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第7章
7-15声
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「一体どうなっとるんだっ!?」
警察省長官安倍忠行は、報告書をマホガニーの執務机に叩きつけた。
そんな安倍の剣幕に眉ひとつ動かさず、報告書を持ってきた次官は冷ややかな眼差しで見つめていた。
報告書とは名ばかりで、現状の報告がほとんどであり、“何が”起こったのかは全く記載されていない。
“爆発のような強大な圧力により…”とか“燃焼の形跡が認められないため爆発とは考えられない”や“目撃者が皆無であり、被災者すら発見できない状況は現実的ではない”など、何を書きたいのかすら理解できない文章ばかりだった。
「長官、最近頻発する異常な事案はもしかすると…」
「言うな。この部屋で滅多なことを口にするな」
「失礼しました。以後気をつけます」
長官の翳した右手を避けるように、青い顔で謝罪する次官。
「次はないぞ…」
低く呟くと、長官は右手で払うように退室を命じた。
次官は怯えながら大人しく出て行った。
(まだ、かな?)
安倍が部屋の隅を見つめると、いつの間にかそこに黒い影が立っていた。
影は一度頷くと煙のように消えた。
安倍には現在幾つかの懸念する問題があった。
安倍一族悲願である“陰陽寮復権”に向けて、現政府における権力拡大と“政教一体”を主眼にした法改革だ。
しかし、現在安倍家には能力を有するものはおらず、伝承による陰陽師の知識のみ。
すなわち本気で陰陽寮を復活するのではなく、一種の政治結社に成り下がっていた。
忠行も警察官僚を目指し、東大に入学した頃に交通事故に遭い、臨死体験を経験する。
その時に思念体となった忠行に話しかけるものがいた。
パニックに陥らなかったのは奇跡に近い。
忠行はこの世界に目には見えないものも存在することを知り、人生観が180度転回した。
そして…。
忠行に声をかけてきたのは、姿こそ見えないが確かに存在し、しかもすぐ傍にいると感じた。
(誰だ? 俺はどうなったんだ?)
忠行はその相手に問う。
答えはすぐに返ってきた。
“お前はここで死ぬ運命ではない。だが、我と会話するためにはお前の意識そのものを少し改変する必要があった。だからこのような手段をとった”
身体があれば、頭の中に直接響いてきたように感じただろう。
しかし今は意識だけの状態なので、言葉ではなく概念のようなもので、一瞬にして相手の意識を感じることができた。
言葉にすれば随分と横柄な言い方なのだろうが、意識での対話は相手の意思が正確に伝わってくるようだ。
なので、忠行は相手の言うことを信じることができた。
何しろ今、忠行が見ている風景は事故現場の上空約10mほどの高さから見下ろしているのだ。
周りには電信柱すらないから、ラジコンヘリにカメラを付けない限り(この時は“ドローン”などはまだ開発されていなかった)このアングルでの視点は不可能だ。
そんな状況で、はっきりした意識が保てていることが何よりの現実である証拠だった。
“我の希望を叶えてくれるなら、お前の望みも叶えよう”
声の主は再び忠行に話しかけてきた。
(等価交換ということか? 何を望んでいる?)
“ほう。理解が早くて助かる”
忠行の前向きな姿勢に声は感心したような口調で答えた。
現実世界では全く他者を信じることができなかった忠行が、なぜその得体の知れない声を信じることができたのか?
それには忠行自身も驚いていた。
そして忠行が望んだこととは…。
忠行は怪しまれないように、救急搬送された病院で目覚めるまで、自ら意識を絶っていた。
そのくらいの能力は既に身につけていたのだった。
結局、乗用車が脇見運転及び信号無視によって引き起こされた事故だと結論づけられた。
忠行もとっさに避けようとしたものの、間に合わずに跳ね飛ばされて気を失っただけで、かすり傷程度で済んだのだった。
もっとも意識を失うほどの衝撃は受けたので、精密検査を受けていた。
それ以外は全く気付かれることなく、その日中に忠行は病院を退院した。
忠行は東大在学中に、国家公務員試験を優秀な成績で一発合格。
さらに希望通り警察庁に内定を勝ち取る。
警察庁入庁後、忠行の快進撃が始まり最年少で長官官房まで登りつめた。
元々警察庁内には安倍家の息がかかったものが多かったので、昇進に関しては幾つかの疑惑をもたれたが、忠行はそれさえも利用した。
尻尾を掴まれることなく、野望に向かって邁進する忠行。
もちろんその裏ではあの“声”の力を最大限に活用させてもらった。
そしてついに長官になった日、忠行は警察庁の全てを掌握するために能力を使って、各部署の動向を調べた。
反対勢力はことごとく潰しておくつもりだった。
たとえその相手が安倍家の関係者であっても…。
(今までのやり方では今回の問題は対処できないか…)
忠行にとっても、ターニングポイントになる事案であった。
<続く>
警察省長官安倍忠行は、報告書をマホガニーの執務机に叩きつけた。
そんな安倍の剣幕に眉ひとつ動かさず、報告書を持ってきた次官は冷ややかな眼差しで見つめていた。
報告書とは名ばかりで、現状の報告がほとんどであり、“何が”起こったのかは全く記載されていない。
“爆発のような強大な圧力により…”とか“燃焼の形跡が認められないため爆発とは考えられない”や“目撃者が皆無であり、被災者すら発見できない状況は現実的ではない”など、何を書きたいのかすら理解できない文章ばかりだった。
「長官、最近頻発する異常な事案はもしかすると…」
「言うな。この部屋で滅多なことを口にするな」
「失礼しました。以後気をつけます」
長官の翳した右手を避けるように、青い顔で謝罪する次官。
「次はないぞ…」
低く呟くと、長官は右手で払うように退室を命じた。
次官は怯えながら大人しく出て行った。
(まだ、かな?)
安倍が部屋の隅を見つめると、いつの間にかそこに黒い影が立っていた。
影は一度頷くと煙のように消えた。
安倍には現在幾つかの懸念する問題があった。
安倍一族悲願である“陰陽寮復権”に向けて、現政府における権力拡大と“政教一体”を主眼にした法改革だ。
しかし、現在安倍家には能力を有するものはおらず、伝承による陰陽師の知識のみ。
すなわち本気で陰陽寮を復活するのではなく、一種の政治結社に成り下がっていた。
忠行も警察官僚を目指し、東大に入学した頃に交通事故に遭い、臨死体験を経験する。
その時に思念体となった忠行に話しかけるものがいた。
パニックに陥らなかったのは奇跡に近い。
忠行はこの世界に目には見えないものも存在することを知り、人生観が180度転回した。
そして…。
忠行に声をかけてきたのは、姿こそ見えないが確かに存在し、しかもすぐ傍にいると感じた。
(誰だ? 俺はどうなったんだ?)
忠行はその相手に問う。
答えはすぐに返ってきた。
“お前はここで死ぬ運命ではない。だが、我と会話するためにはお前の意識そのものを少し改変する必要があった。だからこのような手段をとった”
身体があれば、頭の中に直接響いてきたように感じただろう。
しかし今は意識だけの状態なので、言葉ではなく概念のようなもので、一瞬にして相手の意識を感じることができた。
言葉にすれば随分と横柄な言い方なのだろうが、意識での対話は相手の意思が正確に伝わってくるようだ。
なので、忠行は相手の言うことを信じることができた。
何しろ今、忠行が見ている風景は事故現場の上空約10mほどの高さから見下ろしているのだ。
周りには電信柱すらないから、ラジコンヘリにカメラを付けない限り(この時は“ドローン”などはまだ開発されていなかった)このアングルでの視点は不可能だ。
そんな状況で、はっきりした意識が保てていることが何よりの現実である証拠だった。
“我の希望を叶えてくれるなら、お前の望みも叶えよう”
声の主は再び忠行に話しかけてきた。
(等価交換ということか? 何を望んでいる?)
“ほう。理解が早くて助かる”
忠行の前向きな姿勢に声は感心したような口調で答えた。
現実世界では全く他者を信じることができなかった忠行が、なぜその得体の知れない声を信じることができたのか?
それには忠行自身も驚いていた。
そして忠行が望んだこととは…。
忠行は怪しまれないように、救急搬送された病院で目覚めるまで、自ら意識を絶っていた。
そのくらいの能力は既に身につけていたのだった。
結局、乗用車が脇見運転及び信号無視によって引き起こされた事故だと結論づけられた。
忠行もとっさに避けようとしたものの、間に合わずに跳ね飛ばされて気を失っただけで、かすり傷程度で済んだのだった。
もっとも意識を失うほどの衝撃は受けたので、精密検査を受けていた。
それ以外は全く気付かれることなく、その日中に忠行は病院を退院した。
忠行は東大在学中に、国家公務員試験を優秀な成績で一発合格。
さらに希望通り警察庁に内定を勝ち取る。
警察庁入庁後、忠行の快進撃が始まり最年少で長官官房まで登りつめた。
元々警察庁内には安倍家の息がかかったものが多かったので、昇進に関しては幾つかの疑惑をもたれたが、忠行はそれさえも利用した。
尻尾を掴まれることなく、野望に向かって邁進する忠行。
もちろんその裏ではあの“声”の力を最大限に活用させてもらった。
そしてついに長官になった日、忠行は警察庁の全てを掌握するために能力を使って、各部署の動向を調べた。
反対勢力はことごとく潰しておくつもりだった。
たとえその相手が安倍家の関係者であっても…。
(今までのやり方では今回の問題は対処できないか…)
忠行にとっても、ターニングポイントになる事案であった。
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