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第1章

06ソウルコンバーター

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 予想外の展開に大介は大いに戸惑っていた。
 最近、除霊の依頼が急増しており、今の体勢ではこなしきれなくなっていたのだ。
 ここまで異常発生していれば、何かの前兆だろうと疑念を抱くのは当然の成り行きだ。
 いずみ程の強い除霊師は、大介やさくらを含んでも8人しかいない。
 ローテーションを組んではいるものの、ソロソロ体力的にも限界が近かった。
 大介は状況の整理の為に、今回の調査を依頼したのだ。が、こんな事に繋がってしまうとは。今後何が起こるのか、もはや想像すらできない。
 「もしかすると、とは思っていたが…、状況は予想以上に悪化しているのかもしれない…」
 大介の不安が伝染した様に、いずみも心に不安という雲が広がっていた。
 「わ、私ももっとガンバるから、どんどん鍛えて。大ちゃん」
 珍しくいずみが真剣に詰め寄る。
 「ああ、もちろんいずみやさくらの力は絶対に必要だ。だから頼むぞ、二人とも」
 「まかせて!」「まかせてください!」
 二人は同時に応えた。

 「実は調査結果を分析してから、宗主にご相談しようと思っていたのですが、特にエネルギープラントについては良く判っていなかったのです」
 大介は校長先生に向けて、データの説明をした。
 「緑の点が何を意味するのか、はっきりした結論に至らなかったのです」
 「なるほど、我が校の正門付近、ここには例のプラントしかありません。だから確証が持てたのですね」
 「校長先生がプラントと言って頂けなければ、未だ不明のままでした」
 大介は校長に頭を下げた。
 「…判りました。そのようなことなら、実物を見て頂いた方が良さそうですな。後でご案内しましょう」
 「お願いいたします」とはいうものの、一抹の不安はある。
 「さくら、君は宗主に報告に行ってくれ。何かあったらすぐに知らせると…」
 さくらは不満そうな顔をしたが、すぐに大介の意図に気付き頷いた。

 電力の自由化が施行されて久しいが、個人で電気の販売も出来るため、投資目的で発電プラントを購入する事が多くなっていた。しかし、初期のプラントはソーラー発電や風力発電が主で、天候に左右されるため安定した電力を生成できなかった。
 やがて、第二期発電ブームが到来し、風力発電は筒状のジェットファンを用いたものや、騒音低減のために直径が大きく低回転でトルクが太いものに置き換わってきた。微生物を用いたものも考案されたが、装置自体が巨大なために個人では購入スペースを確保出来ず、町内会で協力し合うという「共済会的な」方法も生まれた。
 しかし、どのシステムもせいぜいディーゼルエンジンを使った旧来の自家発電程度の電力量でしかない。
 電力販売のブームが去りかけた時、彗星のごとく現れたのが「ソウルコンバーター」という全く新しいシステムプラントだった。
 仕組みは学識経験者たちがやたら難しい解説をするが、半分も理解できたユーザーは皆無だろう。その中でも一番簡単な説明は「大気中にどこにでも存在するエーテル物質(エーテルを物質という時点で既におかしいのだが…)を回収し、精製して濃度を上げる(ガスではないのでエーテルは濃度という概念そのものがありえない)。その内包するエネルギーを電気に“変換”するのが「ソウルコンバーター」です」…というものだった。
 システムは大気中からエーテルを回収する「ソウルキャッチャー」。精製し濃度を上げる「ソウルコンプレッサー」。変換したエネルギーを電気として定圧出力する「ソウルオルタネーター」の四構成となっている。
 各装置はそれぞれ4トントラック一台分で、設置場所は装置自体が縦でも横でもとにかく4つのユニットが密着していれば良いという、正に夢の様な電力プラントだ。
 しかし、各装置自体の安全性は保障されているものの、そもそも原料の「エーテル」の正体が全くの不明なので、工業製品としての認可はされていない。
 ではなぜ、広く販売されているのか?
 それは各装置が別々の名称で認可を受け、使用用途自体が全く異なっていたためである。
 4つのパーツが揃ったところで、サードパーティたる業者が現れて仕様変更という名目で「ソウルコンバーター」として完成させるのだ。

 「それは違法じゃないんですか? それに電力を買う方もプラントの検証するでしょう?」
 大介が眉間に皺を寄せて、購入に関わった経験のある校長に問いた。
 「それは、自給自足と言った様に当校の「ソウルコンバーター」は、当校での電力としてしか使用していないので、外部からは問題視できないのです」
 「電力会社が疑問を持ちませんか?」
 全く電気の購入がなければ、何か怪しいと思うのは当たり前だ。
 「どのような疑問に対しても、『自家発電装置で賄えるエコロジーなシステムを構築している』と返答しています」
 校長自身も相当な心労だったろう。大介は校長の精神的限界を感じて、質問を打ち切った。
 「ソウルコンバーター」の見学は後日改めて…と大介が希望した。

 「いずれにせよ、後ほど娘さんが映っていた場所は徹底的に調査いたします」
 大介は話しを切り上げ、今後の本当の意味での方針を立てることにした。
 「お願いいたします」
 と校長は、大介たちが管理棟の廊下から北校舎へ曲がるまで頭を下げて見送っていた。

 既に授業は終わり、部活動の準備が始まっている。
 大介たちは鞄を取りに一度教室に戻り、合気道部室に集合する事にした。
 いずみが教室に入ると、いつもの如く如月湧が何人かのクラスメートと特撮ヒーローのソーシャルを踊っていた。
 (まぁ~たく…。カッコだけのヒーローで良い気になってるなんて、やっぱりガキね…)
 いずみはあんな風に、カッコだけでヒーローを気取っている如月湧が大嫌いだ。
 命の駆け引きはそんなにカッコいいことだけじゃない。もっとも相手には既に命はないけれど…。除霊したあとスッキリ勝利を味わえることなど一度もなかった。
 鞄を抱えてそっと教室を抜け出した。別に意識する必要はないのに、何故か湧に気付かれたくなかったのだ。

 合気道部室は…実は合気道部は大介といずみしかいない。早い話しが廃部寸前なのだ。今月中に後3人確保しなければ廃部が決定してしまう。
 「まずはこんなに浮遊霊が多い状態では、まともにウェンディゴの捜査は無理だろう。そこで…」
 大介は先ほどのデータをノートPCに表示して、いずみに見せた。
 「今晩からこの八丁堀商店街を中心に、浮遊霊の一掃を行う」
 「とにかく全部滅するのね。あまりいい気分じゃないけど…仕方ないわよね」
 いつもならこんな派手な命令は、する前に突っ走ってるいずみなのだが。
 大介はいずみの表情が気になった。
 「やりたく…ないか?」
 「あ、そうじゃないの。悪さするヤツは『天に代わっておしおきよっ!』」
 全くキレのないジョークだった。
    <つづく>
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