HighSchoolFlappers

ラゲッジスペース

文字の大きさ
100 / 158
第7章

7-15声

しおりを挟む
 「一体どうなっとるんだっ!?」
 警察省長官安倍忠行は、報告書をマホガニーの執務机に叩きつけた。
 そんな安倍の剣幕に眉ひとつ動かさず、報告書を持ってきた次官は冷ややかな眼差しで見つめていた。
 報告書とは名ばかりで、現状の報告がほとんどであり、“何が”起こったのかは全く記載されていない。
 “爆発のような強大な圧力により…”とか“燃焼の形跡が認められないため爆発とは考えられない”や“目撃者が皆無であり、被災者すら発見できない状況は現実的ではない”など、何を書きたいのかすら理解できない文章ばかりだった。
 「長官、最近頻発する異常な事案はもしかすると…」
 「言うな。この部屋で滅多なことを口にするな」
 「失礼しました。以後気をつけます」
 長官の翳した右手を避けるように、青い顔で謝罪する次官。
 「次はないぞ…」
 低く呟くと、長官は右手で払うように退室を命じた。
 次官は怯えながら大人しく出て行った。
 (まだ、かな?)
 安倍が部屋の隅を見つめると、いつの間にかそこに黒い影が立っていた。
 影は一度頷くと煙のように消えた。

 安倍には現在幾つかの懸念する問題があった。
 安倍一族悲願である“陰陽寮復権”に向けて、現政府における権力拡大と“政教一体”を主眼にした法改革だ。
 しかし、現在安倍家には能力を有するものはおらず、伝承による陰陽師の知識のみ。
 すなわち本気で陰陽寮を復活するのではなく、一種の政治結社に成り下がっていた。
 忠行も警察官僚を目指し、東大に入学した頃に交通事故に遭い、臨死体験を経験する。
 その時に思念体となった忠行に話しかけるものがいた。
 パニックに陥らなかったのは奇跡に近い。
 忠行はこの世界に目には見えないものも存在することを知り、人生観が180度転回した。
 そして…。

 忠行に声をかけてきたのは、姿こそ見えないが確かに存在し、しかもすぐ傍にいると感じた。
 (誰だ? 俺はどうなったんだ?)
 忠行はその相手に問う。
 答えはすぐに返ってきた。
 “お前はここで死ぬ運命ではない。だが、我と会話するためにはお前の意識そのものを少し改変する必要があった。だからこのような手段をとった”
 身体があれば、頭の中に直接響いてきたように感じただろう。
 しかし今は意識だけの状態なので、言葉ではなく概念のようなもので、一瞬にして相手の意識を感じることができた。
 言葉にすれば随分と横柄な言い方なのだろうが、意識での対話は相手の意思が正確に伝わってくるようだ。
 なので、忠行は相手の言うことを信じることができた。
 何しろ今、忠行が見ている風景は事故現場の上空約10mほどの高さから見下ろしているのだ。
 周りには電信柱すらないから、ラジコンヘリにカメラを付けない限り(この時は“ドローン”などはまだ開発されていなかった)このアングルでの視点は不可能だ。
 そんな状況で、はっきりした意識が保てていることが何よりの現実である証拠だった。
 “我の希望を叶えてくれるなら、お前の望みも叶えよう”
 声の主は再び忠行に話しかけてきた。
 (等価交換ということか? 何を望んでいる?)
 “ほう。理解が早くて助かる”
 忠行の前向きな姿勢に声は感心したような口調で答えた。

 現実世界では全く他者を信じることができなかった忠行が、なぜその得体の知れない声を信じることができたのか?
 それには忠行自身も驚いていた。

 そして忠行が望んだこととは…。

 忠行は怪しまれないように、救急搬送された病院で目覚めるまで、自ら意識を絶っていた。
 そのくらいの能力は既に身につけていたのだった。
 結局、乗用車が脇見運転及び信号無視によって引き起こされた事故だと結論づけられた。
 忠行もとっさに避けようとしたものの、間に合わずに跳ね飛ばされて気を失っただけで、かすり傷程度で済んだのだった。
 もっとも意識を失うほどの衝撃は受けたので、精密検査を受けていた。
 それ以外は全く気付かれることなく、その日中に忠行は病院を退院した。

 忠行は東大在学中に、国家公務員試験を優秀な成績で一発合格。
 さらに希望通り警察庁に内定を勝ち取る。
 警察庁入庁後、忠行の快進撃が始まり最年少で長官官房まで登りつめた。
 元々警察庁内には安倍家の息がかかったものが多かったので、昇進に関しては幾つかの疑惑をもたれたが、忠行はそれさえも利用した。
 尻尾を掴まれることなく、野望に向かって邁進する忠行。
 もちろんその裏ではあの“声”の力を最大限に活用させてもらった。

 そしてついに長官になった日、忠行は警察庁の全てを掌握するために能力を使って、各部署の動向を調べた。
 反対勢力はことごとく潰しておくつもりだった。
 たとえその相手が安倍家の関係者であっても…。

 (今までのやり方では今回の問題は対処できないか…)
 忠行にとっても、ターニングポイントになる事案であった。
    <続く>
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...