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第一話
地縛霊にもなれない。
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その日、僕は唐突に人生を終わらせた。
別にイジメられていたとか、家庭崩壊で居場所がないとか…およそ世間で騒がれているような“悩み”を持った人生ではない。
ただ、突然死ぬことにしたのだ。
《ファンファンファンファ~ン! キキキキキィーッ!》
凄まじい警笛とヒステリックな金属音が世界を満たした。
次の瞬間、身体は暴力的な衝撃に飲み込まれ、僕は僕をやめた。
そして、気が付けば目の前に…
「うんち?」
そうとしか表現出来ないものが、辺り一面にブチまかれていた。
ぼんやりとしていた視界が、徐々に鮮明になる。
そのうち、うんちの中に大きな固まりがあることに気付いた。
それは、まるで人の手だったり、足だったり、ああ、これは下半身かな? でも腰の部分しか無いけど…。
その中からは今もドロドロしたうんちが次々と出てきていた。
あれ? 頭みたいなものもある。いや確かに頭だ! これって、バラバラ死体じゃないか!
大変だ! 早く通報しなきゃ。…通報? どこに? 誰に? なんで?
僕は何故、自分が慌てているのか判らなくなっていた。
「あ、気が付きました?」
その時、後ろから女の子の声がした。
振り向こうとして、僕は初めて自分の身体が動かないことに気付いた。
「あ、そのままでいいですよ。どうせ動けないでしょうけどね」
そう言いながら、女の子は僕の視界に入ってきた。
「初めましてです。私はデッド・エンドっていいまする。デッドちゃん、って呼んでね」
な? なんだ? このおばかッ娘は?
「あ~だめなのですよ~。人が自己紹介してる時にチャチャチャ入れちゃ。うほほん! これでも私は神さまなんですの。ただ~まだ新人なので至らない点はご勘弁して許してね」
「……。」
こういうしゃべり方が流行ってるの?
僕はこの人をおちょくってるようなしゃべり方が気に入らなかった。
「別に好きになってくれなくていいのです」
え? 思った事が伝わってる??
「君は何か勘違いしちゃってるようですが、思った事も何も、君にはもうソレしか残ってないんだってば。判るこの意味」
ソレ? どれ? っていうか、なんで身体が動かないんだ?
「君、ついさっき何しやがったか覚えてない? でするか?」
意味が判んない…何言ってるのこのオバカッ娘…。
「じゃ、私も忙しいんだからサッサと終わりますね。さっき君は予定されてないのに電車に飛び込んで身体を壊しましたんでする」
あ、そうか。僕自殺したんだ。
え? じゃあこのうんちまみれの死体って…僕の身体??
「やっと判ったですね。そう、だから今の君は意識だけの存在なのさ」
僕、幽霊になったの??
「チッ!チッ!チッ! 違いまする。そんな高級なものにはもうなれないのさ」
どういうこと? 死んだんでしょ? 僕…
「死んで無いですよ。“死”とは予定されているもので、それ以外は“死”ではないのだよ」
でも、僕は生きてないんでしょ? じゃあ死んだんじゃない。
「ちゃんと説明するから大人しく聞きやがってくださいな。まず、今の君の状況を説明してやりますよ」
…デッドの説明だとこういうことらしい。
人間は身体・霊体・幽体の三位一体で構成されていて、物質の身体と非物質の霊体、そして半物質の幽体で出来ているという。
死というのは、あらかじめ予定された行程に沿って、身体から霊体と幽体を分離する準備を行わなくてはならない。ただ、時間的にはほんの一瞬らしいが、デッドたちに言わせると時間という概念は全く関係ないという。
さて、僕はというと…
「いきなり電車に飛び込んだことはどうでもいいですよ。ただ君が瞬間的に“死のう”としたことが問題なんだな」
「でも、自殺ってそんなもんじゃないの?」
「私らが予定してる人はいいけど、君みたいに予定にない人が死のうとされても普通は死なないんだな」
「意味が判んないよ」
「だからよく聞きやがってよ。死なないはずなのに、身体がバラバラに壊されたら生きていられないだろっしょ!」
霊体は本来は幽体と対になって身体から抜けるので、その後の身体はただの物体でしかなくなり、その時点で幽体と身体の連結は戻らなくなる。良く言われている“幽体離脱”とは、この時に身体との連結が解かれていないので、戻ることができるらしい。
霊体は身体から抜けた幽体と一体でなければ、身体の記憶がないのでただの靄みたいな固まりでしかない。いわゆるエクトプラズムというのがソレらしい。
先祖の霊が見える人がいるが、その場合も霊体と幽体が一体になっているから個人を特定できるのだ。
さて、予定に無い身体の破壊で霊体の一部(記憶)だけが抜け出てしまったのが、僕の今の状態なのだ。つまり、僕は死んでもいないし、生きてもいないのだ。
「だからぁ、そういう事態は私ら新人には荷が重いのだよ。
神さま協会ではそういう輩は、この世界で迷惑かけまくってるんだから、ここで永遠にその罰を受けさせようって決まったのさ」
「迷惑? 僕は誰かに迷惑かけたの?」
「今さら言っても関係ナッシングさ、でも教えて欲しいかや?」
「うん。教えて…」
「じゃ、家族から行くじゃん。君は自殺したと判ったんだよ。そいでもって、鉄道会社から巨額の賠償請求が出て、裁判で君の保護者である親の財産/家屋の一切合切が差し押さえられたよ。でも半分にもならないから破産申告して、家族は離散。君の妹は失意のあまり今から3年後に自殺。こっちは心労でかなり疲弊してたので、死亡予定に含まれているから問題なく「死亡」できるさ。ちなみに賠償請求が通常の飛び込み自殺より1.5倍になったのは、電車の運転手が君が飛び込んだ弾みに割れたフロントガラスの破片が目を直撃! ストライクしたのさ! で、失明。労災が利くとはいえ、仕事はできないどころか、目を失ったことで生き甲斐も失って、精神薄弱となり衰弱死。さらに君が飛び込んだ電車に乗っていた女性は、母親が危篤だったため病院に駆け付けるとこだったんさ。でも電車は動かないから、タクシーに乗り換えたんだけど、居眠り運転のトラックに突っ込まれて、運転手共々即死。彼女の母親は持ち直したものの、彼女の死を知らされて1ヶ月後に心労で死ぬ事になってるさ。さらに…」
「あ~、もう判ったよぉ! 僕が全て悪いんだよね」
「さっきから言ってるだろって。でも君の最大の罪は予定に無い行いで、自分の身体を裏切った、壊したことさよ。これは他人にかけた迷惑とはケタ違いな重罪なのさよ」
「で、僕はこのさきどうなるの?」
「どうにもならなくていいです。神さま協会はこれ以上君とは関わりませんです」
なんかヤナ予感。
「身体の神経は、身体が腐るまでずっと痛み続けるんさ、それが記憶となって君に復讐しにくるから…君の記憶というか意識は永久にこの場所で痛みを味わうだけの存在になりまする」
「え? どういう! ぎゃあああああああああーっ! 痛い痛い!」
実況検分が終わって電車が動き出した。その途端に僕は激痛に襲われた。
車輪が僕の身体があったところを通る度に激痛が走る。
「なんでなんで? 死んだのに何で痛いの?? デッド助けて!」
「無理っす。それは幻視痛といって、君の身体の恨みなのさ」
「どうしてさ! 痛いなら僕はまだ死んでないんでしょ??」
「生きてもいないんだよ。地獄なら無間地獄ものなんだと。でも地獄も今忙しすぎるし、いとも簡単に自分を壊す魂を入場させないことになりやがったのさ。なら壊した所で裏切られた身体の怒りを永遠に受けさせることにしたのさ」
「いやだぁ~ 痛い痛い! 戻してお願いだよぉ~」
「君の身体もきっとそうやって、壊されたくなかったんだろうねぇ~」
デッドは最後に限りなく冷たい視線で僕を見下ろし、最後に…
「壊された身体の叫びを永遠に…」
そう言って消えていった。
後には線路から見える景色が唯一のものとなり、電車が通る度に僕は死ぬ程の激痛を永遠に与えられた。
<第一話 地縛霊にもなれない>
別にイジメられていたとか、家庭崩壊で居場所がないとか…およそ世間で騒がれているような“悩み”を持った人生ではない。
ただ、突然死ぬことにしたのだ。
《ファンファンファンファ~ン! キキキキキィーッ!》
凄まじい警笛とヒステリックな金属音が世界を満たした。
次の瞬間、身体は暴力的な衝撃に飲み込まれ、僕は僕をやめた。
そして、気が付けば目の前に…
「うんち?」
そうとしか表現出来ないものが、辺り一面にブチまかれていた。
ぼんやりとしていた視界が、徐々に鮮明になる。
そのうち、うんちの中に大きな固まりがあることに気付いた。
それは、まるで人の手だったり、足だったり、ああ、これは下半身かな? でも腰の部分しか無いけど…。
その中からは今もドロドロしたうんちが次々と出てきていた。
あれ? 頭みたいなものもある。いや確かに頭だ! これって、バラバラ死体じゃないか!
大変だ! 早く通報しなきゃ。…通報? どこに? 誰に? なんで?
僕は何故、自分が慌てているのか判らなくなっていた。
「あ、気が付きました?」
その時、後ろから女の子の声がした。
振り向こうとして、僕は初めて自分の身体が動かないことに気付いた。
「あ、そのままでいいですよ。どうせ動けないでしょうけどね」
そう言いながら、女の子は僕の視界に入ってきた。
「初めましてです。私はデッド・エンドっていいまする。デッドちゃん、って呼んでね」
な? なんだ? このおばかッ娘は?
「あ~だめなのですよ~。人が自己紹介してる時にチャチャチャ入れちゃ。うほほん! これでも私は神さまなんですの。ただ~まだ新人なので至らない点はご勘弁して許してね」
「……。」
こういうしゃべり方が流行ってるの?
僕はこの人をおちょくってるようなしゃべり方が気に入らなかった。
「別に好きになってくれなくていいのです」
え? 思った事が伝わってる??
「君は何か勘違いしちゃってるようですが、思った事も何も、君にはもうソレしか残ってないんだってば。判るこの意味」
ソレ? どれ? っていうか、なんで身体が動かないんだ?
「君、ついさっき何しやがったか覚えてない? でするか?」
意味が判んない…何言ってるのこのオバカッ娘…。
「じゃ、私も忙しいんだからサッサと終わりますね。さっき君は予定されてないのに電車に飛び込んで身体を壊しましたんでする」
あ、そうか。僕自殺したんだ。
え? じゃあこのうんちまみれの死体って…僕の身体??
「やっと判ったですね。そう、だから今の君は意識だけの存在なのさ」
僕、幽霊になったの??
「チッ!チッ!チッ! 違いまする。そんな高級なものにはもうなれないのさ」
どういうこと? 死んだんでしょ? 僕…
「死んで無いですよ。“死”とは予定されているもので、それ以外は“死”ではないのだよ」
でも、僕は生きてないんでしょ? じゃあ死んだんじゃない。
「ちゃんと説明するから大人しく聞きやがってくださいな。まず、今の君の状況を説明してやりますよ」
…デッドの説明だとこういうことらしい。
人間は身体・霊体・幽体の三位一体で構成されていて、物質の身体と非物質の霊体、そして半物質の幽体で出来ているという。
死というのは、あらかじめ予定された行程に沿って、身体から霊体と幽体を分離する準備を行わなくてはならない。ただ、時間的にはほんの一瞬らしいが、デッドたちに言わせると時間という概念は全く関係ないという。
さて、僕はというと…
「いきなり電車に飛び込んだことはどうでもいいですよ。ただ君が瞬間的に“死のう”としたことが問題なんだな」
「でも、自殺ってそんなもんじゃないの?」
「私らが予定してる人はいいけど、君みたいに予定にない人が死のうとされても普通は死なないんだな」
「意味が判んないよ」
「だからよく聞きやがってよ。死なないはずなのに、身体がバラバラに壊されたら生きていられないだろっしょ!」
霊体は本来は幽体と対になって身体から抜けるので、その後の身体はただの物体でしかなくなり、その時点で幽体と身体の連結は戻らなくなる。良く言われている“幽体離脱”とは、この時に身体との連結が解かれていないので、戻ることができるらしい。
霊体は身体から抜けた幽体と一体でなければ、身体の記憶がないのでただの靄みたいな固まりでしかない。いわゆるエクトプラズムというのがソレらしい。
先祖の霊が見える人がいるが、その場合も霊体と幽体が一体になっているから個人を特定できるのだ。
さて、予定に無い身体の破壊で霊体の一部(記憶)だけが抜け出てしまったのが、僕の今の状態なのだ。つまり、僕は死んでもいないし、生きてもいないのだ。
「だからぁ、そういう事態は私ら新人には荷が重いのだよ。
神さま協会ではそういう輩は、この世界で迷惑かけまくってるんだから、ここで永遠にその罰を受けさせようって決まったのさ」
「迷惑? 僕は誰かに迷惑かけたの?」
「今さら言っても関係ナッシングさ、でも教えて欲しいかや?」
「うん。教えて…」
「じゃ、家族から行くじゃん。君は自殺したと判ったんだよ。そいでもって、鉄道会社から巨額の賠償請求が出て、裁判で君の保護者である親の財産/家屋の一切合切が差し押さえられたよ。でも半分にもならないから破産申告して、家族は離散。君の妹は失意のあまり今から3年後に自殺。こっちは心労でかなり疲弊してたので、死亡予定に含まれているから問題なく「死亡」できるさ。ちなみに賠償請求が通常の飛び込み自殺より1.5倍になったのは、電車の運転手が君が飛び込んだ弾みに割れたフロントガラスの破片が目を直撃! ストライクしたのさ! で、失明。労災が利くとはいえ、仕事はできないどころか、目を失ったことで生き甲斐も失って、精神薄弱となり衰弱死。さらに君が飛び込んだ電車に乗っていた女性は、母親が危篤だったため病院に駆け付けるとこだったんさ。でも電車は動かないから、タクシーに乗り換えたんだけど、居眠り運転のトラックに突っ込まれて、運転手共々即死。彼女の母親は持ち直したものの、彼女の死を知らされて1ヶ月後に心労で死ぬ事になってるさ。さらに…」
「あ~、もう判ったよぉ! 僕が全て悪いんだよね」
「さっきから言ってるだろって。でも君の最大の罪は予定に無い行いで、自分の身体を裏切った、壊したことさよ。これは他人にかけた迷惑とはケタ違いな重罪なのさよ」
「で、僕はこのさきどうなるの?」
「どうにもならなくていいです。神さま協会はこれ以上君とは関わりませんです」
なんかヤナ予感。
「身体の神経は、身体が腐るまでずっと痛み続けるんさ、それが記憶となって君に復讐しにくるから…君の記憶というか意識は永久にこの場所で痛みを味わうだけの存在になりまする」
「え? どういう! ぎゃあああああああああーっ! 痛い痛い!」
実況検分が終わって電車が動き出した。その途端に僕は激痛に襲われた。
車輪が僕の身体があったところを通る度に激痛が走る。
「なんでなんで? 死んだのに何で痛いの?? デッド助けて!」
「無理っす。それは幻視痛といって、君の身体の恨みなのさ」
「どうしてさ! 痛いなら僕はまだ死んでないんでしょ??」
「生きてもいないんだよ。地獄なら無間地獄ものなんだと。でも地獄も今忙しすぎるし、いとも簡単に自分を壊す魂を入場させないことになりやがったのさ。なら壊した所で裏切られた身体の怒りを永遠に受けさせることにしたのさ」
「いやだぁ~ 痛い痛い! 戻してお願いだよぉ~」
「君の身体もきっとそうやって、壊されたくなかったんだろうねぇ~」
デッドは最後に限りなく冷たい視線で僕を見下ろし、最後に…
「壊された身体の叫びを永遠に…」
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