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第10章

10-04怪異

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 「流さんがアルフから分裂したベータと組んで一般人を襲ってたんじゃないの?」
 いずみがストレートに問い正す。
 「まさか。俺はてっきり姫たちがあのカニで物の怪を狩ってるのかと思ってましたよ?」
 「え? 物の怪?」
 いずみは頭の上に???と見えるような表情で押し黙る。
 「流さん、あのクリーチャーが襲っていたのは物の怪じゃなく、一般の人間ですよ?」
 大介が補足すべく会話に加わった。
 「何を…何を言ってるんだ?」
 困惑する流。しかしすぐにお互いの認識に決定的な齟齬があることに気づく。
 「君たちは銀座や昭和通りで襲われたのは、無関係な一般人だと思ってたのか?」
 「え? だって普通に買い物してたり、車を運転して昭和通りを走ってた人たちですよ?
一般人じゃなきゃ彼等は何なんですか?」
 「…そうか…。君たちはまだ覚醒してなかったね。ああ、曳舟は覚醒したばかりのようだが…」
 流は落胆したような声音で呟いた。
 「そうか…」
 流は再び呟く。そして…
 「これ以上はもう待てないな。宗主、今後彼等の覚醒と強化は私に一任していただけますか?」
 「そうだな。君に任せることにしよう」
 いきなり背後から現水無月家宗主 水無月兼成が現れた。
 「お、おじい…そ、宗主ぅ?」
 いずみは飛び上がるほど驚いた。湧も身構え、大介は即座にルイーナを庇う。
 坂戸も同じく初美を庇った。
 「ど、どういうこと? なんで宗主がここに?」
 兼成はいずみを睨み、それ以上口を出せないように牽制する。
 「みんなには今まで独自に問題解決させるため、必要最低限の情報しか与えずにおった。じゃが、ついに敵は本格的に行動を始めたようじゃ」
 「最低限の情報? 敵が本格的に行動? どういうこと?」
 「いずみ! それを今から説明するというんだ。まずは話を聞いて現状を理解せよ!」
 「は、はいっ!」
 兼成の眼光はいずみを一喝した。

 流の話はいずみや湧にとって正に青天の霹靂だった。
 今まで敵だと信じていたアルフは単なる個体名ではなく、次元を超えたネットワークともいうべき存在だった。
 そして、今まで被害者だと信じて疑わなかった人々は、怪異が人間に化けていたという。
 問題は、水無月家が1200年もの間除霊してきた物の怪が、この数年の間に変化を遂げて人間に極めて近い“人外”となったものだという。
 流の調査ではその原因が“ソウルコンバーター”にあるらしいと判明した。
 湧の叔父、神城直哉も如月博士の行方を追っていたが一向に足取りが掴めない。
 やがて湧が殺害され、いずみが襲撃されるなど、物の怪側の凶暴性が激化してゆく。
 物の怪の統制がとれた動きは、明らかに何者かの仕業だと気付いた流は、対抗手段を思案する。
 「ネットワークとは言っても俺たちがいうものとは違い、時間的なつながりはほとんどない。一定の期間に目的が達成できればいいらしく、アルフ自身の融合の繰り返しは一本の糸のようにつながっているんだ」
 「(-。-;)え?」
 真っ先にいずみが呆れた声で返した。
 「融合中はアルフの思念は孤立する。まぁパソコンで言えばスタンドアローン状態だ。それを時間に関係なく繰り返し、一定の目的をその融合者と共に一生をかけて達成する。融合者はアルフの存在を意識できるものの、コミュニケーションは取れないから神の啓示のような感覚で受け止め、自ら目標に向かって難題に挑戦するんだ」
 時間に関係ないとはいえ、アルフの目的達成のために必要となる技術が、都合よく確立できるとは限らない。
 その場合は、必要になる時代までにその技術が確立できるよう過去の研究者との融合を行う。
 ここのつながりはないものの、必要な技術が揃った時代の研究者と融合し、次のステップに移行するという。
 まさに時間を超越した壮大なプロジェクトと言える。
 「そこまでしてアルフは何がしたいの? それに本当の敵って?」
 すっかり黙り込んでしまったルイーナに代わって、いずみが聞いた。
 「ルイーナくんが話していたようにアルフ自身の肉体の創作だが… ?」
 ルイーナの様子がおかしいことに気付き、流は話を中断した。
 「ルイーナ? どうしたの?」
 3次元に来て今まで100年以上もかけて調査したことが、半分も解明できていなかったことに強い衝撃を受け、ルイーナは自信喪失のために意識を失いかけていた。
 「え? な、何?」
 虚ろな目でなんとか反応する。
 「余程ショックだったんだろう。今は悪いが先に進める」
 苦笑いしながらも流は先を続けた。
 「アルフは一番初めに22世紀のアメリカに降臨?というか、現出した。そして人類とのコンタクトを試みた。その頃は思念体というものが科学的にも認識されていたが、まだ一般的なものではなかった」
 同じ人間同士の思念はコミュニケーション可能だったが、動物や植物とは意思の疎通は未熟だ。まして異世界というか異次元の思念体とは共通するプロトコル(対話のための取り決め)がない。
 アルフはしばらくの間は人間を研究し、肉体・思念体・霊体の三身が一つとなって成り立っていることを知る。
 霊体がどういう働きをするのかが最後まで理解できなかったらしいが、思念体に関しては3次元のイメージなら意思の伝達ができることに気付いた。
 アルフは最初の人間にイメージを送り込み、その相手が認識できるイメージを模索した。
 やがて人間のことを知るようになったアルフは、その人間と思念交流をしたいと考える。
 その方法がイメージによる情報の交換だった。
 アルフにとって常識(大いなる宇宙空間の法則)も人間には知る由も無い。
 そこで地球上の遺跡と言われる場所や宝物、宗教上の伝承などを修正してイメージを送り込んだ。
 「が、人間には記憶できる量に制約がある。それは普通に生きていた場合200年前後で限界となる。もちろんアルフはそんなことは知らないため、一瞬にして限界を大幅に超えた情報を与えてしまった」
 「記憶の限界? どういうこと?」
 「つまり大脳皮質が記録できる総容量だ。通常なら必要のない情報は削除さ(忘)れることによって、容量の最適化がなされている。しかし…」
 流が眉間に皺を寄せて言葉を途切らせた。
 「まさか! 頭がボン!…って?」
 「その通り。脳内圧が一瞬にして増大し、頭が破裂した… らしい」
 「げっ! 本当にぃ?」
 普通という状況が果たしてあるのか不明だが、脳内圧が上がると脳内の血管が破裂する。
 一般的に脳溢血・脳内出血という状況だ。もちろん本人はその時点で意識不明もしくは死亡するために頭蓋骨が破裂することはない。
 しかし時間的経過がない状況で脳が数十倍に膨れたら…。
 アルフがその失敗に気付くまで数人の犠牲があった。
 「ぉぃぉぃ…、単なる人体実験じゃん!」
 いずみは心底苦い顔で叫んだ。
 あまりにも脆弱な人間の身体。しかしアルフは失望というものを知らない。
 そこでどんな状況にも耐えうるように、人間の改造を決心する。
 「それ、もしかすると、アルファブラッド のこと?」
 「俺も最初はそうだと思った。しかし事態はアルフの予想すら…というのもおかしいが、考えの外で起こった」
 「? どういうこと?」
 「実は22世紀の後半はエネルギー資源の枯渇によって、電力を含むあらゆるエネルギーが不足した。水素燃料も水素の生成過程において、グレー水素は製造禁止。ブルー水素も二酸化炭素の排出量が厳格に規制されているために、工業用に利用できる量は確保できない。グリーン水素のみ制限を受けないものの、肝心な再生可能エネルギー自体が不足していて、電力をまかなうには及ばなくなってしまった」
 「で?」
 「人間の身体を強化する手段が無くなった」
 「でもアルファブラッドは実現したんですよね?」
 いきなりルイーナが割り込んできた。顔色は良くないがやっと自分が理解できる話になったので、無理にでも会話に加わってきたのだ。
 「そう。しかし22世紀の世界では不可能と知り、アルフは過去の地球に向かうことになった」
 「過去? それが今私たちのいる21世紀?」
 「いや。1300年前だ。アルフは世界各国に現出し、アルファブラッドの元になる人体強化の研究… いや正直に話そう、を始めた。が、中国は人口が多いにもかかわらず何故か研究できる環境になかった」
 「環境? だって大々的に研究するわけじゃないんでしょ?」
 「そりゃそうだ。問題はアルフがコンタクトできる思念レベルじゃなかったんだ」
 「… な、なんとなく判った」
 今度はいずみが苦笑いした。
 「最初の変化はイギリスだった。産業革命は最初の融合者が牽引役となった。しかし物質に拘りすぎたため、アルファブラッドのような顕著な人体強化には至らなかった」
 「え? あれは人類史の中でも突然変異くらいの大事件じゃなかった?」
 「逆にそれが人体ではなく、産業・機械文明の変革に向かったんだ。それより意外な変化は日本で起こった」
 「あ、もしかすると初代宗主?」
 「実際にはそれより100年以上前だけどね。ある村に疫病が流行し、アルフの融合者が原因を究明した。それは病原菌や毒などのではなく、の仕業だと」
 「物の怪って私たちが除霊してる…アレ?」
 「そうだ。そしてそれは人の恨みによるものだと…。融合者はそれをしゅと呼んだ」
 「それって陰陽師の?」
 「おいおい。陰陽師が呪を操るわけじゃないぞ。逆だ。呪を解く方だ」
 大介が困ったように付け加える。
 「あ、そうか」
 「俺たち水無月家は一般的には“魔術”と呼ばれている能力を“方術”、“魔力”を“験力”と呼ぶ。それは言葉にも呪が篭り、負の力を生むからだ。言霊とも言われている」
 流がみんなを見回して告げる。
 「俺たちは些細な負の力も取り込んではならない。話がずれたが、まさにそこに水無月家とアルフの関係があるんだ」
 「!まさか、初代宗主も…アルフ?」
 「半分正解だ。初代宗主はアルフの存在を知り、アルフの希望を知り、そして日本の平安を守るためにはアルフの協力が必要不可欠だと確信した」
 「じゃあアルファブラッドの第一号って初代?」
 「まさか。それじゃあアルフの力に宗主が気付くはずがないだろう。最初はやはり何人も犠牲を出したが、アルフが人間の生態について徐々に理解し始めて血液の働きに気付く。そして肉体自体の強化ではなく血液に力を与えることにしたんだ」
 「あ、古文書! アルフについて書かれていた古文書って…、あれ? でもあれは400年前か」
 「姫が言ってる古文書ってこれですか?」
 そう言って流はその古文書をパタパタと振ってみせた。
 「え? あ、そうです。?でもなんで? ここに?」
 「ほほほ、それはお前たちを試すために用意したものじゃ」
 「え? おじい…宗主? 試すって、でも書かれたのは400年以上前でしょ?」
 「じゃから作った後、400年前に置いてきたのじゃよ」
 「…… …へ?」
 いずみは何を言われたのか理解できなかった。
 確かに400年前に置いてきたなどと言われても理解出来る人間はいないだろう。
 「初代宗主はアルフを知り、アルファブラッドを知り、自分たちに何が必要かを知った上でアルフの協力者となった。そしてその子孫がアルファブラッドを伝承し、水無月家は朝廷の命を受け、影の実行部隊として本当の敵、物の怪を操る“魔人”導尊と戦うことになったのだ」
 「魔人? どうそん? 誰それ?」
 いずみは流や宗主の話している内容がますます理解できなくなってきた。
 もっともそれは湧やルイーナ、大介も同様だった。
    <続く>
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