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三十七話 旦那様に了解を取り付けるのよ ⑥
しおりを挟む私がフィンレルの言ったことに驚いて言葉を失っていると。
「…ん?大丈夫かい?」
フィンレルが心配そうに私を下から覗き込むようにして聞いてきた。
私はそれにハッとなる。
「えっ、ええ、…それで本日叔父様に相談した際に叔父様の奥様の親友であるカエンシュルト伯爵夫人が適任ではないかと、叔父様に言って頂きましたの」
私は頭の中をさっきのフィンレルの言葉がグルグルとしながらも切り替えて何とか必要な用件を話した。
「ほぉ~カエンシュルト伯爵夫人か…。カエンシュルト伯爵家といえば歴史ある名家だ。
夫人は私より少し上の方で夜会で挨拶した程度で悪いがあまり知らないのだが、ラバートリー卿からの紹介ならば間違いなさそうだな」
フィンレルから好感触の言葉が返ってきた。
「そうなのですわ。
夫人はアカデミー在学中に伯爵家ご子息様に見初められ婚約が決またっのだと聞いておりますの。
それでその夫人は子爵令嬢で名家の高位貴族である伯爵家の当主夫人となる為の教育を婚約されてから受けられて、かなり大変であったと仰っておられておりましたが、熱心に頑張られたと叔父様が聞きましたわ。
ですので今から教育を受け直すわたくしのこともわかって下さるはずと…それから叔母様から夫人の人柄など間違いないと太鼓判を押して頂いておりますの。
わたくしも出来るだけ信頼のおける安心出来る方に教えを乞いたいと思っておりましたので、夫人にぜひお願いしたいと思っておりますけれど、旦那様いかがでしょう?」
私はさっきの怒りの叱咤は何だったの?別人?というような少し甘える口調で言ってみた。
自分でもあざといわね!と思う。
でもその後のラファエルと共に王都へ行くということを、何としででも突破して了解を取り付けたくて演技してみた。
フィンレルはそんな私を見て、パチパチと目を瞬かせた後うっすらと顔を赤らめた。
何てチョロいんだ!
「…っ!…そ、そうだな…良いと思うぞ…」
「それでなのですけれど、執事長、侍女長など使用人のことをすべて解決してから夫人の教育を受ける為にわたくしはラファエルと共に王都へ向かい、そちらでしばらく暮らそうと思っていますの!」
「…は?…えっ?…」
フィンレルがポカンとして固まる。
ここは勢いに任せて一気に畳みかけていくわよ!
「カエンシュルト伯爵夫人は普段はだいたい王都にいらっしゃるそうなのです。
三人お子様がいらっしゃってまだ幼いらしく、夫人としても多忙でいらっしゃるそうなのですが、王都でなら時間を作って下さるそうなのですわ。
夫人は叔母様の親友ですし、叔父様の家族も王都に住んでいますでしょ?わたくしもラファエルもしばらくの間でしたら大丈夫かなと思っておりますの。
もちろんわたくしは夫人としてのお仕事を王都でもちゃんとするつもりでおります。
それにこちらから王都もそう遠くありませんから、戻ろうと思えばいつでも戻れる距離ですからね。
今が十一月ですから次の社交シーズンまで八ヶ月くらいですわ。
使用人のことが解決したからですので、早くとも来年の二月くらいになるかしら?
それからですと半年足らずしかございませんが、わたくしサウスカールトン侯爵家の為にも旦那様の隣に立っても恥ずかしくないように、頑張るつもりなのです。
駄目でしょうか?」
私は少し切ない顔をしてみたわ、どうよ?
「…君と、ラファエルが…王都に…?」
フィンレルが呆然としながら小さな声で呟く。
あらラファエルと離れたくないのかしら?わかるわよ!
でもこれは譲れないわ!
「…ラファエルの乳母と専属侍女は?君の専属侍女は?王都の使用人はどうするのだ?今王都の邸には管理人しかいないんだ」
息を吹き返したフィンレルが矢継ぎ早に質問を繰り出してきた。
あら頼りないウジウジ男だと思っていたけど、意外に立ち直りが早いわね。
「まずラファエルの乳母のジェシカ、侍女のカーラとテレーゼには早速話をしましたわ。
ジェシカに関しましては家族で住めるのなら場所はどこでも良いと言ってくれましたわ。
このまま通いでお願いするとしましたら、王都の邸の近くの物件を探すことになると思いますが、その辺の細かいことは決まってから詰めていこうと思っておりますの。
カーラとテレーゼも領地でも王都でもどこへでも一緒に参りますと言ってくれましたわ」
「…そ、そうか…」
「次にわたくしの侍女についてですが、こちらの使用人の中からと考えておりますが急いでおりませんので、王都へ行ってからでも支障はごさまいません。
それと王都の使用人については新しく雇うことになりますわね。
そちらも叔父様が任せて欲しいと言ってくれておりますので、旦那様から了承を得て領地の使用人のことがちゃんとしてからでも、十分に間に合うと思っておりますの。
何にしましても一番は領地に支障が出ないようにすることですわね。
わたくしはずっと王都にいるつもりはなく、領地にも度々戻ってくるつもりですわ。
ラファエルは負担を考えるとそれはさせられませんけれど、その時はジェシカに邸に泊まってもらってわたくしが行き来つもりですわ。
旦那様いかがでしょう?」
私は首を傾げてフィンレルに尋ねる。
「…領地のことは私たちで大丈夫だ。
君が行き来するのも負担になるだろうから、そんなことはさせたくない。
それに王都で執務をすることも十分可能だ。
何かあれば私が王都に行くことにするよ。
…わかった、すべて了承しよう。
何か私に出来るや何かあれば言って欲しい」
「旦那様ありがとうございます!
またお願いすることもあると思いますので、よろしくお願い致しますわ」
私は達成感を感じて嬉しさに笑顔になりながら、フィンレルにお礼を言った。
フィンレルとの話し合いが終わり先にフィンレルが出て行く時に、後を歩くアランが振り返り、私に何か言いたげな表情を向けてきた。
何だったのかしら?私が我儘を言ってると怒ってる?でもそんなふうには見えなかったような…。
何だったんだろう?
それにしても盛り沢山だったわね。
フレオとリリアンナのフィンレルから聞いた私の知らなかった話もだけど、フィンレルが結婚前にベレッタのことを調べて実家で虐げられていたことを知っていた。
そして虐げられている実家より自分のところの方がまだいいんではないかということで、結婚を決めたということだったんだ。
フィンレルは結婚してからは褒められたもんじゃなかったけど、ベレッタのことをちゃんと考えてくれていたのね。
フィンレルって接してみると良い人なのよね…ウジウジした頼りない男だけど。
何かあういうこと聞いてしまうとね…少しだけほんの少しだけ私の気持ちがさざ波程度に揺れているのを自分で感じたけど、私はブンブンと首を振って切り替えることにした。
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