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第12章

12-08ゆらぎ

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 人類は宇宙の真実を求めて、宇宙空間に望遠鏡を配備した。
 最初は肉眼で見える世界だけを見つめて満足していた。
 しかし、宇宙の膨張や可視光では確認できない物質(X線や赤外線など)の解明のために、高性能の望遠鏡を開発してゆく。
 宇宙の起源を解明するために、深淵の銀河からの光の観測に適した赤外線望遠鏡を開発した頃から、それまでの宇宙の定義とは明らかに矛盾する現象が観測される。
 宇宙の年齢は当初約138億年と言われていたが、明らかに150億年以上経過したデータが検出される。
 最初は何らかの誤差が積み重なって、ありえない数値になったと誰もが思い込もうとした。
 しかし、人類が宇宙の果てと考えていた138億光年(厳密に言うならばその間にも宇宙は膨張しているので現時点では400億光年以上離れてる)先の空間からの電波(赤外線)が多数現れたのだ。
 そして、それはいきなり現れた。
 それまではダークマターとかダークエネルギーとされていたものの一部が、物質世界に顕現したのだ。
 既存の概念では解明できない現象。宇宙空間を不規則に動き回り、時空に縛られない“もの”。
 いつでもどこでも気ままに出現し、消える。
 人型にも見えるが、身長が数千メートルあったり、数ミリであったり、一定の基準にとどまることがなかった。
 人類はこの未知なる現象を“精霊”とし、あらゆる兵器を持って撃退した。
 が、攻撃は一切効かず、発射されたミサイルや砲弾、核兵器によって自らを滅亡の危機に追い込んでしまった。
 “精霊”からの攻撃は一切なく、逆に人類が破壊してしまった地表の全てを治癒させる光を放った。
 愚かにも敵だと思っていた“もの”によって人類は滅亡を免れた。
 そして、それは“アルフ”と呼ばれ、神と崇められた。

 「え? そんな話聞いたことないんだけど?」
 いずみはさくらの話に口を挟んだ。
 『そりゃそうでしょ。あんたはまだその世界に行ってないんだから、知らなくて当然よ』
 「? へ?」
 『いくらこの空間で統合思念とリンクできると言っても、今の私たちはいわゆる半個体。情報はこちらからアクセスしないと得られないのよ』
 「半、個体? ここは全部が統合されてたんじゃないの?」
 『されてないわよ。私の知識の全てをいずみが持ってないのがその証拠でしょ? 今の私たちは大数宇宙の中の揺らぎの一つで、そうね感覚的には統合思念のベースから突き出た毛のようなものよ』
 統合されたと言ってもそれだけでは何も変化がない。
 それは存在してないのと同義で、絶えず変化するから永久に持続できるのだ。
 「何で変化しないと存在してないのと同じなの?」
 『へ? そこからぁ? 変化しないってことは永久にそのままってことでしょ?』
 「! あ、そうか。なら確かに“ある”ってだけで、それはないのも同じことだよね」
 『そういうこと。ただ、私たちの思念のように色々考えるってことは、いつも変化してるってことでしょ?』
 「うんうん。!あ、そうか。だから、まだ私が知らない情報もあるんだね」
 『そういうこと。で、話の続きだけど…』

 さくらの説明によると、各々の思念はその柱のような揺らぎのさらにその表面に出来た繊毛のようなものだという。
 揺らぎによる柱は一つの宇宙を構成し、その内部はそれぞれの法則に従って世界が構築されている。
 いずみたちが住む宇宙(多次元構造)は、複数の次元が存在しているがその全てが重なり合って、一つの柱を構成しているという。
 つまり、世界は柱の中だけではなく、その外側にも大数宇宙という空間が存在していることになる。
 アルフはたまたまいくつも林立する揺らぎの柱の中の砂つぶのような世界に興味を示したということらしい。
 そしてそれこそが、いずみたちの世界に大混乱に巻き起す遠因となったのだ。
 繊毛のような宇宙でも、絶えず揺らぎがあればそれは“変化”と言える。
 変化のない世界は一見、成熟した平和な宇宙と思われるが、それは全てが“停止”した世界であり、宇宙の死と言える。
 つまり破壊され、何も無くなった世界は死んだ世界と同義となる。

 『導尊は私たちとは正反対の思念…“凪”なの。つまり私たちの活力を“無”にしようとしている』
 「なぎ? あ、そういうことか。揺らぎを消滅させようとしてるんだね」
 『そういうこと。だから何としても導尊には消滅してもらわないといけないの。まあ、大数宇宙から見れば揺らぎによる柱の一つが無くなるだけだけど、私たちの世界はそこにしかないから、私たちの個性も何もかも消えちゃうのよ』
 「エェ~っ! 死んじゃうの? 思念としても?」
 『違うわよ。私たちの…“水無月いずみ”や“柳瀬川さくら”としての記憶や個性など、また日本や地球、3次元世界や、“如月湧”、“ルイーナ”といった個別の情報が失われて、統合された思念の一部になるのよ』
 「…みんなと融合できるのはいいけど…、記憶がなくなるのは…いやっ!」
 『そうでしょ? だからあんたは元の世界に戻って、再生した身体で導尊の脅威を取り除くのよっ!』
 「さくら… ? え? 再生した? 私の身体って、死んでないの?」
 『何をとぼけたことを…。あんたの身体はアルファブラッドが活性化してるから、切り刻まれても時間が経てば再生するわよ』
 「? 死なない身体ってこと?」
 『(・_・) 死ぬよ』
 「今、再生するって言ったじゃん!」
 『再生はするさ。けど、その前には死ぬことが条件なのよ。再生するためにね』
 「…い、痛くない?」
 『痛いだろうね、そりゃ。死ぬほどには』
 「やだなぁ。何度も痛い思いするのは」
 『だから死なないように頑張るんじゃない。さ、ここでは時間は関係ないから、気がすむまでいてもいいけど、今ならやる気満々でしょ? さっさとやっつけて、元の時代に戻って私を呼び出してね』
 「う~ん。なんか納得できないけど…、まぁいいか。じゃあ元の時代で、またねっ!」
 いずみが短い別れの言葉を言い切ったところで、いずみの思念は途切れた。
    <続く>
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