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第9章
9-09違い
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当初の目的は半分も達成できなかったが、ベータという新たな対象を発見できたことは僥倖というべきだろう。
如月博士は当局に身柄を押さえられているため、当然、横田基地というより当局の施設から出ることはできない。
なので、いずみたち4人だけが次のミッションに移行すべく、作戦本部に戻ることにした。
「あれ? どうやって帰るの?」
いずみが部屋を出ようとしたところで振り返って聞いた。
「え?」
両手を壁に向かって突き出していたルイーナが不思議そうな顔で応える。
「亜空間ゲートを通るしかないだろ?」
大介がもっともらしく答える。
「ここで使えるの? シールドされてるんじゃないの?」
いずみが言いたいのはこの特殊な空間で…と、言いたいらしい。
「亜空間ゲートは厳密には他次元を通って、再び3次元の特定空間に接続するんだ。ただ出現ポイントが的確に指定できないと、2度と3次元に戻ってくることはできない」
「うん…」
「つまり、作戦本部という移転先を特定するが、俺たちはここから消滅して作戦本部に出現するまでは3次元には存在しない。つまりシールドされているこの地下基地内でも亜空間ゲートによって別次元に転移することはできるんだ。
さらに外部からは俺たちの行動は一切監視できないから、厚木基地に移動していることになっている俺たちは、後日厚木基地に転移するか、ダミーを使ってアメリカ大使館に戻ったようにカムフラージュすればいいんだ」
「へえ、そうなんだ」
と、言いつつもよく理解できなかったいずみだった。
時間的(あくまで3次元における)経過はないものの、異次元空間ではジェットコースターに乗ったような不安定な感覚に襲われる。
もし一般人がこの空間に入れたら、この時点で即死するらしい。
アルファブラッド保有者のいずみたちがこの程度で済んでいるのは、耐性が機能しているらしい。
とはいえ、半分以上はルイーナがみんなに飲ませた怪しいドリンクの効果だろうが、怖いもの知らずのいずみでもこの感覚はなかなか慣れることができなかった。
「おかえり」
作戦本部に戻ってみると、宗主が出迎えてくれた。
横田基地の特別施設は思念波も遮断されているため、大介が経過を報告する。
その間、いずみと湧はリビングで一休みすることになった。
大介とルイーナは留守番をしていた坂戸と初美にも状況を説明するためにミーティングルームに留まる。
「湧、ちょっと聞いてもいいかな?」
いずみは隣室の大介たちには聞こえない様、小声で話しかけた。
「何?」
湧は何か考え事でもしていたらしく、生返事で答える。
「亜空間ゲートなんだけどさ、他の次元を通るってことだよね? なら時間遡行と同じことにならないかな?」
「ああ、そういうことか」
湧はいずみがさっきの話を蒸し返した理由を察した。
「俺も詳しい仕組みはわからないけど、ルイーナが言うには『亜空間ゲート』は出発と移転先の次元を同一に固定し、起点の時刻と転送先の時刻を一致させることにより確実に空間を移動できるように設定するそうだよ」
「次元を固定? そんなことできるの?」
「時刻を同一にすることでタイムパラドックスを回避すれば、次元の固定も可能だそうだ」
湧は説明しつつも、完全に理解できてるわけではないので自信がなさそうだ。
「なら、時間遡行も同一の時刻に戻れば、6次元から戻る時もパラレルワールド?に飛ばされないんじゃない?」
いずみにはその部分が納得いかなかった。
「ゲートを開く際に術者の存在する場所…う~ん、次元と時刻、そして位置が重要なの」
「わあ!」
急にいずみの後ろからルイーナが解説した。
「ごめんね。今の話が気になったから…つい」
「ルイーナぁ、わ、私の後ろを取るなんて…できるようになったわね!」
「どこのお師匠様よ。ま、亜空間ゲートは転送先のイメージが固定できてないと使えないし、転送先に人がいたら大騒ぎになるから使える場面は限られるけどね」
「そうなんだ。?あれ? でも亜空間ゲートの中で何秒か時間が経つよね? なら起点と転移先の時間は違うんじゃない?」
「亜空間ゲートの中は時間が流れないわよ。だから意識があっても起点や転移先の時間がずれることはないの」
「そうなんだ。じゃあずっと繋いでおけばいつでも移動できるね」
「いずみぃ、亜空間ゲートだって自然に発生するわけじゃないのよ。術者が能力で設置・維持するから膨大な力が必要なのよ」
「あ、そうだった。ごめんごめん」
「それにね。異次元からこの3次元に戻る時も時間の連続性が失われてるから、たとえ時刻を指定しても同じ世界に戻ってこられる保証はないの。今回の延時間で5年間もの時間遡行で充分に経験したわ」
ルイーナは疲れたように呟く。それほど6次元人のルイーナにとってもこの出来事は異常だったらしい。
6次元人、加えてエルフのためにほぼ不老不死のルイーナだが、いずみの印象では確かに若干老けたような気がした。
そんなこと絶対に口にはできないけど、ルイーナを見つめるいずみの目を見て、湧は察したようだった。
「さて、もう一踏ん張りして、諸々の事件を収束させなきゃね」
ルイーナは薄く笑って、ミーティングルームに戻って行った。
<続く>
如月博士は当局に身柄を押さえられているため、当然、横田基地というより当局の施設から出ることはできない。
なので、いずみたち4人だけが次のミッションに移行すべく、作戦本部に戻ることにした。
「あれ? どうやって帰るの?」
いずみが部屋を出ようとしたところで振り返って聞いた。
「え?」
両手を壁に向かって突き出していたルイーナが不思議そうな顔で応える。
「亜空間ゲートを通るしかないだろ?」
大介がもっともらしく答える。
「ここで使えるの? シールドされてるんじゃないの?」
いずみが言いたいのはこの特殊な空間で…と、言いたいらしい。
「亜空間ゲートは厳密には他次元を通って、再び3次元の特定空間に接続するんだ。ただ出現ポイントが的確に指定できないと、2度と3次元に戻ってくることはできない」
「うん…」
「つまり、作戦本部という移転先を特定するが、俺たちはここから消滅して作戦本部に出現するまでは3次元には存在しない。つまりシールドされているこの地下基地内でも亜空間ゲートによって別次元に転移することはできるんだ。
さらに外部からは俺たちの行動は一切監視できないから、厚木基地に移動していることになっている俺たちは、後日厚木基地に転移するか、ダミーを使ってアメリカ大使館に戻ったようにカムフラージュすればいいんだ」
「へえ、そうなんだ」
と、言いつつもよく理解できなかったいずみだった。
時間的(あくまで3次元における)経過はないものの、異次元空間ではジェットコースターに乗ったような不安定な感覚に襲われる。
もし一般人がこの空間に入れたら、この時点で即死するらしい。
アルファブラッド保有者のいずみたちがこの程度で済んでいるのは、耐性が機能しているらしい。
とはいえ、半分以上はルイーナがみんなに飲ませた怪しいドリンクの効果だろうが、怖いもの知らずのいずみでもこの感覚はなかなか慣れることができなかった。
「おかえり」
作戦本部に戻ってみると、宗主が出迎えてくれた。
横田基地の特別施設は思念波も遮断されているため、大介が経過を報告する。
その間、いずみと湧はリビングで一休みすることになった。
大介とルイーナは留守番をしていた坂戸と初美にも状況を説明するためにミーティングルームに留まる。
「湧、ちょっと聞いてもいいかな?」
いずみは隣室の大介たちには聞こえない様、小声で話しかけた。
「何?」
湧は何か考え事でもしていたらしく、生返事で答える。
「亜空間ゲートなんだけどさ、他の次元を通るってことだよね? なら時間遡行と同じことにならないかな?」
「ああ、そういうことか」
湧はいずみがさっきの話を蒸し返した理由を察した。
「俺も詳しい仕組みはわからないけど、ルイーナが言うには『亜空間ゲート』は出発と移転先の次元を同一に固定し、起点の時刻と転送先の時刻を一致させることにより確実に空間を移動できるように設定するそうだよ」
「次元を固定? そんなことできるの?」
「時刻を同一にすることでタイムパラドックスを回避すれば、次元の固定も可能だそうだ」
湧は説明しつつも、完全に理解できてるわけではないので自信がなさそうだ。
「なら、時間遡行も同一の時刻に戻れば、6次元から戻る時もパラレルワールド?に飛ばされないんじゃない?」
いずみにはその部分が納得いかなかった。
「ゲートを開く際に術者の存在する場所…う~ん、次元と時刻、そして位置が重要なの」
「わあ!」
急にいずみの後ろからルイーナが解説した。
「ごめんね。今の話が気になったから…つい」
「ルイーナぁ、わ、私の後ろを取るなんて…できるようになったわね!」
「どこのお師匠様よ。ま、亜空間ゲートは転送先のイメージが固定できてないと使えないし、転送先に人がいたら大騒ぎになるから使える場面は限られるけどね」
「そうなんだ。?あれ? でも亜空間ゲートの中で何秒か時間が経つよね? なら起点と転移先の時間は違うんじゃない?」
「亜空間ゲートの中は時間が流れないわよ。だから意識があっても起点や転移先の時間がずれることはないの」
「そうなんだ。じゃあずっと繋いでおけばいつでも移動できるね」
「いずみぃ、亜空間ゲートだって自然に発生するわけじゃないのよ。術者が能力で設置・維持するから膨大な力が必要なのよ」
「あ、そうだった。ごめんごめん」
「それにね。異次元からこの3次元に戻る時も時間の連続性が失われてるから、たとえ時刻を指定しても同じ世界に戻ってこられる保証はないの。今回の延時間で5年間もの時間遡行で充分に経験したわ」
ルイーナは疲れたように呟く。それほど6次元人のルイーナにとってもこの出来事は異常だったらしい。
6次元人、加えてエルフのためにほぼ不老不死のルイーナだが、いずみの印象では確かに若干老けたような気がした。
そんなこと絶対に口にはできないけど、ルイーナを見つめるいずみの目を見て、湧は察したようだった。
「さて、もう一踏ん張りして、諸々の事件を収束させなきゃね」
ルイーナは薄く笑って、ミーティングルームに戻って行った。
<続く>
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