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第13章
13-09宇宙の終焉
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光り輝くビッグバン寸前の宇宙空間に黒い筋が何本も広がってゆく。
その黒い筋はまるで網のように、光の玉を包み込んでゆく。
大きく膨れ上がる新しい宇宙の誕生を防ごうとするように。
《あれ…は? 何を…?》
薄れゆく意識の中でその光景を認知したいずみは、“凪”という意味を初めて理解した。
《そうか…、新しい宇宙が生まれないようにエネルギーを奪おうってことね?》
そう考えついたが、もはやいずみにはそれに抗う方法は思いつかなかった。
そして今度こそ意識が潰えるのを感じていた。
全てが闇に閉ざされてゆく。
しかし、それは恐怖より安らぎを感じさせる不思議な感覚だ。
不安という感情も“負”の思念だが、エネルギーには違いない。
『ボケッ!』
《ぎゃん! な、なんなのよっ!》
激痛というより、意識の爆発が思念の中に起こった。
思わず突っ込んでみたが、それが何なのか解らない。
《な、何?》
『いつまで個体でいる気なの? そろそろ意識を広げなさいよっ!』
それはいずみを叱咤するが、なぜか嫌な気持ちにはなれなかった。
《広げる? 意識を? どういう… …! そうか! 私は…》
いずみは今までアルフとの意識を交感していても、あくまでも“自己”を頑なに誇示していた。
そのためさくらに知識を提供されても、半分も理解できていなかった。
そして今さくらに諭されるまま意識を広げてみた。
《… あ…》
いずみの思念は光の中にいた。
『やっとこっちに来たわね。待ちくたびれたわ』
《? さ、くら? なんで?》
『え? 何言ってるのよ』
さくらはいずみのフレンドになった時、既に思念体として時空を超えた存在となっていた。
そのため大数宇宙の統合思念体の一部となっていたのだ。
しかし、さくらの情報は3次元世界の理に固執しているいずみには伝えることができなかった。
何度身体が新生されても、いずみの思念は“いずみ”としての“個”であったためだ。
“パラドックス・プロテクション”それは情報を交換する者同士の知識に明らかな格差があった場合に機能する。
今までいずみは3次元世界の“水無月いずみ”という“個”に固執していた。
『何度も覚醒のチャンスがあったのに、全然人の話聞いてなかったもんね』
《な、何を…》
『見てみなさい。この大数宇宙からの子宇宙は物理的な存在ではなくて、あらゆる事象がいくつも重なっているの』
いずみが言われた通り辺りを見回してみると、いくつもの宇宙が重なっているのがわかった。
およそ3次元世界では見ることができない不可思議な宇宙が広がっている。
その中の一つに黒くて丸いボールのような子宇宙があった。
『あれが私たちがいた物質世界の宇宙よ。他の宇宙と比べて強固な殻で覆われているわ』
《殻? って、私たちの宇宙ってあんなに小さな球だったの?》
『それは感覚の問題よ。今、あれは物質的には416億光年の直径がある球体になってるの』
《え? 138億年じゃないの?》
『あのね。それはあの世界での基準で、実際には拡大を続けているから大きさは倍以上になってるのよ。と言っても私たち思念体にとっては、大きさなんて関係ないけどね』
《…そか。じゃあなんでわざわざ殻で囲まれてるの?》
『それこそが3次元世界の特徴よ』
《? どういうこと?》
『あの宇宙では“時間”という法則が強固に成り立ってるの。ビッグバン時点を起点として、時間経過とともにあの子宇宙はどんどん大きくなっている』
そう言われていずみは3次元宇宙に意識を向けた。するとその中心部分から絶えず波紋が広がっているのが感じられる。
《あれ? なんか中心から何かが広がってる》
『そう。それが時間なの』
波のようなものは殻の表面までくると、今度は内側に反射して行った。
『私たちがいた宇宙は、3次元世界を基準に構成されていたから、その他の次元はあの波紋のように殻までくると反射して内側に流れてゆく。しかし、物質ではないからお互いが干渉することなく殻の中を行ったり来たりできていた』
《できて…いた? 今はできないの?》
『うん。エネルギーを吸収されて終わり。それこそが“凪”なのよ』
《え? じゃあ消滅するの? あの宇宙が?》
正でも負でもエネルギーが存在するから宇宙は存在できる。しかし、対消滅することでエネルギーが消滅すれば、存在そのものが消えてしまうのだ。
そして、その3次元宇宙宇宙は今まさに“導尊”の“負”のエネルギーに包まれようとしていた。
《あ、私たちの宇宙が…》
『大丈夫よ。いずみがその思念を全て開放すれば、導尊に打ち勝てる!』
《はぁ? 私あの世界で導尊を吸収しきれなかったんだよ? その何百倍もあるあの“負”のエネルギーに勝てるわけないじゃん!》
いずみの思念は逃げ腰で青ざめているようだった。
『だからよ。いずみは導尊のエネルギーを吸収するんじゃなくて、位相転換すればいいのよ』
《? はぁ? それじゃあ導尊のエネルギーであの宇宙が満たされ… ? そか!》
『やっと分かったのね。鈍いにもほどがあるわよ』
《悪かったわね。つまりさくらが言ってたのは、私の力でソウルコンバートして導尊のエネルギーを逆利用するってわけね!》
『おぃっ! はっきり思念にするんじゃないっ! 気付かれるでしょっ!』
二人の会話は一切の時間的影響を受けていないので、気付かれるとかいう問題ではない。
が、生まれ出ようとする宇宙を押さえつけていれば、導尊もいずれは気付くだろう。
『さあ! やっておしまいなさいっ!』
《… … さくら … なんか、それ悪役っぽいよ》
『な(汗)! なんてこと言うのよ』
さくらの思念に奇妙な揺らぎを感じた。
《まあ、なんにしても やっちゃうけどねっ!》
しかし、いずみの思念はそこで止まった。
『? どうしたの?』
《… … う、うん。あのね、やっちゃうって、どうすればいいのかな?》
『は? はぁぁぁ?』
さくらの思念が急にダウンする。
《明治6年の時はそれまでの消霊方法の応用で験力を使えたけど、思念になった今、力の入れ方が分かんないの》
いずみの思念に靄がかかった様な思念が混じる。
『あの、いずみさん? 私たちは今、物質世界の縛りから一切解放されているのよ? 強く念じるだけでいいの』
《? へ? 念じる? こう?》
そう言うといずみの思念が膨らみ、大きな波の様な思念の流れが生じた。
その波は膨らもうとしている新しい宇宙を押さえ込んでいる黒い筋を直撃する。
すると黒い筋がいきなり膨張し、帯の様に幅が広がる。
《ふんっ!》
いずみの思念が何やら掛け声を発すると、途端に帯が弾けた。
その反動で今まで抑え込まれていた新しい宇宙も一気に膨張を始める。
《あ、あれ? なんか派手に爆発してない?》
『そう…ねぇ。あの感じだと大数宇宙全体に響くかもね?』
そう話している間にも新しい宇宙は凄まじい勢いで拡大してゆく。
《… … あ、のさ…、あれがこのままの勢いで膨張していったら…》
『う、うん。そうだね。いずみの言いたいことも分かるよ。分かるけど…』
膨張はさらに勢いを増して、二人の思念にも衝撃を与え始めた。
と言うより、二人の思念が吹っ飛ばされた。
《ぎぇぇぇ~、さ、さくらっ! どうすんのよぉ! これっ!》
『私にも分かんないわよっ! ただこれだけのエネルギーが拡散されれば、大数宇宙も活性化されるんじゃ … な …』
《え? さ、く…》
二人の思念はそこで途絶えた。
宇宙はビッグバンの数千倍のエネルギーが満ち、濃密な渦が無数に発生した。
それは一つ一つが大きな思念体であり、統合されているもののそれぞれが異なる思考を持っていた。
やがて渦はそれぞれ単独の宇宙に変化していった。
《ううううっ! なんだったの? あれ?》
いずみが思念するもどこからも返答がない。
《さくら? どこ行ったの?》
しかし、明確な思念は帰ってこない。
いずみは徐々に不安になる。なぜ? 自分に問いかける。
さくらの気配はすぐそばにある。
いや、遥か彼方か?
それが全く解らない。
【いずみ! 頑張ったな】
《! ゆ、湧? どこにいるの?》
紛れもなく如月湧だった。時間を遡る前に作戦本部で別れた愛おしい湧の意識があった。
【いつも一緒にいたよ。ただ、肉体を維持してる時はこの思念体を認識できないらしい】
《そうなの? でも… もう身体が消滅しちゃったから、だから湧を感じることができるのかな?》
湧を感じられるのは嬉しい。でも、もうあの顔を見られないのか? と思うと寂しさがこみ上げていずみは悲しくなった。
【今は思念体となって、いつでもこうやって話ができるだろ? 本当はこうしてみんなの気持ちがこの宇宙を支えているんだ】
《そう…なんだ。でもさ…思念体じゃ…湧をだ… …! な、なんでもないっ!》
途端にいずみの思念が乱れる。
ただ、明確なメッセージにしていなくても、イメージでしっかりと伝わってはいたのだが、湧は敢えて気付かないふりをした。
『お~、お~、熱っいねぇ。』
しかし、敢えてメッセージにした思念が届く。
《! さくらぁ~! ちゃかすなぁ~!》
〔相変わらずねぇ、あなたたちは…〕
《る、ルイーナぁ? なんか久しぶりっ!》
〔は? 作戦室で別れてからまだそんなに経ってないわよ?〕
〈ルイーナ、君は最後まで作戦室にいたからそう感じるだろうけど、いずみや如月君たちは時間遡行した先で数日過ごしてるんだ。しかも思念体になってからも色々な経験をしてきたから、気分的には2~3年分くらいの時間経過に感じてるんじゃないかな?〉
大介の思念も現れた。
〔ああ、そうね。主観的時間経過は本人にしか分からないことは一番知ってるはずなのに、ごめんなさい〕
《ううん。私もテンション上がっちゃってごめんね》
〈坂戸や初美の思念も無事にコンタクトできたから、フラッパーズ再編も可能だ〉
《大ちゃん。もう身体がないし、3次元宇宙も吹っ飛んじゃったよ?》
『いずみ、それは違うわよ? 大数宇宙のエネルギーが増大して、子宇宙は再編されたから、また新たな3次元世界もできてるわよ』
《え? どこに?》
〔さくらの言う通り…なんだけど、今までの法則が通用するとは限らないわ〕
〈ルイーナの言う通り、全ての生物は思念体に転換され、この基本となる大数宇宙に包括されている。ここから望みの宇宙に転移すれば、その世界の住人となれるんだ〉
《へぇ。そうなんだ。じゃあ私たちがやってきたことってなんだったの?》
『【〔〈へ?〉〕】』
みんなの思念が一瞬固まった。
『いずみぃ! あんた今まで何と戦ってきたのよぉ~!!』
《? 導尊 でしょ?》
『じゃあ、その導尊って何だったっけ?』
《平安時代の怨霊だったっけ? なんかえらい坊さんの怨念が実体化したのよね?》
【… いずみ …怨霊とは、思念体の一種で、ぶっちゃけアルフと同じなんだよ。で、実体化したことはない。】
湧が落ち着いて説明した。
《え~~~~~っ! 私、導尊と戦ったよぉ! 明治6年の世界で!》
【? … それはもしかすると導尊に操られた人や物じゃないか?】
《確かに、クリーチャーのように剣で出来た怪物だったけど…》
【そもそも、導尊というのは怨霊というより、凪って言った方がわかりやすいと思う】
《あ! 凪! さくらが言ってたやつ?》
『そうそう。物質世界の怨霊や亡霊だったら、ほっといてもいいけど、“凪”だけは放置できないのよ。大数宇宙が消滅しちゃうから』
《そう言ってたね。だから導尊を位相転換して… …なんで?》
【この大数宇宙に満ちているエネルギーが相殺されて、エネルギーが“0”になったらこの世界…大数宇宙は消滅してしまうからだ】
『それを回避するために導尊のエネルギーを位相転換して、大数宇宙のエネルギーを倍増することにしたのよ。…って、作戦室で散々説明したんだけどね。ルイーナがわざわざ図解してくれたのに…』
《… ?じゃあ導尊って悪者じゃなかったの?》
『この大数宇宙には、正義も悪もないわよ。なぜなら全てがエネルギーであり、ゆらぎこそがこの世界(大数宇宙)の存在理由なの』
《悪じゃない? なんで? 散々3次元の人々を苦しめてきたじゃない》
『それこそ3次元世界の中での理であって、宇宙が変われば法則も全く違うのよ』
【大数宇宙はエネルギーのゆらぎが全ての活動の根本であって、悪意とか善意という意識はないんだ】
〔そんなことで悪にされるなら、アルフだって悪の将軍そのものになるわ。散々人体実験したんだし、私たち(ルイーナは元々部外者だが、大介と結ばれたために一族に加入した)水無月家だって人殺ししてたんだし、何が悪かは主観的なものなのよ〕
〈どちらにせよ我々の思念も新しい世界に転移することになる。まあ、物理法則や倫理観は異なる可能性があるものの、その世界に行けば自ずと理解できるだろう〉
大介の宣言を最後に全員新しい世界に転移を始める。
《さくら、新しい世界でも一緒がいいな》
『そういうことは湧くんに言った方がいいんじゃない?』
《へ? さ、さくらぁ~!》
いずみの思念の絶叫が新しい大数宇宙に伝播した。
<続く>
その黒い筋はまるで網のように、光の玉を包み込んでゆく。
大きく膨れ上がる新しい宇宙の誕生を防ごうとするように。
《あれ…は? 何を…?》
薄れゆく意識の中でその光景を認知したいずみは、“凪”という意味を初めて理解した。
《そうか…、新しい宇宙が生まれないようにエネルギーを奪おうってことね?》
そう考えついたが、もはやいずみにはそれに抗う方法は思いつかなかった。
そして今度こそ意識が潰えるのを感じていた。
全てが闇に閉ざされてゆく。
しかし、それは恐怖より安らぎを感じさせる不思議な感覚だ。
不安という感情も“負”の思念だが、エネルギーには違いない。
『ボケッ!』
《ぎゃん! な、なんなのよっ!》
激痛というより、意識の爆発が思念の中に起こった。
思わず突っ込んでみたが、それが何なのか解らない。
《な、何?》
『いつまで個体でいる気なの? そろそろ意識を広げなさいよっ!』
それはいずみを叱咤するが、なぜか嫌な気持ちにはなれなかった。
《広げる? 意識を? どういう… …! そうか! 私は…》
いずみは今までアルフとの意識を交感していても、あくまでも“自己”を頑なに誇示していた。
そのためさくらに知識を提供されても、半分も理解できていなかった。
そして今さくらに諭されるまま意識を広げてみた。
《… あ…》
いずみの思念は光の中にいた。
『やっとこっちに来たわね。待ちくたびれたわ』
《? さ、くら? なんで?》
『え? 何言ってるのよ』
さくらはいずみのフレンドになった時、既に思念体として時空を超えた存在となっていた。
そのため大数宇宙の統合思念体の一部となっていたのだ。
しかし、さくらの情報は3次元世界の理に固執しているいずみには伝えることができなかった。
何度身体が新生されても、いずみの思念は“いずみ”としての“個”であったためだ。
“パラドックス・プロテクション”それは情報を交換する者同士の知識に明らかな格差があった場合に機能する。
今までいずみは3次元世界の“水無月いずみ”という“個”に固執していた。
『何度も覚醒のチャンスがあったのに、全然人の話聞いてなかったもんね』
《な、何を…》
『見てみなさい。この大数宇宙からの子宇宙は物理的な存在ではなくて、あらゆる事象がいくつも重なっているの』
いずみが言われた通り辺りを見回してみると、いくつもの宇宙が重なっているのがわかった。
およそ3次元世界では見ることができない不可思議な宇宙が広がっている。
その中の一つに黒くて丸いボールのような子宇宙があった。
『あれが私たちがいた物質世界の宇宙よ。他の宇宙と比べて強固な殻で覆われているわ』
《殻? って、私たちの宇宙ってあんなに小さな球だったの?》
『それは感覚の問題よ。今、あれは物質的には416億光年の直径がある球体になってるの』
《え? 138億年じゃないの?》
『あのね。それはあの世界での基準で、実際には拡大を続けているから大きさは倍以上になってるのよ。と言っても私たち思念体にとっては、大きさなんて関係ないけどね』
《…そか。じゃあなんでわざわざ殻で囲まれてるの?》
『それこそが3次元世界の特徴よ』
《? どういうこと?》
『あの宇宙では“時間”という法則が強固に成り立ってるの。ビッグバン時点を起点として、時間経過とともにあの子宇宙はどんどん大きくなっている』
そう言われていずみは3次元宇宙に意識を向けた。するとその中心部分から絶えず波紋が広がっているのが感じられる。
《あれ? なんか中心から何かが広がってる》
『そう。それが時間なの』
波のようなものは殻の表面までくると、今度は内側に反射して行った。
『私たちがいた宇宙は、3次元世界を基準に構成されていたから、その他の次元はあの波紋のように殻までくると反射して内側に流れてゆく。しかし、物質ではないからお互いが干渉することなく殻の中を行ったり来たりできていた』
《できて…いた? 今はできないの?》
『うん。エネルギーを吸収されて終わり。それこそが“凪”なのよ』
《え? じゃあ消滅するの? あの宇宙が?》
正でも負でもエネルギーが存在するから宇宙は存在できる。しかし、対消滅することでエネルギーが消滅すれば、存在そのものが消えてしまうのだ。
そして、その3次元宇宙宇宙は今まさに“導尊”の“負”のエネルギーに包まれようとしていた。
《あ、私たちの宇宙が…》
『大丈夫よ。いずみがその思念を全て開放すれば、導尊に打ち勝てる!』
《はぁ? 私あの世界で導尊を吸収しきれなかったんだよ? その何百倍もあるあの“負”のエネルギーに勝てるわけないじゃん!》
いずみの思念は逃げ腰で青ざめているようだった。
『だからよ。いずみは導尊のエネルギーを吸収するんじゃなくて、位相転換すればいいのよ』
《? はぁ? それじゃあ導尊のエネルギーであの宇宙が満たされ… ? そか!》
『やっと分かったのね。鈍いにもほどがあるわよ』
《悪かったわね。つまりさくらが言ってたのは、私の力でソウルコンバートして導尊のエネルギーを逆利用するってわけね!》
『おぃっ! はっきり思念にするんじゃないっ! 気付かれるでしょっ!』
二人の会話は一切の時間的影響を受けていないので、気付かれるとかいう問題ではない。
が、生まれ出ようとする宇宙を押さえつけていれば、導尊もいずれは気付くだろう。
『さあ! やっておしまいなさいっ!』
《… … さくら … なんか、それ悪役っぽいよ》
『な(汗)! なんてこと言うのよ』
さくらの思念に奇妙な揺らぎを感じた。
《まあ、なんにしても やっちゃうけどねっ!》
しかし、いずみの思念はそこで止まった。
『? どうしたの?』
《… … う、うん。あのね、やっちゃうって、どうすればいいのかな?》
『は? はぁぁぁ?』
さくらの思念が急にダウンする。
《明治6年の時はそれまでの消霊方法の応用で験力を使えたけど、思念になった今、力の入れ方が分かんないの》
いずみの思念に靄がかかった様な思念が混じる。
『あの、いずみさん? 私たちは今、物質世界の縛りから一切解放されているのよ? 強く念じるだけでいいの』
《? へ? 念じる? こう?》
そう言うといずみの思念が膨らみ、大きな波の様な思念の流れが生じた。
その波は膨らもうとしている新しい宇宙を押さえ込んでいる黒い筋を直撃する。
すると黒い筋がいきなり膨張し、帯の様に幅が広がる。
《ふんっ!》
いずみの思念が何やら掛け声を発すると、途端に帯が弾けた。
その反動で今まで抑え込まれていた新しい宇宙も一気に膨張を始める。
《あ、あれ? なんか派手に爆発してない?》
『そう…ねぇ。あの感じだと大数宇宙全体に響くかもね?』
そう話している間にも新しい宇宙は凄まじい勢いで拡大してゆく。
《… … あ、のさ…、あれがこのままの勢いで膨張していったら…》
『う、うん。そうだね。いずみの言いたいことも分かるよ。分かるけど…』
膨張はさらに勢いを増して、二人の思念にも衝撃を与え始めた。
と言うより、二人の思念が吹っ飛ばされた。
《ぎぇぇぇ~、さ、さくらっ! どうすんのよぉ! これっ!》
『私にも分かんないわよっ! ただこれだけのエネルギーが拡散されれば、大数宇宙も活性化されるんじゃ … な …』
《え? さ、く…》
二人の思念はそこで途絶えた。
宇宙はビッグバンの数千倍のエネルギーが満ち、濃密な渦が無数に発生した。
それは一つ一つが大きな思念体であり、統合されているもののそれぞれが異なる思考を持っていた。
やがて渦はそれぞれ単独の宇宙に変化していった。
《ううううっ! なんだったの? あれ?》
いずみが思念するもどこからも返答がない。
《さくら? どこ行ったの?》
しかし、明確な思念は帰ってこない。
いずみは徐々に不安になる。なぜ? 自分に問いかける。
さくらの気配はすぐそばにある。
いや、遥か彼方か?
それが全く解らない。
【いずみ! 頑張ったな】
《! ゆ、湧? どこにいるの?》
紛れもなく如月湧だった。時間を遡る前に作戦本部で別れた愛おしい湧の意識があった。
【いつも一緒にいたよ。ただ、肉体を維持してる時はこの思念体を認識できないらしい】
《そうなの? でも… もう身体が消滅しちゃったから、だから湧を感じることができるのかな?》
湧を感じられるのは嬉しい。でも、もうあの顔を見られないのか? と思うと寂しさがこみ上げていずみは悲しくなった。
【今は思念体となって、いつでもこうやって話ができるだろ? 本当はこうしてみんなの気持ちがこの宇宙を支えているんだ】
《そう…なんだ。でもさ…思念体じゃ…湧をだ… …! な、なんでもないっ!》
途端にいずみの思念が乱れる。
ただ、明確なメッセージにしていなくても、イメージでしっかりと伝わってはいたのだが、湧は敢えて気付かないふりをした。
『お~、お~、熱っいねぇ。』
しかし、敢えてメッセージにした思念が届く。
《! さくらぁ~! ちゃかすなぁ~!》
〔相変わらずねぇ、あなたたちは…〕
《る、ルイーナぁ? なんか久しぶりっ!》
〔は? 作戦室で別れてからまだそんなに経ってないわよ?〕
〈ルイーナ、君は最後まで作戦室にいたからそう感じるだろうけど、いずみや如月君たちは時間遡行した先で数日過ごしてるんだ。しかも思念体になってからも色々な経験をしてきたから、気分的には2~3年分くらいの時間経過に感じてるんじゃないかな?〉
大介の思念も現れた。
〔ああ、そうね。主観的時間経過は本人にしか分からないことは一番知ってるはずなのに、ごめんなさい〕
《ううん。私もテンション上がっちゃってごめんね》
〈坂戸や初美の思念も無事にコンタクトできたから、フラッパーズ再編も可能だ〉
《大ちゃん。もう身体がないし、3次元宇宙も吹っ飛んじゃったよ?》
『いずみ、それは違うわよ? 大数宇宙のエネルギーが増大して、子宇宙は再編されたから、また新たな3次元世界もできてるわよ』
《え? どこに?》
〔さくらの言う通り…なんだけど、今までの法則が通用するとは限らないわ〕
〈ルイーナの言う通り、全ての生物は思念体に転換され、この基本となる大数宇宙に包括されている。ここから望みの宇宙に転移すれば、その世界の住人となれるんだ〉
《へぇ。そうなんだ。じゃあ私たちがやってきたことってなんだったの?》
『【〔〈へ?〉〕】』
みんなの思念が一瞬固まった。
『いずみぃ! あんた今まで何と戦ってきたのよぉ~!!』
《? 導尊 でしょ?》
『じゃあ、その導尊って何だったっけ?』
《平安時代の怨霊だったっけ? なんかえらい坊さんの怨念が実体化したのよね?》
【… いずみ …怨霊とは、思念体の一種で、ぶっちゃけアルフと同じなんだよ。で、実体化したことはない。】
湧が落ち着いて説明した。
《え~~~~~っ! 私、導尊と戦ったよぉ! 明治6年の世界で!》
【? … それはもしかすると導尊に操られた人や物じゃないか?】
《確かに、クリーチャーのように剣で出来た怪物だったけど…》
【そもそも、導尊というのは怨霊というより、凪って言った方がわかりやすいと思う】
《あ! 凪! さくらが言ってたやつ?》
『そうそう。物質世界の怨霊や亡霊だったら、ほっといてもいいけど、“凪”だけは放置できないのよ。大数宇宙が消滅しちゃうから』
《そう言ってたね。だから導尊を位相転換して… …なんで?》
【この大数宇宙に満ちているエネルギーが相殺されて、エネルギーが“0”になったらこの世界…大数宇宙は消滅してしまうからだ】
『それを回避するために導尊のエネルギーを位相転換して、大数宇宙のエネルギーを倍増することにしたのよ。…って、作戦室で散々説明したんだけどね。ルイーナがわざわざ図解してくれたのに…』
《… ?じゃあ導尊って悪者じゃなかったの?》
『この大数宇宙には、正義も悪もないわよ。なぜなら全てがエネルギーであり、ゆらぎこそがこの世界(大数宇宙)の存在理由なの』
《悪じゃない? なんで? 散々3次元の人々を苦しめてきたじゃない》
『それこそ3次元世界の中での理であって、宇宙が変われば法則も全く違うのよ』
【大数宇宙はエネルギーのゆらぎが全ての活動の根本であって、悪意とか善意という意識はないんだ】
〔そんなことで悪にされるなら、アルフだって悪の将軍そのものになるわ。散々人体実験したんだし、私たち(ルイーナは元々部外者だが、大介と結ばれたために一族に加入した)水無月家だって人殺ししてたんだし、何が悪かは主観的なものなのよ〕
〈どちらにせよ我々の思念も新しい世界に転移することになる。まあ、物理法則や倫理観は異なる可能性があるものの、その世界に行けば自ずと理解できるだろう〉
大介の宣言を最後に全員新しい世界に転移を始める。
《さくら、新しい世界でも一緒がいいな》
『そういうことは湧くんに言った方がいいんじゃない?』
《へ? さ、さくらぁ~!》
いずみの思念の絶叫が新しい大数宇宙に伝播した。
<続く>
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公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
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