死神(デッド)ちゃんは怒ってる!

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第十一話

神のみぞ知る?

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 今日も沢山のエゴ魂を次元の狭間に送り込んで、清々しい気分で帰路に着いたデッドが駅前広場を通り過ぎようとした時だった。

 『この女は悪魔だっ!』

 細い銀の縁取りが入った黒いロングコートの初老の男に、いきなり指をさされて叫ばれた。
 「へ?」
 呆気にとられるデッドに向かって、さらに続ける神父か牧師風の男。

 『つい今しがた、この女が一人の人間を地獄に送るのを私は目撃したっ! この女は悪魔の手先であるっ!』

 二言目で〝悪魔〟から〝手先〟に降格。
 さすがのデッドも呆れ果てた。

 『私は幼い頃に神の啓示を受けて、神父になることを決めた。厳しい修行と深い信仰によって、私は悪魔を見分ける力を授かったのである。神の使いとして、人々が正しい道を歩むように広く教えを伝えているのである』

 自称神父は、誰に構うことなくモノローグに入っていた。

 『悪魔は人々に甘言をささやき近づいてくる。そしてこの女が行ったように地獄に連れ去るのであるっ!』

 「(こいつ何言ってるでするか? そもそも神は人間に啓示など与えないし…、それ以前に人間の営みには一切干渉しないでするよ?)」
 デッドは自称神の使いの演説を聞いて脱力した。
 そもそもデッドは〝死〟であり、神族だ。
 悪魔は魔族。狼男や雪男などは獣族であり、例えば鳥類と魚類のように、それぞれが明確に全く異なる存在なのだ。
 デッドにしても〝死〟を運んでくる訳ではなく、〝死を司る〟ことが使命だ。
 死期が訪れた人間に寄り添って、死後迷わずに〝ヘブンズガルド(いわゆる天国)〟へ案内する。
 または予定外の死に陥った人間には、蘇らせるチャンスを与えることもある。
 すなわち死なせないこともあるのだ。

 道行く人々も自称神父の弁はどこか不気味さを含んでいるため、遠巻きに通り過ぎる人ばかりだ。
 要は、皆関わりたくないのだ。
 ただ、中には信者勧誘のパフォーマンスだと思い、無責任に煽るものもいた。
 デッドは付き合いきれないとばかりにその場を後にしよう…としたら、ムンズと腕を掴まれた。

 『そしてこの女は人々に災いをもたらす悪の化身であるっ!』

 とうとう〝魔〟ですらなくなってしまった。
 デッドもさすがに頭にきて、
 「きゃあ! 何するのっ!」
 と、負けない声で叫んでみた。
 さすがに駅前なので、すぐに二人の警官がやってきて自称神父とデッドを引き剥がしてくれた。
 今日のデッドは女子高生なので、警官は最初から自称神の使いの一方的な迷惑行為と決めてかかっていた。
 もっとも駅前交番にも、さっきから自称神父の怪しい叫び声が聞こえていたから様子を見に来ようとしていたところだった。

 『この女は人を地獄に送ったのだ! 私はその一部始終を見ていた』
 「ではその人はどこにいるんですか?」
 警官が質問口調で返した。
 『だから地獄に落とされたからここにはいないのだよっ! そんなこともわからんのかっ!』
 二人の警官は互いに顔を見合わせ、自称神父を交番に連行することにしたようだ。
 「お嬢さんは? 何をしていたのですか」
 一応デッドにも質問する。
 「私は家に帰るために電車を降りて、ここを通りがかっただけです(る)」
 最後の(る)はおバカな娘と思われないように、口の中に留めておいた。
 「この人とは?」
 「知りません(でする)。いきなり指をさされて、悪魔呼ばわりされたんです(る)」
 「とりあえず一緒に交番まで来ていただけますか?」
 仕方なくデッドも交番に行くことになった。

 『こらっ! お前達も公僕なら一刻も早くこの女を死刑にし給え』

 その言葉を聞いた途端に警官の一人は、危険を感じて自称神父に手錠をかけた。

 『な、何をする。捕まえるは私ではなく、その悪魔の方であるぞ!』

 興が乗ってきたらしく、自称神の使いの言葉遣いは尊大なものになってきた。
 デッドは考えた。この自称神父はなぜこんなにも悪魔に固執するのだろう。
 この男からは神に関わる波動も匂いも全く感じられない。
 と言って、魔族の波動も感じられない。
 魔族に接触していれば、残滓があるはずだが、それすらもない。
 いわゆる全く〝ただの〟人間なのだ。
 もはやこの男の妄想としか考えられなかった。

 交番に連行されても自称神父は全くスタンスを変えず、自分の行いは神によって命じられたと言い放つ。
 ここまでこじらせると、何を言っても堂々巡りを繰り返すだけで、男の氏名住所すら聞き出すことができない。
 警察官たちも扱いに困り、本庁から応援を呼ぶことにした。

 自称神父の発言は完全に常軌を逸していて、デッドは巻き込まれただけだと判断されたため、すぐに解放された。
 しかし、デッドにとってはスッキリしない結末だ。
 この男が固執する〝神の啓示〟とやらが、仮に魔族によるものだとしたら、やり方が回りくどいのだ。
 魔族は人間の欲望や嫉妬心など、負の感情がごちそうなのだ。
 普段は人間と同じように動物や果実を食べているが、邪な心を持った人間を見つけると、または匂いを感じると煽って、さらに負の感情を熟成させる。
 そして頃合いを見て搾取するのだ。
 「(まあ、神族も人間の魂にこびりついた魂の垢を、珍味といって好んで食べるところは同じでするね)」
 デッドは自分たちの嗜好についても、あながち自称神父の言が間違ってるとは言い切れないと感じた。
 「どうするべきなんでしょうかねぇ?」
 独り言のように呟くデッド。
 それに即座に返答があった。
 《あの男は妄想に囚われているようだ。自分には世の中を正常にする力があると思い込んでいる》
 デッドの上司でもある〝リッチ〟だ。実体化せずにデッドとともに一部始終を見ていた。
 「(妄想? でするか? それにしても自信たっぷりに妄言吐くんでするね?)」
 《どうも悪い意味でエゴ魂化してるようだ。あの男は今まで質素な生活を送ってきたようだが、この数年間は信者が自己中心的な活動を行って、問題を起こしてきたらしい。その謝罪などで教会を手放し、いわゆるホームレスになってしまったようだ》
 「その問題ってなんでするか?」
 デッドは聞かずにはいられなかった。
 善良な人間がエゴ魂のせいで、魂が汚されてしまったのが許せなかった。
 《強引な勧誘や脅迫、勧誘先に押し入っての猥褻行為など、かなり好き勝手をされたようだ》
 「ひどいでする。その問題を起こしたエゴ魂は?」
 《さっさと逃げてしまい、告訴すらできていない。今はその時のことなど忘れて面白おかしく生きているのだろう》
 悪魔呼ばわりされたことなどすっかり忘れて、デッドは自称神父に同情した。
 「そうなるとあの男はエゴ魂の犠牲者ということになるでするね」
 《その通りだ。多分今もあちこちで善良な魂に悪影響を与えていると思われる》
 「敵討ちなどするつもりはないでするが、そのエゴ魂は許せないでするね。しばらくそのエゴ魂を追いかけてみてもいいでするか?」
 デッドは真剣な眼差しで、デッドにしか見えない上司を睨みつけた。
 《もちろんだとも。エゴ魂処理は最優先事項だ。特にこのミッドガルドにおいてまで他の魂に影響を与える凶悪なものは至急処理したまえ》
 「わかりましたでする」
 人間界での罪は人間同士が取り決めたもの。その処罰にデッド達は一切関与しない。
 しかし、今回のようにエゴ魂の増殖を防ぐためには、人間たちでは限度があると思われた。
 「あ、そうでする。そいつらは魔族に関わっていないでするか?」
 《大丈夫だ。魔族にも確認はとった。彼らもエゴ魂には手を焼いているそうだ》
 「… …」
 デッドは三白眼で睨みつける。
 「今回は随分と準備がよろしいようでするね? 最初から私にそれをやらせるつもりだったのでは?」
 《何のことかな? お前は上司の私を疑うのか?》
 「疑いまするよっ! いつもいつも調子のいいことばかり言ってるでするからね」
 《まあ、最近マンネリになっていたから、新しい任務と思って楽しんでくれ》
 「ア~~やっぱりぃ! あの男を煽ったのはっ!」
 リッチだった。あの男にデッドが次元の狭間に送る一部始終を見させていたのは。
 「くぅ~~~~~~~、また、良いように扱われたでするっ!」
 《その怒りをエゴ魂にぶつけるのだっ! デッド!》
 言うだけ言って、リッチは姿を消した。
 「もう! たまには自分でやってみたら良いでするよっ!」
 そう叫んだデッドの声は、リッチに届かなかった。
    <第11話 終わり>
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