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第10章

10-05導尊

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 「導尊というのは俗称だったらしい。その魔人は孝謙上皇の寵愛を得た僧・道鏡ではないかと言われている」
 流は複雑な表情でいずみたちに語る。
 「どうきょう? 誰?」
 歴史に疎いわけではないが、さすがに奈良時代のことまではいずみも詳しくない。
 「奈良時代末期に法王にまで登りつめ、権勢を振るった僧だ。最終的に皇位継承者に擁立させたけど、藤原百川らに阻まれた挙句に称徳天皇が没すると失脚した。
  藤原一族を恨み、桓武天皇が長岡京に遷都するために工事責任者に選んだ藤原種継を暗殺したと言われている」
 「言われている…ってことは確かな証拠はなかったの?」
 「その通り。道鏡はしゅにより呪い殺したというが、その暗殺を行ったのが導尊だ」
 「え? ちょっと待って。導尊って道鏡のことなんでしょ? 呪った本人が別人を演じて暗殺したってこと?」
 「別人を演じたのではない。呪いで導尊という人物を生み出したのだ」
 「生み出した? 呪いで? どんだけ強い呪いなのよっ!」
 相手を殺すまで呪うという、尋常じゃない執念が理解できない。
 とはいえ、確かに能力者ならそれも可能なのかもしれないと少し思った。
 「道鏡はよく安倍晴明の敵対勢力の首領とされているが、生存時期が不明だ。だから真偽は定かではないが、かなり強力な能力者ではあったと思われる」
 「流さんでもわからないんですか?」
 湧は意外そうな声音で尋ねた。
 「俺だって何でも知ってるわけじゃないよ。アルフでさえ3次元特有の時系列的時代背景を把握してるわけじゃない」
 「ま、話を聞いてると興味のないものには全く頓着しないようだしね」
 大介が苦笑いしながら引き継いだ。
 「そういう人外が蔓延はびこってる時代だから、初代は力を欲していたんだろうと思う。何故かというとその導尊は道鏡本人とは分裂して、怨霊として独立してしまったからだ」
 「は? 独立…して、しまったぁ~~~?」
 いずみが素っ頓狂な声で叫ぶ。
 「驚くほどのことじゃない。その時代では稀にあることらしい」
 「あることらしいって、そんな化け物とどうやって闘うのよっ!」
 「だから初代は力を欲したと言っただろう」
 「その答えがアルファブラッド…なんですか?」
 湧が割り込んだ。険しい眼差しで流をにらむ。
 「そういうことだ。そしてアルファブラッド化のためには多大な犠牲が必要となる」
 「あっ! それがあの人体実験?」
 「そうです。古文書に書かれていたと思いますが、誰でもアルファブラッド化できるわけじゃない。ところが大陸で道教の修行を耐え抜いた初代は、アルフのイメージを的確に具現化して水無月一族のアルファブラッド化に成功した」
 「水無月一族って、それじゃあ私たちは…私たちのルーツって、アルフ…なの?」
 いずみには薄々予感があった。しかし、それが現実であり、真実だとはなかなか受け入れられなかった。
 水無月一族は決して表舞台に出ないという厳命の元、朝廷の影の実行部隊という位置付けになる。
 「ルーツというより、みんながアルフそのものだ」
 流は何気に断言した。
 「「「「「へ?」」」」」
 5人は同時に絶句した。
 「あ? あれ? ルイーナは驚かないの?」
 「…ごめんなさい。私…知ってました。ただ、宗主に口止めされてて…」
 「「「「「エエッー!?」」」」」
 ルイーナは都立築地川高校に留学する時、宮内庁を通じて宗主にその身元全ての情報を通知されていたという。
 しかし、敵対勢力から逃れるために表向きはあくまで留学生とし、宗主以外の水無月家スタッフ全てにも極秘とされていた。
 「で、今それを暴露していいの? おじい…宗主以外には内緒なんでしょ?」
 「ここまで情報開示していては全く意味がないからな。これで彼女も完全に水無月家の一員じゃよ」
 後ろから宗主が事も無げに笑って認めてしまった。
 「おじいちゃん。お願いだからもう少し私たちを信じてよぉ」
 いずみは涙目になって訴えた。
 「さて、話が脱線しまくってるから、元に戻すぞ」
 流は途端に真顔に戻り、いずみを見つめた。
 「へ? 私?」
 「姫は、アルフとは何かそろそろ分かりましたか?」
 目をパチクリさせて頭を左右に振りまくった。
 「流さん。今までの話だとアルフっていつもどこにでもいるみたいだけど…」
 「そうです。こういう状況って何かに似てると思いませんか?」
 「何か?」
 いずみは首をかしげて考える。
 「もしかするとネットワークのことですか?」
 横から湧が聞いてきた。
 「そう。その通りだ。しかし、この世界のネットワークとは違って個々の連携は取れない」
 「それはどういう?」
 「君たちも経験したと思うが、パラドックスプロテクションのせいだ」
 「あ、そうか。時間を超えた存在でありながら、過去への情報伝達はできない?」
 湧が納得げに口にした。
 「厳密に言えば、過去への情報伝達はアルフなら可能だ。しかし、時空間を超越した時点で物質的肉体と融合しているアルフへはプロテクトされてしまうらしい」
 流の説明によれば、人間と融合していない状態ならばどの時代であろうがアルフ同士の意思伝達はできる。というより、融合していない状態というのは統一された思念体だから、伝達できるできないという問題ではないのだ。
 「と、いうと。融合するというのは本体から一定の思念を分離するということですか?」
 湧はなんとなくアルフのイメージが理解出来るようになってきた。
 最近まで、単に母親を殺した真の敵だと思い込んできたが、この数ヶ月の出来事で母親を死に至らしめたのは、もっと別のモノだと思い始めていた。
 「アルフは人間とは全く異なる思念を持っている。しかし、アルフ自身が人間に興味を抱き、理解しようとしてることはなんとなく理解してもらえたと思う」
 「そうでしょうか? 私にはまだアルフが信用できる存在だとは思えません」
 流の言葉に強く反発したのは意外にもルイーナだった。
 6人の中では一番アルフに精通していると思えたルイーナだが、6次元においてアルフが行った凶悪な事件をルイーナは片時も忘れることができない。
 両親家族や友人を根元たる思念体もろとも消滅させたことは、たとえ悪意がなかったと言っても許されるものではないのだ。
 アルフ自らが行ったかどうかは未だに不明だが、原因がアルフであることに変わりはなかった。
 「やはり、そのことを伝えなくてはならないようだな」
 流が静かにそして厳かな声音で呟いた。
 「そのことって?」
 いずみが訝しげな声で問い正す。
 「全ての遠因は我々水無月家の存続に関わるものだから、決して口外しないと誓約してほしい。もし破られれば、水無月家の名誉にかけてそのものを抹殺するから覚悟して聞いてくれ」
 冷たく鋭い光を目に流が語りだした。

 約1300年前に行われた平安京(現在の京都)への遷都。それは最初から波乱含みだった。
 表立った問題は様々な文献に紹介されているが、人外に関するものは編纂しようとするものが次々と変死を遂げたため、完成できたものは水無月家に伝わる“亜留符”という文献のみだった。
 この本は初代宗主が考案した将棋用の文字一文字一文字に念を込め、導尊との闘いを記録したものだ。
 強力な念のために導尊の呪(しゅ)が入り込めず、宗主及び陰陽師の正しい記録を記すことができたのだ。
 やがて、宗主や道鏡が没した後も闘いは続いてゆくが、水無月家の一族によって現代まで連綿と紡がれているのだった。
 「平安時代や江戸時代はアルファブラッドの能力も精神修行で強化されてきた。しかし、明治大正昭和という科学が急速に発達するにしたがって、何故か思念の力が目に見えて低くなってしまった。アルファブラッド化についても一族の中でも60%を下回る遺伝率となった」
 「遺伝率? そんな話聞いてないわよ?」
 思わずいずみが割り込んだ。
 「姫が文句を言う気持ちは分かります。アルファブラッドについては、一族の中でもまだほんの一部のものしか知りませんから。しかし、特別な血であることは幼い頃からお聞きになっているでしょう」
 「うん。でも名前もその本当の効果を知ったのはつい最近よ?」
 「そりゃそうでしょう。極秘、いや国家機密ですから」
 いずみや流などが一箇所(日本全国に分家<支部のようなもの>がある)に集められ、宮内庁のSPが絶えず警護している。
 このSPたちは防衛省や警察庁とは全く繋がりがない。強いて言えば宮内庁を通じてアメリカ国家安全保障局とのパイプが唯一、外部との情報交換ルートだ。
 そして、このアルファブラッドを存続させるために、人為的(今までも一応は人為的ではある)に生み出そうと計画される。
 が、最初の人為的アルファブラッド化に成功した時に消費した電力量は、想像を遥かに超えていた。
 加水圧型原子炉約6機分のエネルギーを1時間で消費するほど膨大なものだった。
 これでは現実的な量産は不可能。しかも年々原子炉は廃炉され、代替エネルギーの確保が困難な状況に追い込まれてしまった。
 「その時、如月湧君の父上が考案された全く新しいエネルギープラントの“ソウルコンバーター”が発表された」
 「あ!…」
 湧は一言息を漏らすような声を上げたが、再び口をつぐんだ。
 化石燃料を一切使用せず、排出物質は全くなし。のちにダークマターの一種と言われるエーテルという未知なる物質ではあったが、人体も環境にも影響がないことが実証されて、一躍エネルギープラントの代名詞にまでなる。
 巨大な施設や敷地を必要とせず、4トントラック数台分の敷地で原子炉1基分のエネルギーを供給できる。マンションや工場でも自家発電装置として導入され始め、この10年で原子力・火力・水力・風力など国内の発電所の総発電量の約5倍の電力を提供した。
 「でもさ。いいことずくめのように聞こえるけど、あの築地川高校での事件はなんだったの?」
 いずみが指摘するまでもなく、湧や大介たちも眉間に皺を寄せていた。
 「これは柳瀬川家の報告だが、“ソウルコンバーター”の原料とされている“エーテル”はダークマターの一種と言われているが、その一部は異次元の思念エネルギーである可能性が高いということだ」
 「思念エネルギー? それって思念体ってこと? ?…あれ? それって、アルフや有紀さん、さくらと同じ?」
 「そういうことだ。つまり…」
 そう言いながら流はルイーナを見つめた。
 当然、ルイーナの顔色は既に真っ青になっている。
 そして呻くように呟いた。
 「6次元のみんなは…ソウルコンバーターの…?」
 ルイーナは視線を彷徨わせ、最後に湧を見つめた。
    <続く>
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