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第3章

3-03フレンズ対決

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 「とりあえず…、さくら、あなたが知り得た情報を教えてちょうだい」
 【へ…いきなり何?】
 ショックから立ち直ったいずみは、すぐさまさくらに詰め寄った。
 【あ、あれ? 何で私を捕まえられるの?】
 いわゆる精神体であるさくらは、さくら本人が精神力で物質に干渉しない限り、接触はできないはずだ。
 それなのにいずみはいとも簡単にさくらの手を掴んでみせた。
 「おおーっ!」
 その行動には湧も驚いた。
 「私を甘く見ないでね~。私だって、いつまでもさくらの好き勝手にはさせないわよ~」
 さくらの姿を認識できない大介のために、いずみは口で話しかけている。
 ちょっとしたことだが、こういうところにも気配りができるのだ。
 ただ、さくらの言葉は誰かが代弁しなければならなかったが…。

 〈私だってやられっぱなしじゃないわヨォ~〉
 ふふふ…と、不敵にいずみは笑って、さくらの顔(精神的なもの…)を覗き込んだ。
 【あう~、痛い、痛い…】
 実際に握り締められるより、精神的なダメージなのでいずみの心一つでいくらでも力を入れられるのだ。
 〈最近、私にど突かれないと油断してたでしょうぉ~。これで互角だねぇ~〉
 【あ~ん。ごめんなさぁ~い】
 精神体なので、変な見栄を張るより素直に本心を吐露してしまう。
 さくらは以前より素直になっていた。
 「お前たちはこういう状況になっても変わらんなぁ、ハハハ」
 笑っていられる状況ではないものの、さくらの意思が生前と全く変わっていないことに、兼成は思わず笑みを漏らした。
 【おじいさまぁ~、笑ってないでいずみを剥がしてくださいぃ~】
 「そうじゃな。いずみ、もう離しておあげ。それよりさくらが知り得た情報を教えてもらおうではないか」
 「はぁ~い」
 いずみは何故か心許なくなった手をニギニギした。
 「さてと、私とさくらの間で一連の事件の認識が微妙に食い違っています。 私はそれが我慢できないんです」
 【認識? 情報の不一致ってこと?】
 「そうよ。湧を襲った敵がリッチだったことや、さくらも特殊な血の所有者だったこと…その他もろもろ…」
 【え~、血のことは生まれた時から解ってたじゃない! だから私たちは市井の病院に行かれないんだし…】
 「そうじゃない! 蘇生できるっていう“アルファブラッド”のことよ」
 【あ、ああそのことね? …私も完全に理解する暇もなくて…話す前にこんなことになっちゃって…】
 「詳しいことは院長から報告書が届いておる。後で儂が説明しよう」
 「おじい…、宗主。私が知りたいのは、そういうことではないんです」
 「どういうことじゃ?」
 「なんでさくらは蘇生できなかったのか? ってことです」
 【! …いずみ…】
 いずみは再び興奮したが、かろうじて抑えていた。
 【…ごめん。私にもわからない…。院長は、湧くんと同じような…極めて似た能力を持っているらしい…と話してくれただけで…】
 「でも、湧は血の殻を作れたのに、さくらが出来なかったのが納得いかないのよっ!」
 【そ、それは…。湧くんわかる?】
 「いや俺にもさっぱりわからない。俺が覚えているのは、俺を襲ったリッチを葬ったところまでで、そのあとは全く…」
 【だよね。あの日の報告では、湧くんが自宅に入ってから約30秒で全滅したって聞いたもん。スタッフが救出した時は既に意識がなかったって言ってた】
 「でも、救出される時間的余裕があったのよね? 一体、何が違うっていうのよ」
 【う~ん。切られ方? かなぁ】
 自分のことなのにさくらの返答は軽かった。
 「さくらぁ、真剣に考えてる? 湧は死亡確認された後も塩化しなかったって聞いたわよ?」
 【そういえばそうね? 何で私は普通の人と同じように瞬殺されて、しかもすぐに塩化したんだろ? 私と湧くんの違いが、何かの問題解決につながるかも…】
 「… …」
 いずみはさくらの言い草に顎が外れたように、だらしなく口を開けた。
 湧や兼成も呆れ顔だ。
 【あれ? みんなどうしたの?】
 「はぁ…そうだよね…。さくらって昔から過ぎたことにはこだわりがないっていうか…、これからのことを前向きに考えるっていうか…私もそういうところは見習わなくちゃ…ね」
 【いずみが怒ってくれたのはすごく嬉しい。でもね、それを言ったら私も軽率だったのよ】
 さくらはいずみの前にポテッっと座り込んだ。
 「宗主。さくらの経過については、まだ情報が少ないのでおいおい調べて行く方がよろしいのでは?」
 ここまで沈黙を守っていた大介が、前進しない議論に業を煮やした。
 問題は、決定的証拠品となっていた“ソウルコンバーター”を徹底的に破壊してしまったため、今後の対策方法が見つからないことだった。
 「今後の方針を話し合うべきだと思います」
 大介は力強く宣言し、兼成も同意した。

 「一連の事件で、我々の行動はいつも後手後手に回されていた。ここに最大の問題点があるように思われます」
 主だったスタッフ(今では50余名になってしまった)を集め、緊急会議が行われた。
 お社舞台前の石庭は、地下でありながらも相当なスペースがある。
 しかし50人以上が入るとさすがに狭苦しい。
 石庭に座り込んだスタッフは、皆真剣な顔つきで舞台上の大介に注目した。
 「先ほどの築地川高校での戦闘において、新たな事実が判明した」
 <おおーっ!>
 一同がざわつくが、大介は軽く手を上げて抑えた。
 「まず我々の同志や一般市民を襲っていた“リッチ”というモンスターは、“ソウルコンバーター”を操る者たちとは敵対状況にあるということ。それはリッチ以外の主だったモンスターを吸収し、エネルギーに転換していたことが判明した」
 「曳舟師範。それはあのエネルギープラントのことですか?」
 最前列にいた体つきががっしりした男が質問した。
 実行部隊の事実上のトップだ。
 「そうだ。クリーンでパワフル、環境に優しいと言われているが、未だにそのシステムが不明な部分が多い例のブツだ」
 水無月家では、怪異の目撃情報のほとんどがこの“ソウルコンバーター”近隣に集中しているために、以前から胡散臭く思っていた。
 「でもそのブツがモンスターを“喰った”んですよね? ということは…」
 「いや、それは違う。なぜならそのブツに、いずみの意識が食われそうになったからだ」
 大介は先回りして告げた。
 “ソウルコンバーター”が我々の味方であるはずがない。それは湧からの報告で確信を得ていたからだ。
 「時間的余裕がないので、判っていることを説明する」
 そう言って説明が終わるまでの質問を拒絶した。

 大介の説明によると、“ソウルコンバーター”は湧が言うところの“ゾーン力”を原料にしているということだった。
 いわゆる“気”のことだが、単に気力とかではなく“験力”“魔力”“想像力”“精神力”“幽力”など、全ての非物理的な力のことだ。
 まだ解明はされていないが、大元は宇宙のどこにでもあるらしい“ダークエネルギー”ではないかと思われる。
 “ソウルコンバーター”は、その“ゾーン力”を電気エネルギーに変換することができるらしい。
 ただ、地上において“ゾーン力”を引き寄せるより、すぐ身近にいる人間や怪異の“ゾーン力”を搾取する方が簡単だ。
 「つまり、“ソウルコンバーター”に群がっていたのではなく、引き寄せられてきた“怪異”が奪われた“ゾーン力”の補充に一般人を襲ったのではないかと推察したのだが…」
 「と、いうことはまだ確証が取れてないと?」
 「済まないが、そういうことだ。何しろ確証を得られる手段がない」
 大介は素直に頭を下げた。
 「師範のお気持ちはよく解ります。我々も同じ考えですから。…ただ、そういうことになると…」
 男は眉間にしわを寄せて続けた。
 「我々はその両方を相手に戦わなければならない。と?」
 お社内部にざわめきが起こる。
 「ソウルコンバーターを破壊するわけにはいかない。ここまで電力供給の要になっている以上、社会的影響が大きすぎる。ソウルコンバーターに近づかず、怪異やモンスターを退治するほかない」
 「そんなことが可能なんですか? あのリッチは如月湧や柳瀬川さくら次期宗主を瞬殺したモンスターですよ? 我々の力量では束になっても敵わないと…、認めたくはないですが…」
 男は心底悔しそうに呟いた。
 リッチには、この男の部下数名も被害に遭っている。
 「リッチについては、今、宗主と如月くん、いずみ、俺の4人で対応策を検討中だ。出現パターンがあるらしく、それがまとめられれば、すぐに報告する」
 今後しばらくは近隣の“ソウルコンバーター”設置ポイントを警戒することになり、強い“ゾーン力”に惹かれるモンスターに対処するため、験力の使用を制限することになった。

 「でも、こんなことでみんなを守れるのかな?」
 いずみはあまり乗り気じゃない様子だ。
 「しかし、俺の父親のメモや例の古文書から、“思考する”ということはかなりのエネルギーを必要としているらしい」
 「それを電気に変換するとして、人間を原料にしちゃったらどんどん人口が減るんじゃない?」
 いずみは電気を作るために、考える力を使ったら、みんなバカになっちゃうんじゃない?
 などと、真顔で湧に尋ねた。
 「え? アハハハハハ…、いずみさんって面白い考え方するんだね」
 「ええーっ? そうかなぁ?」
 いずみは唇を尖らせて、不満を表す。
 しかし湧はそれをスルーして、真顔で続けた。
 「学校のソウルコンバーターの周りにあったあの塩の結晶。あれだけの量だと5000人ほどがエネルギーに変換されたと思われる」
 「ご! 5000人? なんで分かるの?」
 「一般的な成人男性で、特に霊力が高くない人が被害にあった場合、現場には5kgほどの塩があったと大介さんから聞いたんだ。そして学校の地下には2.5トンほどの…」
 「じゃあ、女性や子供がいたら…もっと…」
 いずみは冗談でも“バカ”と言ったことを後悔した。
 「人体からエネルギーを搾取するにしても、普通は干からびたミイラのような遺体が残るはずで、身体が塩化するには一瞬でエネルギーを吸収しなければならないと思う」
 「そう…なの?」
 「最初はリッチのせいだと思ってたんだけど、あれだけの量をあの一箇所で…っておかしくない?」
 「ん? あそこに人が大勢いたから? ってわけじゃないよね?」
 いずみにも湧が言いたいことがわかった。
 「じゃあ、やっぱり“ソウルコンバーター”が?」
 「そう考えるのが自然だよね? あれはソウルコンバーターの被害者だろうと思う」
 「ひどい…。でも、私たちもそのエネルギーを使っていたの…ね?」
 学校での照明や空調などなど、あの学校は外部からの電力は供給されていないから、全て犠牲者のエネルギーとなる。
 知らなかったとはいえ、いずみは悔しがった。
 「いずみさん。全てが人から造られたのエネルギーというわけじゃないよ。逆に怪異やモンスター、地脈からの“気”が原料の大半を占めてる」
 「もしかして…モンスターが逆襲してたんじゃないの?」
 「そうかも、何しろどう考えても異常なのは、最近までモンスターに襲われても、塩化するなんてことはほとんどなかったらしい」
 「へぇ~、湧ってよく知ってるね? え? ほとんど?」
 「ソウルコンバーターに喰われた人間を見て、真似たのかリッチたちも同じことを始めたのかも知れない」
 湧はモンスターが過去に、人体を塩化したことがあったことについては明言しなかった。
 【ゆ~う~く~ん!】
 それまで宗主や大介と話していたさくらが文字通り飛んできた。
 「コラァ! さくらっ 今打ち合わせ中! 湧に抱きつくなっ!」
 【え~、いいじゃない少しくらい…】
 いつの間にか、さくらが湧を好きなのは既成事実になっていた。
 《ダメです!》
 そこにいきなり有紀が現れた。
 【ギャアアァーッ!】
 さくらが叫ぶ。
 「うわあああ」
 いずみもつられた。
 【誰よ! あなた!】
 《あなたこそ誰よ! 私の湧に抱きつかないでっ!》
 さくらと有紀は湧の両側で睨み合った。
 「…湧…、お疲れ様でした」
 いずみは関わり合いを避けて、席を立った。
 「い、いずみさん。ち、ちょっと待って」
 湧の慌て顔を見られただけで、とりあえず満足げないずみだった。
 これからのフレンズ対決に巻き込まれる湧がちょっとかわいそうではあった…が。
    <続く>
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