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2章:幽霊少女の願い
幽霊少女1
しおりを挟む朝日がマンションの合間から差し込む。
目を覚ましたゆうきは目を擦りながら傍にいた白猫さんを見つける。安心を確認するように小さくで微笑んで、眠たげに欠伸をした。
2人は団地で一夜を過ごした。
丘の上で酷く眠っていたはずなのに、ゆうきはぐっすりと朝まで眠っていた。
ゆうきは知らない団地でその日初めて会った猫と1夜を過ごしたことを改めて認識すると、少し面白く思っていた。
ゆうきは勢いよく立ちあがり、体を芯まで伸ばす。
近くにあったたこ焼きのゴミをまとめてゴミ箱に放り込んだ。白猫さんはゴロゴロ言いながら気持ちよく眠っている。
団地には、人影はあまり見られない。ランニングやウォーキングをしている人が数人いるほどで、辺りは静けさに満ちていた。
「ねえ、そこの君」
そんな静寂に、ナンパに似たセリフを吐き捨てるお兄さんの声が落ちた。お兄さんは綺麗にクリーニングされた制服を着ていたが、着崩れていて髪の毛もあちこちにはねていたので、学校か職場に急いで走っている途中なのだとゆうきは悟る。
「もしかして、そこで寝てたの?」
少し息を荒らげているお兄さんはゆうきの頭を見つめながら言った。
不審に思いながらも、ゆうきは尋ねる。
「なんで分かったの?」
「君の頭がボサボサだったからだよ」
言われて、ゆうきは手で頭を抱えるようにして確認してみると、自分の髪の毛もあちこちに跳ねていたことに気づいた。
ゆうきは恥ずかしくなって、ムキになる。
「お兄さんもいっぱい跳ねてるよ!」
精一杯のお返し、というように言い返すと、お兄さんもあわてて自分の跳ねた髪を手で抑えはじめた。
しばらく右往左往していると、お兄さんは思い出したように手を叩く。
「こんなところで女の子1人で寝るなんて危ないよ!」
「1人じゃないよ! 白猫さんいるよ!」
白猫さんを指を指して自信を溢れさせるゆうきだったが、お兄さんの目からは、白猫さんは強調にしか見えなかった。
そして、一般的に、猫と一緒に寝ることで安全性が保たれるはずがなく、お兄さんは至極まともに
「ただの猫じゃん」
とぼやいた。
聞き捨てならない様子でゆうきは抗議をする。
「ただのじゃないんだよ! 白猫さんは神·····」
言おうとした途端、ゆうきは昨日、この団地で白猫さんと話したことを思い出す。
『オレのやりたいことができなくなってしまうから』
ゆうきは白猫さんが神だということを言ってしまえば、白猫さんと居られなくなってしまうのではないかと怖くなった。
「紙·····?」
不自然に言い淀んだゆうきを訝しむお兄さんは、ゆうきの必死になにかを伝えたそうにしている顔を見て、少し申し訳なさそうに頭を下げる。
「そっか·····悪かった、ただのなんて言っちゃって。君にとっては大事な猫なんだね」
ゆうきは力強く頷いて笑ってみせると、お兄さんも微笑み返した。
「でもここで寝るのは危ないよ。最近ここら辺で失踪事件があったって言うし·····」
お兄さんの注意をゆうきは少しだけ考えてみたけれどやはり、「大丈夫だよ!」と笑ってみせるだけだった。
ゆうきの笑顔をみると、お兄さんは肩にかけられたカバンからペンとノートの切れ端をとって、自分の電話番号と高校の名前を書いた。
「俺、今から学校だから、何か助けが必要だったらここに電話入れてね。一応高校の名前も書いておいたから、時間あったらおいで」
そう言って、ゆうきの手に持たせると、お兄さんはポッケからスマートフォンを取り出して、あわてて走り出した。
ゆうきは断るタイミングを失ってしまった。手のひらに押し付けられたその切れ端に目を落とす。
その紙に書かれていた番号は、綺麗な字ズラで並べられていた。
ゆうきはそのお兄さんの気遣いに、顔を強ばらせる。
「これ、どうしよう·····」
独り言が寂しげに消え入る中、それに答えるように白猫さんは目を開ける。
「あ、おはよっ、白猫さん!」
「·····すまんが、もう少し小さな声で言ってくれ」
白猫さんの懇願に、ゆうきは白猫さんの耳元で「おはよーございまーす」と掠れた声で囁いてやった。
あまりの不協和音に白猫さんは、「すまん、やっぱり元気なままでいいよ」と謝る。
ゆうきは寝起きの白猫さんを胸に押えて、走り出した。
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