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三十七話 国王、攻略者たちに話す
しおりを挟む急拵えで作られた簡易な馬舎、と言っても相当数やってきた王都からの騎士や魔術師、依頼した冒険者等の馬を預かっているので、かなり大きな馬舎まで歩いて馬を受け取ってから、急ぐこともないので全員で周りの風景を見ながらゆっくりと馬を走らせた。
白い仔猫になった神獣は俺の側を離れようとはせず、まるではしゃいでいるように俺の肩や馬の背、俺の胸元と次々に飛ぶように軽やかに移動していて馬で走っているとは感じさせないくらいだった。
普通の猫なら怯えそうなものを神獣だから大丈夫なのだろうか?とその自由過ぎる行動を見ながら思っていた。
馬を走らせてから15分程でメッケンナー侯爵領の邸に着いた。
邸に到着するまでに領内の街も横切ったが、王都程ではないがかなりの大きな街で多くの領民もいた。
スタンピードが起こった現場は邸からも領民たちが住む街からもそんなに離れていない場所でスタンピードが起こったんだとわかって馬に乗りながらゾクッとした。
あれだけの魔物たちが街に溢れてしまったらどれだけの被害者が出たのだろう。
早くおさえられて本当に良かったと思った。
到着すると、ルドルフが邸の使用人たちにテキパキと指示をして俺たちはまず湯浴みすることになった。
ルドルフがスタンピードを押さえてくれた貢献者たちである最大限の礼をもって尽くすようにと言ってくれたので、俺には三人の侍女がつき、湯浴みを手伝ってくれた。
「あの~一人で出来ますので」
と今は公爵令嬢のリリアナではなくいち冒険者のサラだから遠慮して言ったけど
「それはなりません。貢献者様にそんなことさせてしまいましたら旦那様と若様に強いお叱りを受けます」
と言われ、三人ががりで丁寧に身体を磨いてくれて髪を結ってもらい、化粧もしてくれルドルフの妹のドレスを着せてもらった。
淡いピンクの可愛いドレスだ。
サイズが合ったみたいで侍女たちもホッしている。
ピンクというのは些か恥ずかしいものがあるが、言えるものではない。
それに平民が侯爵家令嬢のドレスを着るなど許されることなんだろうか?
いや、普通は有り得ない。
ルドルフが侍女たちに何か言ったのかもしれない。
「サラ様~とてもよくお似合いでお美しいです~」
「お嬢様のドレスですが、どうかと思いましたが、年頃も同じ位でサイズ合ってようごさまいました」
と侍女に言われた。
今は茶色の髪に茶色の瞳の平民の女だが、みな丁寧に接してくれている。
「ありがとうございます。
こんなに素晴らしいドレスまで着せて頂いてもったないことでございます」
「とんでもありません!
このメッケンナー領を救って下さった尊いお方でございます。
感謝してもしきれません!」
侍女たちが胸を張って言う。
今はいち平民の冒険者なのにここの侍女たちは親切に接してくれる。
「そうですか…」
「ところでこの白い仔猫ちゃんとっても可愛いですね~」
一人の侍女がニコニコと仔猫になったベラドルを撫でている。
いや、本当は牙鋭いデカいヒョウなんだけどねと思いながら
「ハハハ、そうですかね~」
と笑って誤魔化した。
貴族令嬢だとはしたない笑い方と思われるだろうけど、今は平民サラだからまあいいだろう。
用意が終わり食事を用意していると言われて食堂に連れて行かれるとそこにはすでにルドルフもそしてラルフたち全員がいた。
何故か俺の席はルドルフの隣だった。
ルドルフが椅子を引いてくれて座る。
「ありがとうございます」
「お腹が空いたでしょう。
まずはゆっくりお食事して下さい」
ルドルフに言われて次々に豪華な食事が運ばれてきてそれをみんなで食べた。
ベラドルにはミルクを用意されていて、俺の隣でテーブルの上に乗り、ミルクをペロペロと舐めていた。
神獣って食事するものなのか?と思いながら使用人たちがいるので余計な事は言うまいと何も言わず、食事を平らげた。
食事が終わってお茶を用意され、使用人たちが下がった時に
「あの…よろしいでしょうか?」
とルドルフに徐ろに聞かれた。
「どうぞ」
何だろう?と思いながら横にいるルドルフの顔を見る。
「あの!サラ殿助けて頂いてありがとうございました。
貴方は私の命の恩人です」
ルドルフが頭を下げた。
「僕もありがとうございました!
本当はシルバードラゴンを前にして本当は怖くて動けなくなってたのに強がってしまって…ルドルフとサラ殿を危険な目に遭わせたのは僕の責任てす。
申し訳ありませんでした」
ジョシュアも神妙に頭を下げた。
「いえ、メッケンナー公爵令息もテンペスト伯爵令息も無事で良かったです」
俺がルドルフとジョシュアに向かって笑顔で言うとルドルフとジョシュアは顔を赤らめた。
ん?何故だ?
「あの…いきなり申し訳ないですが…その、サラ殿はハーベント公爵令嬢なのではないですか?」
徐ろにルドルフが言った。
「はい?」
いきなりルドルフ言われて声が裏返りそうになった。ロランに認識阻害魔法をかけてもらってるからバレてないはずなのに。
「その…神獣が現れた時のあの光で一瞬薄紫色の髪のハーベント公爵令嬢に見えたのです」
「僕も見えました!」
ルドルフに続きジョシュアも言う。
バレた。
ベラドルが現れた時の光で一瞬リリアナに見えたのか?
どういうことだろう?
「神獣の力か…」
ラルフが白仔猫を見ながら呟いた。
「えっ?ベラドルの力?」
俺が目を見開きながら言うと
「神獣はリリアナお前さんに遣わされたのだろう?だからあの光を受けた時にお前さんの本来の姿が現れたのかもじゃな」
ゲオングじいさんがベラドルを繁々と見つめながら言う。
「一瞬だったし、わかったのはメッケンナー侯爵令息とテンペスト伯爵令息と私たちだけだと思います。他の魔術師たちは恐らく気付いていないかと。
それだけお二方が魔力が高く才能をお持ちだということでしょう」
ロランがゆっくりと告げた。
「そうじゃな。近くにいたこともあるじゃろうし、他の者は気付いておらんようじゃった」
ゲオングじいさんはうんうんと頷きながら言う。
「そうか…バレてしまったら仕方ないけど、冒険者サラがリリアナであることは黙っててもらいたいです」
俺がルドルフとジョシュアを見ながら言う。
「もちろんです!事情がお有りなのですよね?ハーベント公爵令嬢が聖魔法を使えるなんて知られると大変ですから。
しかし私の父上は知っているのでしょう?」
ルドルフが落ち着いた声で聞いてくる。
「ええ、陛下やごく一部の方たちはご存知です。魔法契約で他に漏らさないようにしてもらってます」
「そうなんだ~じゃあ僕たちも魔法契約しておいた方がいいんじゃないですか?」
ジョシュアが俺を見つめてきた。
「そうですね。それは陛下や宰相閣下に進言するつもりです」
「もちろん魔法契約なしでも私たちは決して他言しませんよ!」
ルドルフが何故か少し顔を赤らめながらも勢い良く真剣な顔をして言う。
「…そう言って頂けると有り難いです」
ルドルフの勢いに少し俺は戸惑った。
「でもサラちゃんがハーベント公爵令嬢だったなんて!」
ジョシュアは興味津々と言う顔をしながらも微笑む。
「まあ、それはおいおいな…ところでベラドルのことどういうことかな?」
ラルフがテーブルの上に乗っている仔猫を見つめる。
「わたくしもわからないのよ」
俺が首を傾げると
『サラサマ、ウルヴァランサマ二コエカケタ。
ウルヴァランサマガボク二イクヨウにイッタ』
「は?ウルヴァランが?」
「えっウルヴァランとはウルヴァラン神のことですか?」
俺の言葉にルドルフは目を見開く。
「リリアナ様はベラドルの声が聞こえるんですよね。
ウルヴァラン様が遣わしたということですか?」
ケングレットも聞いてくる。
『ソウ。ボクハレンダヨ』
ベラドルがレンだと言う。
「えっ?レンってあのレンなの?」
俺はベラドルを引き寄せて顔を除き込む。
その時、ガタッとロランが席を立つ。
「レン?本当にレンなのか?」
レンの側にツカツカと歩いてくる。
『メテオ~ヒサシブリ~』
「ロラン、メテオ久しぶりって言ってる」
俺の言葉を聞きロランの目から涙が溢れ落ちる。
レンはメテオと共に前の世で元は孤児で俺の従者になったメテオの仲間だった。
「レン!」
ロランが仔猫のレンをギュッと抱きしめる。
『グッ、メテオ~クルシー』
「メテオ苦しいって」
「あっ、ごめん!レン!やっぱり会えた!レン…うっ…」
ボロボロとロランが涙を流す。
「やっぱり会えたんだな。
でも何故レン、お前は神獣なんだ?」
ラルフは感慨深そうに目を細める。
ルドルフとジョシュアには訳がわからないだろう。
『ボクイチドウマレカワッタケド、アカンボウノトキニビョウキデシンジャッタ!
ソノアト、ウルヴァランサマニヨバレテ、イッショニイタ。
サラサマガキケンニナッタカラウルヴァランサマガボクヲベラドル二シテサラサマノモトニイクヨウニイッタ』
俺はベラドル、レンを見つめる。
「一度生まれ変わって赤ん坊の時に死んでからウルヴァランに呼ばれて、側にいて俺が危険になったからウルヴァランがベラドルにして俺の元に来た?」
『ソウデス。サラサマ~アエテウレシイ』
ベラドルのレンがピョンと俺の胸に飛び込んできた。
「レン…」
俺は胸に飛び込んできたレンを抱きしめた。
「相手は神獣でも微妙だな…」
ラルフが口を尖らせながら呟く。
ロランはずっとボロボロと涙を流したままだ。
「あ、あのさっきから意味がわからないのですが…」
ルドルフが困惑した顔で俺とレンを交互に見る。
「う~ん話すと長くなるんだが…」
「私たちにも話してもらえないでしょうか?」
ルドルフが真剣な顔で訴えくる。
ラルフやロラン、ケングレット、ゲオングじいさんを見るとみんな頷く。
俺は前の世のこと、そしてリリアナのことを話した。
「…前の世で王女として生まれたのに第二王子として生きて国王になった?」
「えっ?…僕たちがリリアナ・ハーベント令嬢を冤罪で断罪した?」
ルドルフとジョシュアが目を丸くして聞いてくる。
「まあ、信じられない話だろうが事実だ」
「私が冤罪でハーベント公爵令嬢を断罪するなど考えられません…」
「そうだよ!いくら何でも冤罪で公爵令嬢を断罪するなんて有り得ない」
ルドルフとジョシュアが戸惑いながらも訴える。
「何て言ったらいいのか、ゲームというものの強制力とウルヴァラン曰く邪魔する存在とヒロインの仕業だと聞いた。
そこにメッケンナー侯爵令息とテンペスト伯爵令息の意志は働いていなかったのかもしれない。
何と言うか…洗脳状態とでも言おうか、そこはウルヴァランとリリアナ、リリアに聞いた話だから俺が経験した訳じゃないから何とも言えないが」
「「……」」
ルドルフとジョシュアが沈黙する。
「信じられないかもしれんが、こうして神獣ベラドルがリリアナの為にここに現れたことはウルヴァラン神の力が働いている証明になっておるじゃろ?」
ゲオングじいさんの言葉にルドルフとジョシュアは沈痛な表情になる。
「私とジョシュアはとんでもないことをしたのですか…」
ルドルフは俯き唇を噛み締める。
ジョシュアも目を潤ませている。
「もう終わったことだ。
リリアナもリリアも今は新たな世界で幸せに暮らしているだろう。
俺はリリアナのことに決着をつける為にこの世界に来たと思っている。
今リリアナはここに確かに存在し、メッケンナー侯爵令息もテンペスト伯爵令息も生きて毎日を送っている。
リリアナだけでなく貴方たちもやり直しを出来るということではないか?」
「…やり直し?」
ルドルフが俺の顔を見ながら悲痛な顔をしている。
「そうです。
わたくしはリリアナの人生を全うする為に引き受けた。
今度こそ処刑されず、間違いを犯した者は裁きを受けてもらうつもりだ。
メッケンナー侯爵令息もテンペスト伯爵令息も操られていたのだとしたら加害者でもあるが、被害者でもあったのだとわたくしは思う。
貴方たちも今度は自分の人生を全うするべきだ」
「…自分の人生を全うすべき?」
ジョシュアが呟く。
「今度は巻き戻ることはないのではないかな?だからメッケンナー侯爵令息、テンペスト伯爵令息だけでなくみんなが自分の意志でどう生きるかだ」
俺がみんなを見回しながら言うとここにいるみんなが神妙な顔になった。
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