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第2章
2-08リッチ
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湧が宮内庁病院に搬送されてから2週間が過ぎた。
いずみが特殊病棟に入院してからも同様だ。
もっとも意識が戻ったのが3日前なので、いずみ本人としてはまだ3日目なのだが…。
「あ~、退屈だったぁ~。さくら目覚めた時以来、全然きてくれないんだもん!」
気分はドン底だったが、顔を出さないといずみが拗ねるので、気力を振り絞ってきたのに…、
(この言い方ってなによっ!)
などとは言えない。
「ごめんごめん。私も来たかったんだけどさぁ~、色々用事を押し付けられて…」
と、通り一遍の言い訳は…、
「そんなのさくらだったら、何とでも言って断れるじゃん! その毒舌で」
にべもなく断ち切られた。
(くぉのぉ~っ! このわがまま娘がっ!)
…と、喉まで出かかったが、なんとか堪える。
「実はね、あとで宗主から詳しい報告があると思うけど、今色々とトラブルが続発してるの…」
さくらはいずみの挑発に乗らずに極めて事務的に報告した。
「…さくら…、そのことも含めて、あなたの口から教えて欲しいの…」
いずみは目覚めてから今まで、現状に関することは何一つ教えてもらえなかった。
そのストレスで切れかかっていたのだ。
「ごめん。私からは話せない。いずみの体調が完全に回復するまでは一切話さないように厳命されてるの…。…だから今は一刻も早く退院できるように…頑張って…」
「ええっー! さくらぁ~お願いっ! 少しでいいから…」
さくらはこれ以上いずみの顔を見ていられなかった。
話せば“今すぐ退院させろ!”と言うに決まってる。
「いずみ、私ももう行かないといけないから…、…また…くるから」
いずみの返答も聞かずに病室を飛び出す。
「さくらっ! さ…くら…」
ここまで頑ななさくらは初めてだった。いくらいずみでもこれ以上は無理だと理解した。
さくらはいずみが入院してる特殊病棟から、湧がいる特別エリアに向う。
(湧くんにもいずみのことは話せない…よね…。私、どうしたらいいんだろう…)
さくらは途方に暮れてしまった。
一方、医師たちも本来の意味で大いに悩んでいた。
19世紀に近代医学が生まれて、人体の生体的メカニズムが次々と解明されてきた。
その中には自然治癒など、人体が自らの力で回復することも含まれている。
しかし、如月湧のように生存不可能な身体的損壊を受け、しかも医療行為の一切を受けずに蘇生してしまうなど、非常識どころかホラーだ。
さらに欠損部分が再生し、記憶も正常らしい。
一時的に回復したのか、本当に再生できたのかすら判断できない。
現代医学としては面目丸潰れなのだ。
仮に一時的なものなら“いつ”瓦解するのか、それすら全く不明なのだ。
「…なので、退院どころか今後のために精密検査に明け暮れることになるそうだよ…はぁ…」
湧が自嘲気味に呟いた。
「ため息つきたいのは私の方なんだけど…。湧くんが死んだって聞かされて、駆けつけてみれば“蘇生するかも?”って言われたのよ? 意味わかんないじゃない! しかも湧くんは“さなぎ”とかいうものの中にいるっていうし…、いつになったら出てこられるのか? そもそも本当に生き返るのか誰にもわかんないし… ずっとずっと心配だったんだからぁ!」
さくらはタガが外れたように一気に巻くしかけた。
「わ、わかった。わかった。ごめんごめん」
湧は焦り、さくらをなだめることしかできなかった。
「とにかくしばらくは入院生活が続きそうなんだけど…さくらさんにお願いがあるんだ」
「へ?」
さくらは目を丸くして湧を見た。
「わ、私にできることなら、なんでも言って」
とは言うものの、湧が何を言い出すか予測できた。
「水無月の宗主と二人で話がしたいんだけど…なんとかならないかな?」
(やっぱり…)とは思ったが、病院の外の現状を考えると止むを得なかった。
「実はね、湧くんが今入院してる場所なんだけど…」
「宮内庁病院だよね? 先生に聞いたよ…」
目覚めた直後、現状認識のために医師たちは、湧に全ての経緯を話したのだ。
本来は患者のために、極力不安を煽らないようにするのだが、湧の場合は状況が特殊すぎた。
「うんうん。ただね一般の病棟と違って、ここは無菌レベル3の厳重警戒エリアなの」
さくらは湧に、この部屋に来るまでどれほどの殺菌滅菌処置を受けなければならないかを説明した。
「ふえ~、じゃあさくらさんは毎日そんなに大変な思いをして、来てくれてるんだね…。ありがとう」
「こ、これもお務め…なにょよっ」
真っ赤になって、慌てて言ったため“噛んで”しまった。
湧も目を丸くして、キョトンとしている。
さすがに恥ずかしくなって、さくらは俯く。
(あ~、何照れてるのよ。こ、れは宗主に頼まれたお務めよ。おつとめっ!)
心の中で絶叫してみた。
そんなさくらの葛藤を知ってか? 湧はさくらの頭に優しく手を置いた。
「さくらさん…、本当にありがとう」
「…う、うん。でね。殺菌滅菌処理には1時間以上かかるから、宗主が来るのは時間的に無理かな? と…」
「そうかぁ。困ったなぁ」
「ガラス越しならすぐに呼べるけど…、それじゃあダメなんだよね?」
「マイクとスピーカーで話すんだよね? 録音されるよね…きっと」
「それはやむを得ないと思う」
患者や治療の情報に対する守秘義務があるため、情報の持ち出しについては厳重な警戒がなされている。
符丁による伝達が行われる可能性があるため、会話等は録音されるのだ。
「もし、…あ、なんでもない」
「また! そうやって抱え込むっ! 何でも言ってよ。私も当事者の一人なんだからね」
さくらは口を尖らせて拗ねた。
その表情は湧にはとっても新鮮で、しばらく見惚れていたくらいだ。
「な? 何?」
「いやぁ、さくらさんのそういう表情を初めて見たからびっくりした」
軽い笑顔で言いながら、手で顔をかばう。
いつもならここでさくらのパンチが入るのだ。
が?
「あれ?」
さくらは真っ赤になって俯いていた。
「さくら…さん?」
「どうして…、どうしていつも… ううん。なんでもない!」
さくらは湧がわざとおどけて、さくらに危険が及ばないように気遣ったことを理解している。
それだけに自分が戦力としてアテにされていない。そう感じてしまった。
「とにかく、一刻も早く宗主と話をするためにも、せめてレベル2に出ないとダメね」
「そうか、後で先生に聞いてみるよ。とにかく感染の心配さえなければなんとかなると思う」
「私からは宗主に相談しておくね」
「うん。お願い。…で、さ。いずみさんはどうなった?」
(ズキッ!)
さくらは胸を抑えながら、今日、無事に生きて帰れるのだろうか。真剣に悩んだ。
「い、いずみも、この病院に入院してて、つい3日前に意識を取り戻したの」
「? ということは、11日間も眠ってた? ってこと?」
「うん。まだ体力が完全に回復してないから退院できないけど、暇を持て余してて騒がしいよ」
「え? いずみさん…らしいね。ハハハ」
湧は笑っていたが、なぜかさくらには湧が何かを後悔しているようにしか見えない。
「湧くん。もしかするといずみの能力で何か思い当たることがあったのね」
「宗主から事情を聞いているなら、知ってると思うけど…」
「湧くん」
さくらは真剣な顔つきで湧に語りかけた。
「あのね。本当は退院するまでは言わないように言われてたけど…、今私たちの学校では大変な事件が起こってるの」
「え? 学校で?」
「私たちは校長先生から、娘さんが怪異に殺された事件の調査を依頼されてるの」
「怪異? 依頼? それはいずみさんたちの“お務め”のことと関係が?」
「やっぱり知ってたのね。最もお社に招かれたんだから知らないはずないよね」
「じゃあ、さくらさんも関わって?」
さくらはゆっくり頷く。
「実は私の家はいずみの家、水無月家の諜報活動を担当してるの」
「あ、それで叔父さんは俺を弓道教室に入れたのか…」
「そうらしいわね。でも、教室はお務めには関係ないからね」
「でも、さくらさんのお父さん。宗主は道場に入門しないか? と…」
さくらは困ったような顔で、頭を下げた。
「ごめんなさい! あれは私の父が湧くんの上達ぶりが嬉しくてつい…」
「でもさ、門下生ってみんな…」
「そうなのよ。そのことで父と喧嘩したわ。あの時は」
“子供にお務めさせる気ですかっ?”
さくらはそれはそれは激怒したのだ。
しかし、父、保は単にお務めさせるのではなく、柳瀬川家を継がせようとまで画策していた。
「はう、そ、それはいいから。とにかく今、私たちの学校は登校してくる生徒が半減して、そのほとんどが行方不明になっているのよ」
「へ? そ、それが校長先生の娘さんと関係がある?」
「私は実際に遭遇してないけど、死神のような“怪異“が出るんだって? いずみから聞いたけど…それって、湧くんを殺し、襲った怪異と同じじゃないの?」
湧は相模原の自宅玄関から廊下を通って居間に入った。
お付きの二人も玄関に入り、後から入った男がドアを閉めた途端に、その男が縦に切断された。
湧が振り向いた時には崩れ落ちる身体が塩の結晶となって霧散し始めていた。
振り向いたことにより、湧を襲った“怪異”は湧の左足しか斬り落とせなかった。
廊下に転がる湧を庇おうと、もう一人の男が屈んだところに横薙ぎに一閃。
その時には、先日いずみと一緒の時に隅田川の護岸公園で襲ってきた“怪異”の“リッチ”だと判明した。
湧は何度も切りつけられながらも、指弾を打ち込み続け、最後に聖水で作り上げた氷の槍で仕留めた。
リッチを撃破したものの、湧も瀕死だった。
「うん。そして、さくらさんの家の人がいなかったら…、多分俺は他の怪異に止めを刺されていたと思う」
「そ、そんな。でも湧くんは自分で復活したんだよ?」
「あれは俺の力じゃないよ。俺のじゃ…」
湧は、急に何かを睨みつけるように、呟いた。
「ところで、いなくなった生徒はどのくらいなのかな?」
「…全校で200人ほど…」
「何? じゃあ本当に半分も?」
「生徒だけじゃなく、教員も12人が不明。今、授業ができないので学校は閉鎖状態なの」
さくらが毎日病院に来られるのは、お務めと称して欠席してるわけではなかった。
「でね、こんなこといずみに話したら、今すぐにでも退院するって言うから、絶対に話すなって言われてるのよ」
「だろうね。いずみさんのことだからそのまま怪異を探しに行きそうだし…」
「でしょ? だから頭がいたいのよ」
「ところで…、その行方不明になってるのは学校だけ? じゃないよね?」
湧はさくらが視線を合わせずに話しているので、気づいた。
「やっぱり気づかれちゃったか…。私隠すの下手だね。へへへ」
「街中はどうなってる? 怪異が暴れまわってるなんてことはないよね?」
「それは、まだ。ただね。局所的に怪異が大量に出現してる。といっても、人を襲うことはなくて…、幽霊のようなものの目撃例が激増してる」
水無月兼成が築地川高校の校長を訪ねた日、異変が起こった。
校長は行方不明。校内は一般人には見えないが、兼成には奇妙な霊が徘徊しているのが見えた。
曳舟大介らに調査させたところ、校内の一部に霊が集中していることが判明する。
原因は不明だが、街中にも同じように霊が集中している箇所が見つかり、共通点を調査しているところだ。
校長が行方不明なので、教頭先生が教育委員会と討議した結果、期間未定で学校閉鎖となった。
「曳舟先輩が校内の調査を申し込んだけど、許可が出ないのでやむなく街中の方を調査してるの」
「そうか…、なら俺も早く退院しないと…」
「だからぁ! 話すとそうなるから…話したくなかったんだけど…」
「あ、ごめん」
湧は諦めたようにベッドに横たわったけど、さくらは湧が全然諦めてないことに気づいていた。
もっとも、ここから無断で脱出することはできないだろうと判ってもいたので、気付かないふりをした。
<続く>
いずみが特殊病棟に入院してからも同様だ。
もっとも意識が戻ったのが3日前なので、いずみ本人としてはまだ3日目なのだが…。
「あ~、退屈だったぁ~。さくら目覚めた時以来、全然きてくれないんだもん!」
気分はドン底だったが、顔を出さないといずみが拗ねるので、気力を振り絞ってきたのに…、
(この言い方ってなによっ!)
などとは言えない。
「ごめんごめん。私も来たかったんだけどさぁ~、色々用事を押し付けられて…」
と、通り一遍の言い訳は…、
「そんなのさくらだったら、何とでも言って断れるじゃん! その毒舌で」
にべもなく断ち切られた。
(くぉのぉ~っ! このわがまま娘がっ!)
…と、喉まで出かかったが、なんとか堪える。
「実はね、あとで宗主から詳しい報告があると思うけど、今色々とトラブルが続発してるの…」
さくらはいずみの挑発に乗らずに極めて事務的に報告した。
「…さくら…、そのことも含めて、あなたの口から教えて欲しいの…」
いずみは目覚めてから今まで、現状に関することは何一つ教えてもらえなかった。
そのストレスで切れかかっていたのだ。
「ごめん。私からは話せない。いずみの体調が完全に回復するまでは一切話さないように厳命されてるの…。…だから今は一刻も早く退院できるように…頑張って…」
「ええっー! さくらぁ~お願いっ! 少しでいいから…」
さくらはこれ以上いずみの顔を見ていられなかった。
話せば“今すぐ退院させろ!”と言うに決まってる。
「いずみ、私ももう行かないといけないから…、…また…くるから」
いずみの返答も聞かずに病室を飛び出す。
「さくらっ! さ…くら…」
ここまで頑ななさくらは初めてだった。いくらいずみでもこれ以上は無理だと理解した。
さくらはいずみが入院してる特殊病棟から、湧がいる特別エリアに向う。
(湧くんにもいずみのことは話せない…よね…。私、どうしたらいいんだろう…)
さくらは途方に暮れてしまった。
一方、医師たちも本来の意味で大いに悩んでいた。
19世紀に近代医学が生まれて、人体の生体的メカニズムが次々と解明されてきた。
その中には自然治癒など、人体が自らの力で回復することも含まれている。
しかし、如月湧のように生存不可能な身体的損壊を受け、しかも医療行為の一切を受けずに蘇生してしまうなど、非常識どころかホラーだ。
さらに欠損部分が再生し、記憶も正常らしい。
一時的に回復したのか、本当に再生できたのかすら判断できない。
現代医学としては面目丸潰れなのだ。
仮に一時的なものなら“いつ”瓦解するのか、それすら全く不明なのだ。
「…なので、退院どころか今後のために精密検査に明け暮れることになるそうだよ…はぁ…」
湧が自嘲気味に呟いた。
「ため息つきたいのは私の方なんだけど…。湧くんが死んだって聞かされて、駆けつけてみれば“蘇生するかも?”って言われたのよ? 意味わかんないじゃない! しかも湧くんは“さなぎ”とかいうものの中にいるっていうし…、いつになったら出てこられるのか? そもそも本当に生き返るのか誰にもわかんないし… ずっとずっと心配だったんだからぁ!」
さくらはタガが外れたように一気に巻くしかけた。
「わ、わかった。わかった。ごめんごめん」
湧は焦り、さくらをなだめることしかできなかった。
「とにかくしばらくは入院生活が続きそうなんだけど…さくらさんにお願いがあるんだ」
「へ?」
さくらは目を丸くして湧を見た。
「わ、私にできることなら、なんでも言って」
とは言うものの、湧が何を言い出すか予測できた。
「水無月の宗主と二人で話がしたいんだけど…なんとかならないかな?」
(やっぱり…)とは思ったが、病院の外の現状を考えると止むを得なかった。
「実はね、湧くんが今入院してる場所なんだけど…」
「宮内庁病院だよね? 先生に聞いたよ…」
目覚めた直後、現状認識のために医師たちは、湧に全ての経緯を話したのだ。
本来は患者のために、極力不安を煽らないようにするのだが、湧の場合は状況が特殊すぎた。
「うんうん。ただね一般の病棟と違って、ここは無菌レベル3の厳重警戒エリアなの」
さくらは湧に、この部屋に来るまでどれほどの殺菌滅菌処置を受けなければならないかを説明した。
「ふえ~、じゃあさくらさんは毎日そんなに大変な思いをして、来てくれてるんだね…。ありがとう」
「こ、これもお務め…なにょよっ」
真っ赤になって、慌てて言ったため“噛んで”しまった。
湧も目を丸くして、キョトンとしている。
さすがに恥ずかしくなって、さくらは俯く。
(あ~、何照れてるのよ。こ、れは宗主に頼まれたお務めよ。おつとめっ!)
心の中で絶叫してみた。
そんなさくらの葛藤を知ってか? 湧はさくらの頭に優しく手を置いた。
「さくらさん…、本当にありがとう」
「…う、うん。でね。殺菌滅菌処理には1時間以上かかるから、宗主が来るのは時間的に無理かな? と…」
「そうかぁ。困ったなぁ」
「ガラス越しならすぐに呼べるけど…、それじゃあダメなんだよね?」
「マイクとスピーカーで話すんだよね? 録音されるよね…きっと」
「それはやむを得ないと思う」
患者や治療の情報に対する守秘義務があるため、情報の持ち出しについては厳重な警戒がなされている。
符丁による伝達が行われる可能性があるため、会話等は録音されるのだ。
「もし、…あ、なんでもない」
「また! そうやって抱え込むっ! 何でも言ってよ。私も当事者の一人なんだからね」
さくらは口を尖らせて拗ねた。
その表情は湧にはとっても新鮮で、しばらく見惚れていたくらいだ。
「な? 何?」
「いやぁ、さくらさんのそういう表情を初めて見たからびっくりした」
軽い笑顔で言いながら、手で顔をかばう。
いつもならここでさくらのパンチが入るのだ。
が?
「あれ?」
さくらは真っ赤になって俯いていた。
「さくら…さん?」
「どうして…、どうしていつも… ううん。なんでもない!」
さくらは湧がわざとおどけて、さくらに危険が及ばないように気遣ったことを理解している。
それだけに自分が戦力としてアテにされていない。そう感じてしまった。
「とにかく、一刻も早く宗主と話をするためにも、せめてレベル2に出ないとダメね」
「そうか、後で先生に聞いてみるよ。とにかく感染の心配さえなければなんとかなると思う」
「私からは宗主に相談しておくね」
「うん。お願い。…で、さ。いずみさんはどうなった?」
(ズキッ!)
さくらは胸を抑えながら、今日、無事に生きて帰れるのだろうか。真剣に悩んだ。
「い、いずみも、この病院に入院してて、つい3日前に意識を取り戻したの」
「? ということは、11日間も眠ってた? ってこと?」
「うん。まだ体力が完全に回復してないから退院できないけど、暇を持て余してて騒がしいよ」
「え? いずみさん…らしいね。ハハハ」
湧は笑っていたが、なぜかさくらには湧が何かを後悔しているようにしか見えない。
「湧くん。もしかするといずみの能力で何か思い当たることがあったのね」
「宗主から事情を聞いているなら、知ってると思うけど…」
「湧くん」
さくらは真剣な顔つきで湧に語りかけた。
「あのね。本当は退院するまでは言わないように言われてたけど…、今私たちの学校では大変な事件が起こってるの」
「え? 学校で?」
「私たちは校長先生から、娘さんが怪異に殺された事件の調査を依頼されてるの」
「怪異? 依頼? それはいずみさんたちの“お務め”のことと関係が?」
「やっぱり知ってたのね。最もお社に招かれたんだから知らないはずないよね」
「じゃあ、さくらさんも関わって?」
さくらはゆっくり頷く。
「実は私の家はいずみの家、水無月家の諜報活動を担当してるの」
「あ、それで叔父さんは俺を弓道教室に入れたのか…」
「そうらしいわね。でも、教室はお務めには関係ないからね」
「でも、さくらさんのお父さん。宗主は道場に入門しないか? と…」
さくらは困ったような顔で、頭を下げた。
「ごめんなさい! あれは私の父が湧くんの上達ぶりが嬉しくてつい…」
「でもさ、門下生ってみんな…」
「そうなのよ。そのことで父と喧嘩したわ。あの時は」
“子供にお務めさせる気ですかっ?”
さくらはそれはそれは激怒したのだ。
しかし、父、保は単にお務めさせるのではなく、柳瀬川家を継がせようとまで画策していた。
「はう、そ、それはいいから。とにかく今、私たちの学校は登校してくる生徒が半減して、そのほとんどが行方不明になっているのよ」
「へ? そ、それが校長先生の娘さんと関係がある?」
「私は実際に遭遇してないけど、死神のような“怪異“が出るんだって? いずみから聞いたけど…それって、湧くんを殺し、襲った怪異と同じじゃないの?」
湧は相模原の自宅玄関から廊下を通って居間に入った。
お付きの二人も玄関に入り、後から入った男がドアを閉めた途端に、その男が縦に切断された。
湧が振り向いた時には崩れ落ちる身体が塩の結晶となって霧散し始めていた。
振り向いたことにより、湧を襲った“怪異”は湧の左足しか斬り落とせなかった。
廊下に転がる湧を庇おうと、もう一人の男が屈んだところに横薙ぎに一閃。
その時には、先日いずみと一緒の時に隅田川の護岸公園で襲ってきた“怪異”の“リッチ”だと判明した。
湧は何度も切りつけられながらも、指弾を打ち込み続け、最後に聖水で作り上げた氷の槍で仕留めた。
リッチを撃破したものの、湧も瀕死だった。
「うん。そして、さくらさんの家の人がいなかったら…、多分俺は他の怪異に止めを刺されていたと思う」
「そ、そんな。でも湧くんは自分で復活したんだよ?」
「あれは俺の力じゃないよ。俺のじゃ…」
湧は、急に何かを睨みつけるように、呟いた。
「ところで、いなくなった生徒はどのくらいなのかな?」
「…全校で200人ほど…」
「何? じゃあ本当に半分も?」
「生徒だけじゃなく、教員も12人が不明。今、授業ができないので学校は閉鎖状態なの」
さくらが毎日病院に来られるのは、お務めと称して欠席してるわけではなかった。
「でね、こんなこといずみに話したら、今すぐにでも退院するって言うから、絶対に話すなって言われてるのよ」
「だろうね。いずみさんのことだからそのまま怪異を探しに行きそうだし…」
「でしょ? だから頭がいたいのよ」
「ところで…、その行方不明になってるのは学校だけ? じゃないよね?」
湧はさくらが視線を合わせずに話しているので、気づいた。
「やっぱり気づかれちゃったか…。私隠すの下手だね。へへへ」
「街中はどうなってる? 怪異が暴れまわってるなんてことはないよね?」
「それは、まだ。ただね。局所的に怪異が大量に出現してる。といっても、人を襲うことはなくて…、幽霊のようなものの目撃例が激増してる」
水無月兼成が築地川高校の校長を訪ねた日、異変が起こった。
校長は行方不明。校内は一般人には見えないが、兼成には奇妙な霊が徘徊しているのが見えた。
曳舟大介らに調査させたところ、校内の一部に霊が集中していることが判明する。
原因は不明だが、街中にも同じように霊が集中している箇所が見つかり、共通点を調査しているところだ。
校長が行方不明なので、教頭先生が教育委員会と討議した結果、期間未定で学校閉鎖となった。
「曳舟先輩が校内の調査を申し込んだけど、許可が出ないのでやむなく街中の方を調査してるの」
「そうか…、なら俺も早く退院しないと…」
「だからぁ! 話すとそうなるから…話したくなかったんだけど…」
「あ、ごめん」
湧は諦めたようにベッドに横たわったけど、さくらは湧が全然諦めてないことに気づいていた。
もっとも、ここから無断で脱出することはできないだろうと判ってもいたので、気付かないふりをした。
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