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第1章
04校長先生
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「何だか変だね。この学校」
管理フロアと呼ばれる、職員室などが並んでいる東棟2階へと続く廊下を歩きながら、いずみが不満げに呟いた。
「…あんたが云う? 入学してまだ2ヶ月ちょっとなのに、今まで色々やらかしてくれたよねェ。そのツケが来たんじゃない?」
さくらは怒りを隠そうともせずに、一気に捲し立てた。
「大体、直接話した事も無い校長から呼び出しってなんなの??」
「なんだろうねェ~」
「お~い! いずみの事なんだよ。もっと真剣に考えんかいィ!」
「さ、さくら怖い…」
ここまで怒るのは、さっきまで『一緒に来てぇ~』とか泣きついていたのに、まるで他人事のように宣っているのが我慢ならなかったからだ。
「大方、今朝の騒ぎのことじゃないの? 一ヶ月の停学! とか宣告されたりして」
「げ! そんな事になったらおじいちゃんに怒られる(涙)」
一瞬にして青ざめるいずみ。少しは懲りたかぁ~とか、さくらは心で叫んだ。
とは云っても、祖父に怒られることしか考えていないようだ。
「さ、着いたわよ。後は一人で何とかしなさいね」
といって、腕にしがみついてるいずみを払い落とそうともがいた。
「え~、一緒にいてよぉ~」
「そうですね、柳瀬川さんもよろしければ一緒にお願いします」
いつの間にか校長室のドアが開いて、好々爺然とした校長が立っていた。
「は?…わ、私もですか?? 私は今朝の一件とは無関係なんですが…」
「…? 今朝の? はて? まぁその事は後ほど伺いましょう。先ずはお入りください」
と言いながら、先に入って行った。
「<ドスっ!>(痛っ!)」
いずみに脇腹をドツかれた。
「(なんでわざわざ言い出すのよぉぉぉぉ~)」
半泣きで抗議するいずみ。
「どうかしましたか?」
訝しげに振り向く校長。笑顔だが全く笑っていないことは誰にでも判る。
否やを受け付けない態度は、もはや逃げようがないことを意味していた。
この時程、「いずみと一緒にいるとロクなことがないぃぃぃぃぃっ!」と嘆いたのだった。
これから起こる事は、多分人生で最悪の出来事となるだろう。さくらはそう確信した。
部屋の中には先客がいた。
「あれ? 大ちゃん?? なんでここにいるの?」
曳舟大介が革張りの豪華な来客用ソファに背筋を伸ばして坐っている。
「……」
「ん? どうしたの??」
いずみが問いかけても視線を返しただけで、無言のまま、また正面に戻す。
さくらが大介の視線を追って、部屋の奥を見ると…
「うわっ! 何これ?」さくらが驚いたのも無理は無かった。
普通の高校の校長室は多分、大きな執務机があって、マホガニーのキャビネットなどで権力を象徴したような豪勢な部屋だと思っていた。
しかし、この部屋は…。
「さて、順を追ってお話ししなければならないが、その前に一つ…」
校長はいずみを呼び出しておきながら、さくらを主に話す事にしたようだ。
「あなた方の“お務め”に関しては全てを承知しております。その事に関しては水無月家宗主“兼成”氏の許可も頂いております」
水無月家宗主の許可ということは、柳瀬川家も全面協力するという事を意味していた。
「時間的余裕がないので、このまま説明に入らせていただきます。なお、午後の授業は校務に協力という形で、各先生方にお話してありますので御心配なく。よろしいですかな?」
もはや腹をくくるしかないとさくらは覚悟を決めた。…のだが、何故か大人しい隣のいずみが急に心配になった。
「校長室ってこんな風になってるんだぁ~」
「ははは、いつもは普通の執務室ですよ。いずみさん。あなた方に説明するために用意したのです。…だ、か、ら…みんなには内緒でお願いしますよ」
「はい! 判りました」すっごく機嫌のいい返事だ。だからさくらには理解出来てしまった。
(こいつ…特撮ヒーロー番組の撮影セットと同じ様に考えてるな…)と、洞察したが、今は大人しくしてくれる方が助かるので放っておく事にした。
まあ、さくら自身も超大型のPCデスクに32インチモニターが、そしてその奥の壁一面に48インチLCDモニターが9面。縦横三つずつ並んでいたので驚きはした。そして部屋の中央にはかなり大きい革張りのソファセットのみが鎮座していたのだ。
「今お話ししたようこの部屋は一部の者しか知りません。普段はパーテーションで隠して、普通の校長室風に設えてある」
校長先生は今まで朝礼などで見た時とは別人の様だった。今年55歳のはずだが、10歳は若く見える。
『あんたはどこの秘密結社のボスだ!』とあやうく突っ込むところだった。あぶないあぶない。さくらは自分の自制心に誇りを持った。
ところが、全く空気を読まないヤツがすぐ横にいたのだ。
「校長先生? あの基本的な質問よろしいですか?」いずみである。
ギロッ! と睨みつけたが、みるみる目尻が下がり、ニコニコ顔にトランスフォーム!
「何でしょうか? どうしても先に聞いておきたいというなら、なんなりとどうぞ」
(何かなぁ~この芝居がかったセリフは(汗)まあ、聞くだけ聞いててみよ)
さくらの心情的には“もう~はずいから、普通にしゃべってぇ~”と切望しているのだが、この天然娘に通用するはずなかった。
「校長先生は特撮ヒーロー番組をどうお考えですか? やはり子ども番組だと思いますか?」
「この場でする質問じゃないだろうぉ~<ぺしっ!>」
「え~そんなことないよぉ~。だってこの部屋って、特撮戦隊ヒーローの司令室みたいじゃん」
「ははは、いずみさん。私はね、初期の特撮戦隊ヒーロー番組の大ファンなんですよ」
「おおっ! さすがは校長先生です。お見それしましたっ!」
「ちなみに私はレッドよりブルーやピンクが好きですよ」
「お! 通ですね。尊敬いたします!!」
…(あんぐり…とはこういう状況を指すんだね。よっく判りましたよ! 校長せんせ~(涙))
さくらは脱力したが、もう一人はこういう展開になることが予想できたようだ。さすがに曳舟先輩ですね。と、尊敬の眼差しを向けた。
「さて、そろそろ本題に入らせていただきましょう」
校長はさほど脱線する事無く。話しを続けた。
「本来ならこういう事案に関しては、宮内庁で扱います。それは内閣や官僚が絡むと必要以上に問題が大きくなり、場合によっては国民生活に多大な影響を与えてしまうからです」
校長はモニターを操作し、一つの画像を表示した。
「これは先月、都内のある場所で防犯カメラによって撮影された画像です」
画面は9分割され、左上から右下に向かって時間が経過しているらしい。
ゴリラのようなものが、正面から歩いてくる女性を爪で引っ掻いたような動きをした。
女性は最初から最後まで、そのゴリラのようなものが見えていないようだった。
そして…
「あれ? 女の人が…消えた?」いずみが驚いた様に呟いた。
「なんか…水風船が割れたみたいに、白いのが地面にこぼれたわ…あ、ごめんなさい」
さくらもつられて声を出してしまった。
しかし、校長はより険しい顔になっている。というより、驚いているようだった。
「さ、さすがです。お二人とも私の見立て通り、いや、それ以上に…」
「「はい?」」
いずみとさくらは応えてから顔を見合わせた。
「お二人には見えるのですね。この“塩”が…」
「し…お?」
「そうです。普通の人間にはさっきのゴリラの様なものも、あの女性が“塩”になってしまったことも…見えません」
校長がつらそうに呟く。
「あのゴリラの様なものは“ウェンディゴ”といい、北アメリカのインディアンに伝わる怪異です。そして、女性は肉体/精神体/霊体の全てのエネルギーを奪われ、塩の結晶のみが残りました」
「塩の結晶? それはまさかと思いますが…錬金術でいう肉体と精神体と霊体を繋げる媒体のことですか?」
さくらは自分で口にしていることが、非現実的すぎて悪夢でも見ている気分だった。
「さすが柳瀬川家の次期当主です。まさにその通りです」
校長は“我が意を得たり”と感激した。何しろこの部分が一番説明も納得も難しいことなのだ。
この説明が空想や妄想と思われたりすれば、今後の対応が難しく危険になるからだった。
「さくら、私は錬金術のことは詳しくないけど…、あの“えんでこ?”<ポカっ!>」
「あんたの守備範囲だろ! 少しは特撮ヒーローに出てくる怪人以外にも興味持ちなさい! “うぇんでぃご”だよ」
「あう~ すぐ殴るんだもん~ さくらはぁ~。痛い~。あ、ごめんなさい」
校長に呆然と見つめられているに気付いたいずみは素直に謝った。
「それでですね… これ動画じゃないんですか?」
さくらも目をパチクリするほど、鋭い質問だった。(叩いてごめんね)と精神的に謝っておいた。
「よくお判りですね。動画だと一瞬なので判りにくいと思って、スチルにしておいたのです」
そう言って多分、動画ファイルを探しているのだろう。机の上のPCを操作している。
「どうして動画だとわかったの?」
さくらが尋ねるといずみは当たり前の様に…
「画質が悪いからというのもあるけど、シャッタースピードが遅いから動画だと気付いたの」
「へ?」さくらには理解出来ませんでした。
「だから…今の動画は普通は1/60なんだけど、監視カメラなどは転送速度の関係で1/30なの」
「うんうん。知ってる」
「でもね。スチルなら高精細で最低限でも1/250になってるんだよ~」
「ああ、そうか1/250ならこんなにブレないもんね。いずみ偉い!」
「えっへん。少しは見直してくれたかな? ワトソン君」…今度はホームズかいっ!
「お待たせしました。本当に一瞬のことなので注意して見てください」
校長は9画面全てを使って大きく表示させた。そして動画再生される。
「「きゃぁ~~~~」」
いずみとさくらは再生が始まった途端に叫び声を上げて抱き合ってしまった。
まだ問題の映像に至っていないのに…校長が驚いていると、大介がモニターの表示を消した。
「どうしたのです? 3人とも…」
3人は何かに怯える様に真っ青な顔でお互い見つめ合った。
「こ、校長先生。これは…、相当…厳しい…状況です」大介が3人を代表して告げた。
「何か見えたんですか?」
どうやら校長には見えなかったらしい。それはある意味で救いだった。そしてそのことを告げるべきか否か、大介は悩んだ。
「なに…とは云えません。それに、仕組みは判りませんが、今、向こうから見られてしまいました」
「あれなんなの? 今まであんなヤツに遭った事ないよぉ」
さすがにいずみも怯えている。さくらも唇が真っ青だ。
「そうですか、どうしたらいいんでしょう? あなたたちまで危険な目に遭ってしまったら…」
「それについては、大丈夫です。宗主が許可した時点で私たちは既に関わってしまったとお考えください」
「では、依頼については御請頂けると?」
校長は安堵したが、最初からこの様子では生死に関わる問題であると、大介は気が重くなった。
動画が再生されると、犠牲者の女性が通りの向こうから歩いて来るのが映っていた。その直後カメラの画面いっぱいにあの“ウェンディゴ”がこちらを睨み、何事か訴えていた。
その内容はいずみには「おまえかぁ~」、さくらには「逃がさない。必ず…」、大介には「邪魔すれば殺す」と、時間を超えたメッセージとなって頭の中に直接伝えられた。
「早計でした。怪異には時空的距離は関係ないのですね。本当に申し訳ありません」
校長は沈み込み、今後の対応を悩んだ。
「校長先生。一通りの説明をお願いできますか? 確かにあれでは、もう切羽詰まった問題のようですので…」
「はぁ、よろしいのですか? 本当に…」
「「「もちろんです」」」3人は校長を労うように精一杯陽気に応えた。
<つづく>
管理フロアと呼ばれる、職員室などが並んでいる東棟2階へと続く廊下を歩きながら、いずみが不満げに呟いた。
「…あんたが云う? 入学してまだ2ヶ月ちょっとなのに、今まで色々やらかしてくれたよねェ。そのツケが来たんじゃない?」
さくらは怒りを隠そうともせずに、一気に捲し立てた。
「大体、直接話した事も無い校長から呼び出しってなんなの??」
「なんだろうねェ~」
「お~い! いずみの事なんだよ。もっと真剣に考えんかいィ!」
「さ、さくら怖い…」
ここまで怒るのは、さっきまで『一緒に来てぇ~』とか泣きついていたのに、まるで他人事のように宣っているのが我慢ならなかったからだ。
「大方、今朝の騒ぎのことじゃないの? 一ヶ月の停学! とか宣告されたりして」
「げ! そんな事になったらおじいちゃんに怒られる(涙)」
一瞬にして青ざめるいずみ。少しは懲りたかぁ~とか、さくらは心で叫んだ。
とは云っても、祖父に怒られることしか考えていないようだ。
「さ、着いたわよ。後は一人で何とかしなさいね」
といって、腕にしがみついてるいずみを払い落とそうともがいた。
「え~、一緒にいてよぉ~」
「そうですね、柳瀬川さんもよろしければ一緒にお願いします」
いつの間にか校長室のドアが開いて、好々爺然とした校長が立っていた。
「は?…わ、私もですか?? 私は今朝の一件とは無関係なんですが…」
「…? 今朝の? はて? まぁその事は後ほど伺いましょう。先ずはお入りください」
と言いながら、先に入って行った。
「<ドスっ!>(痛っ!)」
いずみに脇腹をドツかれた。
「(なんでわざわざ言い出すのよぉぉぉぉ~)」
半泣きで抗議するいずみ。
「どうかしましたか?」
訝しげに振り向く校長。笑顔だが全く笑っていないことは誰にでも判る。
否やを受け付けない態度は、もはや逃げようがないことを意味していた。
この時程、「いずみと一緒にいるとロクなことがないぃぃぃぃぃっ!」と嘆いたのだった。
これから起こる事は、多分人生で最悪の出来事となるだろう。さくらはそう確信した。
部屋の中には先客がいた。
「あれ? 大ちゃん?? なんでここにいるの?」
曳舟大介が革張りの豪華な来客用ソファに背筋を伸ばして坐っている。
「……」
「ん? どうしたの??」
いずみが問いかけても視線を返しただけで、無言のまま、また正面に戻す。
さくらが大介の視線を追って、部屋の奥を見ると…
「うわっ! 何これ?」さくらが驚いたのも無理は無かった。
普通の高校の校長室は多分、大きな執務机があって、マホガニーのキャビネットなどで権力を象徴したような豪勢な部屋だと思っていた。
しかし、この部屋は…。
「さて、順を追ってお話ししなければならないが、その前に一つ…」
校長はいずみを呼び出しておきながら、さくらを主に話す事にしたようだ。
「あなた方の“お務め”に関しては全てを承知しております。その事に関しては水無月家宗主“兼成”氏の許可も頂いております」
水無月家宗主の許可ということは、柳瀬川家も全面協力するという事を意味していた。
「時間的余裕がないので、このまま説明に入らせていただきます。なお、午後の授業は校務に協力という形で、各先生方にお話してありますので御心配なく。よろしいですかな?」
もはや腹をくくるしかないとさくらは覚悟を決めた。…のだが、何故か大人しい隣のいずみが急に心配になった。
「校長室ってこんな風になってるんだぁ~」
「ははは、いつもは普通の執務室ですよ。いずみさん。あなた方に説明するために用意したのです。…だ、か、ら…みんなには内緒でお願いしますよ」
「はい! 判りました」すっごく機嫌のいい返事だ。だからさくらには理解出来てしまった。
(こいつ…特撮ヒーロー番組の撮影セットと同じ様に考えてるな…)と、洞察したが、今は大人しくしてくれる方が助かるので放っておく事にした。
まあ、さくら自身も超大型のPCデスクに32インチモニターが、そしてその奥の壁一面に48インチLCDモニターが9面。縦横三つずつ並んでいたので驚きはした。そして部屋の中央にはかなり大きい革張りのソファセットのみが鎮座していたのだ。
「今お話ししたようこの部屋は一部の者しか知りません。普段はパーテーションで隠して、普通の校長室風に設えてある」
校長先生は今まで朝礼などで見た時とは別人の様だった。今年55歳のはずだが、10歳は若く見える。
『あんたはどこの秘密結社のボスだ!』とあやうく突っ込むところだった。あぶないあぶない。さくらは自分の自制心に誇りを持った。
ところが、全く空気を読まないヤツがすぐ横にいたのだ。
「校長先生? あの基本的な質問よろしいですか?」いずみである。
ギロッ! と睨みつけたが、みるみる目尻が下がり、ニコニコ顔にトランスフォーム!
「何でしょうか? どうしても先に聞いておきたいというなら、なんなりとどうぞ」
(何かなぁ~この芝居がかったセリフは(汗)まあ、聞くだけ聞いててみよ)
さくらの心情的には“もう~はずいから、普通にしゃべってぇ~”と切望しているのだが、この天然娘に通用するはずなかった。
「校長先生は特撮ヒーロー番組をどうお考えですか? やはり子ども番組だと思いますか?」
「この場でする質問じゃないだろうぉ~<ぺしっ!>」
「え~そんなことないよぉ~。だってこの部屋って、特撮戦隊ヒーローの司令室みたいじゃん」
「ははは、いずみさん。私はね、初期の特撮戦隊ヒーロー番組の大ファンなんですよ」
「おおっ! さすがは校長先生です。お見それしましたっ!」
「ちなみに私はレッドよりブルーやピンクが好きですよ」
「お! 通ですね。尊敬いたします!!」
…(あんぐり…とはこういう状況を指すんだね。よっく判りましたよ! 校長せんせ~(涙))
さくらは脱力したが、もう一人はこういう展開になることが予想できたようだ。さすがに曳舟先輩ですね。と、尊敬の眼差しを向けた。
「さて、そろそろ本題に入らせていただきましょう」
校長はさほど脱線する事無く。話しを続けた。
「本来ならこういう事案に関しては、宮内庁で扱います。それは内閣や官僚が絡むと必要以上に問題が大きくなり、場合によっては国民生活に多大な影響を与えてしまうからです」
校長はモニターを操作し、一つの画像を表示した。
「これは先月、都内のある場所で防犯カメラによって撮影された画像です」
画面は9分割され、左上から右下に向かって時間が経過しているらしい。
ゴリラのようなものが、正面から歩いてくる女性を爪で引っ掻いたような動きをした。
女性は最初から最後まで、そのゴリラのようなものが見えていないようだった。
そして…
「あれ? 女の人が…消えた?」いずみが驚いた様に呟いた。
「なんか…水風船が割れたみたいに、白いのが地面にこぼれたわ…あ、ごめんなさい」
さくらもつられて声を出してしまった。
しかし、校長はより険しい顔になっている。というより、驚いているようだった。
「さ、さすがです。お二人とも私の見立て通り、いや、それ以上に…」
「「はい?」」
いずみとさくらは応えてから顔を見合わせた。
「お二人には見えるのですね。この“塩”が…」
「し…お?」
「そうです。普通の人間にはさっきのゴリラの様なものも、あの女性が“塩”になってしまったことも…見えません」
校長がつらそうに呟く。
「あのゴリラの様なものは“ウェンディゴ”といい、北アメリカのインディアンに伝わる怪異です。そして、女性は肉体/精神体/霊体の全てのエネルギーを奪われ、塩の結晶のみが残りました」
「塩の結晶? それはまさかと思いますが…錬金術でいう肉体と精神体と霊体を繋げる媒体のことですか?」
さくらは自分で口にしていることが、非現実的すぎて悪夢でも見ている気分だった。
「さすが柳瀬川家の次期当主です。まさにその通りです」
校長は“我が意を得たり”と感激した。何しろこの部分が一番説明も納得も難しいことなのだ。
この説明が空想や妄想と思われたりすれば、今後の対応が難しく危険になるからだった。
「さくら、私は錬金術のことは詳しくないけど…、あの“えんでこ?”<ポカっ!>」
「あんたの守備範囲だろ! 少しは特撮ヒーローに出てくる怪人以外にも興味持ちなさい! “うぇんでぃご”だよ」
「あう~ すぐ殴るんだもん~ さくらはぁ~。痛い~。あ、ごめんなさい」
校長に呆然と見つめられているに気付いたいずみは素直に謝った。
「それでですね… これ動画じゃないんですか?」
さくらも目をパチクリするほど、鋭い質問だった。(叩いてごめんね)と精神的に謝っておいた。
「よくお判りですね。動画だと一瞬なので判りにくいと思って、スチルにしておいたのです」
そう言って多分、動画ファイルを探しているのだろう。机の上のPCを操作している。
「どうして動画だとわかったの?」
さくらが尋ねるといずみは当たり前の様に…
「画質が悪いからというのもあるけど、シャッタースピードが遅いから動画だと気付いたの」
「へ?」さくらには理解出来ませんでした。
「だから…今の動画は普通は1/60なんだけど、監視カメラなどは転送速度の関係で1/30なの」
「うんうん。知ってる」
「でもね。スチルなら高精細で最低限でも1/250になってるんだよ~」
「ああ、そうか1/250ならこんなにブレないもんね。いずみ偉い!」
「えっへん。少しは見直してくれたかな? ワトソン君」…今度はホームズかいっ!
「お待たせしました。本当に一瞬のことなので注意して見てください」
校長は9画面全てを使って大きく表示させた。そして動画再生される。
「「きゃぁ~~~~」」
いずみとさくらは再生が始まった途端に叫び声を上げて抱き合ってしまった。
まだ問題の映像に至っていないのに…校長が驚いていると、大介がモニターの表示を消した。
「どうしたのです? 3人とも…」
3人は何かに怯える様に真っ青な顔でお互い見つめ合った。
「こ、校長先生。これは…、相当…厳しい…状況です」大介が3人を代表して告げた。
「何か見えたんですか?」
どうやら校長には見えなかったらしい。それはある意味で救いだった。そしてそのことを告げるべきか否か、大介は悩んだ。
「なに…とは云えません。それに、仕組みは判りませんが、今、向こうから見られてしまいました」
「あれなんなの? 今まであんなヤツに遭った事ないよぉ」
さすがにいずみも怯えている。さくらも唇が真っ青だ。
「そうですか、どうしたらいいんでしょう? あなたたちまで危険な目に遭ってしまったら…」
「それについては、大丈夫です。宗主が許可した時点で私たちは既に関わってしまったとお考えください」
「では、依頼については御請頂けると?」
校長は安堵したが、最初からこの様子では生死に関わる問題であると、大介は気が重くなった。
動画が再生されると、犠牲者の女性が通りの向こうから歩いて来るのが映っていた。その直後カメラの画面いっぱいにあの“ウェンディゴ”がこちらを睨み、何事か訴えていた。
その内容はいずみには「おまえかぁ~」、さくらには「逃がさない。必ず…」、大介には「邪魔すれば殺す」と、時間を超えたメッセージとなって頭の中に直接伝えられた。
「早計でした。怪異には時空的距離は関係ないのですね。本当に申し訳ありません」
校長は沈み込み、今後の対応を悩んだ。
「校長先生。一通りの説明をお願いできますか? 確かにあれでは、もう切羽詰まった問題のようですので…」
「はぁ、よろしいのですか? 本当に…」
「「「もちろんです」」」3人は校長を労うように精一杯陽気に応えた。
<つづく>
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