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第3章
3-06殺人事件
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【あんたバカでしょ!】
午後の授業が始まるので教室に戻り、自席に腰を下ろした直後にさくらが突っ込んできた。
〈わぁ~てるわよっ!。でもこういう性格なんだから仕方ないでしょ!〉
いずみは机に突っ伏しながら、反省とも愚痴ともつかない思考で応えた。
【怪しいから身辺調査するって言っておいて、自分の手の内晒すような真似してどうするのよっ!】
〈そうだよねぇ~。うちに連れてったりしたら、もし能力所有者だったら気付かれるよねぇ~〉
【能力は持ってると思うわ。私を認識してるとしか思えないもん】
〈そうなの? でもそれ以上に気掛かりなのは…〉
いずみはキッと顔を上げ、横目でルイーナに視点を合わせた。
〈あの眼差し、単なる“特撮ヒーロー番組”ファンじゃないわ。もっと熱いものを感じたの!〉
【そっちかい!】
さくらは物理的パワーを用いて、いずみの後頭部を叩き込んだ。
「ブギュ!」
『わっ! 水無月さんがっ!』
後ろの席の男子生徒が、突然机に頭を叩き込んだいずみにびっくりして叫ぶ。
さくらがフレンズ化して以来、たまにいずみに突っ込むから、周りの生徒にはいずみが挙動不審に見え始めていた。
〈痛い~っ! って、さくらぁ~クラスメートに変な目で見られるからいきなり叩くのはやぁ~めぇ~てぇ~よぉ~〉
先日クラス委員長の大山初美に『いずみってもしかすると筋肉の力が急に抜けるとかの病気?』と、心配そうに言われてから最近クラスメートの視線が異様なのに気づいたのだ。
【じゃあ、そのボケ治しなさいっ!】
〈ボケ? 何をボケたの?〉
【…、ごめん。ボケじゃなくて、天然だったね】
〈あ~、なんかバカにした言い方ぁ~〉
【もういい! ところでどうするの? 家に帰ったら少なからず禰宜さんたちには見つかるわよ?】
〈う~ん。大ちゃんに頼もう。一切声かけてこないようにしてもらおう〉
いずみはすぐさまLINEで大介にお願いした。
授業中、スマホの使用は禁じられているが、皆、上手く立ち回っているところはいつの時代も変わらない。
〈とにかく帰ったらすぐに私の部屋に押し込んで、誰にも近づけさせないようにしないとね〉
【それはそうと、湧くんにも話しておいたほうがよくない?】
〈なんで?〉
【ハァ? だって湧くん今いずみの家に住んでるんだよ? もっとも同じマンションというだけだけど、普段はシェアハウスの方にいるじゃん】
〈あ~、そうだった。まさか玄関先でばったりなんて、言い訳できないよね(汗)〉
しかし困ったことに、休み時間はルイーナがべったりくっついている。
とても湧だけに話ができる状況ではない。
【LINEは?】
〈覗かれたらどうするのよ〉
【そか、マナー違反だけどやろうと思えば簡単にできるもんね】
〈あ、そうだ。お務め用の携帯なら…〉
第三者のいるところでは見ないように命令されている携帯にメールを送る。
緊急時に備えていつも携行しているし、メールの確認にも注意を払っているから、安心してメールを送ることができた。
ただ、湧がいずみの意図をきちんと把握してくれないと無意味だったが…。
放課後、湧は用事があるからと言って、ルイーナを残しさっさと帰ってしまった。
「あん。せっかく一緒にいずみさんの家に行こうと思ったのに…」
と、溢していたのをいずみは聞き耳を立てて聞いていた。
〈危ない、危ない。メールしてなかったら『じゃあ俺も一緒だから』とか言われそうだったわ〉
【湧くんなら上手く立ち回ってくれるわヨォ~、いずみと違って(笑)】
〈ふん! どうせ…私は…〉
口を尖らせながら、ルイーナに近づき、
「ルイーナ。 じゃあ行こうか?」
と、声をかけた。
「いずみさんはどの特撮ヒーローが一番好きですか?」
いずみの家=と言ってもマンションの方だが=に直接入るために、少し遠回りして南高橋の方から向かう。
そのため隅田川の護岸公園を通って行ったのだが、人気がなくなったところでルイーナが我慢できないという体で問いかけてきた。
「一番? ルイーナあなたは勘違いしてるわ。私が“特撮ヒーロー番組”と言ったの忘れたの? 全ての番組は制作スタッフの努力の結晶なの! 優劣などつけられないのよっ!」
「え? でも好きなキャラとか…」
「全部よ。全部。ヒーローだけじゃなくて、怪人も獣人もアンドロイドも特撮ヒーロー番組に出てくるキャラも制作スタッフもスタントマンもプロデューサーもディレクターも全てが好きなの!」
いずみは一気にまくしたてた。
「は? ははは…」
さすがのルイーナも言葉を失ったらしい。
「素晴らしい! そこまでハードは方は滅多にいません!」
恍惚とした表情でいずみの手を取って、ルイーナは感激の涙を流した。
「る、ルイーナ? そこまで大げさに…」
こそばゆさを感じながらもいずみは嬉しそうだった。
【あ~、すっかり丸め込まれてるわ…】
さくらが聞こえよがしに言っても、いずみは一向に気にしなかった。
「ハウ! ここは天国ですか? 天国ですね」
誰にも見咎められないように、マンションのエントランスからいずみの家の玄関に駆け込んだ。
いずみの部屋に押し込んだ直後、ルイーナはフリーズした。
「へ? 何言ってるの?」
いずみは戸惑いを感じた。
そういえば湧を初めて連れて来た時、同じように驚いて固まっていたことを思い出した。
(私の部屋ってそんなに“ハード”なのかな?)
【…というより、オタク部屋なんだって! 何度も言ってるじゃない】
〈うっさい! さくらの部屋だってアニオタ部屋じゃん〉
【ほっといて!】
〈でもさ、特撮ヒーロー番組が好きなのは紛れもなく本当みたいだね。いくらなんでも演技でここまでできないよ〉
いずみは未だ陶酔してるルイーナに微笑ましさを感じていた。
「ルイーナは特撮戦隊ヒーローが好きだって言ってたよね? どのチームを見たい?」
「ふわぁい? そりわ『電子戦●デンジ●ン』でしょ! 今の戦隊シリーズの基本形ですよ!」
ルイーナは真剣な表情に戻り、力強く宣った。
「おお! ほんっとうに好きなんだねぇ~。 でもそれってもう30年ほど前の作品だよ? よく知ってるねぇ」
「アメリカでは都会ならテレビで放映時間に見られますが、郊外だと放映時間に家に居られることが少ないので、ほとんどDVDで見てます。だから新しい作品も古い作品も大して変わらないんです」
「どうして? DVDじゃ出るまでに時間がかかるでしょ?」
「そうなんです。しかも配給の関係で、日本で放映が終わってから数年後にDVD化されることが多いのです」
「じゃあ、今やってる『武闘戦隊キアイジャー』は見てないの?」
「ええ、見てません。でもキアイジャーは珍しく第2期目突入で、第1期のDVDが出てるので、それを買いに行こうかと思ってます」
戦隊シリーズは通常1年間通しで放映されている。スポンサーが安定しているため、既に30年ほどこのスタイルが基本となっている。
スポンサーは玩具・ゲーム・AVと全てのメディアを出がけているので、計画的に番組を刷新して玩具やキャラクターグッズを販売する方が効率がいいのだ。
毎年前期・後期に分けてヒーローが使う武器がパワーアップするのは、このように玩具の販売事情が絡んでいるためだ。
「あ、買うって言ってもすぐに全巻買えないでしょうから、貸してあげるわ」
「え? いいんですか? 実はもうショップに行ったんですが、なかなか揃ってなくて困ってました。ネットで調べても最後の方しか売ってないし…」
「でしょ? 再販することはあまりないから、いつ出るかわからないよ?」
「ですよね。貸していただけるなら嬉しいです」
「アメリカに帰るまでに買い揃えられればいいんだよね?」
「はい。でもプレーヤーも買わないといけないんです」
「あれ? リージョンコードって2じゃなかった?」
「アメリカはDVDは1なんです。BDなら日本もアメリカも共通のAなんですけどね」
「あ、BDの方か。じゃあBD買って帰れば? アメリカで販売されてる日本のアニメは日本では再生できないことが多いけど、日本で買ったBDはアメリカでも見られよね?」
「ええ、だからたくさん買って帰りたいです」
「じゃあ、とりあえずキアイジャー全12巻とセカンドシーズンの3巻まで貸すから見てね」
そう言って、既に準備してあったかのような手際のよさで、いずみはキアイジャー15巻を紙袋に入れて手渡した。
「15巻? こんなに?」
「あ、日本では毎月発売するの。オリコンのヒットチャートを意識して、月ごとの販売本数を記録してるのよ。そして…」
「そして?」
「売上の悪い巻は何が原因なのか徹底的にリサーチして、次の戦隊シリーズの制作時に参考にするのよ」
「怖いです~。そこまでやってるんですか?」
「だから、番組制作はいつも真剣なのよ! そして私はそんなスタッフが苦労して作り上げた“特撮ヒーロー番組”が好きなの!」
「おおっー!」
多分ルイーナの目には、力説するいずみの背景に波しぶきが見えたことだろう。
「ルイーナが“特撮ヒーロー番組”を理解してくれて嬉しいわ」
「私もです。いずみさんと知り合えて幸せです!」
「…それにしても…、ルイーナって本当に日本語上手ね」
まじまじとルイーナを見つめた。
「それもこれも“特撮ヒーロー番組”のおかげです」
「『いずみ』でいいわよ。って、私はとっくに『ルイーナ』って呼び捨てにしてたけど、ごめんね」
「謝らないでください。アメリカでは名前はみんな呼び捨てなので、慣れてますから(笑)」
と意気投合したが、いずみは何気なく時計を見て驚いた。
既に午後6時を回っていた。
このままでは玄関先で誰かに会ってしまう可能性が高い。
いずみは買い物に行くという言い訳で、ルイーナを連れ出した。
本屋に行くつもりだったが、ルイーナはもう遅いからと言って素直に帰宅した。
いずみが貸したDVDも結構重いから、引き止めることはしなかった。
【同士ができてよかったわねぇ~】
早速さくらが文句をたれた。
〈あそこまで好きな人はそうはいないわ。あの瞳はウソではなかった〉
何かの番組のナレーションのような口調で、いずみは満足げに言い切った。
【ああ~そうかい】
さくらは呆れてそれ以上何も言わなかった。
いずみが気分良く帰宅すると、シェアハウスは異様な沈黙で満たされていた。
「何かあったの?」
母親に尋ねると、築地川高校で殺人事件があったと教えてくれた。
「殺人事件? 何それ?」
「よくわからないけど、おじいちゃんが警察の事情聴取で任意同行させられたの」
「え? おじいちゃんが? なんでよ?」
母親に食らいつくが、詮無いことだとは理解してる。
「だって、おじいちゃん今校長でしょ? 大介さんも同行しようとしたけど未成年ということで追い返されたみたい」
「殺されたのは誰?」
「状況が全くわからないけど、3年生みたいよ」
「3年?」
いずみには知り合いがいないため、ピンとこなかった。
しかし翌日、築地川高校は混乱の渦の中にあった。
しかも、ルイーナが登校してこなかったことが、いずみには不可解に思えた。
<続く>
午後の授業が始まるので教室に戻り、自席に腰を下ろした直後にさくらが突っ込んできた。
〈わぁ~てるわよっ!。でもこういう性格なんだから仕方ないでしょ!〉
いずみは机に突っ伏しながら、反省とも愚痴ともつかない思考で応えた。
【怪しいから身辺調査するって言っておいて、自分の手の内晒すような真似してどうするのよっ!】
〈そうだよねぇ~。うちに連れてったりしたら、もし能力所有者だったら気付かれるよねぇ~〉
【能力は持ってると思うわ。私を認識してるとしか思えないもん】
〈そうなの? でもそれ以上に気掛かりなのは…〉
いずみはキッと顔を上げ、横目でルイーナに視点を合わせた。
〈あの眼差し、単なる“特撮ヒーロー番組”ファンじゃないわ。もっと熱いものを感じたの!〉
【そっちかい!】
さくらは物理的パワーを用いて、いずみの後頭部を叩き込んだ。
「ブギュ!」
『わっ! 水無月さんがっ!』
後ろの席の男子生徒が、突然机に頭を叩き込んだいずみにびっくりして叫ぶ。
さくらがフレンズ化して以来、たまにいずみに突っ込むから、周りの生徒にはいずみが挙動不審に見え始めていた。
〈痛い~っ! って、さくらぁ~クラスメートに変な目で見られるからいきなり叩くのはやぁ~めぇ~てぇ~よぉ~〉
先日クラス委員長の大山初美に『いずみってもしかすると筋肉の力が急に抜けるとかの病気?』と、心配そうに言われてから最近クラスメートの視線が異様なのに気づいたのだ。
【じゃあ、そのボケ治しなさいっ!】
〈ボケ? 何をボケたの?〉
【…、ごめん。ボケじゃなくて、天然だったね】
〈あ~、なんかバカにした言い方ぁ~〉
【もういい! ところでどうするの? 家に帰ったら少なからず禰宜さんたちには見つかるわよ?】
〈う~ん。大ちゃんに頼もう。一切声かけてこないようにしてもらおう〉
いずみはすぐさまLINEで大介にお願いした。
授業中、スマホの使用は禁じられているが、皆、上手く立ち回っているところはいつの時代も変わらない。
〈とにかく帰ったらすぐに私の部屋に押し込んで、誰にも近づけさせないようにしないとね〉
【それはそうと、湧くんにも話しておいたほうがよくない?】
〈なんで?〉
【ハァ? だって湧くん今いずみの家に住んでるんだよ? もっとも同じマンションというだけだけど、普段はシェアハウスの方にいるじゃん】
〈あ~、そうだった。まさか玄関先でばったりなんて、言い訳できないよね(汗)〉
しかし困ったことに、休み時間はルイーナがべったりくっついている。
とても湧だけに話ができる状況ではない。
【LINEは?】
〈覗かれたらどうするのよ〉
【そか、マナー違反だけどやろうと思えば簡単にできるもんね】
〈あ、そうだ。お務め用の携帯なら…〉
第三者のいるところでは見ないように命令されている携帯にメールを送る。
緊急時に備えていつも携行しているし、メールの確認にも注意を払っているから、安心してメールを送ることができた。
ただ、湧がいずみの意図をきちんと把握してくれないと無意味だったが…。
放課後、湧は用事があるからと言って、ルイーナを残しさっさと帰ってしまった。
「あん。せっかく一緒にいずみさんの家に行こうと思ったのに…」
と、溢していたのをいずみは聞き耳を立てて聞いていた。
〈危ない、危ない。メールしてなかったら『じゃあ俺も一緒だから』とか言われそうだったわ〉
【湧くんなら上手く立ち回ってくれるわヨォ~、いずみと違って(笑)】
〈ふん! どうせ…私は…〉
口を尖らせながら、ルイーナに近づき、
「ルイーナ。 じゃあ行こうか?」
と、声をかけた。
「いずみさんはどの特撮ヒーローが一番好きですか?」
いずみの家=と言ってもマンションの方だが=に直接入るために、少し遠回りして南高橋の方から向かう。
そのため隅田川の護岸公園を通って行ったのだが、人気がなくなったところでルイーナが我慢できないという体で問いかけてきた。
「一番? ルイーナあなたは勘違いしてるわ。私が“特撮ヒーロー番組”と言ったの忘れたの? 全ての番組は制作スタッフの努力の結晶なの! 優劣などつけられないのよっ!」
「え? でも好きなキャラとか…」
「全部よ。全部。ヒーローだけじゃなくて、怪人も獣人もアンドロイドも特撮ヒーロー番組に出てくるキャラも制作スタッフもスタントマンもプロデューサーもディレクターも全てが好きなの!」
いずみは一気にまくしたてた。
「は? ははは…」
さすがのルイーナも言葉を失ったらしい。
「素晴らしい! そこまでハードは方は滅多にいません!」
恍惚とした表情でいずみの手を取って、ルイーナは感激の涙を流した。
「る、ルイーナ? そこまで大げさに…」
こそばゆさを感じながらもいずみは嬉しそうだった。
【あ~、すっかり丸め込まれてるわ…】
さくらが聞こえよがしに言っても、いずみは一向に気にしなかった。
「ハウ! ここは天国ですか? 天国ですね」
誰にも見咎められないように、マンションのエントランスからいずみの家の玄関に駆け込んだ。
いずみの部屋に押し込んだ直後、ルイーナはフリーズした。
「へ? 何言ってるの?」
いずみは戸惑いを感じた。
そういえば湧を初めて連れて来た時、同じように驚いて固まっていたことを思い出した。
(私の部屋ってそんなに“ハード”なのかな?)
【…というより、オタク部屋なんだって! 何度も言ってるじゃない】
〈うっさい! さくらの部屋だってアニオタ部屋じゃん〉
【ほっといて!】
〈でもさ、特撮ヒーロー番組が好きなのは紛れもなく本当みたいだね。いくらなんでも演技でここまでできないよ〉
いずみは未だ陶酔してるルイーナに微笑ましさを感じていた。
「ルイーナは特撮戦隊ヒーローが好きだって言ってたよね? どのチームを見たい?」
「ふわぁい? そりわ『電子戦●デンジ●ン』でしょ! 今の戦隊シリーズの基本形ですよ!」
ルイーナは真剣な表情に戻り、力強く宣った。
「おお! ほんっとうに好きなんだねぇ~。 でもそれってもう30年ほど前の作品だよ? よく知ってるねぇ」
「アメリカでは都会ならテレビで放映時間に見られますが、郊外だと放映時間に家に居られることが少ないので、ほとんどDVDで見てます。だから新しい作品も古い作品も大して変わらないんです」
「どうして? DVDじゃ出るまでに時間がかかるでしょ?」
「そうなんです。しかも配給の関係で、日本で放映が終わってから数年後にDVD化されることが多いのです」
「じゃあ、今やってる『武闘戦隊キアイジャー』は見てないの?」
「ええ、見てません。でもキアイジャーは珍しく第2期目突入で、第1期のDVDが出てるので、それを買いに行こうかと思ってます」
戦隊シリーズは通常1年間通しで放映されている。スポンサーが安定しているため、既に30年ほどこのスタイルが基本となっている。
スポンサーは玩具・ゲーム・AVと全てのメディアを出がけているので、計画的に番組を刷新して玩具やキャラクターグッズを販売する方が効率がいいのだ。
毎年前期・後期に分けてヒーローが使う武器がパワーアップするのは、このように玩具の販売事情が絡んでいるためだ。
「あ、買うって言ってもすぐに全巻買えないでしょうから、貸してあげるわ」
「え? いいんですか? 実はもうショップに行ったんですが、なかなか揃ってなくて困ってました。ネットで調べても最後の方しか売ってないし…」
「でしょ? 再販することはあまりないから、いつ出るかわからないよ?」
「ですよね。貸していただけるなら嬉しいです」
「アメリカに帰るまでに買い揃えられればいいんだよね?」
「はい。でもプレーヤーも買わないといけないんです」
「あれ? リージョンコードって2じゃなかった?」
「アメリカはDVDは1なんです。BDなら日本もアメリカも共通のAなんですけどね」
「あ、BDの方か。じゃあBD買って帰れば? アメリカで販売されてる日本のアニメは日本では再生できないことが多いけど、日本で買ったBDはアメリカでも見られよね?」
「ええ、だからたくさん買って帰りたいです」
「じゃあ、とりあえずキアイジャー全12巻とセカンドシーズンの3巻まで貸すから見てね」
そう言って、既に準備してあったかのような手際のよさで、いずみはキアイジャー15巻を紙袋に入れて手渡した。
「15巻? こんなに?」
「あ、日本では毎月発売するの。オリコンのヒットチャートを意識して、月ごとの販売本数を記録してるのよ。そして…」
「そして?」
「売上の悪い巻は何が原因なのか徹底的にリサーチして、次の戦隊シリーズの制作時に参考にするのよ」
「怖いです~。そこまでやってるんですか?」
「だから、番組制作はいつも真剣なのよ! そして私はそんなスタッフが苦労して作り上げた“特撮ヒーロー番組”が好きなの!」
「おおっー!」
多分ルイーナの目には、力説するいずみの背景に波しぶきが見えたことだろう。
「ルイーナが“特撮ヒーロー番組”を理解してくれて嬉しいわ」
「私もです。いずみさんと知り合えて幸せです!」
「…それにしても…、ルイーナって本当に日本語上手ね」
まじまじとルイーナを見つめた。
「それもこれも“特撮ヒーロー番組”のおかげです」
「『いずみ』でいいわよ。って、私はとっくに『ルイーナ』って呼び捨てにしてたけど、ごめんね」
「謝らないでください。アメリカでは名前はみんな呼び捨てなので、慣れてますから(笑)」
と意気投合したが、いずみは何気なく時計を見て驚いた。
既に午後6時を回っていた。
このままでは玄関先で誰かに会ってしまう可能性が高い。
いずみは買い物に行くという言い訳で、ルイーナを連れ出した。
本屋に行くつもりだったが、ルイーナはもう遅いからと言って素直に帰宅した。
いずみが貸したDVDも結構重いから、引き止めることはしなかった。
【同士ができてよかったわねぇ~】
早速さくらが文句をたれた。
〈あそこまで好きな人はそうはいないわ。あの瞳はウソではなかった〉
何かの番組のナレーションのような口調で、いずみは満足げに言い切った。
【ああ~そうかい】
さくらは呆れてそれ以上何も言わなかった。
いずみが気分良く帰宅すると、シェアハウスは異様な沈黙で満たされていた。
「何かあったの?」
母親に尋ねると、築地川高校で殺人事件があったと教えてくれた。
「殺人事件? 何それ?」
「よくわからないけど、おじいちゃんが警察の事情聴取で任意同行させられたの」
「え? おじいちゃんが? なんでよ?」
母親に食らいつくが、詮無いことだとは理解してる。
「だって、おじいちゃん今校長でしょ? 大介さんも同行しようとしたけど未成年ということで追い返されたみたい」
「殺されたのは誰?」
「状況が全くわからないけど、3年生みたいよ」
「3年?」
いずみには知り合いがいないため、ピンとこなかった。
しかし翌日、築地川高校は混乱の渦の中にあった。
しかも、ルイーナが登校してこなかったことが、いずみには不可解に思えた。
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