136 / 158
第11章
11-07拘束
しおりを挟む
すぐ目の前で屈んでいずみを見ている顔は、宗主その人だった。
「お、おじいちゃん!? 何でっ?」
「おじい…? 何じゃお前なぞ知らんぞ」
「え? 何言ってるの?」
と、返したものの宗主の困惑気味の表情を見て、何かがおかしいことに気づく。
「どうかしましたか? 総長」
その後ろから現れた男の顔を見て、いずみはさらに混乱した。
「湧! な、なんでっ!?」
「え? 誰だ君は?」
湧そっくりのその男は1歩後ずさり警戒心を露わにした。
「総長この女はなんですか? なんで私の名を?」
「やはりな。お主も知ってるように“例”の世界の人間じゃ」
「この女が? では…」
「な、何よ。“例”の世界って? 何からかってるのよ二人とも」
二人は縛られたままのいずみを険しい表情で見下ろしている。
「計画の変更を余儀なくされたな。奴らにも既に察知されているだろう」
「仕方ありません。計画通り陰陽師を討伐できなかった我々の落ち度です」
「かといって、この女をこのままにしておくわけにも行きません」
「な! 何よっ! 私を始末するってこと?」
「うるさい! 黙ってろ!」
湧似の男が怒鳴った。
あの優しい湧とは全く異なる印象に、いずみはほんの少し悲しくなった。
しかし湧似の男が口にした“計画”というのが気になる。
「(どういうこと? この二人は偽物? でもここは明治時代のはず。なんでここにいるの?)」
宗主そっくりの総長という老人が、複雑な表情でいずみを見つめている。
「総長。この女は処理すべきですか?」
湧似の男は無感情な声で言う。
「うむ。どんな目的でこの世界に来たのか白状してもらうしかないだろう。始末はその後でもできるからな」
「分かりました。おい地下牢に放り込んどけ。後で俺が尋問してやる」
そう言うと湧そっくりの男は、湧なら決して見せない邪悪な…いや、一人で悪霊退治していた頃の湧と同じような冷徹な笑みをこぼした。
いずみは覆面の男たちに荷物のように担がれて、地下牢へと運ばれてゆく。
いずみは考えた。
ここでおとなしく囚われたままでいるべきか、この男たちを撃退して逃げ出すべきか?
しかし、当初の目的地である陰陽師の屋敷は跡形もない。
逃げ出したところで、作戦の遂行はもはや不明だ。
「(それに…あの二人…例の世界とか言ってたけど、私とは別の世界の二人ってこと? その辺りもはっきりさせないとこれからの行動にも影響が出るわね)」
早い話、あの二人と対峙するのが嫌なだけ…というのは、気づかないでおいた。
「ねぇ、トイ…厠にいきたいんだけど」
「うるさい! 我慢しろ!」
「え~、じゃあいいもん今ここでしちゃうよぉ!」
「え? おい! こら! ちょっと待てっ! 今連れて行くから我慢しろっ!」
たった一回のジョークで慌てふためくのを見て、この連中が“悪”でないと見抜く。
ただ、もしいずみが男だったらきっと通用しなかっただろう。
男たちはちゃんと厠に連れて行ってくれたが…
「このままじゃ服が濡れちゃうじゃない。手ぐらいほどいてよっ!」
一瞬のためらいの後、それでも男たちはいずみの身体を拘束してるロープを切ってくれた。
「ありがと。逃げたりしないから安心して。う~漏れちゃう!」
「いいからさっさとしろ!」
「しろ! だなんて、エッ(チ)…スケベっ!」
<バンっ!>
扉を思いっきり閉められた。
「さて…と、どうしようかな。あ。とりあえず放尿~ほうにょう~」
本当にしたかったらしい。
地下牢と言っても窓のない納戸のようなもので、扉が鉄格子でなければカプセルホテルよりはマシだった。
とはいえ、いずみにとっては別の意味で不快極まりなかった。
なぜなら…
「ちょっとちょっとぉ! なんでこんなに怪異がひしめいてるのよ! なんとかしてよっ!」
「え? お前怪異が見えるのか?」
「あんたたちだって見えてるんでしょ! 何とかしてよっ! うるさくて寝られないわよっ!」
一般人には見えない怪異が、ひしめくように詰め込まれていて、さらにギャーギャー喚き散らして走り回っている。
「我慢しろっ! 俺たちじゃどうしようもないんだ」
「ど、どうしようも…ない? あんたたち陰陽師でしょ! だったら怪異の退治ぐらいできるはずよ!」
「俺たちを陰陽師などと一緒にするなっ!」
見張りの一人が怒鳴り返す。
「え? 陰陽師じゃないの?」
敵性勢力なので、すっかり陰陽師だと思い込んでたいずみは呆気にとられた。
「お前こそ陰陽師だろ? なぜ新政府の妨害ばかりするんだっ!」
「はい? ち、ちょっと何言ってるのか分かんないわよ。私は…」
「お前たち! 何を騒いでいる! この女とは話をするなと言っただろう!」
その時、軍服のような服を着た壮年の男が現れた。
「はっ! 申し訳ありません。ただ、この女が牢の中の怪異を何とかしろというもので…」
「何? 怪異?」
男は扉の前まで来るといずみを睨みつけ、険しい表情で告げた。
「お前も陰陽師? なのか? それとも式神か?」
「な! し、しきがみぃ~!? 陰陽師どころか式神? ふざけないでよっ!」
「ん?」
男はいずみの剣幕に少したじろいだ。
「あんたたちが何者か知らないけどっ! 今のは絶対に許さないからねっ! 後でぶっ飛ばしてやるっ!」
「ははは、元気なお嬢さんだ。まあいい。お前の素性もすぐに分かるだろうからな」
「…」
いずみは何かの違和感を感じて口を噤んだ。
自ら素性をばらす必要はないから、彼らの出方を待つことにした。
男の方も同じような考え方に至ったようで、一睨みすると男たちを連れて、何も言わずに出て行った。
「あ…」
頭に血が登っていたため忘れていたが、振り向いたいずみの眼前に怪異が大きく口を開けて飛びかかってきた。
「ふん」
咄嗟に右手掲げて、験力のエネルギー弾を叩き込む。
ゴブリンのような怪異は一瞬で破裂し、背後にいた怪異数匹も同時に消滅した。
他の怪異は慌てて逃げ出した。
いずみは牢に入れられるまで、がんじがらめに巻かれていた皮布を床に敷き寝転んだ。
どうやら今夜は静かに寝られそうだった。
<続く>
「お、おじいちゃん!? 何でっ?」
「おじい…? 何じゃお前なぞ知らんぞ」
「え? 何言ってるの?」
と、返したものの宗主の困惑気味の表情を見て、何かがおかしいことに気づく。
「どうかしましたか? 総長」
その後ろから現れた男の顔を見て、いずみはさらに混乱した。
「湧! な、なんでっ!?」
「え? 誰だ君は?」
湧そっくりのその男は1歩後ずさり警戒心を露わにした。
「総長この女はなんですか? なんで私の名を?」
「やはりな。お主も知ってるように“例”の世界の人間じゃ」
「この女が? では…」
「な、何よ。“例”の世界って? 何からかってるのよ二人とも」
二人は縛られたままのいずみを険しい表情で見下ろしている。
「計画の変更を余儀なくされたな。奴らにも既に察知されているだろう」
「仕方ありません。計画通り陰陽師を討伐できなかった我々の落ち度です」
「かといって、この女をこのままにしておくわけにも行きません」
「な! 何よっ! 私を始末するってこと?」
「うるさい! 黙ってろ!」
湧似の男が怒鳴った。
あの優しい湧とは全く異なる印象に、いずみはほんの少し悲しくなった。
しかし湧似の男が口にした“計画”というのが気になる。
「(どういうこと? この二人は偽物? でもここは明治時代のはず。なんでここにいるの?)」
宗主そっくりの総長という老人が、複雑な表情でいずみを見つめている。
「総長。この女は処理すべきですか?」
湧似の男は無感情な声で言う。
「うむ。どんな目的でこの世界に来たのか白状してもらうしかないだろう。始末はその後でもできるからな」
「分かりました。おい地下牢に放り込んどけ。後で俺が尋問してやる」
そう言うと湧そっくりの男は、湧なら決して見せない邪悪な…いや、一人で悪霊退治していた頃の湧と同じような冷徹な笑みをこぼした。
いずみは覆面の男たちに荷物のように担がれて、地下牢へと運ばれてゆく。
いずみは考えた。
ここでおとなしく囚われたままでいるべきか、この男たちを撃退して逃げ出すべきか?
しかし、当初の目的地である陰陽師の屋敷は跡形もない。
逃げ出したところで、作戦の遂行はもはや不明だ。
「(それに…あの二人…例の世界とか言ってたけど、私とは別の世界の二人ってこと? その辺りもはっきりさせないとこれからの行動にも影響が出るわね)」
早い話、あの二人と対峙するのが嫌なだけ…というのは、気づかないでおいた。
「ねぇ、トイ…厠にいきたいんだけど」
「うるさい! 我慢しろ!」
「え~、じゃあいいもん今ここでしちゃうよぉ!」
「え? おい! こら! ちょっと待てっ! 今連れて行くから我慢しろっ!」
たった一回のジョークで慌てふためくのを見て、この連中が“悪”でないと見抜く。
ただ、もしいずみが男だったらきっと通用しなかっただろう。
男たちはちゃんと厠に連れて行ってくれたが…
「このままじゃ服が濡れちゃうじゃない。手ぐらいほどいてよっ!」
一瞬のためらいの後、それでも男たちはいずみの身体を拘束してるロープを切ってくれた。
「ありがと。逃げたりしないから安心して。う~漏れちゃう!」
「いいからさっさとしろ!」
「しろ! だなんて、エッ(チ)…スケベっ!」
<バンっ!>
扉を思いっきり閉められた。
「さて…と、どうしようかな。あ。とりあえず放尿~ほうにょう~」
本当にしたかったらしい。
地下牢と言っても窓のない納戸のようなもので、扉が鉄格子でなければカプセルホテルよりはマシだった。
とはいえ、いずみにとっては別の意味で不快極まりなかった。
なぜなら…
「ちょっとちょっとぉ! なんでこんなに怪異がひしめいてるのよ! なんとかしてよっ!」
「え? お前怪異が見えるのか?」
「あんたたちだって見えてるんでしょ! 何とかしてよっ! うるさくて寝られないわよっ!」
一般人には見えない怪異が、ひしめくように詰め込まれていて、さらにギャーギャー喚き散らして走り回っている。
「我慢しろっ! 俺たちじゃどうしようもないんだ」
「ど、どうしようも…ない? あんたたち陰陽師でしょ! だったら怪異の退治ぐらいできるはずよ!」
「俺たちを陰陽師などと一緒にするなっ!」
見張りの一人が怒鳴り返す。
「え? 陰陽師じゃないの?」
敵性勢力なので、すっかり陰陽師だと思い込んでたいずみは呆気にとられた。
「お前こそ陰陽師だろ? なぜ新政府の妨害ばかりするんだっ!」
「はい? ち、ちょっと何言ってるのか分かんないわよ。私は…」
「お前たち! 何を騒いでいる! この女とは話をするなと言っただろう!」
その時、軍服のような服を着た壮年の男が現れた。
「はっ! 申し訳ありません。ただ、この女が牢の中の怪異を何とかしろというもので…」
「何? 怪異?」
男は扉の前まで来るといずみを睨みつけ、険しい表情で告げた。
「お前も陰陽師? なのか? それとも式神か?」
「な! し、しきがみぃ~!? 陰陽師どころか式神? ふざけないでよっ!」
「ん?」
男はいずみの剣幕に少したじろいだ。
「あんたたちが何者か知らないけどっ! 今のは絶対に許さないからねっ! 後でぶっ飛ばしてやるっ!」
「ははは、元気なお嬢さんだ。まあいい。お前の素性もすぐに分かるだろうからな」
「…」
いずみは何かの違和感を感じて口を噤んだ。
自ら素性をばらす必要はないから、彼らの出方を待つことにした。
男の方も同じような考え方に至ったようで、一睨みすると男たちを連れて、何も言わずに出て行った。
「あ…」
頭に血が登っていたため忘れていたが、振り向いたいずみの眼前に怪異が大きく口を開けて飛びかかってきた。
「ふん」
咄嗟に右手掲げて、験力のエネルギー弾を叩き込む。
ゴブリンのような怪異は一瞬で破裂し、背後にいた怪異数匹も同時に消滅した。
他の怪異は慌てて逃げ出した。
いずみは牢に入れられるまで、がんじがらめに巻かれていた皮布を床に敷き寝転んだ。
どうやら今夜は静かに寝られそうだった。
<続く>
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる