HighSchoolFlappers

ラゲッジスペース

文字の大きさ
66 / 158
第5章

5-04肉壁

しおりを挟む
 「これがそうなのか?」
 合流した大介が開口一番、湧に確認を取る。
 ここまでの経緯について、とやかく議論してる余裕は時間的にも精神的にもなかった。
 「そうです。試してみますので見ててください」
 そう言うと湧は右手を伸ばし、人差し指を壁に向けて指弾を発射した。
 <フッ…>
 そんな音にならない音が聞こえてきそうなほど、静かだった。
 「なるほど…」
 ただでさえ狭い公衆トイレの個室の入り口で、6人が一斉に覗き込む。
 「次に氷弾を打ち込みます」
 今度は湧の指先からは氷の弾が発射される。
 <プシュ!>
 発射時の加速音はわずかにしたものの、壁に激突して砕ける音は聞こえない。
 それどころか、一瞬壁に貼り付いたように止まり、そのまま真下に落下した。
 <パリン>
 今度は氷が砕ける音が響く。
 「…なるほど、な」
 大介にはこれで十分だったらしい。
 「えー、大ちゃん。これだけでもう解ったの?」
 いずみが目を丸くしながら、すぐ上から覗いていた大介の顔を見上げた。
 「ああ、つまり純粋にエネルギーだけを吸収してるってことだろう」
 「そうそう。だから慣性エネルギーを奪われた氷の弾は……え?」
 それ以上続けられずに口をパクパクするいずみ。
 そんないずみには構わずに大介は湧に問いかけた。
 「ここからエネルギーをソウルコンバーターに転送するわけか…」
 「たぶんその通りだと思います」
 「? ルイーナ? どうしたの?」
 二人の会話に入り込めずブー垂れていたいずみが、突然ルイーナに話しかけた。
 「え?」
 二人もルイーナの様子がおかしいことに気づいた。
 「こ、これは…。以前お話しした、セーラム市内に設けたアーカムへのゲートと同じものです!」
 「なんだって?」
 ルイーナの驚きが感染したように、湧が青ざめた顔で思わず叫ぶ。
 「アーカム絡みっていうことは…、やはりアルフ…なのか…」
 今までの経緯で、ソウルコンバーターとアルフの繋がりは疑われてきた。
 しかし、二つを結びつける決定的な証拠はない。
 ソウルコンバーターの開発者はあくまで、湧の父親であり、設計・製造の全てを湧の父親の会社が牛耳っている。
 技術理論は公開されているものの、実証実験等の改ざんを疑われたり、製造特許なども審査員の理解の範囲を超えているため、未だに申請状態のままだった。
 だから電力製造プラントとしての販売はできないのだ。
 「アルフと決めつけるのは早計です。ただはっきりしているのは、今ここにある“亜空間ゲート”というべきものは、ソウルコンバーターの原料収集が目的だと思われるので、限定的な能力しかないでしょう」
 「じゃあこれ使って侵入とかできないの?」
 いずみがじれったそうに呟いた。
 「おそらく…ですが、ここから思念や霊体などの非物資エネルギーで侵入したら、そのままソウルコンバーターの中に取り込まれ、電気エネルギーに変換されてしまうでしょう」
 「? ちょっと待て! なら、これがここにある理由って」
 「大介さんの想像通りだと思います。最初は公衆トイレが何か解りませんでしたが、普段ここには浮遊霊や怪異が多く溜まっているようですね」
 「それらを“エーテル”と称して、吸収して純粋なエネルギーに変換。というところか…」
 「おそらく怨念や浮遊霊などを、エネルギー体としてしか認識してないのではないでしょうか?」
 「それがどういう思念を持っているとかは関係なく…かな?」
 湧が悔しそうに呟いた。
 有紀やさくらはまさにその“エーテル”に該当するからだ。
 それを単なるモノ扱いされていることに憤りを感じていた。
 それはいずみも同じだったようだ。
 「さくらは単なる思念エネルギーじゃないもん…」
 「もちろんそうです。私たちはそんな風に考えたことはありません。…で、でもね、いずみ。世の中には自分自身の価値すら認めない人がいるんです」
 「え? 自分自身も?」
 「この世の全ては、自分も含めて全てが研究材料もしくは単なるモノでしかない。そう言い切る人たちがいるのです」
 ルイーナが悔しそうに呟いた。
 「ルイーナ…その人たちって…」
 いずみはルイーナが置かれていたであろう立場に思い当たり、それ以上言葉にできなかった。
 「…それについては、いずれお話しします。今はもう時間がありません。とにかく作戦を遂行しなければ…後2時間でこの辺は全て破壊されてしまうのですから…」
 「『え? それはどういう?』」
 湧といずみは同時に聞き返した。
 「二人には余計な負担をかけたくなかったから内緒にしていたが、朝8時までにソウルコンバーターの停止もしくは破壊が完了しなかった場合は、我々共々半径5km圏内を跡形もなく破壊することになっているんだ」
 大介が心底申し訳なさそうに説明を始める。
 「ルイーナの言う通りもう時間がないから、概略だけを伝えると…」
 当局はこの作戦遂行に幾つかの条件を出した上で、米軍を介入させた。
 ソウルコンバーターの脅威は日本国内に限ったことではない。それどころか海外の方が遥かに深刻なのだ。
 内戦により電力プラントとしてだけでなく、敵対勢力の殲滅にも使われている疑惑がある。
 その根源である如月博士(湧の父親)を確保、もしくは処理するのがこの作戦最大の目標だが、最悪でもソウルコンバーターのオリジナルだけでも破壊しなくてはならない。
 表向きは大戦末期に米軍が開発中だったBC兵器の撤去だ。
 しかし、BC兵器である証拠がないため、作戦が失敗した時は極秘裏に開発されていた新型爆弾だったとして爆発したことになっている。
 その時点での米軍兵士の死者は5000人、民間人は5km圏内に残留していた人数ということだ。もちろんフェイクだが、水無月スタッフのほとんどは実際に処理されてしまうことになる。
 「そんな…じゃあ私たちは一種の人柱?」
 「いずみ、それは少し違うよ。ただ、作戦が失敗した場合は、そうでもしなければ最終的に全人類が滅亡する可能性が高いからだと思う」
 湧が悔しそうに壁を叩いた。
 「最終的に? それはどうして?」
 「今判明してる情報では、アルフは人の心を持ち合わせていない。あくまで思念体として、いわばAIのような存在だろうと言われています」
 ルイーナが湧の代わりに説明を始めた。
 アルフがなぜソウルコンバーターなどという高エネルギー作成プラントの作成にこだわるのか? それ自体は不明だが、このまま開発が続けば地球どころか、太陽系自体が崩壊しかねない莫大なエネルギーが生み出される危険性がある。
 人の心を持っていないとすれば、アルフはあくまで興味本位でソウルコンバーターの製作を行っているのではないか? との疑念が尽きない。
 当局の危惧はまさにそこだった。
 「次元を超えて流れ込むエネルギーの制御ができなくなった時点で、この世界は崩壊します」
 「…え? みんな死んじゃうってこと?」
 「たぶんそんなこと考えてる時間すらないと思うよ。一瞬で崩壊すると思う」
 湧が困ったように答えた。
 「そんなことにならないように、この作戦は何としても成功させなくてはならない」
 大介が公衆トイレの外を伺いながら、話を締めた。
 「ルイーナ、さっき君がやった“思念の目”ってやつで、クリーチャーを威嚇できないか?」
 「え? ああ、そうですね。うまくいけばクリーチャーを狙撃できるかもしれないですね」
 「そこまでは期待してないけどね。位置が特定できたら如月君やいずみの指弾で攻撃できると思ったんだ」
 「さすが大介さん。やってみます」
 ルイーナが目を瞑り意識を集中する。
 ややあって、空中に公園の全景が映し出された。
 「すごい。思念ってこう言う使い方もできるんだぁ」
 いまいち緊張感のないいずみの声に一同は失笑しかけた。
 「? いません。この周囲にはクリーチャーの姿がありません」
 ルイーナが報告した直後、
 「行くぞ! みんなっ!」
 大介が指示を出し、ルイーナの手をとって走り出した。
 4人が後に続く。
 「どういうことだ? 俺たちを籠城させるつもりじゃなかったのか?」
 大介が不安そうに呟いた。
 「守りに入ったのでは?」
 坂戸が返答する。
 「今までの相手ならその可能性が高いが…」
 思考が散漫にならないよう注意しながら、さっき肉壁があったところに戻ってきた。
 「ああ、やっぱり!」
 さっきは半物質的な肉壁が、今では完全な物質化を遂げていた。
 「師範代! あれを!」
 坂戸に促されて肉壁上部を仰ぐ、するとアルファクリーチャーが肉壁に溶け込むように飛び込んでいた。
 「このためか…」
 「げ、何これ? きもちわるー」
 いずみは心底気味悪そうに顔をしかめて、肉壁を凝視する。
 「つまり、物質化したバリア…なんだろうな。しかも表面はさっきのトイレみたいにソウルコンバーターへの亜空間ゲートになっているようだ」
 大介が肉壁の下層部分を指差して言った。
 そこでは庭木などの植物が分解・吸収されている様が見て取れた。
 「しかも今度は物質まで取り込んでやがる」
 坂戸も悔しそうに続けた。
 「下手に近づけない以上、肉壁の突破は難しいな」
 湧の自宅まであと約80mというところで、侵攻を阻まれた6人は立ち塞がる肉壁を苦々しく見つめた。
    <続く>
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...