三毛猫マッキーの縁側日記

門脇 賴

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第1話 謎編1 ヒデリン来訪

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 11月上旬のある日の昼下がり、わたし三毛猫マッキーはいつものように南の縁側(濡縁)に置かれた指定席の元人間用座布団の上で柔らかい秋の陽射しを浴びながらまどろんでいました。この場所はわたしの最もお気に入りの場所で、今月下旬ぐらいまでは晴れた日には陽だまりでとても暖かい。現わたし専用の座布団は晴れの日はいつもご主人様が、ご主人様多忙の折りは自分がセッティングしている。

 もう少し寒くなると部屋に入りもするが、部屋の中はガラス越しの陽光で更に暖かい。ガラス戸が閉まっているときは、塀から屋根に飛び移り二階の部屋に侵入することも可能だ。二階も南側は十分過ぎるほど暖かいが、階段伝いに一階に降りることも可能で、正にこの家はわたしには天国である。

 わたしの命の恩人でもあり、ご主人様でもあるローカル作家の賴光(ライコウ)様は庭先に脚を投げ出すように縁側に座り、ノートを片手に何やらミステリー小説の構想を練っている。

 そんなとき、頼光様の古い友人の一人、農夫でもあり近くに住む農協職員のヒデリンが裏庭の一角にある友人専用の狭い出入口からゆっくりとした足取りで現れた。彼は頼光様の小中学校の10年ほど後輩で、30歳目前の独身。以前は頼光様のことを『先輩』と呼んでいたようだが、賴光様が作家になってからは『先生』と呼んでいる。

「こんにちは、賴光先生。一つまた、先生のお知恵をお借りしたいことがありまして。ちょっといいですか?」
「これはようこそ、ヒデリン。で、一体何だね、知恵を借りたいって?」

「実は昨年農協の慰安旅行でハワイに行ったんですが、そのときのツアー客仲間の一人で、少し年上の方と親しくなりまして、その後も時々電話したりメールしたりお茶したり。」
「新規の旅行友達か、いいね。」

「はい。その彼、マッサンと言うんですが今年早期退職をし、この夏に初めて海外旅行で一人旅をしたんですが、気楽な農協ツアーとは全く勝手が違ったようで、なにぶんにも高校卒業後30数年間英語から疎遠になっており、スマホ頼りのドタバタ一人旅だったようです。」

「高校卒業後30数年と言えば、もう50歳ぐらいになってるね。それで一人旅とは新規友達もなかなかやるじゃない。それで、大きなトラブルもなく無事帰国したんだね?」

「そうなんです。奴さん、自身初の海外一人旅が随分楽しかったみたい。で、そのことを一刻も早く俺に話したかったようで、帰国してまもなくの今月早々、電話をかけてきました。見せたい写真やビデオ、それにお土産もあるので家に来てくれないかと言うので良い機会だと思い、行ってきましたよ。」

「今月?」

「はい。彼が旅をしたのがカナダで、9月、10月の2か月です。帰国したのが10月末、俺が彼の家を訪ねたのはつい先日のことです。」

「写真やビデオは素晴らしかった?」

「ええ、ずいぶんたくさん撮ってました。旅ももたもたしながらもなんとか一人で乗り切れたとえらく満足しているようでした。で、問題はここからなんです、先生。帰国してから落ち着いたところで改めて考えてみるに、どうにも納得できない不可解なことがいくつかあったと言うんです。」


 マッキーです。

 初めのうち静かに聞いていた賴光様の顔は何やら興味を感じ始めた表情を見せてきています。
 時折ヒデリンは賴光様を訪ねてくるが、いつも作品の進み具合だとかスキーや山の話で盛り上がっていました。今日のように、真剣な上に楽しそうな表情を見せるのは珍しいな。

 わたしマッキーも寝ているふりを保ちながら、耳を傾けてみることにしよう。 
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