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第1章
02クラスメート
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いずみはズキズキ痛むこめかみを摩りながら、校門をくぐった。
時刻は8時5分前。運動部員なら当然朝練があるので、遅すぎる登校だ。
「まぁ~ったく大ちゃんは融通が利かないんだからぁ~」
いずみは横で涼しい顔をしている曳舟大介を睨みつけた。
「少しはかばってくれてもいいじゃないっ!」
昨夜の一件でいずみは祖父に「恐怖のグリグリ(いずみが命名)」をくらった。
それは当然のことながら、大介が状況をきちんと正確に報告したためだ。
「大ちゃんの石頭っ!」
色々罵詈雑言を並べるがノーリアクションである。
そのまま自分の下駄箱にむかって遠ざかって行く。
「むぅ~。べぇ~~~っだ」
その後ろ姿を睨みつけてから、いずみも自分の教室にむかった。
「ほぉ~、今日も夫婦仲良くご出勤ですかぁ~。いやぁ~羨ましい限りですなぁ~」
いずみが自席に付くと同時に、前の席のさくらが振り向き、中年親父のようなセリフを宣った。
「そんなんじゃないわよぉ~…? え? 夫婦ぅ~誰がぁ??」
素で応えるいずみに、さくらの方がずっこける。
「ま、まぁいいわ。いずみにこのネタは無意味だったね。」さくらはこめかみを揉みながら…小声で本題に入る。
「で、昨夜の戦果は?」
微笑みながらごく普通にだべっている体を装ってはいるが、さくらの顔つきは真剣そのものだ。さくらはいずみの裏稼業を知るただ一人の友人。とはいえ、さくら自身も似た様な境遇だからなのだ…が。
「バッチリよぉ~ まっかせてぇ~」満面の笑顔で応えるが、額に縦線、頬に汗を流してのVサイン。
「…何かヘマやらかしたのね」
さくらには全く通じていない。
「はぅ~~。実は…ね。…」
いずみは諦めて事の顛末を話し出した。
しかし、「ぎゃはははっ!」すぐにさくらはお腹を抱えて大笑いし出だしてしまった。
「さぁ~~くぅ~~らぁ~~」
「ごめん。ごめん。でも大変だったのねぇ~」
笑いながらも労ってくれる言葉に、いずみの胸がきゅんとなる。
「あ~やっぱりさくらだけは、私がどんなに大変な思いしたか判ってくれるのねぇ~」
目頭が熱くなり…涙が出かかる。しかし…
「え? いずみ大変だったの??」
「へ?」
「………」
「…?…」
お互いに何かズレを感じて、目をパチクリさせる。が…さくらの方が若干早かった。
「私が大変だったって言ったのは、曳舟部長のことだよ? こんなぶっ飛んだお姫様の御付きなんて『大変』だなぁ~って…」
… … …
「さ、さくらぁ!!」
叫ぶと同時に手を伸ばす。が、さくらも大人しく掴まるはずがない。
脱兎の如く教室から飛び出して行く。
しかし、その時…
『アイキレッド推参! 俺は正義の…』
<ごっちぃぃぃぃぃ~~ん>
教室に飛び込んで来た一人の男子と大激突し、絡み合う様に倒れる。
<ぐぇ~>蛙が潰れたような声は、さくらがボディプレスの如く男子の腹の上に落下したためだ。
「きゃぁ~~」
「おいっ! なんだ今の音は!」
「誰か倒れてるぞ!」
クラスメートたちが騒然となって駆け寄ってくる。
「ああ、なんだ如月かぁ~。驚かすなよぉ~」
「びっくりしたじゃない。でも如月君なら大丈夫だねっ!」
何が大丈夫なのか不明だが、倒れていたのがさくらと“特撮ヒーローおたく”の如月湧だと判ると、皆すぐに感心を失い各々おしゃべりに戻った。
「み、みんな薄情だなぁ~(汗)」と、いずみ。
「うぉ~重いぞぉ~錯乱某(大昔のある漫画のお坊さんから)~」仰向けのまま湧が怒鳴り出した。
「きっさっらっぎぃ~~あんたはいつもいつも!」
さくらは上体を起こすと、そのまま馬乗りになって湧の襟首をムンズと締め上げる。
「ごれがぜいぎど(俺は正義の)ヒーローアイキレッドがぁ~(だぁ~)」首を絞められていても“ヒーロー”とキャラ名はきちんと発音するところが如月湧の痛いところだ。
「なんでもいい! いきなり飛び込んで来てゴタクならべるなぁ~」
さくらは怒りマックスで怒鳴る。が、
「あぅ~!」叫んだせいで一瞬意識が遠のく。
<するりっ!>
その隙をついて、湧は拘束から抜け出した。
「あ! きさらぎ! あぅ!! あ、あたまがっ!」
さくらは湧と激突した側頭部に手をあてがう。
「あ”~やっぱりコブになってるぅ~」
「自業自得。悪は必ず制裁を受けるのだ!」
そう言いながら、湧は奇妙なポーズをとる。それは一般人から見るととってもとっても痛々しい、特撮ヒーローが行う『決め』ポーズだった。
心の中で密かに湧は「決まった!」と満足した。
<バコッ!>
そして再び床に倒れる湧。
「教室でガキみたいに特撮ヒーローごっこするんじゃなぁ~~いっ!」
いずみが渾身の踵落としを湧に叩き込む(欄外に『危険ですから良い子はマネをしないでね』という文字がきっと浮かんでいただろう)。
床で大の字になって倒れている湧に、いずみの氷点下の眼差しが突き刺さる。
「…痛いぞ。水無月…何をする?」
「(ぴくっ)」
このリアクションがどこかの誰かと似ていたせいで、いずみは無意識に湧の腹を踏みつけた。
「ぐえっ。」しかし、うめきながらも湧は続ける。
「…水無月ぃ……パンツ見えてるぞ。」
途端にクラスメート男子の熱い視線がいずみのスカートに集中した。
「こ、こんの~~~みんな同罪だぁ!」と、叫ぶが早いかいずみは湧を男子生徒たちに投げつけた。
「ぉぃ! もう予鈴は鳴ったぞ。席につけ!」学級担任の板橋が教室に入って来たのはその直後のことである。
ドアの前で積み重なってる男子生徒を一瞥して、そのまま教壇に立つ。
「さて、水無月と如月は廊下で頭冷やして来い。他の者は早く席に着けよ。」
誰も何も言っていないのに、この担任教師は妙に勘が鋭く、物事の本質を見極めることが多い。だからさくらでさえ、いずみを擁護する暇が無かった。
「な、なんで私が…しかもこんなのと一緒に廊下に立たされなきゃいけないのよ」
いずみは深い溜息とともに、横で一緒に立たされているはずの湧を睨みつける。
「………。」
しかし、湧は奇妙なダンスを踊っていた。
「な、何やってるのよぉ。大人しく立っててよ。」
いずみが小声でどやしつけるが、湧は全く止めない。
「こんのォ~! 私まで怒られるで…しょ!」
“しょ!”のタイミングで左手でチョップを叩き込む。
湧は咄嗟に右手で受け、大きく腕を外回りに弧を描き、いずみの手を払う。
すぐさま二歩下がって、ファイティングポーズをとった。そしてその背後には板橋が無表情で立っていた。
「水無月、如月。お前たちは反省と言う言葉を知らんのか?」
「わ、私はただ、ふざけていた如月君を注意してただけで…」
「なら、その手はなんだ? どう見ても如月を叩き付けようとしたとしか見えないが…」
板橋は容赦なくいずみを追いつめる。
確かに今のいずみのポーズは戦闘状態にあった。
「あ、あ~これわぁ~」いずみはもはやパニック状態。そして本人の意思とは無関係に口が勝手に弁解しだした。
「如月君が間違えてるところを指摘していただけで、なぐるとかひっぱたくとかじゃ…」
「…なら、水無月も一緒に特撮ごっこしてたわけだな」
「はわぁ?」いずみは自ら墓穴を掘ったことにやっと気付いた。
「な、なんで私がこんな特撮ヒーローおたくと!」
気付いたが遅かった。そしてさらに穴を広げている。
「今、自分で言ったじゃないか。特撮ごっこしてたと…」
「『特撮ごっこ』じゃありません! 『特撮ヒーローごっこ』です。」
「…?…どこが違うんだ?」と板橋は首を傾げる。
「特撮というのは、特殊撮影したもの全てを指しますが、特撮ヒーローとはフィクションのキャラクターを人が演じて、特殊撮影などで超人的に見せたりする作品を言うんです。」
いずみは一気に捲し立てたが、湧以外に理解出来る者はいなかった。もちろんさくらは例外だ。
「………」
「…???…」
「水無月って如月と同じ様に『特撮ヒーローおたく』だったんだ…。」
何と発言していいのか判らないクラスメートの中で、いつも湧と特撮ヒーローごっこに興じている赤塚が“ぼそっ”と結論づけた。
「ち、ちがぁ~~うっ! 私は『特撮ヒーロー番組』のファンであって、決して『特撮ヒーロー』が好きな訳じゃないの!」
いずみ自爆。
「あ~あ、自分から宣言しちゃったよ…」さくらはクラスメートの陰で呟いた。
「あ~つまり、水無月も如月も特撮ヒーローが好きな訳で…そのまねをして騒いでいた。そういうことだな…よく判った。」
板橋の中で確固たるいずみ像が完成したようだ。
「ええっ~! 全然違いますよぉ!」
いずみは必死で抗議するが、板橋だけでなくクラスメートのほぼ全員が同じ印象をいずみに抱いていたのでは、誰も耳を傾けてはくれるはずがなかった。
「私は『特撮ヒーロー』が好きなんじゃなくて、演じてる『流一星さん』が好きなの!」
「…」誰も何も言えなかった。というより、“流一星”って誰? とか言ってるヤツがいる。
いずみはみんなの反応が理解できない。
「あれ? みんな?」
「いずみ。気持ちは判るけどね、みんな“中”の人のことは知らないと思うよ。」さくらが宥める様に呟いた。
「え? ええっ! あの“超”有名人のスタントマンというかスーツアクターの流さんよ?」
「まずはスーツアクターという言葉すらみんな知らないと思うな…」いずみが可哀想になってきて、もうからかう気分が失せていた。
「なんだ水無月も流さんのファンだったんだ。気が合うなあ。」
全てをぶちこわす湧のほがらかなセリフが、いずみの最後の何かをぶった切った。
「よく考えたら…全て…お前が悪いんだろぉ!」
叫びながらいずみは未だかつてないパワーで湧に掌底を叩き込んだ。
<ずがががん>
強烈な破裂音とも衝撃音ともつかない爆音が教室を満たし、湧は教室の窓から空へ飛び出していった。
ここは4階。しかも湧が飛んで行ったのは校外の隣接する築地川公園だった。
冗談抜きで殺傷事件になってしまった!
誰もが加害者のいずみに恐怖の眼差しを向ける。
さすがに板橋も慌てて教室を飛び出して行く。
クラス内がシンと静まりかえった。いずみは未だに掌底を打ち込んだままの姿勢で固まっていた。
(ど、どうしよ。あれほどひとにむけてうちこんではいけない。とおじいちゃんにいわれてたのに…)思考が停止気味なので、漢字に変換できず全てひらがな思考になっている。
「わ、わたし…どうしよう」
「いずみ…」さすがにさくらですらかける言葉がなかった。
クラスメートたちは徐々にいずみから離れ、教室を出て行こうとしていた。
その時…窓の外から…
「いってぇ~~~~なぁ~~水無月ぃ! 少しは手加減しろぉ!」
「…げ! 湧が生きてる! ていうか、飛び跳ねてるぞ!」赤塚が窓際で叫び声というより悲鳴をあげた。
「あいつ本当に人間か?」
「おい、如月! お前何ともないのか?」板橋が奇声をあげているのが聞こえてきた。
クラスメートはこの日を境に如月湧と水無月いずみの二人をリアル超人と認定。畏怖の対象とした。とか、しなかったとか…。
<つづく>
時刻は8時5分前。運動部員なら当然朝練があるので、遅すぎる登校だ。
「まぁ~ったく大ちゃんは融通が利かないんだからぁ~」
いずみは横で涼しい顔をしている曳舟大介を睨みつけた。
「少しはかばってくれてもいいじゃないっ!」
昨夜の一件でいずみは祖父に「恐怖のグリグリ(いずみが命名)」をくらった。
それは当然のことながら、大介が状況をきちんと正確に報告したためだ。
「大ちゃんの石頭っ!」
色々罵詈雑言を並べるがノーリアクションである。
そのまま自分の下駄箱にむかって遠ざかって行く。
「むぅ~。べぇ~~~っだ」
その後ろ姿を睨みつけてから、いずみも自分の教室にむかった。
「ほぉ~、今日も夫婦仲良くご出勤ですかぁ~。いやぁ~羨ましい限りですなぁ~」
いずみが自席に付くと同時に、前の席のさくらが振り向き、中年親父のようなセリフを宣った。
「そんなんじゃないわよぉ~…? え? 夫婦ぅ~誰がぁ??」
素で応えるいずみに、さくらの方がずっこける。
「ま、まぁいいわ。いずみにこのネタは無意味だったね。」さくらはこめかみを揉みながら…小声で本題に入る。
「で、昨夜の戦果は?」
微笑みながらごく普通にだべっている体を装ってはいるが、さくらの顔つきは真剣そのものだ。さくらはいずみの裏稼業を知るただ一人の友人。とはいえ、さくら自身も似た様な境遇だからなのだ…が。
「バッチリよぉ~ まっかせてぇ~」満面の笑顔で応えるが、額に縦線、頬に汗を流してのVサイン。
「…何かヘマやらかしたのね」
さくらには全く通じていない。
「はぅ~~。実は…ね。…」
いずみは諦めて事の顛末を話し出した。
しかし、「ぎゃはははっ!」すぐにさくらはお腹を抱えて大笑いし出だしてしまった。
「さぁ~~くぅ~~らぁ~~」
「ごめん。ごめん。でも大変だったのねぇ~」
笑いながらも労ってくれる言葉に、いずみの胸がきゅんとなる。
「あ~やっぱりさくらだけは、私がどんなに大変な思いしたか判ってくれるのねぇ~」
目頭が熱くなり…涙が出かかる。しかし…
「え? いずみ大変だったの??」
「へ?」
「………」
「…?…」
お互いに何かズレを感じて、目をパチクリさせる。が…さくらの方が若干早かった。
「私が大変だったって言ったのは、曳舟部長のことだよ? こんなぶっ飛んだお姫様の御付きなんて『大変』だなぁ~って…」
… … …
「さ、さくらぁ!!」
叫ぶと同時に手を伸ばす。が、さくらも大人しく掴まるはずがない。
脱兎の如く教室から飛び出して行く。
しかし、その時…
『アイキレッド推参! 俺は正義の…』
<ごっちぃぃぃぃぃ~~ん>
教室に飛び込んで来た一人の男子と大激突し、絡み合う様に倒れる。
<ぐぇ~>蛙が潰れたような声は、さくらがボディプレスの如く男子の腹の上に落下したためだ。
「きゃぁ~~」
「おいっ! なんだ今の音は!」
「誰か倒れてるぞ!」
クラスメートたちが騒然となって駆け寄ってくる。
「ああ、なんだ如月かぁ~。驚かすなよぉ~」
「びっくりしたじゃない。でも如月君なら大丈夫だねっ!」
何が大丈夫なのか不明だが、倒れていたのがさくらと“特撮ヒーローおたく”の如月湧だと判ると、皆すぐに感心を失い各々おしゃべりに戻った。
「み、みんな薄情だなぁ~(汗)」と、いずみ。
「うぉ~重いぞぉ~錯乱某(大昔のある漫画のお坊さんから)~」仰向けのまま湧が怒鳴り出した。
「きっさっらっぎぃ~~あんたはいつもいつも!」
さくらは上体を起こすと、そのまま馬乗りになって湧の襟首をムンズと締め上げる。
「ごれがぜいぎど(俺は正義の)ヒーローアイキレッドがぁ~(だぁ~)」首を絞められていても“ヒーロー”とキャラ名はきちんと発音するところが如月湧の痛いところだ。
「なんでもいい! いきなり飛び込んで来てゴタクならべるなぁ~」
さくらは怒りマックスで怒鳴る。が、
「あぅ~!」叫んだせいで一瞬意識が遠のく。
<するりっ!>
その隙をついて、湧は拘束から抜け出した。
「あ! きさらぎ! あぅ!! あ、あたまがっ!」
さくらは湧と激突した側頭部に手をあてがう。
「あ”~やっぱりコブになってるぅ~」
「自業自得。悪は必ず制裁を受けるのだ!」
そう言いながら、湧は奇妙なポーズをとる。それは一般人から見るととってもとっても痛々しい、特撮ヒーローが行う『決め』ポーズだった。
心の中で密かに湧は「決まった!」と満足した。
<バコッ!>
そして再び床に倒れる湧。
「教室でガキみたいに特撮ヒーローごっこするんじゃなぁ~~いっ!」
いずみが渾身の踵落としを湧に叩き込む(欄外に『危険ですから良い子はマネをしないでね』という文字がきっと浮かんでいただろう)。
床で大の字になって倒れている湧に、いずみの氷点下の眼差しが突き刺さる。
「…痛いぞ。水無月…何をする?」
「(ぴくっ)」
このリアクションがどこかの誰かと似ていたせいで、いずみは無意識に湧の腹を踏みつけた。
「ぐえっ。」しかし、うめきながらも湧は続ける。
「…水無月ぃ……パンツ見えてるぞ。」
途端にクラスメート男子の熱い視線がいずみのスカートに集中した。
「こ、こんの~~~みんな同罪だぁ!」と、叫ぶが早いかいずみは湧を男子生徒たちに投げつけた。
「ぉぃ! もう予鈴は鳴ったぞ。席につけ!」学級担任の板橋が教室に入って来たのはその直後のことである。
ドアの前で積み重なってる男子生徒を一瞥して、そのまま教壇に立つ。
「さて、水無月と如月は廊下で頭冷やして来い。他の者は早く席に着けよ。」
誰も何も言っていないのに、この担任教師は妙に勘が鋭く、物事の本質を見極めることが多い。だからさくらでさえ、いずみを擁護する暇が無かった。
「な、なんで私が…しかもこんなのと一緒に廊下に立たされなきゃいけないのよ」
いずみは深い溜息とともに、横で一緒に立たされているはずの湧を睨みつける。
「………。」
しかし、湧は奇妙なダンスを踊っていた。
「な、何やってるのよぉ。大人しく立っててよ。」
いずみが小声でどやしつけるが、湧は全く止めない。
「こんのォ~! 私まで怒られるで…しょ!」
“しょ!”のタイミングで左手でチョップを叩き込む。
湧は咄嗟に右手で受け、大きく腕を外回りに弧を描き、いずみの手を払う。
すぐさま二歩下がって、ファイティングポーズをとった。そしてその背後には板橋が無表情で立っていた。
「水無月、如月。お前たちは反省と言う言葉を知らんのか?」
「わ、私はただ、ふざけていた如月君を注意してただけで…」
「なら、その手はなんだ? どう見ても如月を叩き付けようとしたとしか見えないが…」
板橋は容赦なくいずみを追いつめる。
確かに今のいずみのポーズは戦闘状態にあった。
「あ、あ~これわぁ~」いずみはもはやパニック状態。そして本人の意思とは無関係に口が勝手に弁解しだした。
「如月君が間違えてるところを指摘していただけで、なぐるとかひっぱたくとかじゃ…」
「…なら、水無月も一緒に特撮ごっこしてたわけだな」
「はわぁ?」いずみは自ら墓穴を掘ったことにやっと気付いた。
「な、なんで私がこんな特撮ヒーローおたくと!」
気付いたが遅かった。そしてさらに穴を広げている。
「今、自分で言ったじゃないか。特撮ごっこしてたと…」
「『特撮ごっこ』じゃありません! 『特撮ヒーローごっこ』です。」
「…?…どこが違うんだ?」と板橋は首を傾げる。
「特撮というのは、特殊撮影したもの全てを指しますが、特撮ヒーローとはフィクションのキャラクターを人が演じて、特殊撮影などで超人的に見せたりする作品を言うんです。」
いずみは一気に捲し立てたが、湧以外に理解出来る者はいなかった。もちろんさくらは例外だ。
「………」
「…???…」
「水無月って如月と同じ様に『特撮ヒーローおたく』だったんだ…。」
何と発言していいのか判らないクラスメートの中で、いつも湧と特撮ヒーローごっこに興じている赤塚が“ぼそっ”と結論づけた。
「ち、ちがぁ~~うっ! 私は『特撮ヒーロー番組』のファンであって、決して『特撮ヒーロー』が好きな訳じゃないの!」
いずみ自爆。
「あ~あ、自分から宣言しちゃったよ…」さくらはクラスメートの陰で呟いた。
「あ~つまり、水無月も如月も特撮ヒーローが好きな訳で…そのまねをして騒いでいた。そういうことだな…よく判った。」
板橋の中で確固たるいずみ像が完成したようだ。
「ええっ~! 全然違いますよぉ!」
いずみは必死で抗議するが、板橋だけでなくクラスメートのほぼ全員が同じ印象をいずみに抱いていたのでは、誰も耳を傾けてはくれるはずがなかった。
「私は『特撮ヒーロー』が好きなんじゃなくて、演じてる『流一星さん』が好きなの!」
「…」誰も何も言えなかった。というより、“流一星”って誰? とか言ってるヤツがいる。
いずみはみんなの反応が理解できない。
「あれ? みんな?」
「いずみ。気持ちは判るけどね、みんな“中”の人のことは知らないと思うよ。」さくらが宥める様に呟いた。
「え? ええっ! あの“超”有名人のスタントマンというかスーツアクターの流さんよ?」
「まずはスーツアクターという言葉すらみんな知らないと思うな…」いずみが可哀想になってきて、もうからかう気分が失せていた。
「なんだ水無月も流さんのファンだったんだ。気が合うなあ。」
全てをぶちこわす湧のほがらかなセリフが、いずみの最後の何かをぶった切った。
「よく考えたら…全て…お前が悪いんだろぉ!」
叫びながらいずみは未だかつてないパワーで湧に掌底を叩き込んだ。
<ずがががん>
強烈な破裂音とも衝撃音ともつかない爆音が教室を満たし、湧は教室の窓から空へ飛び出していった。
ここは4階。しかも湧が飛んで行ったのは校外の隣接する築地川公園だった。
冗談抜きで殺傷事件になってしまった!
誰もが加害者のいずみに恐怖の眼差しを向ける。
さすがに板橋も慌てて教室を飛び出して行く。
クラス内がシンと静まりかえった。いずみは未だに掌底を打ち込んだままの姿勢で固まっていた。
(ど、どうしよ。あれほどひとにむけてうちこんではいけない。とおじいちゃんにいわれてたのに…)思考が停止気味なので、漢字に変換できず全てひらがな思考になっている。
「わ、わたし…どうしよう」
「いずみ…」さすがにさくらですらかける言葉がなかった。
クラスメートたちは徐々にいずみから離れ、教室を出て行こうとしていた。
その時…窓の外から…
「いってぇ~~~~なぁ~~水無月ぃ! 少しは手加減しろぉ!」
「…げ! 湧が生きてる! ていうか、飛び跳ねてるぞ!」赤塚が窓際で叫び声というより悲鳴をあげた。
「あいつ本当に人間か?」
「おい、如月! お前何ともないのか?」板橋が奇声をあげているのが聞こえてきた。
クラスメートはこの日を境に如月湧と水無月いずみの二人をリアル超人と認定。畏怖の対象とした。とか、しなかったとか…。
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