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第九話
駄死神デッド
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死が確定し、ヘヴンズガルドに送られる魂は、デッド達にはその人間の頭上に光り輝く輪が見え始める。
輪の大きさ、太さは個体差があるものの、死期が近づくとその人間の顔全体を覆う筒の様になるので、デッドたちはヘヴンズガルドに送る準備を行うのだ。
よく“お迎えが来る”とかいうが、実際には“お迎えを呼ぶ”ことになっている。
ーなぜか?ー
いわゆる人手(使徒)不足なのだ。
だから、死んでも“お迎え”が来てくれないことが稀にある。
大抵の場合は死臭によって、死神は近くに死期が近い者がいると分かるはずなのだが…、気付かれないことも稀にあるのだ。
それは都会の片隅の小さな路地裏にある、小さな喫茶店だった。
客が5人も入れば一杯になるほどの、間口が1軒しかない本当に小さな店だ。
これでも昔は常連客で賑わっていたのだが、高齢化とともに皆定年を迎えて足が遠のいていた。
最近の客は、街角や大通りに面したおしゃれな“カフェ”ばかりで、こんな小さないわゆる“喫茶店”に来るものはいなかった。
「あ”~疲れたでする~。どうしてこの街はいくら“エゴ魂”を追放しても、一向に減らないんでするかねぇ」
毎日“エゴ魂”の追放に忙しいデッドは疲れ果てて、何気なくこの喫茶店に入った。
マスターは無言でデッドを迎えた。
そしてオーダーも取らずに、勝手にコーヒーを入れ始める。
しかし…
一向にコーヒーが出てくる気配がない。
「あれ? マスターどうかしたんでするか?」
デッドが問いかけた。
が、マスターは難しい顔で首を傾げるばかり。
そして、デッドはマスターがサイフォンどころか、コーヒー豆もカップも何も掴めないことに気付いた。
「あれれ? あなたはもしかして…」
そう言って、デッドがカウンターの中を覗き込むと…、
そこにはもう一人のマスターが仰向けに倒れていた。
「あれれれ?でする」
疲れていたとはいえ、死者に気づけないとは…。
デッドはひどく落ち込んだ。
しかし、他に死神はいないので放置されていたようだ。
「あの~マスター? このまま“ヘヴンズガルド”に連れってもいいでするか?」
マスターは微笑みながらゆっくりと頷いた。
デッドは久しぶりの死神の仕事に心躍ったが…。
「う~ん。 どうもイマイチしっくりこないでする」
その理由は、マスターの魂にあった。
「…マスター、あなたはこの世に未練がないでするか?」
マスターは再び頷く。
デッドは珍しく躊躇していた。
何しろこのマスターの魂は一点の曇りもないのだ。
魂の垢がデッドについてはご馳走なので、それが無いということはデッドには何らメリットが無い。
いわゆるただ働きだ。
しかし、それ以上にここまで純粋な魂は非常に珍しい。
最近デッドが関わっている“エゴ魂”とは対極にあるのだ。
生きていた時は清く潔く、死んでからもこの世に全く未練を残さないマスター。
それをこのままヘヴンズガルドに送るのが、何か勿体なく思えた。
「う~ん。マスター…私にコーヒーを淹れてもらえないでするか?」
困惑するマスターは、カップすら持つことができない自分の手を見つめた。
「大丈夫でする。今、生き返らせるでするよ」
そう言って、デッドはマスターの額に手をあてがい、身体に押し込んだ。
・ ・ ・ ・ ・
「あ~、いい香りでする。こんな美味しいコーヒー初めてでする」
「お褒めいただきありがとうございます。お客様は本当にコーヒーがお好きなんですね」
マスターは清々しい笑顔で喜んだ。
「先ほどは大変失礼いたしました。いくら歳とはいえ、お客様がいらっしゃったことに気づかなかったとは…、もうボケ始めてるんですかね…お恥ずかしい…」
「きっと疲れていたんでするよ、こんな美味しいコーヒーを出せる間はまだまだ大丈夫でするよ」
自分が死んでいたとは全く知らず、マスターはコーヒーの香ばしい香りに包まれ、微笑んだ。
デッドはマスターの身体が病に侵されているわけではなく、ただ転んで打ち所が悪かっただけだと知り、生き返らせたのだ。
死神にとっては背徳的な行為にも取れるが、なんでもかんでも殺せばいいわけではない。
デッドはあくまでも“死を司る使徒”であり、もちろん生き返させる権利もある。
「マスター、長生きしてくださいでする。また美味しいコーヒーを飲ませてくださいでする」
そう言って、デッドは店を出た。
さっきまでの疲れは嘘のように消えていた。
「まだまだこの街も捨てたもんじゃないでするね」
デッドは微笑み、人ごみに消えていった。
<第9話 駄死神デッド 終わり>
輪の大きさ、太さは個体差があるものの、死期が近づくとその人間の顔全体を覆う筒の様になるので、デッドたちはヘヴンズガルドに送る準備を行うのだ。
よく“お迎えが来る”とかいうが、実際には“お迎えを呼ぶ”ことになっている。
ーなぜか?ー
いわゆる人手(使徒)不足なのだ。
だから、死んでも“お迎え”が来てくれないことが稀にある。
大抵の場合は死臭によって、死神は近くに死期が近い者がいると分かるはずなのだが…、気付かれないことも稀にあるのだ。
それは都会の片隅の小さな路地裏にある、小さな喫茶店だった。
客が5人も入れば一杯になるほどの、間口が1軒しかない本当に小さな店だ。
これでも昔は常連客で賑わっていたのだが、高齢化とともに皆定年を迎えて足が遠のいていた。
最近の客は、街角や大通りに面したおしゃれな“カフェ”ばかりで、こんな小さないわゆる“喫茶店”に来るものはいなかった。
「あ”~疲れたでする~。どうしてこの街はいくら“エゴ魂”を追放しても、一向に減らないんでするかねぇ」
毎日“エゴ魂”の追放に忙しいデッドは疲れ果てて、何気なくこの喫茶店に入った。
マスターは無言でデッドを迎えた。
そしてオーダーも取らずに、勝手にコーヒーを入れ始める。
しかし…
一向にコーヒーが出てくる気配がない。
「あれ? マスターどうかしたんでするか?」
デッドが問いかけた。
が、マスターは難しい顔で首を傾げるばかり。
そして、デッドはマスターがサイフォンどころか、コーヒー豆もカップも何も掴めないことに気付いた。
「あれれ? あなたはもしかして…」
そう言って、デッドがカウンターの中を覗き込むと…、
そこにはもう一人のマスターが仰向けに倒れていた。
「あれれれ?でする」
疲れていたとはいえ、死者に気づけないとは…。
デッドはひどく落ち込んだ。
しかし、他に死神はいないので放置されていたようだ。
「あの~マスター? このまま“ヘヴンズガルド”に連れってもいいでするか?」
マスターは微笑みながらゆっくりと頷いた。
デッドは久しぶりの死神の仕事に心躍ったが…。
「う~ん。 どうもイマイチしっくりこないでする」
その理由は、マスターの魂にあった。
「…マスター、あなたはこの世に未練がないでするか?」
マスターは再び頷く。
デッドは珍しく躊躇していた。
何しろこのマスターの魂は一点の曇りもないのだ。
魂の垢がデッドについてはご馳走なので、それが無いということはデッドには何らメリットが無い。
いわゆるただ働きだ。
しかし、それ以上にここまで純粋な魂は非常に珍しい。
最近デッドが関わっている“エゴ魂”とは対極にあるのだ。
生きていた時は清く潔く、死んでからもこの世に全く未練を残さないマスター。
それをこのままヘヴンズガルドに送るのが、何か勿体なく思えた。
「う~ん。マスター…私にコーヒーを淹れてもらえないでするか?」
困惑するマスターは、カップすら持つことができない自分の手を見つめた。
「大丈夫でする。今、生き返らせるでするよ」
そう言って、デッドはマスターの額に手をあてがい、身体に押し込んだ。
・ ・ ・ ・ ・
「あ~、いい香りでする。こんな美味しいコーヒー初めてでする」
「お褒めいただきありがとうございます。お客様は本当にコーヒーがお好きなんですね」
マスターは清々しい笑顔で喜んだ。
「先ほどは大変失礼いたしました。いくら歳とはいえ、お客様がいらっしゃったことに気づかなかったとは…、もうボケ始めてるんですかね…お恥ずかしい…」
「きっと疲れていたんでするよ、こんな美味しいコーヒーを出せる間はまだまだ大丈夫でするよ」
自分が死んでいたとは全く知らず、マスターはコーヒーの香ばしい香りに包まれ、微笑んだ。
デッドはマスターの身体が病に侵されているわけではなく、ただ転んで打ち所が悪かっただけだと知り、生き返らせたのだ。
死神にとっては背徳的な行為にも取れるが、なんでもかんでも殺せばいいわけではない。
デッドはあくまでも“死を司る使徒”であり、もちろん生き返させる権利もある。
「マスター、長生きしてくださいでする。また美味しいコーヒーを飲ませてくださいでする」
そう言って、デッドは店を出た。
さっきまでの疲れは嘘のように消えていた。
「まだまだこの街も捨てたもんじゃないでするね」
デッドは微笑み、人ごみに消えていった。
<第9話 駄死神デッド 終わり>
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