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第8章

8-04共感

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 「記憶が残ってる分だけ歳を取ってるってことは、大ちゃんって今23歳ぐらい?」
 いずみが突然奇妙な質問をぶつけた。
 「俺にもよく分からないが、多分そのくらいだと思う」
 「大介さんは今、22歳11ヶ月と5日です」
 横からルイーナが断定的に答えた。
 「え? ルイーナは俺の生年月日も知らないはずなのに何で分かるんだ?」
 補足された大介の方が狼狽えた。
 「統合された大介さんの思念体からお聞きしました」
 事も無げに言うルイーナに、少し寒気を覚える一同。
 「ヘェ~そういうこともできるんだぁ…」
 いや、一人だけ全く違った感じ方をした者がいた。
 いずみは、良からぬことを思いついた時の少し黒い笑顔で呟いていた。
 「で、私たちの正確な歳はどうなるの?」
 「いずみたち4人は、6次元で過ごした半年分が加算されます」
 「…ってことは…、私はもう17歳になってるってこと?」
 「そうです」
 「なんか誕生日の意味合いが曖昧になってきたわ」
 いずみは苦笑した。

 「さて、記憶にまつわるお話の続きですが…」
 ルイーナは少し強引に話を軌道修正する。
 新たに大スクリーンに表示した図形に関して、説明を始めた。
 「この3次元世界は…、いいえ、この宇宙は時刻というものが厳格に定められていて、別の世界軸に移ったとしても時刻そのものに変わりはないようです」
 「…ということは、物理世界であるこの3次元の絶対座標と考えていいのかな?」
 「多分YOUの言う通りだとは思いますが、この3次元ではなく、この宇宙独自だと思います」
 ルイーナは少し困惑気味に答える。
 「この宇宙? どういうこと?」
 いずみもその部分が引っかかったらしい。
 「3次元世界は、有限の空間にいくつもの宇宙がひしめき合っているらしいのです」
 「いくつもの宇宙? 3次元以外にも宇宙があるの?」
 眉間に皺を寄せて、理解しようと努力してみる。
 「違いますよ。3次元世界が有限で、その中の一つが私たちのいる“宇宙”なんです」
 「へ?」
 「各次元は無限の大きさですが、3次元だけは大きさが決まっているようです。そして、その中に宇宙空間がぎっしりと詰まっています」
 「いますって、どうやってそんなこと調べたのよ?」
 「6次元からは、各次元を思念体として、いつでもどこにでもどんな大きさでも関係なく覗くことができます。ただ、属性が違うためその世界に干渉することはできないのです」
 「じゃあ、あんたはどうやってこの3次元世界で私たちと交流できてるのよっ!」
 いずみはとうとう、ルイーナを“あんた”呼ばわりし始めた。
 「私はちゃんと、この3次元で活動できる物質の身体を持っていますから」
 「その物質に干渉できないんじゃないの? 言ってることが矛盾してるわよっ!」
 「え? 6次元までは物質が存在しているので、この身体は6次元のものですよ? ただ、この3次元で活動できるように調整はしましたけど」
 「… … は? そもそも何で物質は6次元までしか存在できないの?」
 「それは●●●●… …、あれ? プロテクトかかってる?」
 ルイーナは口をパクパクするだけで、肝心のワードは聞こえない。
 「… はぁ … いいわ。もう。要するにこれ以上は今の私たちには知る権利がないってことなのよね?」
 いずみは冷めた目で、右手を横にあげた。説明を続けろということらしい。

 ルイーナの歯抜け状態の説明では、3次元だけは物質の制御が難しいらしく、有限の空間に風船のような宇宙を閉じ込めているということだ。
 その力がどんなものかは3次元世界では解析できないらしい。
 多分、ダークエネルギーによる全次元に跨る斥力のようなものではないかということだった。
 「その3次元空間は、この3次元に含まれる宇宙からも、思念体となれば展望・観測できるらしいのです」
 「? ん? なんか… どこかで…」
 湧が腕組みをして呟いた。
 「あっ! そうか…」
 いずみも数秒遅れで気付く。

 「「曼陀羅っ!」」

 そして見事なユニゾンでハモる。
 「は? マンダラ? それはインド密教の?」
 今度はルイーナが顔色を変える番だった。
 しかし、すぐに持ち直していずみを問いただす。
 「まさかいずみがそれを観たというんですか?」
 「観た、というより透視? みたいなもので…感じただけ、だけどね」
 なぜか照れくさそうに顔を赤らめるいずみ。
 その様子を見て、愕然とした面持ちで湧に視線を移す。
 「いずみが言っているのは本当ですか?」
 「え? ああ、俺もその場にいたから…そうなんだと思う…って、俺は観てないけどね」
 「はい? その場にいたんじゃないんですか?」
 ますます混乱するルイーナ。
 「つまり…話すと長くなるんだけど…」
 「長くてもいいです。今はそれがとても重要なんです」
 ルイーナの喰いつきは尋常じゃない。
 止むを得ず湧は本当にかいつまんでその時のことを話し始めた。

 ・   ー   ・   ー   ・

 「なるほど。いずみの能力の一つにその“透視”というのがあるんですね?」
 「俺もその時初めて知ったんだけど…でも、あれは透視というより、共感?って言った方がいいかな?」
 「共感って、つまりその古文書の作者の意識を感じるってことですか?」
 ルイーナは今一つ納得できない表情で呟く。
 「トランス状態のいずみは、何かが憑依したというより、いずみの意識だけが遠くの景色を観て、感想を口にしてるような雰囲気だったんだ」
 「なるほど。その感じでは確かに意識を感じたというイメージじゃないですね」
 「例えて言うなら、そうだな、千里眼って感じだ」
 「千里眼?」
 「まあ、千里なんて小さなものじゃないと思うけどね」
 湧は思いつきを口にしたことを少し恥じた。
 「とにかく大事なのはいずみが“何を”観たかです。いずみの知識の中で一番真実に近かったものがその曼陀羅なんだと思われます」
 「ああ、そういうことかぁ!」
 何かを思い出したようにいずみが突然叫んだ。
 「子どもの頃、どこかの博物館か何かで見た曼陀羅に似てたからそういう風に言ったんだと思う。ただ、実際に観たのはそんな風にはっきりした形じゃなかったんだ」
 「やはりそういうことですか」
 今度こそルイーナは納得した表情で答えた。
 「お、俺にはイマイチよくわからないんだけど…」
 逆に湧は不安を感じている。
 「その古文書には“ある父”とか“あるふ”と書かれていたと言いましたよね? しかも編纂された時期が300年も隔たっているにも関わらず、宗主の方にも書かれていた…」
 「ああ、その通りだよ」
 「なら、その古文書を編纂したのは多分アルフ本人でしょう」
 「なんだって? アルフ本人が?」
 「そしていずみが共感したのがその…」

 「「「アルフ!」」」

 作戦室は重い沈黙に包まれた。
    <続く>
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