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十八話 側近アランside ②
しおりを挟む私はそのことを危惧して事あるごとにフィンレル様を諌めてきたが、恋は盲目とはよく言ったもので、今まで私の言うことに素直に耳を傾けてくれていたフィンレル様がこのことに関してだけは、私の話を聞いて下さらなかった。
フィンレル様の両親もフィンレル様に苦言を呈して、諌めていたが反対されればされる程フィンレル様はエレナ様にのめり込んでいった。
またフィンレル様のご両親もフィンレル様を諌めながらも、アカデミーにいる間だけの一時の恋情だろう、卒業すれば現実を見てくれると思っていたようでそんなに厳しく注意をしなかったり、フィンレル様をエレナ様から引き離したりはしなかった。
しかしそれが最悪のことを引き起こすことになってしまった。
アカデミーの卒業パーティーで王太子殿下始め、フィンレル様を含め側近候補全員が婚約者をエレナ様を執拗に虐めて、誘拐までしようとしたと訴え、公の場で婚約者たちを断罪婚約破棄を言い渡したのだ。
私にはまったく聞かされておらず、寝耳に水であった。
私が知れば必ず止められるか、邪魔されるとでも思っていたのかもしれない。
これは私の失態でもあった。
それも王太子殿下の婚約者のレノバングリー公爵令嬢の兄上の小公爵様までも王太子殿下たちと一緒になって実の妹始め側近候補の婚約者たちを断罪しようとした。
しかしレノバングリー公爵令嬢と側近候補の婚約者たちの方が一枚も二枚も上手だった。
エレナ様を虐めたり、誘拐しようとしたという王太子殿下たちの発言を尽く、証拠付きで自分たちの冤罪を証明してみせたのだ。
今思えば優秀と言われていた王太子殿下、宰相子息の侯爵令息、フィンレル様たちが何故ちゃんと事実関係を調べもせず、エレナ様の言うことを信じてしまったのかと思うが、それほど恋に浮かれていたということなのか?
だが、そのレノバングリー公爵令嬢自身が王太子殿下やフィンレル様たちの廃嫡を望まず、側近候補は外されたが貴族の地位を追われることはなかった。
あの昔から女傑と言われているレノバングリー公爵令嬢はいったい何をしようとしているのか?と思ったが、その後自分は王太子殿下との婚約を白紙にし、王太子殿下とエレナ様を婚約させた後、彼女は幼馴染の伯爵令息を婚約者に据え、実の兄上を廃嫡し領地への蟄居とし父上の公爵様も引退させ、法を変え自らがこの国初の女公爵となったのだった。
後でレノバングリー公爵令嬢の目的はこれだったのか!と私は思った。
あの断罪劇の後婚約した彼女の幼馴染の伯爵令息とは王太子殿下との婚約が白紙になるまで、決して幼馴染の枠は越えず距離を保っていたが、最初から伯爵令息のことが好きで断罪後にその令息と婚約して自分が初の女公爵になることが目的だったのではないか?
その為に王太子殿下を断罪して廃嫡するのではなく、地位もそのままにエレナ様と結婚させ、国王陛下に恩を売り自分も好きな伯爵令息と結婚して、女公爵となりこの国で力を持つということだったのでは?とあの断罪劇の後に思ったのだ。
気付いた時にはすべて遅かったのだが。
実際にフィンレル様他側近候補はみな側近を外されて、レノバングリー公爵家や側近候補だった令息の婚約者たちの家の息がかかった者が王太子の側近になり、側近候補たちの失態でその父上たちが宰相、騎士団長、国王の側近を退任した後釜も彼女たちの息のかかった者たちで固められたのだ。
まさに今この国で一番力を持つのは国王陛下でも王太子殿下でもなくレノバングリー女公爵となったのだ。
レノバングリー公爵令嬢は幼い頃から誰よりもひとつ飛び抜けて優秀で、それでいて驕り高ぶることなく、慈善事業などにも熱心で平民からの評判はすこぶる良かった。
しかし国内初の女公爵になるには貴族の支持が絶対必要であった訳だが、あの騒動で国王陛下だけでなく貴族たちの支持まで取り付けることに成功したのだ。
後でそのことに気付いた私は恐ろしくなったものだ。
そしフィンレル様以外の側近候補は婚約者たちとの婚約を継続して、アカデミー卒業後結婚した。
恐らく今後、彼らは婚約者にも婚約者の家にも頭が上がらないだろうと思ったが、その通りになった訳だ。
だが、フィンレル様だけは例外で婚約者だったボノベージル公爵令嬢との婚約は白紙となった。
同時期にアカデミーに留学していた大国ゼンブュート帝国の第二皇子がボノベージル公爵令嬢を見初めていて、彼女の婚約が白紙になった後、その時を待ち構えていたようにすぐに彼女に求婚し、第二皇子の立っての願いで婚約することになったからだ。
ゼンブュート帝国と我が国グラウンドウェル王国ではゼンブュート帝国の方が国力から何からすべて上なのだ。
その帝国の第二皇子からの是が非でもとの願いが通らないはずはない。
なのでフィンレル様のみが婚約白紙となったのだ。
それからは旦那様が外交官と国王陛下の側近を退任して、旦那様と奥様、フィンレル様と領地へ引っ込むことになった。
フィンレル様たちは滅多なことでは王都に出ることはなかったが、それでも年に数度の国王主催の夜会や舞踏会には参加しなければならない。
その時に旦那様、奥様、フィンレル様が槍玉に挙げられた。
王太子殿下に面と向かって嫌味などを言える者などいないだろうし、他の側近候補には妻と妻の実家の力があった為に、面と向かって嫌味を言われ貶されたりするのはフィンレル様と旦那様、奥様だけだった。
フィンレル様は実はあの断罪劇のすぐ後にに自分の過ちに気付かれていたが、その後の夜会で自分だけでなく旦那様や奥様そして家の評判まで最悪にしてしまったことを思い知ったのだ。
恐らくフィンレル様はアカデミー卒業後、恋焦がれたエレナ様と会う機会がなくなったこともあると思うが、現実をまざまざと見せられ目が覚めたと思っている。
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