しかし、YOUといずみのDNAを調べたところ全く異なっていました」
 「? と言うと?」
 「DNAというのは遺伝子情報だけではなくて、身体の設計図も入っています」
 「そりゃそうだ」
 「ならば、いくらいずみに似せた身体を造ろうとも、湧の痕跡がどこかにあるはずなんです」
 ルイーナは困惑顔で告げた。
 「う~ん。よくわかんないけど、共通してるっていうか、元々の湧の情報がどこかに消えた…ってこと?」
 「その通りです。試しに生前のいずみのDNAを調べたら、今のいずみのものと完全に一致してました」
 「じゃあ完全に蘇生できたってこと?」
 いずみは自分の身体を見下ろして…
 (何も胸まで元通りじゃなくても良かったのに…)
 と呟いた。
 「蘇生ではありません。なぜなら元々のいずみの身体は細胞ごと全て死滅しているからです」
 「だから…それが生き返ったんじゃないの?」
 「YOUの血でコピーが造られた時点で、いずみ本来の細胞は全て消滅していて、再生はできません」
 「言ってる意味が分かんないんだけど…」
 「つまり…う~ん。ああ、そうだ。いずみという身体の設計図はあるけど材料が全くなくて、新しく材料を集めて再現したとします」
 「設計図? 新しい材料?」
 「もちろん見かけだけじゃなくて、細胞の一つ一つまできちんと再現する。だから物質的には完璧なコピーとなります」
 「それで新生? ってこと?」
 「その通りです。しかし、いずみの場合はその後が異常でした」
 「… …それ以前の新生自体異常では?」
 湧は困惑しつつ、突っ込む。
 「確かにYOUのいう通りなんですが、アルファブラッドによるコクーン蘇生は前例があったので、そこまでは予測できました」
 「え? 私の他にも新生した人がいるの?」
 「新生ではありませんでしたが、ほらここに…」
 と言って、ルイーナは湧を指差す。
 「俺?」
 「YOUの場合は、細胞自体が自発的に蘇生モードに移行し、まず血液を作り出しています。唯一受け付けた生理食塩水をベースにして、コクーンを形成。その後損傷部分を再生したと思われます」
 「あ、俺の場合は蘇生に使われた材料は、全て俺の血か」
 「そういうことです。だからYOUは“蘇生”であり、全ての細胞を失っていたいずみは“新生”なんです」
 「なるほどね~。でもそこまでこだわる必要あるの? 言い方ひとつに…」
 「言い方だけじゃなくて、実際に身体の全てが“新たに創られた”んです。いいですか? いずみの身体はYOUの血を原料にコピー体が造られましたが、そこからいずみのオリジナル細胞が造られて、全てが入れ換わってるんです」
 「? オリジナル細胞?」
 「そうです。今のいずみの身体は、どこにもYOUの細胞の痕跡がありません。完全ないずみオリジナルの身体です」
 「それで新生って言葉にこだわってるの?」
 「そうなんですが…、理解ができないのはいずみの血は化学分析上は全く以前と同じ。しかし、賢者のBB弾となったいずみの血の召喚エネルギーが、YOUの33%増しなんです」
 「3割以上? 同じようにコクーン蘇生した俺よりエネルギー量が多いってことか…」
 「そうなんです。そしていろいろ考えたんですが…、新生したことによって、いずみのアルファブラッドは純度が高くなったとしか思えないんです」
 「? 元々の湧の血の方が純度が高いんじゃないの?」
 「それは多分…、YOUのお母様の血が関係してるのではないか? …と」
 「俺の母親の? でも俺の母親はアルファブラッドに改造されてたんじゃないか?」
 「多分。しかし、物質としての血の変化はありません。となると思念体としての能力で何か制限をかけられているのかもしれません」
 「「… … … は?」」
 二人は現実離れした理由に言葉を失った。
    <続く>
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