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第3章
3-02新たなる力
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築地川高校の地下に設置されていた“ソウルコンバーター”は白日のもと(夜だが)にさらされた。
おびただしい塩の山の上に鎮座するソレは、不気味な唸りを轟かせて見るものを威嚇しているようだった。
「大ちゃん、コレ…何?」
「これが“ソウルコンバーター”らしいな…俺も見るのは初めてだ」
「忌まわしい機械だ…」
吐き捨てるように言う湧に、いずみは違和感を感じた。
「湧?、…何か知ってるのね…。 どうしたらぶっ壊せるの? コレ」
いずみはもはや爆発寸前だった。さくらの仇をいともあっさり消滅させてしまっただけでなく、これほどまでに禍々しい瘴気を発するものに今まで出会ったことがなかったのだ。
「もう気持ち悪くてしょうがないのっ! こんなのさっさとぶち壊してやるっ!」
「とにかく知ってることがあるなら話してほしい」
大介もいずみほどではないが、気分が悪いらしい。
「時間がないから今は詳しく話せないけど…」
湧は言い淀んだが、意を決して続けた。
「実は…この凶悪な機械を開発したのは俺の父親なんだ」
「… …え? エエッー!?」
いずみは今日何度目かの驚愕の叫び声をあげた。
「な、なんでよ? 湧のお父さんって悪の組織の総帥?」
「あ? それだっ!」
「え?」
いずみの特撮ヒーロー番組的思考が、湧にヒントを与えたらしい。
もっとも言った本人はそこまで深く考えていなかったのは明白だ。
「俺はこの機械も父親も壊滅させる。それが俺に課せられた使命なんだ」
「…ごめん。意味がわかんない…」
「ああ、いずみさんはあの“ソウルコンバーター”を叩く潰してくれればいい。ただ、俺が合図するまで待っててほしい」
「う…うん。わかったわ」
湧は大介に向かって、水無月スタッフの布陣に注文を追加した。
「ほう、如月君の意図はよくわかった。3分ほど待ってくれ」
「わかりました。それじゃあ俺たちも今のうちに地上に上がりましょう」
三人は地上に上がって“ソウルコンバーター”が一望できる場所に移動した。
2トンパネルトラックほどの大きさの箱が十字に並んでいて、そのうちの一つはフレームが球体を抱え込んでいる。
先ほど赤黒く光っていたものだ。
今は徐々に光が弱くなって行き、本来の濃いグレーになっていた。
「如月君、スタッフの配置が完了した。この後はどうしたらいい?」
大介は焦る気持ちをどうにか押さえて、それだけ告げた。
「大介さん。半径100メートル以内に怪異や霊体が入らないように結界を張ってもらえませんか?」
「霊体? 幽霊ってことかな?」
「そうです。それと可能なら地脈も断ってもらえませんか?」
「わかった。すぐに実行しよう」
大介はインカムですぐに掛け合ってくれた。
「…そうか、わかった」
築地川高校周辺で侵入を試みていたスタッフは、すぐに後退し結界を張った。
「如月君。スタッフが半減していたので、地脈は完全に抑えられないけど大丈夫かな?」
「わかりました。大丈夫だと思います」
「さっきから何言ってるかわかんないんだけど…」
辛抱たまらずいずみが口を挟んだ。
「さっきリッチが吸い込まれたのを見て確信したんだけど、“ソウルコンバーター”は霊力や精神力などいわゆる“気”を原料にしているらしい」
「それって、私たちの験力なども含まれるの? さっき私の意識が鉄扉の方に吸い込まれるように感じたけど…」
「うん。たぶんあの塩の山は霊力などの気を抜かれた怪異や…人間なんだと思う」
「人だけじゃなくて、怪異も?」
いずみにとっては意外な応えだった。
あの塩は、怪異によって消滅させられた被害者だと思っていたのだ。
「リッチが弱まる前は、鉄扉の前でも平然としていただろ?」
「うん。確かに…」
「でもリッチが現れた頃から、鉄扉の向こうで低音が聞こえ始めて、引き寄せられる頃にはかなりの音量になってた」
話している間に“ソウルコンバーター”からの唸りは聞こえなくなった。
原料となる“気”の蓄えがなくなったらしく、装置は停止したようだ。
「だからエサを断てば、止まるんじゃないかと思うんだ」
「あ、ほんとだ。瘴気も止まったみたい」
「そこで、物理的に衝撃を与えれば壊せると思う」
「あ~そういうことかぁ! じゃあ一発ぶち壊してくるねぇ~」
いずみは言うや否や、自分で吹き飛ばした穴の中に飛び降りようとした。
「待って! 待って! いずみさんが行ったらまた再起動しちゃうよ!」
「なんで?」
「霊体だけじゃなく、人間の精神的エネルギーも同じだから、近づけないんだよ」
「じゃあどうするのよ?」
その時、大介のインカムのビープ音がなった。
「わかった。すぐに始めてくれ」
「ん? 大ちゃんどうしたの?」
「大介さん。いつでもOKですよ」
湧は親指を立てて、合図した。
「何なのよぉ~私にも…」
「いずみさんの出番だよ。って、俺も打ち毀すから競争だけどね。すぐに始まるから、合図したら好きなだけぶっ叩いていいよ」
と“ソウルコンバーター”を指差した。
「へへへ、了解!」
<ズッドドドドドドォォォォォォォォォォ…>
いきなり“ソウルコンバーター”の真ん中、ちょうど各ユニットが接続されている辺りに電柱が突き刺さった。
験力によって、“ソウルコンバーター”が気を吸収する範囲外の遥か上空から一気に突き刺したのだ。
ユニットが分断され、機械としての機能は失われた。
「行くぞ!」
湧に肩を叩かれて、呆気にとられていたいずみもすぐに飛び出した。
「シャイニングサンセットボンバァ!」
湧が叫ぶ。痛い必殺技を…。
「セイクリッドウォーターウェ~ブッ!」
いずみも負けじと叫ぶが、出遅れたせいかキレが弱い。
「アイシクルタイダルフォール!」
湧はこれまでの鬱憤を叩きつける。
「ゴッドハンドアローフラッシュ! が! さ、さくらぁまた!」
こっちは二人がかりのようだった。
次々繰り出される必殺技と痛いセリフは、結界に阻まれて外側では一切感知されていなかった。
二人(と1フレンズ)によって、4つのユニットは、それぞれ原型を留めないほど完璧に破壊された。
分析するための保管は不可能だから、止むを得ない。 …とはいえ、これでは今後の調査に影響があるのでは? と、大介は頭を抱えた。
状況が終了した時、築地川高校正門付近は瓦礫の山と化していた。
「あとはスタッフに任せて、我々は報告のために帰還しよう」
大介が二人に告げた。
「大ちゃん。さくらのことは…」
いずみが悲痛な表情で大介に訴えた。
「わかってる。それは俺が宗主にお話しする。いずみも如月君も同席してくれ」
「もちろんです。それに…」
湧は背負ったナップザックを優しく撫でた。
今回の作戦に参加したスタッフが、ほぼ半減するという大きな痛手を負った。
しかし、最近の怪異の出現に関わる原因の一つが、ある程度特定できたことは大きな進歩だ。
それで全てが許されるわけではない。
今後はさらに厳しい戦況になることが予想された。
「そうか…さくらが…」
兼成は心底悲しそうな表情でつぶやいた。
「私をかばって…私が油断しなければ…さくらは…さくらが…」
いずみは兼成にしがみついて嗚咽を漏らした。
「いや、全ては儂の責任じゃ。無理な作戦を決行させたのは儂じゃから…」
「でも、でもっ本当なら私が…殺されていたはずなのに…」
「俺なんです!」
それまで固く拳を握りしめ、怒りを抑えていた湧が叫んだ。
「本当に全ての原因は俺と…俺の父親にある。いずみさんでも宗主でも他の誰でもない。俺の父親を抹殺して全てを終わらせなければならない。それが俺の義務です」
「如月くん。君に責任はないよ。君の父親の行為に君が責任を負う必要は全くない」
兼成は湧をなだめるのだが…。
「宗主? …お心遣い、ありがとうございます。しかし、さくらさんのことは、俺の配慮が足りなかったことが原因です」
「ここで責任を問うても仕方ないことじゃ…し…、ふむ…」
「責任とかさくらもそんなこと望んでないわ」
【うんうん。そうだよ】
「しかし、これから躍進するはずだった人を失ったのは…俺としても謝罪のしようがあり…、…ませ…ん」
【躍進だなんて、過剰評価よ。湧くん】
「……」
「と、ところで如月湧くん…、に、聞くのがいいのかどうかは、わからんのだが…」
「な、なんでしょうか? 俺で答えられるならなんでも…どうぞ」
「…(まさか…ね…)…でも…」
兼成は一切の表情を消して、湧のすぐ横の空間を指さした。
「…これが君の言う“フレンズ”…なのか? 儂にはさくらにしか見えないのだが…」
「へ? ゲェ~っ! おじいちゃん、さくら見えてるのっ?」
【あれま】
「やっぱり…そうだったのか」
「俺には全く見えない…けど、やっぱりいるのか…」
大介以外には、全くいつものさくらと変わらない姿が見えているらしい。
その大介でさえ、さくらの意識は感じるらしい。
「フレンズとやらになって、さくらは随分と大胆になったようじゃな。それはそれでいいことじゃ」
【え? きゃああああっ~ おじいさまのエッチ】
「あ~~~~やっぱり」
いずみがげんなり呟いた。
お社に戻るなり、さくらは湧の腕にしがみ付き、みんなの様子を伺っていた。
大好きな湧にくっついても、誰にもわからないとさくらは油断していた。
「でもどうしてみんなにも見えるの?」
いずみはもっともな疑問を口にした。
「たぶんさくらさんの霊力…君たちは験力と言うんだっけ? が、飛び抜けて強力だからじゃないかと思う」
「俺には見えないんだが…」
大介は突然ハブられたと気づき、会話に割り込んだ。
「それは…、波長の違いなんじゃないでしょうか? さくらさんの意識は感じているんですよね?」
「あ、ああそれははっきり解る」
大雑把な位置は大介にも分かっているらしい。
「まあ、それはそれとして、さくらが犠牲になったことには変わりない。柳瀬川にはそのように報告しておく。皆もフレンズになったことは伏せておいてくれ」
「判りました」
「特にいずみは絶対に悟られんように…な」
「え~、なんで私だけ?」
いずみはブーたれた。
【悟られないようにね~】
さくらも調子に乗って、忠告する。
「くぉんのぉ~~」
「肉体的に死亡したとはいえ、相変わらずじゃな。ハハハ…」
軽く笑いはしたが、兼成は表情を引き締めて、そのさくらに向かって問い詰める。
「ところでさくら。なぜここに居られるのだ? ここには霊体・幽体なども含め怪異等の非物質意識は入ることはできないはずじゃが?」
【ひっ! あ、あの実は、私はどうやら物質化できるらしくて…】
という間も無く、さくらが築地川高校の制服に変化した。
「あっ!」
大介が驚いて声を上げてしまうほど、唐突に現れた。
「おおっ! そういうことか。電磁波シールドでは弾かれないということか…」
【そのようです。しかもこうして空気を振動することで、おじいさまともお話ができるのです】
「すごい! 今まで何人かのフレンズにあったけど、ここまでできるのはさくらさんが初めてだよ」
湧も驚いた。それほどまでにさくらの能力はずば抜けたものだった。
もはや肉体という拘束から解かれたことで、さくらは進化したというべきだろう。
「だが…」
兼成が不敵な笑顔で言う。
「さくらの能力を借りれば、今の混沌とした状況を変えることができるじゃろう。さくら、頼むぞ」
【は、はいっ!】
さくらは予想外の展開に驚いた。
いずみは予測できない展開に…思考が停止していた。
<続く>
おびただしい塩の山の上に鎮座するソレは、不気味な唸りを轟かせて見るものを威嚇しているようだった。
「大ちゃん、コレ…何?」
「これが“ソウルコンバーター”らしいな…俺も見るのは初めてだ」
「忌まわしい機械だ…」
吐き捨てるように言う湧に、いずみは違和感を感じた。
「湧?、…何か知ってるのね…。 どうしたらぶっ壊せるの? コレ」
いずみはもはや爆発寸前だった。さくらの仇をいともあっさり消滅させてしまっただけでなく、これほどまでに禍々しい瘴気を発するものに今まで出会ったことがなかったのだ。
「もう気持ち悪くてしょうがないのっ! こんなのさっさとぶち壊してやるっ!」
「とにかく知ってることがあるなら話してほしい」
大介もいずみほどではないが、気分が悪いらしい。
「時間がないから今は詳しく話せないけど…」
湧は言い淀んだが、意を決して続けた。
「実は…この凶悪な機械を開発したのは俺の父親なんだ」
「… …え? エエッー!?」
いずみは今日何度目かの驚愕の叫び声をあげた。
「な、なんでよ? 湧のお父さんって悪の組織の総帥?」
「あ? それだっ!」
「え?」
いずみの特撮ヒーロー番組的思考が、湧にヒントを与えたらしい。
もっとも言った本人はそこまで深く考えていなかったのは明白だ。
「俺はこの機械も父親も壊滅させる。それが俺に課せられた使命なんだ」
「…ごめん。意味がわかんない…」
「ああ、いずみさんはあの“ソウルコンバーター”を叩く潰してくれればいい。ただ、俺が合図するまで待っててほしい」
「う…うん。わかったわ」
湧は大介に向かって、水無月スタッフの布陣に注文を追加した。
「ほう、如月君の意図はよくわかった。3分ほど待ってくれ」
「わかりました。それじゃあ俺たちも今のうちに地上に上がりましょう」
三人は地上に上がって“ソウルコンバーター”が一望できる場所に移動した。
2トンパネルトラックほどの大きさの箱が十字に並んでいて、そのうちの一つはフレームが球体を抱え込んでいる。
先ほど赤黒く光っていたものだ。
今は徐々に光が弱くなって行き、本来の濃いグレーになっていた。
「如月君、スタッフの配置が完了した。この後はどうしたらいい?」
大介は焦る気持ちをどうにか押さえて、それだけ告げた。
「大介さん。半径100メートル以内に怪異や霊体が入らないように結界を張ってもらえませんか?」
「霊体? 幽霊ってことかな?」
「そうです。それと可能なら地脈も断ってもらえませんか?」
「わかった。すぐに実行しよう」
大介はインカムですぐに掛け合ってくれた。
「…そうか、わかった」
築地川高校周辺で侵入を試みていたスタッフは、すぐに後退し結界を張った。
「如月君。スタッフが半減していたので、地脈は完全に抑えられないけど大丈夫かな?」
「わかりました。大丈夫だと思います」
「さっきから何言ってるかわかんないんだけど…」
辛抱たまらずいずみが口を挟んだ。
「さっきリッチが吸い込まれたのを見て確信したんだけど、“ソウルコンバーター”は霊力や精神力などいわゆる“気”を原料にしているらしい」
「それって、私たちの験力なども含まれるの? さっき私の意識が鉄扉の方に吸い込まれるように感じたけど…」
「うん。たぶんあの塩の山は霊力などの気を抜かれた怪異や…人間なんだと思う」
「人だけじゃなくて、怪異も?」
いずみにとっては意外な応えだった。
あの塩は、怪異によって消滅させられた被害者だと思っていたのだ。
「リッチが弱まる前は、鉄扉の前でも平然としていただろ?」
「うん。確かに…」
「でもリッチが現れた頃から、鉄扉の向こうで低音が聞こえ始めて、引き寄せられる頃にはかなりの音量になってた」
話している間に“ソウルコンバーター”からの唸りは聞こえなくなった。
原料となる“気”の蓄えがなくなったらしく、装置は停止したようだ。
「だからエサを断てば、止まるんじゃないかと思うんだ」
「あ、ほんとだ。瘴気も止まったみたい」
「そこで、物理的に衝撃を与えれば壊せると思う」
「あ~そういうことかぁ! じゃあ一発ぶち壊してくるねぇ~」
いずみは言うや否や、自分で吹き飛ばした穴の中に飛び降りようとした。
「待って! 待って! いずみさんが行ったらまた再起動しちゃうよ!」
「なんで?」
「霊体だけじゃなく、人間の精神的エネルギーも同じだから、近づけないんだよ」
「じゃあどうするのよ?」
その時、大介のインカムのビープ音がなった。
「わかった。すぐに始めてくれ」
「ん? 大ちゃんどうしたの?」
「大介さん。いつでもOKですよ」
湧は親指を立てて、合図した。
「何なのよぉ~私にも…」
「いずみさんの出番だよ。って、俺も打ち毀すから競争だけどね。すぐに始まるから、合図したら好きなだけぶっ叩いていいよ」
と“ソウルコンバーター”を指差した。
「へへへ、了解!」
<ズッドドドドドドォォォォォォォォォォ…>
いきなり“ソウルコンバーター”の真ん中、ちょうど各ユニットが接続されている辺りに電柱が突き刺さった。
験力によって、“ソウルコンバーター”が気を吸収する範囲外の遥か上空から一気に突き刺したのだ。
ユニットが分断され、機械としての機能は失われた。
「行くぞ!」
湧に肩を叩かれて、呆気にとられていたいずみもすぐに飛び出した。
「シャイニングサンセットボンバァ!」
湧が叫ぶ。痛い必殺技を…。
「セイクリッドウォーターウェ~ブッ!」
いずみも負けじと叫ぶが、出遅れたせいかキレが弱い。
「アイシクルタイダルフォール!」
湧はこれまでの鬱憤を叩きつける。
「ゴッドハンドアローフラッシュ! が! さ、さくらぁまた!」
こっちは二人がかりのようだった。
次々繰り出される必殺技と痛いセリフは、結界に阻まれて外側では一切感知されていなかった。
二人(と1フレンズ)によって、4つのユニットは、それぞれ原型を留めないほど完璧に破壊された。
分析するための保管は不可能だから、止むを得ない。 …とはいえ、これでは今後の調査に影響があるのでは? と、大介は頭を抱えた。
状況が終了した時、築地川高校正門付近は瓦礫の山と化していた。
「あとはスタッフに任せて、我々は報告のために帰還しよう」
大介が二人に告げた。
「大ちゃん。さくらのことは…」
いずみが悲痛な表情で大介に訴えた。
「わかってる。それは俺が宗主にお話しする。いずみも如月君も同席してくれ」
「もちろんです。それに…」
湧は背負ったナップザックを優しく撫でた。
今回の作戦に参加したスタッフが、ほぼ半減するという大きな痛手を負った。
しかし、最近の怪異の出現に関わる原因の一つが、ある程度特定できたことは大きな進歩だ。
それで全てが許されるわけではない。
今後はさらに厳しい戦況になることが予想された。
「そうか…さくらが…」
兼成は心底悲しそうな表情でつぶやいた。
「私をかばって…私が油断しなければ…さくらは…さくらが…」
いずみは兼成にしがみついて嗚咽を漏らした。
「いや、全ては儂の責任じゃ。無理な作戦を決行させたのは儂じゃから…」
「でも、でもっ本当なら私が…殺されていたはずなのに…」
「俺なんです!」
それまで固く拳を握りしめ、怒りを抑えていた湧が叫んだ。
「本当に全ての原因は俺と…俺の父親にある。いずみさんでも宗主でも他の誰でもない。俺の父親を抹殺して全てを終わらせなければならない。それが俺の義務です」
「如月くん。君に責任はないよ。君の父親の行為に君が責任を負う必要は全くない」
兼成は湧をなだめるのだが…。
「宗主? …お心遣い、ありがとうございます。しかし、さくらさんのことは、俺の配慮が足りなかったことが原因です」
「ここで責任を問うても仕方ないことじゃ…し…、ふむ…」
「責任とかさくらもそんなこと望んでないわ」
【うんうん。そうだよ】
「しかし、これから躍進するはずだった人を失ったのは…俺としても謝罪のしようがあり…、…ませ…ん」
【躍進だなんて、過剰評価よ。湧くん】
「……」
「と、ところで如月湧くん…、に、聞くのがいいのかどうかは、わからんのだが…」
「な、なんでしょうか? 俺で答えられるならなんでも…どうぞ」
「…(まさか…ね…)…でも…」
兼成は一切の表情を消して、湧のすぐ横の空間を指さした。
「…これが君の言う“フレンズ”…なのか? 儂にはさくらにしか見えないのだが…」
「へ? ゲェ~っ! おじいちゃん、さくら見えてるのっ?」
【あれま】
「やっぱり…そうだったのか」
「俺には全く見えない…けど、やっぱりいるのか…」
大介以外には、全くいつものさくらと変わらない姿が見えているらしい。
その大介でさえ、さくらの意識は感じるらしい。
「フレンズとやらになって、さくらは随分と大胆になったようじゃな。それはそれでいいことじゃ」
【え? きゃああああっ~ おじいさまのエッチ】
「あ~~~~やっぱり」
いずみがげんなり呟いた。
お社に戻るなり、さくらは湧の腕にしがみ付き、みんなの様子を伺っていた。
大好きな湧にくっついても、誰にもわからないとさくらは油断していた。
「でもどうしてみんなにも見えるの?」
いずみはもっともな疑問を口にした。
「たぶんさくらさんの霊力…君たちは験力と言うんだっけ? が、飛び抜けて強力だからじゃないかと思う」
「俺には見えないんだが…」
大介は突然ハブられたと気づき、会話に割り込んだ。
「それは…、波長の違いなんじゃないでしょうか? さくらさんの意識は感じているんですよね?」
「あ、ああそれははっきり解る」
大雑把な位置は大介にも分かっているらしい。
「まあ、それはそれとして、さくらが犠牲になったことには変わりない。柳瀬川にはそのように報告しておく。皆もフレンズになったことは伏せておいてくれ」
「判りました」
「特にいずみは絶対に悟られんように…な」
「え~、なんで私だけ?」
いずみはブーたれた。
【悟られないようにね~】
さくらも調子に乗って、忠告する。
「くぉんのぉ~~」
「肉体的に死亡したとはいえ、相変わらずじゃな。ハハハ…」
軽く笑いはしたが、兼成は表情を引き締めて、そのさくらに向かって問い詰める。
「ところでさくら。なぜここに居られるのだ? ここには霊体・幽体なども含め怪異等の非物質意識は入ることはできないはずじゃが?」
【ひっ! あ、あの実は、私はどうやら物質化できるらしくて…】
という間も無く、さくらが築地川高校の制服に変化した。
「あっ!」
大介が驚いて声を上げてしまうほど、唐突に現れた。
「おおっ! そういうことか。電磁波シールドでは弾かれないということか…」
【そのようです。しかもこうして空気を振動することで、おじいさまともお話ができるのです】
「すごい! 今まで何人かのフレンズにあったけど、ここまでできるのはさくらさんが初めてだよ」
湧も驚いた。それほどまでにさくらの能力はずば抜けたものだった。
もはや肉体という拘束から解かれたことで、さくらは進化したというべきだろう。
「だが…」
兼成が不敵な笑顔で言う。
「さくらの能力を借りれば、今の混沌とした状況を変えることができるじゃろう。さくら、頼むぞ」
【は、はいっ!】
さくらは予想外の展開に驚いた。
いずみは予測できない展開に…思考が停止していた。
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