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第2章

2-10対決

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 「今、何て言ったの?」
 いずみはキョトンとした表情で聞き返してきた。
 思えばいずみが湧と最後に会ったのは、能力を使った日のこの場所だと聞いていた。
 (そうか、いずみとっては湧くんの身に起こった事は何一つ話してなかったんだっけ)
 そう考えると少し申し訳なくも感じた。

 「あのね、いずみが能力を使った日の翌朝に、如月くんは宗主にお願いして相模原の自宅に手がかりを探しに行ったの。水無月家のお伴が二人、他にも柳瀬川家のスタッフが24時間体制で監視していたんだけど…」
 「自宅? いたんだけど? あれ? 24時間体制って? まさか!」
 「気づいたようね。如月くんの自宅はどうやら怪異に占領されていたようなの」
 「そんなところに戻って行ったの? 自殺行為じゃない!」
 「ただ、如月くんのお父さんが怪異に関わっているんじゃないかと…直哉さんが…」
 さくらが初めて湧の叔父の神代直哉に会ったのは、湧が弓道教室に入る直前だった。
 それまでは水無月家のスタッフだったのだが、湧の後見人になるために、柳瀬川家のスタッフ数名と特撮スタントマンの『八重洲アクションクラブ(YAC)』を立ち上げた時だった。
 「ごめんね。いずみに話したら『絶対に退院させろって』暴れるだろうからって、宗主に固く禁じられていたの…」
 「あったりまえでしょ! 如月くんがどんな能力持っているか知らないけど、そんな危険なところに…って言っても、私が意識を戻した時には全てが終わってたのよね? …私も前後の見境が無くなって突っ込んでいただけか… ハハハ…」
 全くの予想通りの反応かと思ったら、意外にも自分の行動を判断する冷静さを持ち合わせていた。
 今までのいずみとは異なっていた。
 今回いずみが観たというものは、いずみの精神をも変化させていたようだ。
 「でも冗談みたいだね? 4階から落ちても怪我一つしない、いわゆるアンデッドみたいな奴だよ? 死ぬわけないじゃん(笑)って思ってたのに…」
 「…… いずみ、それ色々踏んでるから…。落ちても…じゃなくて、いずみに突き落とされても…だし、怪我しないのは、いずみに攻撃されても巧みに交わした結果だし、アンデッドって既に死んでるし…」
 さくらは“ハァ~”とわざとらしく息を吐いた。
 いずみの言い草は全くもって酷いが、いずみがさほど悲しんでいなかったことに、ちょっと安堵した。
 「でね、これからが本題なんだけど…」
 「ん?」
 「如月くんは生き返りました」
 「… はい ? …ってことは、死んでなかった? ってことぉ?」
 いずみの目つきが怪しくなり、素晴らしい冷房効果を生み出していた。
 「死んだよ… そりゃあもう医者が手のつけられない状態で…」
 「言ってる意味が全く判んない… 死んだの? 死ななかったの? どっち?」
 「だから死んだんだってば! でも医者が治療することもなく生き返ったのよぉ!」
 さくらはどう説明したらいいのか判らなくなってきた。
 「いくらさくらでも怒るわよ。私のこと、からかってるとしか思えないわよ!」
 「私だってびっくりして悲しくて…」
 さくらが苦しそうに呟くのを見て、いずみはついにキレた。
 「まだ言うかぁ!」
 叫びながらさくらの口に両手の親指を突っ込み、左右に引っ張った。
 「ヒギャァ~! ヒハイヒハイ(うぎゃ~! 痛い痛い)」
 「如月くんが死ぬわけないで…うぐっ!」
 頭にきて、いずみの鳩尾に正拳突きを入れる。さくらももう我慢しなかった。
 思わず鳩尾を抑えたいずみを蹴り上げ、お社の中庭に吹っ飛ばす。
 「ギャンギャン!」
 玉砂利を敷き詰めてあるので、ダメージは少ないものの、頭から突っ込んだので顔中に石が激突する。
 「私の話を最後まで聞きなさいよっ!」
 さくらは起き上がろうとしているいずみにエルボーを入れる。
 「ふぎゃっ!」
 いずみは再び潰れ、続けてさくらはボディプレスで押さえ込んだ。
 「私だって、いきなりいずみがいなくなるわ、自宅に連絡入れたら、水無月家のお伴とともに如月くんが怪異に殺されたって言われるわ、…もうどうしていいのか判らなくて不安だったんだからぁ」
 さくらは一気に捲し立てるが、今のいずみはそんな言い訳を聞いてはいなかった。
 「そんなこと意識がない私が知ったことかぁ!」
 いずみは渾身の力で、無理やり側転してさくらの上に回り、そのまま反動を利用してさくらを投げつけた。
 「きゃああっ!」
 さくらは玉砂利の上を転がる。
 まるで巨大な紙ヤスリの上を転がるように、さくらの服はズタズタに引き裂かれた。
 「ああっ! お気に入りのスカイブルーのフレアスカートがぁ!」
 もはや腰ミノのごとくすだれ状に裂かれていた。
 一方のいずみは動きやすいホットパンツだったが、既に原形を留めていない。
 二人ともあられもない姿で取っ組み合っていた。
 「いずみっ! 今日という今日は許さないからねっ!」
 「それはこっちのセリフよっ!」
 真っ向から突撃し、がっぷり組み合う。
 しかし、さくらの方が戦術的に勝っていた。
 組み合ったまま、腕を交差していずみの腕を払い、そのままいずみの胸を鷲掴みにする。
 「ぎゃああああああ~ 痛いっ!」
 豊満なさくらに対して、慎ましいいずみの胸はさくらの手の中で握りつぶされていた。
 対抗しようとさくらの胸に手を伸ばすが、巧みに向きを変えられて掴めない。
 「いつもいつも好き勝手ばかりやって! 少しは周りのことも考えなさいよっ!」
 さくらの文句は確かに当然だった。
 「さくらこそ、そうやって、いつもいつも上から目線でっ!」
 いずみの言い分も最もだった。
 「ふんっ!!」
 さくらが怯んだ一瞬の隙をついて、さくらの手を払い、後退りながらさくらの胸に横薙ぎに手刀を入れた。
 「キャン!」
 入院していて爪が少し伸びていたいずみの手刀は、さくらの胸をブラウスとブラごと切り裂いた。
 哀れさくらの胸は血しぶきで真っ赤に染まる。
 胸を抑えたさくらの指の間からは血が滴ってきた。
 「ひ、ひどい~。ここまでするかっ! スカポンタンっ!」
 さくらは神速でいずみに肉薄する。
 いずみが避けるのを先読みして、その方向に修正しつつ、いずみの襟首を掴んだ。
 そのまま回転させて、地面に叩きつけられる。
 「うわっ!」
 玉砂利の中でいずみを仰向けにし、シャツを引き裂いた。
 馬乗りになって、ブラも引き剥がすと再び両乳房を力一杯握りつぶした。
 「ふぎゃっ…ん」
 さすがにいずみも堪らなく、意識が飛んだらしい。
 口から若干泡が噴き出していた。
 「ここまでやる気はなかったけど、あんたが悪いんだからねっ!」
 そう言っていずみから離れた。
 さくらの胸は既に出血が止まり、かさぶたになっている。
 院長が言ったように、自分たちの血は特殊だと実感させられる。
 胸の傷は一晩経てば、後も残らずに完治するだろう。
 いずみの胸にクッキリついた、さくらの手形状の痣も同様だと思われる。
 そう思って振り向いたさくらは、いずみのローキックを受けて転ばされてしまった。
 「あ、あんたわぁ! まだ懲りないのかぁ!」
 再び殴り合うが、もう二人とも力が入らない。
 ビンタの応酬に変わり、最後は抱き合うように転がったまま、それでも指相撲で戦い続ける。

 「如月くんが生き返ったのは、私たちにも関係があるらしいの!」
 いずみに親指を押さえ込まれたまま、さくらは言った。
 「関係?」
 さくらが話の続きを始めたので、いずみもおとなしく聴く気になった。
 「如月くんの血が彼を包み込んで、殻のようになってたの。私が見たときは既にそんな風になってたから、これが如月くんだってすぐに信じることはできなかった」
 「さくらは如月くんの付き添いをしてたの?」
 いずみの問いかけは何故か寂しそうに聞こえた。
 「うん…。医者が“サナギ”って呼んでいた状態で、中はほとんど見えなかった。だからレントゲンで見せてもらったら…」
 さくらの手がいずみの手を強く握り返した。
 「骨が…、肩から胸までザックリ切れてて、左足と左手首がなかった…」
 「え? そこまで?」
 「医者に言わせると、普通の人なら優に5回は即死してるって… で、でも…回数じゃないのよっ! 死んじゃったら同じでしょ!」
 声を荒げてはいるが、さくらは苦しそうに言葉を吐き出した。
 病院で言えなかったことを、いずみにぶつけるみたいに苦しみと悲しみを一緒に吐き出した。
 「さくら…、ごめんね。一人で苦しかったね…。それなのに私ったら、自分のことばっかりで…」
 「ううん。いずみは悪くないわよ、教えてもらえなかったんだから…いずみの方が気を揉んでいたと思う…」
 そう言い合い、微笑を交わした。
 「でね、いずみの意識が戻る4日前に如月くんは自らサナギから出てきたの。そして、その時如月くんを包んでいた血液の結晶は…塩の結晶になって砕け散ったらしいわ…」
 「! …さくらっ! それって!」
 いずみも直感した。(さすがだなぁ)とさくらは感心したが、それどころではないのだ。
 「一連の事件の被害者や怪異、浮遊霊…その全てに、塩の結晶が関わってる」
 「そうそれっ!」
 「院長も言ってたんだけど、逆作用で考えると何かのエネルギーを使い切った残りだとすると、エネルギー自体はどこに行ったの?」
 「如月くんの場合は身体の再生に使ったと思えるけど、怪異に襲われて塩の結晶になった人は…」
 いずみが何を言いたいのか解るが、さくらは口にしたくなかった。
 「その可能性が高いの。そして柳瀬川の調査によると、あるエリアに不明者が集中してる」
 「それって、うちの高校にもあったよね? 大ちゃんが毛嫌いしてた…」
 『「ソウルコンバーター…」』
 二人は蒼白な顔で見つめあった。
    <続く> 
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