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第10章

10-03それぞれの立場

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 アルフは高次元…この3次元から見れば10次元以上の世界の存在だった。
 以上というのは10次元以上の世界では物質というものが存在できないらしい。
 そもそも次元という概念自体、3次元特有の考え方とも言える。
 高次元は次元という概念すらも超えた思念エネルギーのみ存在(この表現自体が不適切だろうが…)できる宇宙だという。
 思念は揺らぎによって様々な思考を行っている。
 アルフもその一部だった。
 揺らぎが発生することで空間の一部に重力が生まれ、エネルギーの偏りが起こる。
 揺らぎの規模(思考する力)が大きいと本体から分離することがあり、その思念は単独の空間を生み出す。
 それが下位次元を巻き込んで新しい宇宙を形成する。
 いわゆる宇宙の誕生と言われるインフレーションとなり、内包されたエネルギーが爆発的に膨らむ。
 しかし、アルフは元の空間で発見した3次元に興味を持ち、分離することを回避して思念を3次元の、しかも人類が天の川銀河と呼称する小さな星の集団に集約した。
 そして天文学的に奇跡的な確率で地球上に現れた“生命体”という物体を発見する。
 そしてアルフから見れば、時間的には瞬間的な栄華を謳歌する“人間”に興味を抱いた。
 永遠の命を持つアルフは、一瞬で滅びる3次元の生命体に憧れたのだ。
 自分もその一瞬の命を経験しようと、自らの意識をたった1万年の時間という枠に固定させた。
 ただしアルフには“命”というものが、どういうものなのかはなかなか理解できなかった。

 流はそこで話を区切る。
 「命…、思念は時間に捉われずに存続できるが、肉体の寿命からはこの3次元では逃れることはできない」
 「だから次々と融合してこの世界に留まってきた? 融合された人が亡くなるまでその身体から出られなくなると分かっていても?」
 流の言葉にルイーナは悲壮な表情で問う。
 「融合した相手に思念がある間はその身体から分離することができない事は、アルフもかなり経ってから分かったそうだ」
 「それはどういうこと?」
 「思念の癒着とでもいったらいいんだろうか? アルフの思念が融合者の思念と癒着して、無理やり分離すると融合者の思念も一緒に身体から離脱してしまったそうだ」
 悲しげな表情で告げる流にルイーナも返す言葉を失う。
 「つまり融合者を殺してしまう結果となったそうだ」
 「なっ! じゃあ一度融合すると抜け出せないっていうのは…」
 ルイーナに変わっていずみが続けた。
 「その事実が判明してからは、アルフはその融合者の命が尽きるまで融合を解くことをしなくなったようだ」
 「でも…なんで? アルフって人間の感情には無頓着なんじゃないの?」
 「ひ、姫。いくらなんでもその言い方はひどすぎるんじゃ?」
 さすがに流も苦笑いしていずみに抗議する。
 「でも人間の理解はできなかったんじゃないの?」
 「できなかったんじゃなくて、深く関わらなかったんだ」
 「へ? どういうこと?」
 「アルフというのは身体は無くとも精神的には人と何ら変わらない。しかし、アルフの本質は善でも悪でもない。言い方を変えると極めてピュアというのが一番適切だと思う」
 「ピュアぁ? どこがよっ!」
 ついにルイーナが切れた。
 ルイーナは6次元で親や親友をアルフに消滅させられている。
 身体が失われただけじゃない。霊体…つまり思念そのものが跡形も無く消滅させられたのだ。
 ルイーナの怒りの源は全て冷酷非道なアルフに向けられていた。
 それが“ピュア”と言われると黙ってはいられない。
 「冷静になって考えてくれ。アルフの目的はなんだった? そしてそれを実現するために行われたことは? 俺たちの…あ、君は違うのか…」
 「何がよ? 自分たちは特別だとでも言う気?」
 「ある意味その通りだ。水無月家のものは皆アルファブラッド保有者だ」
 「! それって!」
 ルイーナは瞬間的にとんでもない見落としに気付いた。
 「まさか…、アルフが水無月家を作った?」
 「ほとんど正解だ。ただ、水無月家は初代宗主が“魔”に対抗するべく組織した。その協力をしたのが…」
 「アルフ? なの?」
 いずみが呆然としつつ呟いた。
 流はいずみから目を外らし、続けた。
 「なんで? そんな顔ですね姫。それは初代宗主の時代に“魔”にあらがえるものがいなかったからです」
 「?あれ? その時代には陰陽師がいたんじゃないの?」
 「陰陽師の正式な仕事は占いです。怪異退治は本業じゃない」
 「え? そうだったっけ? だって式神とかしゅって…」
 いずみはイマイチ陰陽師の実態を理解できずにいた。
 「いずみ。陰陽師は朝廷のまつりごとを導くための指針となるために組織されたんだ。そのために明治政府によって解散させられるまで、天皇直下の諮問機関として存在した」
 大介は青く輝く瞳のまま振り向いて告げた。
 「曳舟の言う通り陰陽師のほとんどは何の能力も持っていない。規定された占いの儀式により様々な問題を解決する方法を示しただけだ。ただ、安倍晴明などごく一部の陰陽師が本当に霊力を有し、奇跡を起こしていた」
 「奇跡? それは私たちのような能力なの?」
 「そこまではわからない。ただ普通の人間には扱えない超常的な力を行使していたらしい」
 「それって魔術みたいなものなのかな?」
 「“魔”…、確かにそうかもしれない。だが真実はもっと壮絶なものだったようだ」
 流は難しい表情で呟く。
 それはいずみではなく、別の何かに話しかけるような口調だった。
 「初代宗主の時代は闇の力を持った物の怪が多く存在していたようだ」
 「? 物の怪なら今も沢山いるけど? ただ普通の人には感じられないだけで…」
 「ははは、そうだった。そのための水無月家だもんな。しかしその時代は“普通の人”にも見えたし、命を奪われたりもしていた。だから初代宗主は力を欲したんだ」
 「それにアルフが応えた? まさか…」
 ルイーナが険しい表情で割り込む。
 「まあ今で言えば、ギブアンドテイクみたいなものさ。初代は能力を、アルフは身体を二人の思念は強く共鳴して初代水無月兼成が誕生した」
 「でもその時はもう朝廷の命を請けていたんでしょ?」
 「その通りだ。初代は戦略計画に将棋を用いていた。そこに独特の文字を刻み、念を込めた。それが今現在も伝わる“水瀬文字”という書体だ」
 「どういうこと?」
 話についていけないルイーナは、苛立たしげにいずみに問いかけた。
 「水瀬文字は本来朝廷の命を請けた一部の宮人にしか使用することを許されなかったの。
  それは文字自体に能力を持たせたから。う~ん、と。西洋の魔術書に出てくる魔法陣みたいなもの…って言ったらわかるかな?」
 「ああ、そういう類の…」
 「もちろん誰でも書けるわけじゃなくて、能力を持った人間が“験力”を使って書くから、形だけ真似てもほとんど効果は出ないけどね」
 「それでも“言霊”は宿るから、わずかな力は宿すことができたんだ」
 流が補足するように続ける。
 現代の戦国シミュレーションの如く、戦力や地形などを総合的に判断して戦略するために用いられたのが“水瀬文字”だった。
 もちろん各駒には手を触れず、全て験力で遠隔操作する。
 初代水無月兼成は独自に開発した戦略技術を評価され、朝廷の命を請け負うこととなった。
 「しかし、験力による戦略論は長続きしなかった。なぜなら敵の情報を入手しにくくなり、さらに敵側にも優れた武将が現れたためだった」
 「敵? それって日本…じゃないよね?」
 「ああ、大陸だ」
 「大陸って今の中国?とか??」
 「いやもっと奥の…魔界だ」
 流がいきなりとんでもないことを口走った。
 「魔界ぃ? それってインドとかモンゴルとかのこと?」
 「いや。1200年前には大陸中央部の前人未到の土地に、魔物が棲みついた場所があったという」
 「はぁ? そんな話聞いたことないわよ?」
 いずみは眉間に皺を寄せて流に言い返した。
 「アルフの話だとアルフとは全く異なる力を持つ集団だったそうだ」
 「全く異なるってどういうこと?」
 「物理的攻撃は効かないのに、相手の攻撃は物理的破壊を招く」
 「なんですって? いずみみたいじゃない!」
 「へ? ち、ちょっとどういう意味よルイーナっ!」
 ルイーナは素早く大介の陰に隠れる。
 「あ、そういう意味か。確かにな」
 大介まで何かを納得して宣った。
 「大ちゃんまでっ! 何だかものすごく馬鹿にされてる気がするっ!」
 一同は場違いな笑い声を上げたが、すぐにその問題の重大性に真顔に戻った。
 「アルフでも分からないというのが信じられない…」
 ルイーナの呟きは全員の心に大きな不安を生み出した。
 「あ。でもそれって、クリーチャーに似てない?」
 いずみが何気なく口にした言葉に、今度は流が驚きの声を上げた。
 「あれは姫たちが召喚したんですか?」
 「はい? って逆でしょ。流さんが操ってたんじゃないの?」
 「まさか! 俺が人類に危害を与えるはずないでしょう?」
 「え? ちょっと何か話がおかしくない?」
 ルイーナまで驚き叫んだ。
 いずみたちにも流にも何か大きな勘違いが生じていた。
     <続く>
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