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二十一話 側近アランside ⑤
しおりを挟むフィンレル様が怒りに凍てつく瞳をしながも、扉の向こうを睨むようにベレッタ様と専属侍女の話を廊下で聞いている。
「…ふざけんじゃないわよ!!」
という大凡侯爵家の使用人とは思えない言葉を夫人であるベレッタ様に叫んでいる声が聞こえたと同時に。
「そこまでだ!」
とフィンレル様が言葉を発して扉を開けた。
ベレッタ様もフィンレル様を見て口をポカンとさせ目を見開いているが、専属侍女二人も顔を青褪めさせこちらをオロオロと見てきている。
その後専属侍女の一人が醜い言い訳をするのを、フィンレル様が厳しい顔して問い詰める。
そしてフィンレル様が専属侍女二人に解雇を言い渡して、私に部屋から連れて行くように命令されたので、私が専属侍女二人を連れて部屋を出た。
そしてすぐ護衛を呼び、専属侍女二人ミランダとユリアンナの監視をさせて荷造りをさせて、そのままさっさと二人を邸から追い出した。
私が門まで出て二人がきっちり外に追い出されるのを見届けた。
あの二人はここを解雇になり紹介状もないから、今後貴族の使用人になることは難しいだろうし、恐らく実家の伯爵家、子爵家を追い出されることになるのではないか。
なので平民として頼る者もなく生きていかなくてはならないだろう。
侯爵夫人を蔑ろにして虐げていたのが発覚したのだから当然だろうな。
それから私が執務室に戻り、しばらくしたらフィンレル様がカツカツといつもより大きな足音を立てて、戻ってこられた。
部屋に入ってきたフィンレル様が私にいきなり書類を突き出してきたので、それを読むとこんなにも?というくらいの執事長と侍女長の行状の数々がそれはそれは細かく記されていた。
「これは証拠として素晴らしいものですね」
その優秀な書類に感心しながら私が思ったことそのままを言うと。
「そうなんだ、妻に見せられたんだ…ってそこじゃない!!」
フィンレル様が机をバンッと叩いた後、私に近くにくるように手招きをして、そして小声で執事長と侍女長が邸の金を横領している。
それも侯爵夫人用の予算全額なのではないかと。
先程専属侍女のミランダとユリアンナが解雇されたから、騒ぎを知った執事長と侍女長が証拠を隠滅する恐れがあるからフィンレル様に証拠を押さえてこい!とベレッタ様に言われたとのこと。
「それは急がないといけませんね」
私が表情を変えずに言うと。
「ああ、アラン今から執事長の所へ行く。
私が横領の証拠を吐かせる!」
「承知しました」
フィンレル様が意気揚々と執事長の執務室に行くのを私は後からついて行った。
フィンレル様は途中で護衛を呼び共に向かう。
そしてフィンレル様がノックもせずに入ると、執事長と侍女長がちょうど部屋の中にいてフィンレル様に驚いて書類を慌てて背中へと隠した。
タイミングが良いことで。
「出せ!それを今すぐ出すんだ!」
フィンレル様が有無を言わせない覇気を出して、執事長と侍女長を見据えた。
彼らは何とか言い訳をして逃れようとするが、フィンレル様と私が執事長と侍女長が他にやらかしていたことを問い詰めると、隠しても無駄だと思った執事長と侍女長が裏帳簿を震えながら差し出してきて、侯爵夫人の予算をすべて使い込んでいたことを白状した。
フィンレル様が護衛に執事長と侍女長を捕らえるように指示を出して、邸の近くにある憲兵所の牢にブチ込んでおけ!と指示して彼らは護衛たちに連れて行かれた。
もちろん執事長と侍女長は解雇だが、それだけでなく横領は犯罪だ、裁かれなければならない。
王都では裁判を行なう王国管轄の裁判所があるが、領地であった犯罪はその地の領主の判断に委ねられて、領主独断で裁いてもいいが、王都で裁判を受けさせることも可能だ。
後日フィンレル様がベレッタ様に報告して、お二人が話し合った結果、執事長だったオルフェルと侍女長だったアテナは侯爵家当主であるフィンレル様が裁き、領内にある犯罪者が収容されている鉱山の採掘場送りとなった。
刑期は10年だが、犯罪を冒した荒くれ者ばかりの所だし生易しい環境でもないから、オルフェルもアテナも刑期を終えて出てくることが出来るだろうか?
尚、オルフェルとアテナの家族も当人たちが給金以上のお金を使っていることを知りながら、何もせず自分たちもそれを享受していたことにより、お咎めなしとはいかず領地を永久追放となった。
おまけに不倫をしていたオルフェルとアテナは逮捕後すぐそのことを家族が知って、双方の伴侶には離縁されたらしい。
まあ当然だよな。
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