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第11章

11-06違和感

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 全く不案内な土地、しかも明治時代にいきなり放り出されたいずみ。
 緊急事態を想定して、最低限の活動に必要な金銭は持っているが、それが元の世界に戻るには全く役立たない。
 いずみは一人、明治時代の京都で右も左もわからず頭を抱え込んだ。
 「一体どういうことなの? 確か太陰暦から太陽歴に変更されるために、陰陽寮は明治3年に解体したのよね?」
 正確には明治4年6月に太陽歴に移行するため、安倍氏の暦道関与が廃された。
 そして、翌年の明治5年12月3日を太陽歴の明治6年1月1日とされたのだ。
 これに伴い、諸国の陰陽師たちは一切の権利を失い、平民戸籍に編入された。公的な権利を持つ陰陽師は世に存在しなくなった。
 しかし、すべての陰陽師たちが素直に平民の生活を受け入れられるはずもない。
 非公式な組織を作り、私的な陰陽師として占いや厄除けを請け負うようになっていた。
 それでもこのような平和的な転職をしたものは、特に問題はなかった。
 「この付近にいるはずだ! 見つけ出して確保しろっ!」
 いずみが隠れていた茂みのすぐ近くでいきなり怒声が上がった。
 「(わっ! びっくりしたっ!)」
 咄嗟に叫び声を上げてしまうところだったが、なんとか堪えることができた。
 これでも一応極秘の仕事を生業としてきたのだ。
 しかし、最近はフラッパーズのみんなと行動を共にしていため、若干警戒心が緩んでいたようだ。
 「(危ない。危ない。この時代の人とは極力接触しないように言われてたっけ)」
 いずみは様子を伺いながらも気配をさらに消した。
 「しかし、こんな夜更けに女一人でこんなところにいるんですかね?」
 「(え? 女?)」
 「いたとしてもすぐにわかるんですかね?」
 「まだほとんどの女子(おなご)は着物ばかりなのに、羽織袴というハイカラな服装らしい」
 「(え? ハイカラっ? この服が?)」
 いずみは冷たい眼差しで自分の袴をつまんだ。
 彼らはどういうわけか、いずみの存在を知っている様子だ。
 「本当にいるんですかね?」
 「とにかく草の根をかき分けてでも見つけ出せ! 近くにいることは間違い無いんだ」
 自信満々に断言するリーダーらしき男。
 「(やばいやばい、見つかったら大変なことになる!)」
 いずみは木陰から音を立てずに土塀の上に飛び上がった。
 すぐに屋根の影に身を潜ませる。
 「(なぁにが目立たない服装よ! めちゃくちゃ目印にされてるじゃ無い!)」
 心の中で大介たちに文句を垂れる。まあ、極力他者との接触はしないように注意されていたから、この時代に来て未だに誰とも接触してなかったのは幸いだった。
 「(アレ? じゃあなんで私がいることがバレてるのかな?)」
 すぐ下をガサガサと本当に草の根を分けて探し回る男たち。
 まるで猫や虫でも探してるようで滑稽だ。
 「(さて、今のうちに…)」
 屋根伝いに逃げようと振り向いたその時、
 <ボゴッ!>
 顔面に衝撃を受けて仰向けに屋根の上に叩きつけられた。
 「う、ううう…」
 「お前か…俺たちの邪魔をする暗殺者は…」
 いずみを見下ろすように眼前に男が立っていた。
 決して油断していた訳でも、敵を甘く見ていた訳でもない。
 なのにこの男が近寄る気配を全く察知できなかった。
 暗くて顔は見えないが、くぐもった声から面のようなものをつけていることがわかった。
 「な、何のこと? いててて」
 いずみの身体能力を持ってして、これだけのダメージを与えられることが驚きだった。
 「賊はここだ。今落とすから確保しろよ」
 下の男たちに向かって声をかけた。
 「そんな簡単に捕まってたまるかっ!」
 いずみは立ち上がって、しかしそこまでだった。
 防御する間もなく、首筋に激しい打撃を受けて世界が大きく回る。
 そのまま土塀の下に落下した。訳がわからないままもがくが、すぐに髪の毛をつかみ上げられる。
 「ほう。ここまでやってもまだ意識があるのか。大したものだ」
 「う、ううっ…」
 朦朧とした意識で男を見上げる。しかしやはり面をつけているので、素顔は見えない。
 「身動きできないようガッチリ拘束しておけ」
 「はっ」
 いずみは皮製の袋をかぶせられ、さらに革ひもできつく縛りつけられた。
 これではいくらいずみでも身動き一つ取れない。
 そのまま粗末な大八車に載せられ、西に向かった。
 この辺りは嵯峨野に通じる街道がある。
 「(こいつらは、まさか陰陽師?)」
 いずみが受けた指令の中には、嵯峨野一体の調査もあった。
 それは市井陰陽師の本部があるらしいとの情報からだった。
 身動きできない以上無駄なあがきをせず、状況を見極めることに専念する。
 ところが半町もいかないうちに南に曲がった。
 「(あれ? 嵯峨野方向にはいかないのか…)」
 いずみも京都の地理に精通している訳ではないが、二条城付近の地図は頭に入れてきた。
 どうやら21世紀の京都では、山陰線の二条駅の近くのようだ。
 もっともこの時代のこの付近は一面田畑のようだ。目隠しされていても、大八車が巻き上げる埃などで土の匂いに混じって青臭さを感じた。
 「(でも…どこに行くんだろ?)」
 不思議と焦りはなかった。
 いずみの身体能力ならいつでも逃げ出せると思っていたからだ。
 あの面の男以外は大した脅威には感じていなかったのも、その一因だった。
 「(ただ…この服がね…動きにくい…)」
 いざとなったらフラッパーズの戦闘服を召喚できるが、そんなものこの時代の人間に見られたら大騒ぎになってしまう。
 本当に最終的な手段なので、ギリギリまでは我慢するしかない。
 いずみが今後の行動を検討していたら、大八車は目的地に着いたらしく、即座に荷物のように持ち上げられた。
 「<ちょっとっ! どこ触ってるのよっ!>」
 「おい、何か言ってるぞ?」
 男が仲間に告げた。
 いずみが文句を言うが袋を被せられたままなので、聞き取れなかったらしい。
 もがくと当然のごとく、罵声が浴びせられた。
 「暴れるんじゃねぇ!」
 というと乱暴に放り投げられた。
 <ブギャッ!>
 背中に激痛が走ったが、幸いにも硬い地面ではないらしく、砂利のような感触だった。
 やがて縛られたまま、頭の部分だけ袋が破かれて視界が開けた。
 「何なのよっ! あんたたちは誰?」
 「ほう。こりゃまた元気なお嬢さんだな」
 視界の外からダミ声が聞こえる。
 いずみは身体をひねって向きを変えた
 「え? なんで?」
 逆光だが見覚えのある、というより顔がそこにあった。
    <続く>
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