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第12章

12-06失敗

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 「おいっ!」
 せんは眼前で仁王立ちするいずみに驚きつつも声を投げる。
 「… …ゆ…うぅ…! 私が捕まえてるから止めを……っ! 早くっ!」
 いずみは遠のく意識に抗うように叫んだ。
 眼前のせんを湧だと思い込んでいる危険な状態だ。
 「いずみさんっ!」
 駆けつけた坂戸がいずみに近づこうとしたところ、いずみの背後に形容しがたい気配を感じる。
 「せん! あの気配はっ!」
 坂戸の叫びにせんもすぐに気付く。
 「…導尊… …か!」
 「サソリを操っていたのは…、グッ! こ、こいつよ!」
 いずみは自分の腹から突き出ている刃を握りしめ、験力で導尊の本体を捉えているらしい。
 「せん! いずみさんの後ろに!」
 「ああ。俺にも感じる。奴に間違いない!」
 せんは答えると同時に指弾を打ち込む。
 「くそっ! 効果なしかっ!」
 「せん、例の攻撃をっ!」
 「そうだな。…しかし、あいつが巻き込まれるぞ」
 「どちらにしてもこのままじゃ、いずみさんは助けられませんよ!」
 坂戸の指摘に舌打ちして、せんは大きく九字の印を結び始める。
 坂戸も続く。
 『臨』・『兵』・『闘』・『者』・『皆』・『陣』・『列』・『在』・『前』!
 簡易な九字切りではなく、両手を使って九字を結ぶ。
 こちらの方が練り上げる“気”が強力で、破壊力を上げられる。
 突発的な対応は難しいが、せんも坂戸も相当な修行を積んできたらしく、素早く印を結び終えた。
 『破っ!』
 二人が突き出した両手から凄まじい光芒が放たれた。
 いずみの背後に漂う濃密な靄に突き刺さる。
 やがて靄の表面に稲妻が走り、靄が震えだした。
 稲妻は靄を押さえ込むように縮んでゆき、やがていずみを突き刺していた刃とともに霧散した。
 いずみは支えを失って倒れ込む。
 せんがかろうじて抱きとめたが、いずみの出血は激しくせんまで血まみれになってしまう。
 「せん、止血しないと…」
 坂戸が心配そうに叫ぶが、せんは悲壮な表情で頭を左右に振った。
 「もう…、間に合わない…」
 「そ、そんな…」
 ぐったりしたいずみの顔は血の気がなく、既に青白く変色し始めていた。
 いずみが命を賭して抑えていた導尊も撃退できた感触はなく、多分逃げられたのだと思われた。
 「くそっ! だからおとなしくしてろって言ったんだ!」
 「せん…、いずみさんにも導尊と戦う理由があったんでしょう。だから全力で…」
 「そんなことは解ってる! だけどな… 異世界の俺だと? こんなに簡単にやられやがって! 
異世界の俺ならもっと足掻いて生き抜いて見せろよっ!」
 せんはいずみの身体を力一杯抱きしめ、助けられなかった自分の不甲斐なさと、無謀な戦い方で文字通り命を賭けたいずみへの怒りで絶叫した。
 坂戸も拳を固く握りしめ、自分を叱咤した。
 3人を遠巻きに囲む仲間たちの数も半減してしまった。
 「リーダー! 辛いですが、早くここから撤収しないと…」
 「…わかった。負傷者を確保して撤収しよう」
 何も言わないせんに代わって、坂戸が指示を出す。
 そしていずみを抱きしめたまま座り込んでいるせんに手を貸して立ち上がらせる。
 「いずみさんはせんが連れて帰ってください。私は負傷者を救助します」
 「…分かった。後を頼む…」
 それだけ呟くとせんはいずみの亡骸を抱きかかえて歩き出した。

 いずみの亡骸はせんと坂戸によって簡易の棺に納められた。
 腹に開いた傷はそのままだったが、出血が止まっていたので手ぬぐいを当てて衣服を整えるに止められた。
 本来なら防腐処理を行わなければならないが、せんたちはこの世界では異端の者だから適切な処置を行える設備がないためだ。
 が、同じく命を落とした同胞たちは、すぐに火葬して埋葬された。
 なぜ、いずみだけ特別なのか? なぜ火葬しなかったのかはせん自身にも判らなかった。
 それにあの時、何故すぐに導尊を追いかけなかったのか?
 仲間のうち半数以上が力尽き、生き残ったうちの半数も戦闘不能だった。
 が、相打ちになっても導尊に止めを刺すのが最優先事項だったにも関わらず…。
 唯一、あの化け物サソリに有効な打撃を加えられたいずみの壮絶な死がせんから闘争心を根こそぎ奪っていったのだった。

 屋敷に戻った一行は、次のアジトに移動する準備も行わず、ただ惚けていた。
 せんも坂戸も意気消沈して、うまく考えが纏まらない。
 夜が明ければ、新しく組織された警察がやってくるだろう。
 捕まれば全員極刑は免れない。
 しかし、もはやそんなことはどうでもいい。
 せんも仲間たちも完敗の苦渋を受け入れる心境なのだ。
 「せん、どうにも遣る瀬無いのですが、いずみさんの棺をここに置いてはいけないですよね?」
 坂戸は何やら思い込んでいるらしく、歯切れが悪い。
 すぐに逃走しなければならないのに、いずみの棺から離れることができないらしい。
 「…わかってる。 すぐに移動しなければ… …だけどあいつは一人で導尊に肉薄し、最後は俺たちに託そうとした。身を挺して。しかし、俺たちは止めをさせなかった。そんなあいつを置いていけないだろ…」
 せんは悲しみより、自分の不甲斐なさを恨んでいた。
 「…かも、しれません」
 「そうだな。俺たちは過信しすぎていたのかも…、俺たちには無理だったのかも…な」

 『ギシッ…』
 その時、いずみの棺から軋むような音が発せられた。
 「! なんだっ?」
 二人は飛び上がるように棺から遠のき、九字を切る構えをとる。
 そして…。
     <続く>
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