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第1章

03如月湧

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 「いや~今日のバトルはエキサイトしたねぇ」
 「マジ死亡フラグ、っていうより、普通に逝ってるよなぁ」
 「如月もだけど、水無月のパワーもすげ~な」
 「今後はさらに白熱しそうだね」
 湧が無傷だと判ると、クラスメートたちは皆、口々にまるで『対戦格闘ゲーム』のバトルを観戦していたような感想を言い合った。
 実際に起こった出来事なのに、現実感が全くない。
 人は自分の常識を超えた理解不能の事象に対して、精神的な防衛本能が働いて現実逃避する。皆ゲームバトルだったと思い込んで、自我を保つ事にしたようだ。
 「おまえら、いいかげんにしろよぉ」
 その中で板橋だけは教師と言う立場上、笑って誤摩化す訳にはいかなかった。
 いかないけど、当の如月があの調子では何を問題にしていいのかすら判らない。
 「とにかく! 今日は無事だったからと言って、今後も大丈夫とは限らないから、もうこんな非現実的は超人ごっこはしないように!」
 「「「………俺たちは『普通の』人間だから、やらないっすよぉ…」」」
 見事なユニゾンでクラスメートたちは返答した。

 板橋が職員室に引き上げると、すぐさま湧の周りにはクラスメートが押し寄せた。
 「窓から飛んだ時どんな気分だった?」赤塚が真っ先に質問する。
 「アイキレッドは常に無敵だ。階段を駆け下りるのと変わりない」などと宣っている。
 そして、その湧とは対称的にいずみは深く深く沈んでいた。
 いずみの様子がおかしいことに気付いたさくらは、精一杯優しく声をかけてみた。
 「いずみ…、たしかに自制が利かなくてヤバかったけど、まぁ如月本人が何とも思ってないみたいだから…さ、今日はまあノーカンってことで……あれ? 聞いてる?」
 「…(…さん…しらない…)…」
 いずみは何か呟いていた。
 「え? 何? 聞こえないよぉ~」
 「みんな、流さんのこと知らないなんて…」
 「そっちかいぃ!<ぺちっ!>」
 思わずドツいてしまったさくらだった。
 「まぁ~たく、流さんの事となると盲目的なんだから。ほんとに…」
 もはや呆れて何も言えなくなってしまった。こうなったら、無理にでも話題を変えてやろうと…、
 「ところで、いいの?」現実的な話題に振る。
 「へ? 何が?」
 いずみはまだ気付いていなかった。『自爆』したことに…
 「あんた自分で『特撮ヒーロー番組ファン』って宣言しちゃったんだよ」
 「…げ!!」
 途端に青ざめるいずみ。
 「そ…そうだった。わ、私思わず…」
と頭を抱え込む。だからといって物事が改善される訳じゃない。
 「ま、言っちゃったもんはどうしようもないよね」
 さくらは努めて明るく言ってみる。
 「そんなぁ~今までバレない様に注意してきたのに…全て水の泡だぁ~」
 「注意?」さくらの表情が険しくなる。
 「あ! もしかしてさくらが?」
 <ぺち! ぺち! ぺち! ぺち!>無言でチョップの嵐が炸裂。
 「痛い! 痛い! 痛い! ごめん! うそ! そんなことちっとも思ってないよぉ~」
 「私がぁ! いずみの嫌がることする訳無いでしょ!」
 さくらが激怒モードに突入した。
 「じ、冗談だってばぁ~、ごめんあしゃい~」
 「ンなこと冗談でもいうなぁ!」
 ひぃ~~んとか言いながら、いずみはさくらに抱きついた。
 (この娘はホントにとんでもないこと口走るなぁ)とか思いつつも、結局は許してしまうさくらなのだ。
 自分でも甘いなぁと思いつつ、いずみにはちゃんと話しておくことにした。
 「はぁ、まあいいわ。いずみは全く気付いてないようだから言うけど…、よく教室で合気道の型の練習してたでしょ?」
 「うん。合気道は初めてだから、早く覚えたくてね。大ちゃんから、先ずは型をきちんとマスターすること!って言われてたし…」
 「はいはい。ごちそうさま…。でね。その型なんだけど…」
 さくらがヒョイと指差した方向には、期待通りに湧が例の奇妙な踊りを踊っていた。
 「ン?」
 如月君がどうかした? というアイコンタクトでさくらに返す。
 「よく見ててみなよ」
 「?」
 「アレ見て何か気付かない?」
 もうこれ以上は言わせるなよ~というアイコンタクトで突っ返す。
 「あ! あれって、合気道の型じゃない!」
 「まぁそういうことだわね」
 「え?」
 おまえ、本当に脳みそ入ってる? はろー? えぶりばでぃ ほーむ?
 さくらはイライラしだした。
 「まだわかんないのかぁ~、仕方ない。つまり、いずみと如月は教室で同じ事をやってました。他の女子はすぐに気付いたけど、いずみが如月を目の敵にしてたから、『特撮ヒーローまにあ?』とは聞けなかったの」
 「げっ!」やっと理解できたらしい。
 「な、なんであいつが合気道の型やってんのよ! しかも私より上手にぃ(涙)」
 「今期の特撮戦隊ヒーローって『キアイジャー』って言って、合気道がモチーフらしいよ」
 もうこれで全て納得してよぉ~とさくらは懇願した。これ以上話すのが恥ずかしかった。だから打ち止めの意味も込めて「ちゃんちゃん!」と言って〆た。
 「…じゃあ、じゃあ如月君も私も合気道の型をやってたの?」いずみは涙目になってきた。
 「まあ、あいつのはキアイジャーのソーシャルダンスだから、合気道の型に色々おまけがついてるけどね」
 ソーシャルダンスとは特撮ヒーローたちが気合いを入れるために行う「アノ」痛々しいダンスのことで、一部の制作会社で便宜上そう呼んでいるのだ。
 「そんないいかげんなものなのに、合気道の型の部分が異常にさまになってるじゃん!」
 いずみは怒りを覚えた。
 本当にまあ起こったり泣いたり忙しいねぇ、この娘は…とさくらはいずみの百面相を楽しみ始めた。面倒だけど、ここまで来たら全て納得させようと腹をくくる。
 「あいつは小学生の時から合気道やってるもん。型なんてとっくの昔にマスターしてるんでしょ?」
 「し、小学生?」
 いずみは違和感を覚えてさくらに尋ねた。
 「なんでさくらが知ってるの?」
 「あふっ!」しまった! と思ったがもう遅い。
 いずみは鈍いから、つい油断してしまった。
 「…ねぇ…もしかして…」といずみがニヤっと人の悪い笑顔になる。
 「小学校一緒だった…とか」
 <ちゅどぉぉぉぉぉぉぉ~~ん>
 さくらはぶっ飛んだ。高一になって…それ? そういう思考しかないの??
 「あんたも同じ小学校だろが!」
 「あれ? そうだっけ?」
 (こんの天然温室娘ぇ~~)と心の中で罵倒したさくらだった。
 いずみは(全く覚えがありませ~~ん)と両手を挙げている。まあいずみらしいと言えばらしいんだけど…。

 「あんただって、小学5年の時同じクラスだったじゃない? 覚えてないのぉ?…」
 (もう少し男子に興味持てないのか? この娘は…)と何だか心配にすらなってきた。
 「彼は小学校5年の時、うちの道場の弓道教室に入ってたのよ」
 「弓道? ゆみ? 合気道じゃないの?」訝しげに聞き返す。
 「合気道は2年の時からやってたらしいよ」
 「それがなんで、弓道に?」
 「そこなんだよね。まぁぶっちゃけた話、その当時、昔アニメでやってたロボット物が実写とCG合成でリメイクされて…」
 さくらは自分も『おたく』呼ばわりされそうなので、この話題だけは避けたかったのだ。
 「リメイク? 新作じゃないの? そこまでやってるなら…」
 「ま、聞きなさいって」さくらの目が坐っている。
 「主役が乗り込むロボットの左腕に弓がついてて、最後に必殺の武器になるの」
 「おお! 何かかっこいい」いずみの目が輝きだす。
 この表情を見る度さくらは脱力する…
 「その矢を射るシーンがかっこいいんだって。ということで弓道やります。と宣ったの」
 さくらはすごく嫌そうな顔で説明した。
 「あ、そういうことか」やっといずみにも理解できたらしい。
 「だぁ~~かぁ~~らぁ~。私がその話聞いた時に激怒したのよ! 『弓道は遊びじゃない!』ってね」
 「そりゃそうだ。まあスポーツって言う人も多いけどね(汗)」
 「ところが、『ヒーローはいつでも真剣だ!』という始末。教室だから拒む理由も無いと言って、父さんは彼を入れてしまったのよ」
 「そっかぁ~大変だったんだねぇ。さくらも…」
 いつの間にかいずみに労われていた。
 「ええい! そうじゃなくて! 本当に困ったのはその後なのよ!」
 「え?」
 「入って実際に矢を射るようになったら、スジがいいって父さんがとても気に入って。で、道場の方に誘ったの。門下生として!」
 「へほぉ~! さくらんとこの門下生になれたんだ!」
 これにはいずみも驚いた。何しろさくらの家の場合は3~4年に一人しか入門できなかった。射場のキャパシティの問題もあるのだが、扱っている武具は本来獣や人を射るものだから、精神的に弱い人間はちょっとしたトラブルで、殺傷事件すら起こしかねない。そんな心が弱い希望者は真っ先に落とされる。いずみの家の様に空手道場とは扱いが全く異なるのだ。
 「おじさんうれしかったんじゃない?」
 「門下生になってれば……ね」
 「え?」
 「弓道教室でいい線まで行っておいて、やめちった」
 「へ? ? ああ! 判った! 番組が終わったから違うものに移ったんでしょ!」
 さくらが湧を嫌う理由は正にそこだった。そして、それ以上に…
 「正解~。で、それ以来、あいつとは因縁めいた関係が続いてるのよ! あ~やっぱ話すんじゃなかった~、またイライラしてきた」
 というなり、湧をはたきに行くさくらだった。
 <スパカァ~~ン>
 「え? 何? 何だよぉ~!!」
 鳩が豆鉄砲くらったという表情で湧は目を丸くした。
    <つづく>
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