少女のわすれもの

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2章:幽霊少女の願い

幽霊少女2

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  白猫さんは朦朧とする思考を必死に回そうと苦悩したが、やはり諦めるしか無かった。
  ゆうきといることで、白猫さんは諦めるという重要さに何度も気付かされていた。


  白猫さんは、知らず知らずのうちに、大見川高校と書かれた学校の前にいた。
  前にいた、というより、ゆうきの胸に収まっていた。もはや白猫さんの定位置となっている。


  「小娘、なんでこんなところにいる。オレが言ったこと忘れたのか?」

  ゆうきは朝、白猫さんの寝ている間に制服姿のお兄さんと出会ったことを白猫さんに話した。

  白猫さんはお兄さんから貰ったノートの切れ端見るや否や
  「本当に信用出来るか分からない。宿に泊まることを考えた方がいい」
  と現実的な意見を主張した。

  さすがのゆうきも泊まってみたいとは思ったが、少し恐れていたこともあって、白猫さんの指示に従った。

  しかし、他に宿は見つからなかった。
  元々所持金が少なかった上に、白猫さんを許容してくれる宿屋が見つからなかったのだ。


  「だって泊まれるところ見つからなかったんだもん」
  「まだ探せるだろ。ほら、今ネットカフェとかもいけるはずたし、オレは外で寝れるから·····」
  「白猫さんと一緒に寝たいの! 逃げちゃうかもしれないし」


  ゆうきはムキになったが、白猫さんは何度も繰り返された返答にもう呆れていた。
  もう逃げる気は白猫さんにはないのだと、ゆうきはまだ気づいていない。


  「だからって、そんな危ない手紙でなくとも·····」

  ため息混じりに白猫さんが言うと、ゆうきは貰った紙を広げ、自信なさげに言葉を添える。


  「わたしも怖い·····でも、なんとなく、信用していい人なんだと思う」


  ゆうきの声は最後の方には消えかけていた。
 ゆうきの特技である根拠がない意見を耳にするのは白猫さんは慣れていた。ゆうきはそういう女の子なのだと、また諦めるようにしていた。


  けれど、 白猫さんはゆうきの反応に違和感を覚えた。

  しばらく紙をじーっ、と見つめるゆうきに、白猫さんはひとつ息を置く。


  「仕方ない。お前がそこまで言うのなら好きにすればいい。だが、娘。お前のことはどう説明するつもりだ?」
  「わたしのこと?」

  キョトンとするゆうきに白猫さんは頷き返す。


  「お前は記憶が無いのだろう? オレが神様で丘の上にある木に願ったら記憶を無くした、なんて説明じゃ普通の人間は納得しないさ」


  白猫さんの鋭い指摘にゆうきも理解を強いられた。


  「例え信じられたとしても、警察にすぐ連れていかれてしまう。それではお前の『白猫さんと一緒にいたい』という想いは果たされぬであろう」


  白猫さんがゆうきのことを考えてくれていたことと、その上で難題を突きつけられてしまってはゆうきも反論も無視もできずにいた。


  「じゃあ、どんな説明をすればいいの?」
  「そんなこと、オレが知るわけないだろう」
  「なにそれ! ずるい! ケチ! 臆病者! 白猫さんのとんちんかん!」
  「お前·····その言葉の意味知らないだろ·····」


  白猫さんはひとつ息を置く。こうでもしないとやっていられないのだと諦める。


  「嘘を交えて話せばいい」


  白猫さんは悪者のような狡猾な笑みを浮かべた。


  「例えば、家が家事になったとか、不審者に襲われて荒らされた上に金もひったくられて、親も誘拐されたとか」
  「それはさすがにバレちゃうと思うよ·····」


  ゆうきに一蹴され、適当な例をあげたとはいえ、白猫さんの心は深く溝ができるほど傷ついてしまった。

  しかし、ゆうきも心得たように「やってみるよ!」と(無駄な)気合いをいれて校門が開くのを待ち構えた。


  「まあ、確かにお前の保護者が見つかればオレも楽に逃げられるからな」

  やり返すように、本当は思ってもいないことをボソッと吐き捨てた白猫さんに、ゆうきはほっぺを膨らませた。


  そうこうしているうち、学校の正門が先生によって開かれ、昇降口からぞろぞろと生徒らが歩いてきた。


  時刻は放課後。

  生徒らは、部活のパンフレットを片手に持って右往左往している人、スタスタと下校する人、大きなゴミ袋を両手で運んでいる人、と、行動は様々で、ゆうきはその混沌とした活気に目を輝かせていた。


  その生徒の海の中で一人、異質な存在がいた。

  他の生徒とは違ったセーラー服を身にまとい、スカートをなびかせて、色んな人に声をかけていた。

  それだけであれば、誰かを探しているのだろう、と思うだけだが、その女の子は道行く生徒に誰一人として相手されていなかった。

  しかし、女の子を煙たがる様子は誰も表さなかった。まるでその女の子の存在に気づかないように無視をされ続けていた。

  女の子の異物感に白猫さんの鼻が反応する。


  「なにをしているの?」


  そこにまた1人、変わり者の声が落ちた。


  「誰かを探しているの?」


  ゆうきの立て続けの質問に女の子は、やっと自分の声が届く人間に会えたことに嬉嬉として答えた。


  「あ、あの! おに·····じゃなくて、男の人を探してるんです!」


  そう言って、女の子はスマホを取り出してゆうきに画面を見せようとした。

  しかし、ゆうきがその画面を見る前に、白猫さんが胸の中で唐突に暴れ始めた。

  驚いて白猫さんを地面に落としてしまったゆうきは、また再び白猫さんの脇を捕まえて腕に収める。


  「もう·····どうしちゃったの、白猫さん」


  白猫さんは喋るわけにもいかないので、静かにゆうきの腕に爪を立てる。ゆうきは少しの痛覚を我慢しながら、白猫さんの暴走を収めようとする。

  白猫さんが疲れて動きが緩慢になってくると、ゆうきはひとつ呼吸を大きくして、話を続けようと女の子に笑って見せた。

  しかし、2人の1連のやりとりを見ていた女の子は、一歩2歩と後ずさる。


  「ごめんなさい。やっぱり、なんでも·····ないです」


  ゆうきは不思議に思いながら、女の子に1歩ずつ近づいていく。それに合わせて、女の子も距離を取ろうとする。


  「ずっとこの人を一緒に探してくれる人を探しているんだよね! じゃあ、わたしにも手伝わせてよ」


  ゆうきは極めて柔らかく微笑んだ。それは、いつもは図々しく振る舞っているゆうきが初めて見せる優しさで、白猫さんは意外そうにした。

  女の子も、ゆうきの善意溢れる言葉たちに惑わされそうになるが、我に戻ったように顔を左右に振った。


  「ごめんなさい、無理、なんです」
  「なにが無理なの?」
  「えっと·····その」
  「わたしに出来ないこと、なのかな」
  「いや、これは私自身の問題で」
  「どういうこと?」


  ゆうきに問い詰められ、女の子は気前が悪そうに目をそらす。そして、自分のスカートを両手で強く掴みながら、声を荒らげた。


  「ごめんなさい! ·····私、大事な用があるので、失礼します」


  丁重に断ると、人の多い女の子は昇降口の方へ走ってしまった。


  「あっ、まって!」
  「おい、娘」


  後を追おうとするゆうきは足を止めた。


  「娘、あまり執拗にするな。踏み入られたくない事情もあるのだろう」


  白猫さんは自分の知っている限りの優しさで、言葉をオブラートに包んだ。

  人混みの中ではっきりと声を出す白猫さんに、ゆうきも黙り込んでしまった。


  「もしかして、猫アレルギーだったのかな」


  ゆうきは白猫さんの頭の上で小さく呟いた。ゆうきは、既に固まった手の甲の爪痕をしみじみと感じる。


  「まあ、そうかもな」


  白猫さんは自分が暴れた理由も、ゆうきの手の甲を傷つけたことへの誠意も口にしなかった。

  それはその行動が正解だと確信していて、爪を立てたことを悪いとも思わず、その全てを説明するのにはあまりにも人が多すぎたから。


  ゆうきは、白猫さんに引っ掻かれた痛みを感じながら、生徒たちの中に消えた女の子の存在を名残惜しむように見つめていると、不意に背後から肩を軽く叩かれた。


  「もしかして、今朝の·····」
  「あっ、お兄さん!」


  そこには、ゆうきが朝に出会ったお兄さんが、折り目が合わせられた制服を着て2人を見下ろしていた。
  ゆうきの顔はぱぁーっ、と華やかになる。


  「うちの学校に来たんだね。えっと·····名前、なんて言ったっけ?」
  「ゆうきです!」


  ゆうきは前のめりに手を伸ばして返事をするように、自分の名前を叫ぶ。するとお兄さんは、微笑ましく思いながら手を差し出した。


  「俺の名前は安城和人、よろしくね」


 ゆうきは 差し伸べられた一回り大きな手を、わざわざ両手で握り返した。


  「それで、なにか困ったことがあるんだよね?」
  「はい!」
  「じゃあ、あのベンチに座ってゆっくりと話そうか」


  和人は、体育館に沿うように等間隔で並べられたベンチを指さして提案すると、ゆうきは大きく頷いた。

  白猫さんは依然として、大人しくゆうきの胸に収まっている。

  白猫さんが引っ掻いた傷をゆうきは気にしなくなった。
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