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第2章
2-11告白
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「如月くんが“サナギ”から出てきて、一番最初に驚いたのは切られていた左足と左手首が元通りになっていたことと、傷跡が全くなかったことなの…」
いずみとの私闘の末、あられもない格好でいつまでも転がっているわけにはいかないということで、どちらともなくお風呂に入ってすっきりしようということになった。
お社は有事に備えて、核シェルターにもなる構造になっている。
大人20人程が無補給で3週間程度生活できるよう、各種設備が整えられているのだ。
風呂も近くのゴミ処理施設の排熱利用により、パイプラインを介して給湯されているため、24時間まさに湯水の如く利用できた。
「トカゲの尻尾じゃあるまいし…、って言っても本当に再生されてたんだよね?」
「血液に秘密があると思ったらしいんだけど、院長が如月くんからの採血ができないから、私の血で代用させてくれって言って、なんだかんだで400ccも取られたわよぉ~」
さくらは口を尖らせて呟いた。
湧の代わりになれたことには不満はないが、モルモットにされたことには変わりない。
「単に治癒力が高いってわけじゃないってことよね…私たちの血も…」
「如月くんの血が私たちの血と同じだという前提でね…。でも、私は少し違うような気がするんだ」
さくらは、さっきいずみに切られた自分の乳房の傷を見下ろして呟いた。
既にかさぶたは剥がれ、ミミズ腫れのような跡が少し残っていた。
「確かに骨折しても大人しくしてれば、だいたい3日ぐらいで治ってたもんね…。おかげで、普通の医者には絶対に診せられなかったけど…」
「…というか、いずみは無茶しすぎよぉ。私たちの身体的秘密が漏れたら大変なんだからね。いつもヒヤヒヤしてたわよっ!」
「にゃはは、ごめんごめん。さくらはネコかぶって、お淑やかキャラ通してたもんね。ばれないように…」
「無闇に疑われるようなことできないでしょぉ!」
水無月家・柳瀬川家に関わる医療行為の全てが、宮内庁病院に限定されている理由だった。
「だけどさ、お伴の二人だって水無月のスタッフだよ? 瞬殺って、考えられないんだけど…」
いずみが不機嫌だったのはそれが理由だったようだ。
「そこなの! 如月くんは、何度も切られて怪我はひどいものの、怪異を撃退できたっていうのが不思議で。まぁ時間的は30秒という極めて短い時間だけど…」
「30秒? 何が?」
いずみは目を丸くして問い返した。
「如月くんたちが家に入って、全滅するまでの時間よ?」
「ちょっとぉ! そんな短時間でぇ??」
「そうよ? だから瞬殺だって言った…」
「違うぅ! そこじゃないっ!」
いずみが慌ててさくらの言葉を遮った。
「何なの?」
「如月くんは軽く5回も即死できる怪我って言ったでしょ? いくら怪異でも2人を消滅させて、さらに如月くんにそれだけの怪我を負わせるなんて、時間的に不可能じゃない? 皆、ど素人じゃないんだよっ!」
「あっ! そうかっ!」
さくらにもやっと気になってたものが解りかけてきた。
「如月くんから話は聞いてるんでしょ? どんな風に襲われたのか…」
「え?」
さくらは言葉に窮した。考えてみれば、一度も湧に状況を尋ねてはいなかった。
普段のさくらならこんなことはありえない。
「さくら? どうしたの? あなたらしくないわよ。あなたの役割は諜報と分析でしょ? 情報を収集もしていないの?」
「あ、う、うん。あれ? どうしてだろう? 私、気が動転してて…」
「いやいやいや、あなたが動転? それ自体が異常じゃない」
これほどいずみが慌てるのは珍しいことだ。
それほどさくらの行動がおかしかったのか? さくらは実感できなかった。
「あ、あのさ、いずみ…」
「どうしたの?」
いずみは心配顔でさくらの顔を覗き込んできた。
下手な言い訳をしてこじらせるよりは、自分の気持ちを素直に話したほうが良いように思えた。
何よりお務めに悪影響が出るのが確実なのだから…。
「いずみ、聞いて欲しいことがあるの…。私、湧くんが好き。…なの…」
「ふ~ん。 …そう…」
(あ、あれ?? 驚かない?)
いずみの反応が予想外だったので、さくらは肩透かしを喰らった気分だったが…、
「ゆ・う・く・ん? へ?」
「うん…」
「ってぇ、如月くん?」
「…うん…」
「はうあうへう…」
いずみは目を大きく見開き、口をパクパクさせた。
(そうだよね。驚くよね。くふふ)
予想通りの反応をしてくれたことで、笑いを堪えきれなくなった。
「えええええええええぇぇぇ~~」
絶叫とともにいずみはさくらの両肩をガシッとつかみ、
「ほ、本気なの? 本当に好きなのぉ!?」
「う、うん。実はずっと…前から…」
「ずっとっていつからぁ?」
「たぶん小学5年の時…かな?」
さくらは湧と初めて会った時のことを思い出した。が、
「げっ!」
いずみは咄嗟にさくらから飛び退いた。
「“げっ!”って何よぉ、悪かったわねぇ」
汚物扱いは変わってないのか、いずみの湧に対する評価はやはり最低のようだ。
「だって、今までさくらから恋バナなんて聞いたことなかったしぃ~」
「いずみが湧くんのこと毛嫌いしてたからでしょ!」
「…毛嫌い? 私が?」
いずみは豆鉄砲を喰らった鳩のように惚けた。
「そうじゃない! いつもいつも“特撮ヒーローおたく”って言って顰め面でぇ~!」
「あ? ああ、そんなこともあったわねぇ…」
全く悪びれてない。
「あれだけボロクソに貶しといて…ソレ? 信じられないっ!」
「でも“キモオタ”には変わりないよね?」
自分のことは高い棚の奥の方にしまいこんで、平然と言い放つ。
「あ、あんたねぇ…」
さくらはもうどこから突っ込んでいいか判らなくなっていた。
「あんただって、同じ穴の狢でしょ! 特撮ヒーロー番組のオタクなんだから…」
「わ、私はオタクじゃなくて“ファン”よ。間違えないでっ!」
「どこが違うのよ。全く…」
「全然違うじゃない。え~と…、あ、それはいいから。それより本当の本当に本気なの?」
言葉に窮したいずみはさっさと話題を戻してきた。
「そうよ! 大好きよ!!」
さくらはもう恥じらいもなく大声で宣言してしまった。
もっともここがお社の風呂場で、今はさくらといずみしかいなかったからだ。
「そっかぁ、そっかぁ。さくらが如月君を…ねぇ…」
いずみは好奇心丸出しのスケベそうな笑顔でさくらを睨めつけた。
が、
その笑顔はなぜか徐々に青ざめて行った。
「…そっか…ぁ、かぁ… か?」
「いずみ?」
“ザァバァ~ン”と湯をかき上げて、いずみはクルリと後ろを向いた。
「? どしたの?」
さくらが訊ねても“モゴモゴ”言うだけだ。
どうやら右手の指を4本まとめて咥えているらしい。
怪しすぎる態度に、いずみが何かやらかしたんじゃないかと直感した。
「いずみ? 今“ヤベェ”とか言わなかった?」
「グググ、ガンゲゴガイ(ううん、何でもない)」
キョドッた態度で返事されても信じられる道理がない。
「い・ず・み? もしかすると、いずみも湧くんが好きなんじゃない?」
「!」
瞬間的にいずみの背筋がピンと張ったのをさくらは見逃さなかった。
明らかに的心を得た反応だ。
「…やっぱりね…。最近特に湧くんに絡むから、そうじゃないかと思ってたんだよね」
「な、何を言っちゃってるのかなぁ? さくらわぁ」
後ろ向きでも、冷や汗を流しているのが見えるようだ。
そんないずみの様子を見るたびに、さくらは心に棘が刺さったような痛みを覚えてきた。
以前から、いずみは湧のことをわざと意識しないようにしていたと思っている。
小学生の頃、いずみは湧と特撮ヒーロー談義をしていた。
それが中学に進級してから、クラスメートにからかわれたことがきっかけとなって、いずみは“隠れ特撮ヒーロー番組ファン”となってしまったのだ。
学校で湧が特撮ヒーローの真似事をしていると、汚物でも見るような顔で貶していたのだった。それがいずみの本心ではないことは、さくらは痛いほど知っていた。
そして、どんなにいずみに嫌われようとも、湧はいずみに対する態度を変えたことがなかったことも、さくらは知っていた。
二人ともお互いに小学生の時のように、余計な横やりを気にせず会話を楽しみたいのだと、そうさくらは思ってきたのだった。
ー自分が入る余地などないのでは?ー
さくらはいつも一歩下がった所から二人を見てきたのだ。
「湧くんが死んだって聞いて、初めて自分の気持ちを抑えることができなくなったの…。好きなのは前から自覚してたけど…、それ以上に欠かせない大切な人だと判ったの。でも…もう話もできなくなったと思ったら…悲しくて悔しくて…」
「さくら…そこまで…」
「でも、でもね。病院で宗主に“生き返るかもしれない”って言われた時、本当に生き返ったら今度こそ私の気持ちを伝えようって決心したの!」
さくらは少しでも可能性があるなら…今度こそ。結果がどうであっても気持ちだけでも伝えたいと思っていた。
「え? じゃあ、もう如月君に告白したのぉ?」
「はう!」
脳天に巨大なハンマーが振り下ろされたように、さくらのHPが消し飛んだ。
“ブクブクブクブクブクブク…”
湯に沈んださくらを引き上げると、いずみは心配顔で覗き込んできた。
「さ、くらぁ?」
「い、言えたらこんなに苦労してないわよっ!」
もはや半泣き状態のさくらを抱きしめ、労をねぎらった。
「確かに今の状況じゃ話しだせないよね。私だってここまで酷いことになってるなんて思ってなかったもん」
街中は諸外国のテロなどと違って、見た目に破壊された部分はほとんどない。
しかし、凍結防止剤のような白い砂が路上に散乱し、人々はそれが死体のように顔を顰めていた。
本当に怪異を見たものは、生存できるはずもないのに、噂ばかりが飛び交って人々をパニックに陥れていた。
「でもね。如月君には告白したほうがいいよ。こんな状況だからこれから先どうなるか判らないもの…」
「いずみ…、いいの?」
「さくらが本気なのは充分に判ったから、わ、私も応援するね…」
反対されると思っていたさくらは、いずみがあっさりと了承してくれるとは思っていなかった。
「あ、その如月君って、いつ退院してくるの?」
「明日の午後…かな? 退院手続きは水無月宗主が行い、極秘ルートで戻ってくるそうよ?」
「そうか…。じゃあ、いよいよ全面対決が始まるのね…」
「全面対決?」
いずみが言う全面とはどういうことなのか、さくらにはピンとこなかった。
<続く>
いずみとの私闘の末、あられもない格好でいつまでも転がっているわけにはいかないということで、どちらともなくお風呂に入ってすっきりしようということになった。
お社は有事に備えて、核シェルターにもなる構造になっている。
大人20人程が無補給で3週間程度生活できるよう、各種設備が整えられているのだ。
風呂も近くのゴミ処理施設の排熱利用により、パイプラインを介して給湯されているため、24時間まさに湯水の如く利用できた。
「トカゲの尻尾じゃあるまいし…、って言っても本当に再生されてたんだよね?」
「血液に秘密があると思ったらしいんだけど、院長が如月くんからの採血ができないから、私の血で代用させてくれって言って、なんだかんだで400ccも取られたわよぉ~」
さくらは口を尖らせて呟いた。
湧の代わりになれたことには不満はないが、モルモットにされたことには変わりない。
「単に治癒力が高いってわけじゃないってことよね…私たちの血も…」
「如月くんの血が私たちの血と同じだという前提でね…。でも、私は少し違うような気がするんだ」
さくらは、さっきいずみに切られた自分の乳房の傷を見下ろして呟いた。
既にかさぶたは剥がれ、ミミズ腫れのような跡が少し残っていた。
「確かに骨折しても大人しくしてれば、だいたい3日ぐらいで治ってたもんね…。おかげで、普通の医者には絶対に診せられなかったけど…」
「…というか、いずみは無茶しすぎよぉ。私たちの身体的秘密が漏れたら大変なんだからね。いつもヒヤヒヤしてたわよっ!」
「にゃはは、ごめんごめん。さくらはネコかぶって、お淑やかキャラ通してたもんね。ばれないように…」
「無闇に疑われるようなことできないでしょぉ!」
水無月家・柳瀬川家に関わる医療行為の全てが、宮内庁病院に限定されている理由だった。
「だけどさ、お伴の二人だって水無月のスタッフだよ? 瞬殺って、考えられないんだけど…」
いずみが不機嫌だったのはそれが理由だったようだ。
「そこなの! 如月くんは、何度も切られて怪我はひどいものの、怪異を撃退できたっていうのが不思議で。まぁ時間的は30秒という極めて短い時間だけど…」
「30秒? 何が?」
いずみは目を丸くして問い返した。
「如月くんたちが家に入って、全滅するまでの時間よ?」
「ちょっとぉ! そんな短時間でぇ??」
「そうよ? だから瞬殺だって言った…」
「違うぅ! そこじゃないっ!」
いずみが慌ててさくらの言葉を遮った。
「何なの?」
「如月くんは軽く5回も即死できる怪我って言ったでしょ? いくら怪異でも2人を消滅させて、さらに如月くんにそれだけの怪我を負わせるなんて、時間的に不可能じゃない? 皆、ど素人じゃないんだよっ!」
「あっ! そうかっ!」
さくらにもやっと気になってたものが解りかけてきた。
「如月くんから話は聞いてるんでしょ? どんな風に襲われたのか…」
「え?」
さくらは言葉に窮した。考えてみれば、一度も湧に状況を尋ねてはいなかった。
普段のさくらならこんなことはありえない。
「さくら? どうしたの? あなたらしくないわよ。あなたの役割は諜報と分析でしょ? 情報を収集もしていないの?」
「あ、う、うん。あれ? どうしてだろう? 私、気が動転してて…」
「いやいやいや、あなたが動転? それ自体が異常じゃない」
これほどいずみが慌てるのは珍しいことだ。
それほどさくらの行動がおかしかったのか? さくらは実感できなかった。
「あ、あのさ、いずみ…」
「どうしたの?」
いずみは心配顔でさくらの顔を覗き込んできた。
下手な言い訳をしてこじらせるよりは、自分の気持ちを素直に話したほうが良いように思えた。
何よりお務めに悪影響が出るのが確実なのだから…。
「いずみ、聞いて欲しいことがあるの…。私、湧くんが好き。…なの…」
「ふ~ん。 …そう…」
(あ、あれ?? 驚かない?)
いずみの反応が予想外だったので、さくらは肩透かしを喰らった気分だったが…、
「ゆ・う・く・ん? へ?」
「うん…」
「ってぇ、如月くん?」
「…うん…」
「はうあうへう…」
いずみは目を大きく見開き、口をパクパクさせた。
(そうだよね。驚くよね。くふふ)
予想通りの反応をしてくれたことで、笑いを堪えきれなくなった。
「えええええええええぇぇぇ~~」
絶叫とともにいずみはさくらの両肩をガシッとつかみ、
「ほ、本気なの? 本当に好きなのぉ!?」
「う、うん。実はずっと…前から…」
「ずっとっていつからぁ?」
「たぶん小学5年の時…かな?」
さくらは湧と初めて会った時のことを思い出した。が、
「げっ!」
いずみは咄嗟にさくらから飛び退いた。
「“げっ!”って何よぉ、悪かったわねぇ」
汚物扱いは変わってないのか、いずみの湧に対する評価はやはり最低のようだ。
「だって、今までさくらから恋バナなんて聞いたことなかったしぃ~」
「いずみが湧くんのこと毛嫌いしてたからでしょ!」
「…毛嫌い? 私が?」
いずみは豆鉄砲を喰らった鳩のように惚けた。
「そうじゃない! いつもいつも“特撮ヒーローおたく”って言って顰め面でぇ~!」
「あ? ああ、そんなこともあったわねぇ…」
全く悪びれてない。
「あれだけボロクソに貶しといて…ソレ? 信じられないっ!」
「でも“キモオタ”には変わりないよね?」
自分のことは高い棚の奥の方にしまいこんで、平然と言い放つ。
「あ、あんたねぇ…」
さくらはもうどこから突っ込んでいいか判らなくなっていた。
「あんただって、同じ穴の狢でしょ! 特撮ヒーロー番組のオタクなんだから…」
「わ、私はオタクじゃなくて“ファン”よ。間違えないでっ!」
「どこが違うのよ。全く…」
「全然違うじゃない。え~と…、あ、それはいいから。それより本当の本当に本気なの?」
言葉に窮したいずみはさっさと話題を戻してきた。
「そうよ! 大好きよ!!」
さくらはもう恥じらいもなく大声で宣言してしまった。
もっともここがお社の風呂場で、今はさくらといずみしかいなかったからだ。
「そっかぁ、そっかぁ。さくらが如月君を…ねぇ…」
いずみは好奇心丸出しのスケベそうな笑顔でさくらを睨めつけた。
が、
その笑顔はなぜか徐々に青ざめて行った。
「…そっか…ぁ、かぁ… か?」
「いずみ?」
“ザァバァ~ン”と湯をかき上げて、いずみはクルリと後ろを向いた。
「? どしたの?」
さくらが訊ねても“モゴモゴ”言うだけだ。
どうやら右手の指を4本まとめて咥えているらしい。
怪しすぎる態度に、いずみが何かやらかしたんじゃないかと直感した。
「いずみ? 今“ヤベェ”とか言わなかった?」
「グググ、ガンゲゴガイ(ううん、何でもない)」
キョドッた態度で返事されても信じられる道理がない。
「い・ず・み? もしかすると、いずみも湧くんが好きなんじゃない?」
「!」
瞬間的にいずみの背筋がピンと張ったのをさくらは見逃さなかった。
明らかに的心を得た反応だ。
「…やっぱりね…。最近特に湧くんに絡むから、そうじゃないかと思ってたんだよね」
「な、何を言っちゃってるのかなぁ? さくらわぁ」
後ろ向きでも、冷や汗を流しているのが見えるようだ。
そんないずみの様子を見るたびに、さくらは心に棘が刺さったような痛みを覚えてきた。
以前から、いずみは湧のことをわざと意識しないようにしていたと思っている。
小学生の頃、いずみは湧と特撮ヒーロー談義をしていた。
それが中学に進級してから、クラスメートにからかわれたことがきっかけとなって、いずみは“隠れ特撮ヒーロー番組ファン”となってしまったのだ。
学校で湧が特撮ヒーローの真似事をしていると、汚物でも見るような顔で貶していたのだった。それがいずみの本心ではないことは、さくらは痛いほど知っていた。
そして、どんなにいずみに嫌われようとも、湧はいずみに対する態度を変えたことがなかったことも、さくらは知っていた。
二人ともお互いに小学生の時のように、余計な横やりを気にせず会話を楽しみたいのだと、そうさくらは思ってきたのだった。
ー自分が入る余地などないのでは?ー
さくらはいつも一歩下がった所から二人を見てきたのだ。
「湧くんが死んだって聞いて、初めて自分の気持ちを抑えることができなくなったの…。好きなのは前から自覚してたけど…、それ以上に欠かせない大切な人だと判ったの。でも…もう話もできなくなったと思ったら…悲しくて悔しくて…」
「さくら…そこまで…」
「でも、でもね。病院で宗主に“生き返るかもしれない”って言われた時、本当に生き返ったら今度こそ私の気持ちを伝えようって決心したの!」
さくらは少しでも可能性があるなら…今度こそ。結果がどうであっても気持ちだけでも伝えたいと思っていた。
「え? じゃあ、もう如月君に告白したのぉ?」
「はう!」
脳天に巨大なハンマーが振り下ろされたように、さくらのHPが消し飛んだ。
“ブクブクブクブクブクブク…”
湯に沈んださくらを引き上げると、いずみは心配顔で覗き込んできた。
「さ、くらぁ?」
「い、言えたらこんなに苦労してないわよっ!」
もはや半泣き状態のさくらを抱きしめ、労をねぎらった。
「確かに今の状況じゃ話しだせないよね。私だってここまで酷いことになってるなんて思ってなかったもん」
街中は諸外国のテロなどと違って、見た目に破壊された部分はほとんどない。
しかし、凍結防止剤のような白い砂が路上に散乱し、人々はそれが死体のように顔を顰めていた。
本当に怪異を見たものは、生存できるはずもないのに、噂ばかりが飛び交って人々をパニックに陥れていた。
「でもね。如月君には告白したほうがいいよ。こんな状況だからこれから先どうなるか判らないもの…」
「いずみ…、いいの?」
「さくらが本気なのは充分に判ったから、わ、私も応援するね…」
反対されると思っていたさくらは、いずみがあっさりと了承してくれるとは思っていなかった。
「あ、その如月君って、いつ退院してくるの?」
「明日の午後…かな? 退院手続きは水無月宗主が行い、極秘ルートで戻ってくるそうよ?」
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「全面対決?」
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