死神(デッド)ちゃんは怒ってる!

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第十話

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 その男は身勝手というより、他人が困惑してるのが楽しくて仕方なかった。
 会社からの帰宅時、憂さ晴らしというより他者をからかって遊ぶのが日課になっていた。
 今日は乗ろうとしていた電車のドアが目の前で閉まり始めた。
 (チャンス!)
 走りこめば乗れただろうが、男はわざとゆっくりドアに近づく。
 ドアが完全に閉まる直前、持っていたカバンを挟み込んだ。
 カバンはしっかりとドアに挟まり、ドアが開いていることを示す惻灯は点灯したままだ。
 “カバンを挟まないでください。電車が発車できません。早く引き抜いてください”
 車掌が車外スピーカーで注意するが、男は聞こえないふりをしてそのまま立っていた。
 仕方なく車掌はドアを再開した。
 が、男は乗るでもなくそのまま立ち尽くしている。
 車掌が再びドアを閉じると、またカバンを挟んだ。
 “カバンを挟まないでください。他のお客様の迷惑になります。すぐに抜いてください”
 再びスピーカーで注意するが、男は全く動かなかった。
 しびれを切らせた車内の若い男が、ドア越しに男のカバンを蹴りつけドアから押し出した。
 その拍子に男は2、3歩後退り、その隙に車掌は発車合図を送った。

 男の前を通過する時、車掌は列車無線で指令に通報した。
 もっとも駅員が駆けつけるまでには男は消えてしまっていたが、防犯ビデオの映像から最近運行妨害をしている当該者だと確認された。

 さすがに同じ時刻、同じ駅でいたずらする訳にもいかないので、男は次の日、違う路線で帰宅した。
 今日の路線はホームドアが付いているので、電車のドアに挟めなくてもホームドアが閉まらなければ発車できない。
 そして男は電車のドアにカバンを挟んだ。

 ーところが、今日はいつもと違っていたー

 電車のドアはピタリと閉じられ、側灯も消えた。
 (あれ? 俺のカバンが挟まってるんだぞ! なんでドアが閉まるんだ?)
 続いてホームドアが男の身体を挟んで閉じた。
 (おいおい、安全確認を怠ってるぞ。あとでクレーム入れてやる!)
 男が毒づいたその時、電車が動き出した。
 (うがっ! 痛い痛いっ!)
 男のカバンはドアに挟まったままビクともしない。
 男はカバンを話そうとしたが、手が離れない。
 ホームドアに挟まった男の身体は、ローラーにでも潰されたようにペラペラになって、すり抜けてきた。
 (ど、どうなってるんだ? 俺の身体が!)
 叫びながらもカバンを離そうとして前を見たところで、顔の前に少女の顔があることに気づいた。
 少女の顔は電車のドアからはみ出ていた。
 (なんだてめえは! あ! お前の仕業かっ! 頭おかしいんじゃないか?)
 なんの脈絡もなく少女に毒突く。
 「頭おかしいのはお前の方でするよっ! 紙切れがヒラヒラしたって誰も気にも留めない出するよ!」
 (紙切れ? 俺が? 何言って… ああっ!)
 その時になって、やっと男は自分の身体が紙のように薄っぺらになっていることに気づいた。
 (何なんだよこれはっ!)
 「お前はいつも手やカバンをドアに挟んで、みんなに迷惑かけて面白がってたでする。私も何回かお前に電車遅らされてイライラしてたんでするよっ!」
 毎日毎日、次元の狭間にエゴ魂を送る疲労感に苛まれていたデッドは、帰宅途中の電車を度々遅らされていた。
 この男を次元の狭間に送るだけでは、気が済まなかった。
 「だから、挟まりたいお前を永遠に、色々なものに、挟まらせてあげようというわけでする」
 (何言ってるんだ?)
 「お前の身体は紙のように薄いけど、永久に破けないでする。ただ、服や持ち物は擦れればやがて消えるでするよ。すっぽんぽんにならないように気をつけるでする」
 (は? バカじゃねえの?)
 「あと何かにぶつかれば痛いでするから、気をつけるでする」
 デッドは男の罵声には一切応えず続ける。
 「あ、そうそう。紙のように薄いので、風が吹けば飛ばされまするから、気をつけるでする」
 (ふざけたことばっかり言いやがって)
 「最もお前の身体はもう自由に動けないから、注意のしようがないでするけどね」
 そう言って、デッドはすごくいい笑顔で水に潜るように電車の車体に消えていった。

 (……………………)
 しばらく放心していた男は、電車が次の駅に滑り込むと駅のホームドアとの間で、モミクシャに叩きつけられた。
 (ウガガガガガガガガっ!)
 死に値する激痛に見舞われ、気を失った。
 …っと思った。が、電車が走り出すと再び色々なものに叩きつけられ、激痛を見舞った。
 (な、なんで俺がこんな目に会わなくちゃいけないんだぁ!)
 男が反省することは永遠にないだろう。
    <第10話 挟み込み 完>
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