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第8章

8-06確保

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 アルフの身柄(と言っても、見た目は湧の父親であり、エネルギー開発の研究員如月博士でしかないが)は、当局のエージェントにより秘密裏に米軍横田基地の一角にある特殊施設に移送された。
 そこで事情聴取となったが、その時点で誰も予測していない事態に直面した。

 「アルフと直接会話できないっ?」
 「なんでよ? だって捕まえたんでしょ?」
 湧といずみが思わず叫んだ。
 「事情聴取にあたったエージェントは、如月博士が邪魔をしてアルフと会話させないようにしてると思ったのですが…」
 「違うの?」
 いずみが不思議そうな顔で聞き返す。
 「詳しく話を聞いてみると、如月博士とアルフの間で“言葉”を交わしたことはないそうです」
 「へ? どういうこと?」
 「アルフは人語を解さず…というより、そういうコミュニケーションはとれないようです」
 「じゃぁ、どうやって湧のお父さんと融合できたのよ? お互いに存在を認識してるんでしょ?」
 「そこなんです。高次元の思念体であるアルフは、物質に依存する“言葉”や“映像”などの情報手段を認識できないようです」
 「はい?」
 「あっ! そうか! そういうことかっ!」
 突然湧が何かに気付いたように叫んだ。
 「何よぉ~大声で!」
 「俺たちは大きな勘違いをしてたんだよ! アルフは思念体。そう言いながらも異人種や異星人などと同じように考えてた」
 「あ~確かに…YOUの言う通りですね。しかも人間と融合できるから、言葉が通じると思い込んでいました」
 ルイーナは、湧の言わんとしてることに今更ながら気付く。
 「つまり、融合する時の人間との意思の疎通には、何かしらの“会話”が行われていたと思い込んでいたんだ」
 「? 違うの?」
 いずみにはまだ理解できないらしい。
 「いずみが観たマンダラ宇宙を思い出してごらんよ。そこで何か交感した記憶があるかい?」
 「…交感? …ない…ね。ただ球体の中に人影のようなものがあって、ああそうか。私に何か訴えかけてるような仕草はなかったわ」
 「アルフがマンダラ宇宙を観せたんじゃない。アルフの思念を受けた古文書を編纂した人が、一番その意思に近い映像を思い描いたんだよ」
 「ええっー!? 何でそんなまどろっこしいことするのよっ!」
 「言葉と言うコミュニケーションが取れないから。思念体のアルフには物質が造る映像というものが認識できないから。だから思念体の本質であるエネルギーのみの思念だけで交流を図ったんじゃないかな?」
 「YOUの言わんとしてることは分かります。でもそれで物質世界に生きる私たちと交流できると思いますか?」
 ルイーナの方が懐疑的な意見を述べた。
 「ルイーナは以前、アルフは同じ時代、時刻に複数存在してるって言ったよね」
 「ええ、実際に追跡調査したので間違いありません」
 「その時に融合してる人間同士の接触は皆無だったとも言ったよね?」
 「はい」
 「そこが大きな誤解を生んでいたんだよ」
 「え? どうして? タイムパラドックスを避けるためには同一人物同士の接触は… …人物… あ!」
 「やっと理解してもらえたようだね」
 湧は優しくルイーナを見つめた。
 「なんだ? どういうことだ?」
 黙って様子を見ていた大介も思わず口を挟んできた。
 「大介さん。早い話が“アルフ”は“人”でも“物質”でもなかったんです。しかも時間に制約されない高次元の“思念体”…」
 「タイムパラドックスは起こりようがない。ということか…」
 「そういうことです。そして話を戻すと、アルフは融合した人間との間に、思念でコミュニケーションを取ることができるのかと思います」
 「思念で? 待ってくれ、そんなに優れた能力者がそうそういるはずないだろう」
 「そうとも限りませんよ」
 ルイーナが大介を宥めるように肩に手を置き、タブレットを見せた。
 「今までアルフが融合してきた人物は、皆何かしらの功績を挙げています。その人たちは発想力が人並みはずれています」
 「それはつまり思念ってことか…。そういう人物にならアルフの思念もキャッチできる可能性があるな…」
 大介も理解し始めた。
 「今回、たまたま俺の父親に融合してるから、徹底的に調べ上げてくれ」
 「YOU? なら、YOUも事情聴取に同行しませんか? 今の問題もYOUの着想で、今後の調査に希望が持てるようになったことですし…、いずみも間接的だったとしても、アルフの思念に触れた貴重な参考人ということで、一緒に行きましょう」
 「え? どこへ?」
 「もちろん横田基地です」
 「エーーーーーーッ! 私、まださっきの話、理解してないよ?」
 「大丈夫ですよ。アルファブラッドの力で新生したんですもん。アルフとの相性はバッチリです」
 ルイーナはもう居ても立っても居られないらしく、既に出かける準備を始めようとしていた。
 「湧、どうする? お父さんに会える? 嫌だったらはっきり断った方がいいよ?」
 湧の気持ちを慮って、いずみは抵抗を試みた。
 湧は湧で、長年憎み続けてきた父親とひょんな形で再開することになろうとは思ってもみなかった。
 「俺…は、…いく…。行ってあのクズ人間をぶっ叩く!」
 「は? え?」
 いずみの心配をよそに、湧は怒り狂う寸前だったのだ。
 こうして、それぞれの思惑を胸に横田基地に向かうこととなった。

 ・  ー  ・  ー  ・  ー  ・

 アルフとの融合を、憑依か多重人格のようなものだろうと思い込んでいた当局のスタッフは、会話自体は全て如月博士が対応していることに困惑していた。
 アルフの目的や本心を聞き出せないことに、苛立ち始めてすらいた。
 過去にも何度かアルフと融合したとされる人物を確保し、尋問を繰り返した記録は残っている。
 しかし、その全てが失敗に終わり、対象者は死亡している。
 アルフとの直接対話が不可能だという理由が、今回の如月博士の説明で初めて解明されたのだ。
 “イマジネーション”、画像イメージや文章ではなく、頭の中に本人だけが描く“ひらめき”が、アルフとの唯一の交感なのだという。

 「…それって、…本当にアルフと融合してるって言えるの? ただの妄想かもしれないじゃない…」
 いずみは眉間に皺を寄せて呟いた。
 「いずみの言う通りです。本当に融合していて、それが高次元の思念体だと理解できる人が果たしているのでしょうか?」
 「そうだよね。多分ほとんどの人は、その“ひらめき”は自分の能力だと思うんじゃないかな?」
 「だろうね。だからその“ひらめき”のためには、家族であろうと実験材料に使えるんだと思う」
 湧が珍しく嫌味を込めて、ぶちまけた。
 「湧…、だからそれはアルフが…」
 「本当にアルフとの交感だったとしても、それで家族を犠牲にできるかっ!」
 「YOUの気持ちはわかりますが…、如月博士のおかげでアルフの実態を少しだけ解明できたのは確かです」
 「…わかってる…、そんなこと…」
 不貞腐れた表情で車窓を流れゆく街並みを眺める。

 横田基地へは、尾行や追跡を避けるために、一度アメリカ大使館に向かった。
 ボディスキャン後に支給されたアメリカ軍服に4人とも着替え、装甲されたリムジンで横田基地に移動するという徹底した対応を行った。
 外からは全く車内が見えないが、中からはある程度周囲が見える。
 時刻はすでに深夜なので、高速道路は空いていたから車は快適に走行していた。
 「昨日、銀座であんな大事件があったのに、この辺りは普段と変わらないな」
 大介が何か含んだ言い方をする。
 ルイーナもアルフが確保されたことに、喜びよりも不安の方が大きくなっていることに気づき始めた。
    <続く>
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