怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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百三十一話 アランside ③

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 あの会議場の陛下との話の時にはケイトも奥様の付き人として一緒にいた。

 私にとってもそうだったが、ケイトにとっても衝撃的な出来事であったらしい。

 それは当然のことだ、私がいきなり陛下の子だと言われてそれが真実だったのだから。

 あれからケイトは明らかに私と距離を取り出して余所余所しくなってしまった。 
 
 でも私はどうしていいか自分がどうしたいかわからなくなってしまっていた。


 今日はフィンレル様も久しぶりの休日で今庭でラファエル様やジェシカ夫人の子供たちと遊んでいる。

 フィンレル様が肩車をしてくれグルグルをしてくれと子供たちに揉みくちゃにされている。

 フィンレル様は顔をクシャクシャにして楽しそうに笑いながら子供たちの希望通りやってあげている。

 キャッキャッと子供たちの楽しそうな声が庭に響いていて、いいものだなぁ~幸せとはこういうものなんだろうなぁ~と私は自分でも似合わないことを思っているなと思っていると。

 ラファエル様がキャアキャアとはしゃいでピョンピョンと跳ねていたが、下の芝に足を取られて滑って転んでしまった。

 その時奥様は少し離れたところで椅子に座ってラファエル様たちを見守っていたのだが、奥様のすぐ後ろで一緒に見守っていたケイトがラファエル様のところへすぐ様すっ飛んで行った。

 奥様もすぐに立ち上がったのだがケイトの方が早くラファエル様の元へ行ってしまった後だった。

「あらあら、ケイトの瞬発力はやっぱり凄いわ、わたくし先を越されてしまったわ」

 奥様が前を向いたまま私の隣に来てふふふっと笑う。

「で、ケイトのことはどうするのかしら?」

「へっ?」

 前を向いたままの奥様にいきなり聞かれて私は間抜けな声しか出せなかった。

 主に対してあるまじきことで恥ずかしくなり少し顔が熱くなる。

「このままではケイトはどんどん引いてしまうわよ、わかるわよね?」

 奥様は前を向いたままだけど声が低くなっていて、私は肩をビクッとさせる。

「っ!…まだこれからが決まっておりませんので…」

 私も前を向いたままドキドキしながら答える。

 自分でも言い訳がましいことを言っている自覚があるから声が小さくなってしまった。

「あらわたくしはそうは思わないわよ」

「えっ?」

 私は思わず奥様の方を向く。

「このまま平民としてフィンの側近のまま生きていくか、王族となり継承権を持ってどこかの貴族令嬢と結婚するのか。

 陛下はギルバード様を国王にする気持ちにお変わりがないから、その後は第一王子殿下かキャロライナ様がお産みになったお子様が後を引き継いでいかれるのだろうから、アランは王族になっても国王になることはないと思うけどね。

 でも王族になるということがどういうことなのか貴方にもわかるわよね?

 この国は身分がある世界よね、通常貴族は平民とは結婚出来ない。

 平民がどこかの貴族の養子となれば貴族と結婚出来るかもしれないけれども、それも決して簡単ではないわよね。

 貴族同士のしがらみやその貴族にとって旨味があるかどうかなど、いろいろと解決しないといけないことを考えると難しいことだわ。

 それが王族ともなればもっとだわよね。

 例えばフィンが頑張ってケイトをうちの養子にしたとしても…そうね私たちが頑張ったら実現不可能なことじゃないかもしれないけど、他の貴族たちがそれを納得するのは難しいと思うわ。

 それにケイトがそんなことを望むかしら?

 だけど今のアランなら選べる立場にいるとわたくしは思っているのよ。

 貴方がどうしたいかどう生きたいか、この先誰と共に人生を歩んでいきたいか。

 アラン貴方が今自分で考えて決断すべきじゃないかしら?」

 奥様が私の方を強い視線で見つめてくる。

「ですが…ケイトの…気持ちが、あるんで…」

 私は自分でも煮え切らない態度だと思った。

「はあ?何言ってるの?!今そんなことを言ってる場合?

わたくしはアラン貴方のことを優秀だと思っていたけど、買い被っていたのかしら?

今この時を逃せばどうなるのか想像出来ないないの!?

何ちんたら言ってんのよ!こらっ!アランしゃきっとしなさいよ!

アラン貴方はどうするの?どうしたいの?それが今一番大事でしょ!」

 奥様の叱咤に私は目が覚めて視界が明るくパアッと広がった気がした。

「本当に奥様には敵いませんね。

 そうですね!ありがとうございます!行って参りますっ!」

 私は庭でラファエル様たちを少し後で温かく見守っているケイトに向かって走った。


 まあ私はあれからケイトを引っ張って庭の奥へ連れて行き、二人きりになって自分の気持ち伝えた。

 愛している、私は王族などになる気はなくずっとフィンレル様の側近としてお仕えするつもりだ。

 だからどうかケイト結婚して下さい!と跪き、人生で初めての告白した。

 今まで好きだと告白さえもしていなかったのに、すべてすっ飛ばして結婚して下さい!と言ってしまったのだけど、ケイトはポロッと涙を流して、最初は私のこれからのことを考えているようで戸惑って躊躇していた。

 でも私はここは引いてはいけない!今なんだ!と思って怒涛の勢いでケイトを口説いた。

 私はケイトと結婚出来なければこれから一生独身でフィンレル様にお仕えするだけだと。

 私が共に生きたいのはケイトだけだと必死に気持ちを伝えた。

「…はい」

 とケイトはとうとう受け入れてくれる返事をしてくれた。

 その時私はこんなにも心が浮き立ち感激することがあるんだなと思った。

 胸がギュッと詰まって身体が甘く痺れた。

 思わずケイトとギュッと抱きしめた。

 初めてのことなのでケイトは凄く驚いていたけど、私の胸の中で涙を流しながら静かに私に抱かれるままになってくれていた。


 それからは怒涛の展開だった。

 ラファエル様たちがいる庭でフィンレル様と奥様に私たちは結婚すると報告したら、フィンレル様が。

「そうと決まれば今すぐ教会に行って入籍するぞ!」

 とバタバタと奥様を引っ張って邸の中へ戻って行く。

 ラファエル様は「けっこんーアランとケイトがけっこんー」とはしゃいで子供たちで大騒ぎになった。

「アランもケイトもさっさと準備するんだ。

 今のうちに全部済ませた者勝ちだ!」

 それからフィンレル様は執事長のフレオと侍女長のリリアンナを呼んでテキパキと指示をし始めた。

 その後フィンレル様が私たちを急かしてえっ?えっ?と思っている間にケイトと私は馬車に詰め込まれて、フィンレル様と奥様も別の馬車に乗って王都の教会に向かいフィンレル様と奥様が立ち会い人となり、私たちは婚姻証明書にそれぞれサインして、それからフィンレル様が神父を呼び、すぐ神前で宣誓をして私とケイトはこの日に結婚したのだ。

 貴族の結婚は陛下の承認が必要となるが、平民はそんな必要はない。

 フィンレル様は陛下が間に挟まると、いつどうなるかわからないからと私とケイトをとっとと結婚させてしまおうと思ったみたいだ。

 いつもなら奥様が先頭を切って動きそうなものを、今回はフィンレル様がどんどんと先に動いて下さった。

 フィンレル様はどんどんと奥様に似てきたように思うんだが。


 だけど私は奥様の言葉とフィンレル様の行動力でケイトと結婚することが出来た。

 私はお二人にとても感謝している。

『母上私は愛する人と結婚することが出来ました。

 これからも楽しいことばかりではなくきっと辛く悲しい時もあるでしょう。

 でも私はケイトと共に協力し合って乗り越えて死ぬ時に幸せだった自分の人生に悔いはないって言いたいです。

 天国で母上に会った時に褒めてもらえるように精一杯自分なりに生きていきます。

 母上また会える時まで私とケイトと見守って下さい』



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