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第10章

10-01再会

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 「やっとここまで来たか。随分と遅かったな」
 不敵な笑顔で奴が宣った。
 「り、流さん?」
 久しぶりの再会で浮き上がっていたいずみの心は、流一星のこの世のものとは思えない冷たさを伴った声で一気に氷点下まで突き落とされた。

 作戦本部に戻り宗主に詳しい報告をした後、すぐに流と面会すべきだと助言を受ける。
 大介は違和感を感じつつもすぐにアポイントをとる。
 宗主は一連の事件に流が絡んでいたことを薄々気付いていたのかもしれない。
 あいにく、湧の叔父でYAC代表の神代直哉は技術指導で渡米中だったため、電話には流本人が出て、すぐに来るように告げられた。
 YAC本部は作戦本部のあるお社、つまりいずみの家から徒歩10分ほどのところにある。
 大事をとってフラッパーズ全員で乗り込んだ。
 
 「流さん。俺はあなたを…」
 「許せない…か?」
 湧の言葉を引き継ぎ、目を伏せたまま口元を歪めた。
 <違う!>
 湧は叫びたかった。
 しかし正体が判明した今は、流一星は既に湧の憧れではなくなってしまった。
 「聞きたいことは山ほどある…そんな顔だな」
 怒り・絶望・悲しみなどあらゆる感情が渦巻き、うまく言葉にできない湧に変わって流は無感情に呟いた。
 「な、何が目的…なんですか? あなたは…」
 確かに山ほど聞きたいことがあった。しかし、言葉はこれしか出てこなかった。
 「目的…ねぇ。俺の目的はもう既にほとんど叶っている。しかし、アルフの目的はまだまだだ」
 急に感情が失われたような顔つきになって、流は答える。
 「アルフの目的? 流さんはアルフの目的を知っているんですか?」
 いずみが驚きのあまり叫ぶ。
 今までの融合者はアルフの存在を認めても、直接的な目的は知らされていない。
 と、いうよりそこまでアルフと交感できていなかった。しかし流は何のてらいもなく“目的”と言った。
 「当たり前だろ。でなければ協力者になどなれない。アルフは湧くんに融合していた時から、身体を欲していたのさ」
 「やっぱり…。だから俺の意識を封印して…」
 「しかし、湧くんの意識を完全に封印することはできなかった。それは湧くんの身体的能力によるものだ」
 「それって、アルファブラッドの?」
 「まあ詳しい話は座ってからにしようか。そのソファにどうぞ」
 そう言って、流は全自動コーヒーメーカーにコーヒー豆を投入した。
 「流さん。俺たちは世間話をしに来たわけじゃない。あなたのしてきた…」
 「そう慌てることはない」
 流は熱り立つ湧を手で制し、サーバーに落ちてくる琥珀色の液体を見つめる。
 「湧…。焦っては負けよ。ここはじっくり話を聞かせてもらった方がいいわ」
 いずみも怒り心頭だったが、珍しく湧が焦ってるように感じたためにかえって落ち着いて話を聞く余裕ができた。
 流のあまりにも落ち着いた態度は、何かの覚悟の表れだとも思われたからだ。
 再開早々バトル開始の様相だったため、大介とルイーナ、坂戸と初美も事務所入り口前で臨戦態勢で構えていた。
 ひとまず話ができそうだと判断して、黙って八重洲アクションクラブの事務所内に入る。
 「流さん。ご無沙汰しておりました。今日は大勢で押し掛けてしまいお騒がせいたします」
 大介が流に頭を垂れた。
 「ちょっと見ないうちに大人っぽく、いや貫禄が出てきたな曳舟」
 やや意味深な言い方をする。
 大介は特に返事を返さない。
 「そちらが噂の留学生くんか?」
 続いてルイーナを見る流。
 「初めまして。アルフと交感された方とお話をするのは初めてです。よろしくお願いします」
 ルイーナは負けじと不敵な笑顔で答えた。
 「ははは、なかなか楽しいお嬢さんだ」
 とはいうものの、ルイーナを年下に見ていないのは明らかだった。
 「坂戸も大山くんも久しぶりだね。二人の活躍は宗主から伺ってるよ」
 「流さん…。」
 しかしそれ以上言葉を紡げなかった。
 ソファにはいずみと湧、大介、ルイーナが座り、坂戸と初美は出してもらったスツールに腰掛けた。
 全員にコーヒーを配り終えた流は、TVで見かける特撮戦隊物のリーダーのような自信に満ちた…いや、演技じみたポーズで自分のソファに深々と座った。

 「まずは何故アルフが湧くんから分離してしまったか? その辺りから話を始めないとアルフの真の目的は理解できないだろう」
 流はアルフについて全てを話す気なのか? 湧には判断できなかった。
 それだけ今までの様々な闘いの意味が理解できていない。
 そのことに今更ながら気付かされる。
 「真の目的? それって人体練成のことですか?」
 いずみは以前ルイーナから聞いた、太古の世界でのアルフの所業を思い出した。
 「人体練成? ああ錬金術? まあその言葉自体アルフが関係してるのかもね。ただ…」
 流はそれまでの薄い笑みを消し、睨みを利かせる。
 「練成などではない。創造だ」
 「?」
 「作り出すってことですか? 無から?」
 ルイーナが叫ぶ。
 「ほう? あなたにはそれがどういう意味なのか分かるようですね…」
 「だって、それは…」
 「そう。器だけ作っても仕方ない…そういう意味です」
 ルイーナの生まれ育った6次元では当たり前のことだったが、人の身体はあくまで器。
 しかし、その器という“身体”と、思念体である“霊体”を結ぶ“幽体”がなければ、人間として成立しないのだ。
 錬金術により人体を練成し、たとえ霊体を確保できていても、幽体がなければただの肉の塊でしかない。霊体が思念により肉体を動かそうとしてもまともに動かせるはずがなかった。
 「まさか幽体も作ろうというの? どうやって?」
 ルイーナは二の腕に鳥肌が立つのを抑えられない。
 「幽体を作る? どういう意味?」
 いずみにはルイーナと流の会話がほとんど理解できない。
 もっとも当の湧にもわからないことばかりだった。
 「それをこれから説明しようというのだ。時間はたっぷりあるからね」
 相変わらず余裕の表情で流は皮肉るが、笑みは浮かんでいない。

 「俺もアルフを認めるまで気が狂うほど考えた。頭の中に別人がいるなんて誰も理解してくれない。しかもそいつは“人間ですらなかった”んだからな」
 事の発端は流が師と仰ぐ神代直哉が、ある日妙なことを口走っているのを偶然聞いてしまったことだった。
 甥の如月湧に何かが取り憑いているらしい。
 流も水無月家の一員だから、人外については日常的に関わっている。
 特に人に取り憑くような力のある人外は脅威だということを、身を持って経験している。
 だからかもしれない。直哉が失意のどん底に陥ったのを誰よりも先に感じた。
 甥の“湧”が末期の癌であること。しかも湧であって湧ではないと呟いていた。
 最初、流にはその意味がよくわからなかった。そして、湧が死んだ。
 その時、流の頭の中に囁く声が聞こえた。

 「それが初めてアルフと交感した瞬間だった。最初は湧くんだと言っていた。けれど直哉さんの話す湧くんとは全く印象が違っている。不思議に感じた俺はすぐさま直哉さんに連絡したが、どうやらその時に湧くんが息を引き取ったらしい」
 「え? 湧が死んだ時に流さんはアルフと交感した?」
 いずみは湧の手を握りながら問い返す。
 「そうだ。だから湧くんの霊だと考えたが、それにしても伝えてくる内容が常軌を逸していた。だからかもしれない、俺は直哉さんが言っていた“人外”だと直感したんだ」
 流の思考を読み取ったように“その人外”はあっけなく湧ではないことを認めた。
 そしてそれは今まで湧の身体に寄生していたが、何故か(この時点ではアルフにも不明だった)はじき出されてしまったと訴えた。
 流にはまさに青天の霹靂。何の話をしているのか全く理解できなかった。
 膨大な情報が流に流れ込み、意識を失う。
 が、ふと気がつくと数秒しか経過していなかった。
 最初は白昼夢のように目を開けたまま夢でも見ていたのかと思った。
 しかし、アルフから得られた情報はしっかりと流の思念に記録されていた。
 流は気付いた。
 アルフという意識だけの存在は確かに存在する…と。

 流には一つの夢があった。
 それはスタントの道を極めることだ。
 が、その時の流は水無月家のスタッフであり、表社会での仕事はできない。
 身体的な問題もあるが、水無月家のお務めが最優先事項であり、極秘任務だからだ。
 そのために決して少なくない報償を国から与えられている。
 アルバイト的なスタントが限度だった。
 しかしそれすらも、危険を伴う撮影は規制が強化されたために以前のような派手なアクションが出来なくなっていた。
 そこで流が考案したのはフルCGによるスタントだった。
 動きが機械的にならないように、モーションキャプチャで別撮りしたアクションにCGで作成したキャラを当て込む。
 そこまでなら既にどこの撮影会社でも行っていたが、流は背景や小物、エキストラまで全てCGによるレンダリングにトライした。
 21世紀初頭には実現していた技術ではあるが、背景はいかにもCGというチャチな面構成、人物は合成したように背景から浮き上がったような動きしかできなかった。
 流はスーパーコンピューター並みのパソコンを組み上げて、オリジナルのレンダリングマシンを完成させた。
 その出来は、実写と見分けがつかないほど高精細であり、しかもレンダリング速度はほぼリアルタイム(レンダリング速度が速すぎてコマ落としするレベル)だった。
 出来上がった映像を神代直哉に見せたのが、なんと湧が死亡する前日だったのだ。
 「タイミングが悪かったと言えば確かにその通りだ。社長(現在は八重洲アクションクラブ代表だから)に感想を聞ける状態じゃなかったんだ」
 そう言いながら湧を見る流。その目は敵意とは無縁に見える。
 その様子を見ていずみが言う。
 「それじゃあ、YAC(八重洲アクションクラブ)を立ち上げることになったのは…」
 「そうだ。それからすぐに湧くんが生き返ったと教えてくれた。そして湧くんのために保護者となり生活を共にする。そのためにYACを立ち上げると言われた」
 本来なら諸手を挙げて喜ぶべき事態だが、その時には流は既にアルフと交感していた後だった。
 神代直哉は流に共同経営者の誘いをし、流は二つ返事で答えた。
 宗主を筆頭株主として、YACの経営基盤を磐石にする。
 外部からの干渉を徹底的に防ぐためだった。
 「じゃあ、直哉さんがYACを立ち上げられたのは…」
 「全て宗主の采配あってのことだよ」
 流は目を閉じて深い感慨を込めて語った。
    <続く>
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