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第1章

08変態特撮エロヒーロー

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 「全く! せっかくおじいちゃんが新兵器をくれたのに、役に立つどころか、逃げるのに精一杯で、気付いたら無くなってたのよ!」
 翌朝、登校するなりさくらを捕まえてグチの連撃を浴びせる。
 さすがにさくらも、このいずみのマシンガントークには太刀打ちできず、冷や汗をかきながらただ聞いているしかなかった。
 余程腹が立ったのだろう…ということはどうにか理解できたが…。
 「…あのさ、いずみ?」
 「あによぉ~」
 「…インカム無くしたどころの騒ぎじゃなくない」
 「……だって…」
 いずみにも判っているのだ。が、素直に認めるのが悔しくて、つい目先のものに当たっているのだ。
 昨夜の怪異はその正体どころか、近づく事すらできなかった。
 それどころか入口付近であっさり全滅しかけ、這々の体で逃げ出さなくてはならなかった事が屈辱だ。
 さらに、いずみが意識を失う直前に水弾を浴びせられたことも我慢できなかった。誰だかは不明だが、そいつはあの中でも正気を保っていただけではなく、いずみの行動を監視すらしていた様に思える。
 耐性はいずみの比ではないだろう。それだけの実力者だと認めざるを得ない。
 それらを考え始めると、逆に自分の情けなさが際立ってくる。
 堂々巡りだと判っていても感情が抑えられない。

 「ニュースでは、ガス漏れって事にしてるけど、かなり強引だよね。でも死者がいなかったのが救いよね…って、聞いてる?」
 「それなんだけどさ…本当に死者がいなかったのかな?」
 「それって、校長先生の娘さんの様に消滅させられた可能性があるってこと?」
 「う~ん。確かな事は言えないんだけど、アレだけの瘴気を放ってる怪異だよ、人の一人ぐらい肉体ごと消滅させるのはわけないと思ったんだ」
 何気に恐ろしい事をさらっと言ういずみの方が、さくらには怖かった。
 「ま、普通に殺されたんなら、どうあっても痕跡が見つけられると思うけど…」
 「あ、そう言えば! 校長先生の娘さんは消滅された時に“塩”がどうとか言ってたよね?」
 「ああ、あれは錬金術で肉体と魂の錬成には塩が必要で、逆に肉体から魂を抜き取ると最終的に肉体は塩の結晶だけが残るってことらしいよ。私は専門外なので、さわり程度の知識しかないけどね」
 「だとすると…あの中には塩の結晶らしきものは見当たらなかったから…やっぱり死者はいなかった。ってことになるのかな?」
 と、言ったところで“あの中”で思い出したくないことが、いずみの頭をよぎった。
 「くそぉ~~。あんな瘴気の中で正気を保つどころか、私の意識まで…」
 「うまい! 瘴気と正気ね…」
 「さくらぁ~、ダジャレってるんじゃな…《ぶぎゃ!》」
 《ガシャン!》
 その時、ソーシャルダンスの練習をしていた如月湧が、バランスを崩していずみの上に転がってきた。
 「いったぁ~~~~~い!」
 「あ、ごめん。ついバランス崩して…」
 「うるさい! うるさい! うるさい! 昨日といい、今日といい、余程しばかれたいのね…え~、判ったわよ! しばいたるわよ!」
 言うが早いか、いずみは湧の胸ぐらを掴み上げ、リアクションもなく窓の外へと投げ捨てた。
 「い! いずみっ! またぁ??」
 さくらが度肝を抜かれ、思わず叫んでしまった。
 「大丈夫でしょ。アレは死なない気がするわ、たぶん」
 何を悟ったのか、いずみは湧が絶対に怪我すらしない確信に似たものを感じていた。
 全く根拠はないのだが…。

 「むしゃくしゃするから、トドメ差してくる…」
 そう言って、いずみまで窓からダイブした。
 「わぁ! 水無月まで投身自殺かぁ?」
 クラスメートたちは湧に続き、いずみまで狂人的な行動に出たことで、完全にこの二人を“人外”と認定した。
 「おわっ! あぶねぇ!」
 地面に降り立った湧は、教室が騒がしいので、いずみがドジって窓から落ちたと思った。
 咄嗟に落下地点に駆け寄り、キャッチしようとしたが…。
 「わわわ! どいて! どいて! そこどけぇ!」
 いずみは激突を避けるため、両足を揃えて湧の顔面に蹴りを入れた。
 「ぐえっ!」
 もちろん湧は5mほど後方に吹っ飛び……、いずみはその反動を利用して華麗なバク転をして着地した。
 「うおおおおお~水無月かっこいい!」
 窓から身を乗り出して、クラスメートたちのシュプレヒコールが轟いた。
 「だからどけって言ったのに…如月君大丈夫?」
 さすがに悪いと思って、手を差し伸べるいずみ。
 しかし、湧は素直すぎた。悪い意味でも…わる~い意味でも…。
 「う~、さすがにきいたぁ~。どけって言ってるのはすぐに判ったんだけど、スカートの中味が丸見えで、目が離せなかった。あはははは…」
 「!」
 慌ててスカートを抑えるいずみ。しかし、既に遅いのだが…。
 いずみの瞳から笑みが消え、ハイライトが曇り、顔からは表情が消えた。
 「如月君? 君は見てはいけないものを見てしまったの…これは万死に値する…わ!」
 と、回し蹴りを入れる。
 が、さすがに湧も合気道の有段者。軽く躱して、いずみの懐に滑り込む。
 「でも、白だと何かと汚れが目立つから。違う色にした方が良いと思うぞ」
 “何かと”…湧はあくまで、尻餅をついたりして、泥汚れが付いたら…ということを言っていたのだが…湧はあまりに女性の生理について無頓着だった。
 いずみは茹であがったタコのように顔を真っ赤にして必死に堪えていた。
 しかし…。
 「ん? 水無月どうした? 顔が赤いぞ。どこかにぶつけ…」
 無言のまま湧の胸ぐらを掴み上げ、いずみは渾身の力を込めて校舎3階の壁に投げつけた。
 「おおおおお!」
 《びったぁ~~~~ん!》
 壁に激突したものの、掴まるものがないのでそのまま落下する湧。
 その下には、既にいずみが走りよっていて…。
 不敵な笑みと共に水平蹴りを繰り出した。
 「あ! 水無月ぃ! それはヤバい!」
 クラスメートたちの警告など聞く耳を持たないいずみは、蹴鞠の如く湧を蹴り付けた。
 湧は中庭(グラウンド)中央付近まで吹っ飛び、地面に大穴をあける。
 「さ、さすがに利いたぞぉ~ 水無月ぃ~ ハァハァ」
 「ふ~~ふ~~ふ~~」
 二人とも、息が切れ切れにしゃがみ込んでしまった。
 「あ、あんたは死になさい! 今すぐにっ!」
 「水無月ぃ~ 何をそんなに激怒してるんだぁ?」
 「うるさぁ~~い!」
 いずみのアッパーが入り、湧は5m程舞上がった。
 普通の人間なら即死ものだが、もう誰も驚く事はなかった。
 まるで、対戦格闘ゲームをリアルで行っているだけ…全校生徒はそういう認識で納得することにした。
 「如月君、あなたは死になさい。今ここで!」
 涙すら浮かべていずみの連撃はさらに速度を上げた。
 「な、何怒ってるんだよ? おかしいぞお前」
 「お、お前? あんたにお前呼ばわりされる覚えはないわっ!」
 いずみの手刀が空を切る。湧の回避速度はさらに上を行っていた。
 「覚えも何も、だいたい俺が何をしたって言うんだよっ?」
 「うるさい! うるさい! うるさい! この特撮エロおたくっ!」
 「何だよ? それは…」
 《ぺっち~~~ん!》
 「あへっ!」
 湧の背後からさくらが平手で叩き、バランスを崩したところをあっさり捕縛される。
 「おいこら! 如月湧! いずみに何をした?」
 「は? 俺は何もしていないって!」
 「うそつけ! この娘が泣くなんてよっぽどのことなんだよ!」
 「泣かせる様なことは何もしてないって言ってるだろ!」
 「いずみ本当なの?」
 と、意識をいずみに向けた途端に湧はさくらの腕からスルリと抜け出した。
 「あ、こら! まて!」
 「逃げやしないよ! こうなったら身の潔白を証明させるよ!」
 真っ白な眼差しで湧を見つめるさくら。
 でも、湧が逃げないことは理解して、そっといずみに耳打ちする。
 「アレが言ってる事ホント? 何も言われてない?」
 「あ、あのね…(ごにょごにょ…)…」
 さくらが途中から眉間に皺を寄せ始めたことで、湧はとっても嫌な予感がした。

 そして…

 「変態…、セクハラ…、いずみにあやまれ…」
 さくらはドライアイスの様な真っ白い目付きで宣った。
 「は? なんだよいきなりっ!」
 「うるさい! 早くあやまれ。それとも死ぬ方がいいかな?」
 「お前たちこそひどすぎるだろ! いきなり4階の窓から投げ飛ばすし、しかも二日連続で! あ、でもお陰でアクションの幅が広がったのはありがたいけど…」
 「お前の日頃の行いが悪いからだろっ!」
 さくらは湧の文句を皆まで言わせずに一刀両断に言いきった。
 「…何がなんだか…俺には判らないっ!」
 とうとう湧までキレた。
 しかし…それでさくらが動じる訳がなかった。
 「なら冥土の土産に教えてやる。あんたはさっき、いずみのパ(もがががっ)」
 「さ、さくらっ! それ以上言わないでよっ!」
 いずみは慌ててさくらの口を塞いだ。
 「もごごごぉ…ががった。ご、ごめん。ついカッとなっちゃって…」
 「もう!」
 今度は湧が呆れ顔で二人を睨みつける。
 「お前らほんっとうに、訳判んないなぁ!」
 「「お前が言うなっ! 変態特撮エロヒーロー!!」」
 見事なユニゾンで、湧を撃退した。
 「さっきから、ひどくね?」
 肩を落とし、これ以上はバトル気が無くなった。
 「せめて、何の事なのか理由だけでも教えてく…」
 湧が近づこうとしたのを察して、さくらはいずみを後ろにかばった。
 「変態!!」
 「特撮エロヒーロー!!」
 「セクハラ大王!!」
 「近づくな! エロが移る」
 そう言って、二人は後ろ向きで徐々に校舎に入っていった。

 校庭には全校生徒の視線を集めつつ、罵声に落ち込む湧が呆然と立っていた。
    <つづく>
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