死神(デッド)ちゃんは怒ってる!

ラゲッジスペース

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第二話

優良喫煙者の憂鬱

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 《とある駅前広場の路上にて…》
 「なんだてめえ、俺がどこで吸おうが関係ないだろうが! 文句たれてんじゃねえぞ」
 大勢の人が行き交う中で、いきなり罵声が発せられた。
 「ここは禁煙場所です。タバコは喫煙所で吸ってください」
 チャラい若者に初老の男性が喫煙を注意している。
 「いちいちうるせえんだよ。タバコぐらいでウダウダ言ってんじゃねえよ!」
 タバコを持ったまま、初老の男性を突き飛ばした。
 「あっ!」
 みんなが見てみぬふりをしている中、男性はガードレールに足を取られてゆっくりと車道に倒れてゆく。
 <きききーっ!>《ぐちゃ》
 運悪く通りがかったタクシーは男の頭を破壊した。
 「お、俺は悪くねえからなぁ!」
 チャラ男は目撃者が呆然としている合間に逃走していった。
 
 《とある商店街にて…》
 「うわわわーん!」
 子どもがいきなり泣き出したので、スマホを見ながら歩いていた母親が仕方なく子どもを見やると、子どもの目にタバコが刺さっていた。
 「きゃああああ!」
 すれ違いざまに、行き違ったフリーター風の男のタバコが、子どもの目を直撃したようだ。
 母親は知らん顔で遠ざかる男を捕まえると、
 「前見て歩けよ! 俺だって熱かったんだよ! どうしてくれるんだ?やけどしただろ!」
 と逆ギレする。
 「子どもの目にあなたのタバコが当たったのよ。警察呼ぶから逃げるんじゃないわよ!」
 「知らねえよ。急いでんだよ。付き合ってられるかよ!」
 そう言って、ポケットから出したカッターで切りつけて逃走した。

 『ーこのように、ここ最近は喫煙者のモラルの無さが社会問題になっています。
  政府では今までのように禁煙を推奨するのではなく、規則で禁煙させても守る意志がない喫煙者には効果がないだろうと判断。今年度中に改善されない場合は、国内全地域での禁煙を決定する方向で法規制を改善することに決定いたしましたー』
 ストリートビジョンでは、喫煙ルールを守らないばかりか、注意されたことで『カッ!』となって傷害事件を起こす事案のニュースが流れていた。

 ・  ・  ・  ・  ・  ・
 少女はしゃがみ込んで路上で煙を上げているタバコの吸い殻を眺めていた。
 そのすぐ横の路面には“路上喫煙禁止”とのステッカーがプリントされている。
 人々は眉間に皺を寄せつつも、少女の奇行を無視して歩き去って行く。
 そこに新たな吸い殻が投げ捨てられ、少女はそれが飛んで来た方向を見上げた。
 「あん? 何かモンクあんのか? ガキ」
 そのセリフからタバコを捨てたことに、多少の罪悪感はあるようだ。
 しかし、喫煙ルールを守る気は全くない事も判る。
 幼い少女に凄みを利かせる大人げない行為が、自分は小物だと喧伝してる事にすら気付けない。
 けれどその情けない行為は、別の意味でこの男が“危険”だと、周りの人間に知らしめていた。
 「文句ないのでサッサと消え散ってくださいな」
 「な? はぁ?…いい度胸だな。しょんべん臭いガキがっ!」
 自分の凄みが利いてないと思い、少女の胸ぐらを掴み上げてさらに凄む。
 「世の中のルールってもんを教えたろかっ!」
 「世の中どころか喫煙ルールも守れない方から教えてもらえることなどないのでする」
 「なんだとっ! くそ生意気な口聞きやがって!」
 「口はしゃべるのであって、聞くのは耳ですよの。そんなこともわかんないでするか?」
 「…どうやら痛い目みないと判んないらしな。オラッ!」
 小物の男は、目にも止まらぬ…と本人は信じている、ヘナヘナな“メガトンパンチ”を少女に叩き込む。
 本来なら痣が出来る程度の威力だが、少女は敢えて避けもせず、それどころか自分から男の拳がこめかみに当たる様に姿勢を変える。
 男の拳が当たると同時に、少女は自らの頭をコンクリートの路面に叩き付けた。
 直後に男の拳は少女の頭部を粉砕し、脳漿を辺り一面に飛び散らせる結果になった。
 「ハ、ハハハッ! 見たか俺様のパンチの威力を!」
 初めて超人的なパンチを出せたと思い込み、逃走する事も忘れてその場で勝ちどきをあげる男は、駆け付けた警官に現行犯逮捕されるまで、訳の判らない叫びを上げていた。

 『デッド、お遊びも程々にしておけよ』
 「あの娘はほっといても二日後の嵐でドブにハマって死ぬです。その前にちと役だってもらったでするの」
 『実験台か。かわいそうに…』
 「珍しいのでする。リッチが“かわしそう”なんて、どういう気の迷いでするの?」
 『ま、人間界での補償がなされるだけ、事故よりは良かったのかもな』
 「ところで、あ~いう腐敗しちった魂の振るい分けには、たしかにタバコは有効でするな」
 『今回は地獄だけでなく、天国からも“ルールを守っているのにドンドン喫煙場所が無くなり、しかもタバコも不当に値上がりする原因が不良喫煙者のせいだ”と、嘆いている死者の間で精神汚濁が広まっている。死ぬ前に不良喫煙者は地獄も天国にも入れない様に対処してくれと言ってきてるんだ。このまますぐに計画を進めるか…』
 「あいな、では…やりまするの」
 デッドは吸い殻を拾い上げ、空高く投げた。
 吸い殻は空中で無数に弾け、四方八方十六方に飛び散ってゆく。
 そして…。

 公衆喫煙所の前の路上(禁煙場所)で、タバコに火をつけた労務者風の男が、急に両肘を合わせて自分の胸に押し当てた。
 横を通り抜けようとしたサラリーマンが訝しげに男を見やったが、タバコの煙が漂ってきたので避ける様にして去っていく。
 男は何かのパフォーマンスでもしてるかの様に、肘を胸に押し込み始めた。
 胸を抑えているので声が出せないようだが、もがく様にして屈み込んだ。
 そのうち膝が、足首が、押し込まれて行き…、
 「うわっ! 醜い姿でする。まるで巨大な落花生の殻みたいでするの」
 デッドが横で目を輝かせて、楽しそうに見入っていた。

 男は最終的に頭と丸く圧縮された身体で、ダルマの様な形になった。
 苦しそうな表情で、何故自分がこんな目に遭うのか? そう訴えているのが明らかだった。
 「あなたは今まで他人に気遣い無く、辺り構わずタバコを吸ってきましたのでする。ルールを守ってタバコを吸っている人が、あなたの様な輩のせいで喫煙自体が犯罪の様に扱われるのが我慢出来ないそうでするの。で、ルールを守らない時点で私たちが、あなたの様な輩を死ぬ事無く、永遠に苦しんで頂ける様にいたしまするの。それじゃさいなら~」
 デッドの最後の言葉は、男の頭が身体の中に押し込まれたと同時だった。

 《肉玉》そうとしか表現出来ないサッカーボールそっくりの玉がそこに現れた。
 不思議と重さが減り、縫い目も現れたので、まさにサッカーボールそのものだった。
 デッドが蹴ると…
 『ぎゃあああああああああ…』
 と、人間には聞こえない絶叫が上がった。

 その日、日本各地に無数のサッカーボールが散乱し、色々な団体が奪い合い、回収し、中には海外の発展途上国への物資支援という形で送り出したNPO団体まで現れた。

 こうして、ルールを守らない不良喫煙者は日本から絶滅(喫煙場所以外で吸ったらすぐにボールになるから違反は出来なかった)した。

 「これで、天国の元優良喫煙者は安心して、転生できるのでするね」
 『タバコだけじゃないが、死んだ時に無念に思っていた精神汚濁には有効だな』

 デッドは死を司る神。しかし、現在は死後の世界に人間としてのモラルを持たない死者が溢れ、精神汚濁が進んでいた。このままでは生まれ変わっても、まともな人間が皆無となる。
その前に死後の世界を精神汚濁から守るため、デッドには死を許さない処罰をまかされたのだった。
    <第二話 終わり>
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