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第12章

12-04相克

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 気がつけば一人ソファに寝かされていた。
 「……、?」
 屋敷の中は物音ひとつせず、静まり返っている。
 「へ?」
 窓の外は暗く、部屋の中も頼りない蝋燭の光で薄暗い。
 「あ、あれ?」
 導尊の討伐は今夜だったはず。にもかかわらず屋敷の中には人の気配がない。
 と、いうことは…いずみの背中に冷たい汗が流れた。
 「もしかして、私、…、置いてかれたぁ!!!!!!!!」
 どうやら、状況的に足手まといにしかならないいずみは、気を失ったのをいいことにソファに安置されていたらしい。
 作戦開始は午前0時。この時代だと、いわゆる子の三つ時というのだろうか?
 マントルピースの上に仰々しく置かれた機械式の時計らしきものは子という文字にかかっていた。
 「あれ? でも午後11時付近から午前1時くらいまでが“子”ってなってる?」
 和時計の表示など見たこともないから、時間が読めない。
 しかし、作戦開始時刻前だろうということは確認できた。
 ここから二条城西側の陰陽師の屋敷までは急いでも15分くらい。
 今ならまだ間に合うはずだ。
 いずみは立ち上がると即座に屋敷を飛び出した。
 「私にだって何かできるはずっ! でなきゃこの時代に来た意味ないじゃないっ!」
 自分を鼓舞するように全力で走る。
 夜道には人影どころか灯りもない。
 この時代の道は深夜ともなると本当の闇となる。
 しかし、いずみは臆することなく前進を続けた。
 何故なら先ほどから異様な気配を前方から感じたからだ。
 「な、何よあれ?」
 夜空に紫色の靄が立ち上っている。
 こんな邪悪な波動は今まで感じたことがなかった。
 目で見えるわけではないので騒ぎにはなっていないが、まるで大火事のような邪悪な炎が街を焼き尽くすような勢いで広がっていった。
 そして朱雀門の前まで来たところで、いずみの目は今まさに亡者たちに襲われている泉《せん》たちを捉えた。
 「何よあれ? クリーチャーじゃない?」
 せんたちは刃物でできたサソリのような怪物を対峙している。
 しかも満身創痍で明らかに劣勢だ。
 「ちょっとっ! 何やってんのよっ!」
 思わず叫びながら泉《せん》に駆け寄る。
 「ば、ばかっ! 来るんじゃないっ!」
 泉《せん》がいずみに視線を向けた瞬間、サソリの巨大な鋏が泉《せん》に振り下ろされた。
 “キィィィィィィィィィィィーーーーーーーン”
 耳障りな高音が夜の京都に響き渡った。
 「せんっ!」
 坂戸が叫ぶ。
 『リーダーぁ』
 他の仲間も振り向いた。
 誰もが泉《せん》の死を確信する。
 が、そこには思いがけない光景が展開されていた。
 なんといずみが間一髪サソリの鋏を叩き割っていたのだ。
 「あ?」
 泉《せん》は呆れた声を漏らす。
 いずみのパンチはサソリの刃より優っていた。
 「ぉぃぉぃ…」
 坂戸も自分が見ている光景に呆れ返っている。
 「ま、まさか、本当に…殴って?」
 隠れ家でもあったアジトでいずみが言っていた『殴る・蹴る』をまさに証明している。
 「お、お前は…バカ、かぁ!」
 「な、何よその言い方っ! 助けてあげたのにっ!」
 いずみもつい素で返してしまう。
 「一歩間違えれば、お前は真っ二つだったんだぞっ!」
 泉《せん》がいずみの両肩を握り、揺さぶりながら激怒する。
 「痛い、痛いっ! 離せっ、バカっ!」
 「痛いじゃ済まないところだったんだぞっ!」
 泉《せん》は激怒していた。その形相にいずみもたじろぐ。しかし、
 「な、何よぉ~。あんたこそ真っ二つにされるとこだったじゃないっ!」
 負けずに言い返す。
 が、睨み合う二人にサソリが逆のハサミを突き出してきた。
 「泉っ!」
 坂戸が警告した時には、いずみはキックで蹴り飛ばしていた。
 「は?」
 坂戸も泉《せん》も口をあんぐりとかけたまま硬直した。
 「な、なんて無茶苦茶なんだよっ! お前はっ!」
 「驚きましたね。いずみさんの物理攻撃は通用する…って言っていいのか?」
 化け物を見るような(実際化け物みたいなものだ)目でいずみを見つめる。
 「なによぉ。人を化け物みたいに…」
 口を尖らせて呟く。
 「いやいやいや、実際この奇怪なサソリよりお前の方が訳わからん化け物みたいなもんだよっ!」
 泉《せん》が素で突っ込んだ。
 「私たちの武器では刃を交えるどころか、物理的な防御は全く役に立たないんです」
 「え? それってどういうこと?」
 「そのままの意味だ。どんなに強固なものでもすり抜けてきやがる。だから刀や銃が役に立たないんだ」
 「は? じゃぁどうやって戦う気だったのよっ!」
 「験力だよ。いわゆる非物理攻撃だ。指弾とか思念攻撃のことだよ」
 指を立てて泉《せん》がひっくり返っていたサソリに指弾を打ち込んだ。
 泉《せん》の指弾はいずみや元の世界の湧のようなライフル銃のイメージとは異なり、バズーガや機関銃のような太い光芒を引いていた。
 次の瞬間、サソリは爆散した。
 「ほえ~っ。やるじゃん」
 いずみが素直に感心した。
 「それより! なんでお前のパンチやキックはヒットできるんだよ? そっちの方が不気味だ」
 泉《せん》は感心するというより、理解できないという表情だ。
 「私も分かんないわよ。でも元の世界でも私はよく怪異を殴ってたわよ? それがおかしいっていうの?」
 「「当たり前だっ!」」
 泉《せん》だけでなく、坂戸も思わずユニゾンする。
 「いいか? 奴らは導尊が呼び寄せた、いわゆる怪異の類だ。物質じゃないんだよ。だから物理攻撃は一切通用しない。俺たちの身体も物質だから触れることができないんだ」
 泉《せん》がすごい形相でいずみの腕を掴む。
 「お前自身も物質だ。だから俺はお前の腕を握ることができるんだ」
 「痛い痛い! わ、わかったから離してよっ!」
 「! あ。ああ、ごめん」
 無意識に掴んだいずみの腕を離す。
 「? でも、私は確かに… あれ? でも触ったって感触は…ない?」
 眉間に皺を寄せて泉《せん》に尋ねる。
 「俺が分かるわけないだろっ!」
 「!もしかすると…」
 坂戸が口を挟んだ。
 「いずみさんの幽体が干渉したんじゃないでしょうか?」
 「「幽体?」」
 思わず、いずみと泉《せん》がハモって坂戸に迫った。そしてお互いに見つめあった。
     <続く>
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