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1章、人が生きる世こそ地獄ではないか
9話、ユリシス
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ハーマンが病み上がりの私に気を使い、アンネマリーだけを残し皆を下がらせた。
皆はまだ残りたそうにしていたから、今ごろ食堂あたりでハーマンが集中砲火受けているかもしれないな。
少し見てみたい気もするが、どうだろう。
歩き回れるほど回復しているだろうか……。
それよりも、今せねばならぬ喫緊の問題がある。
どう見ても私の寝室に3人いるのだ。
ゴホンと、わざとらしく咳き込んでみたが変わらない。
動かざること山の如しとはこの事か。
「あー、ユリシス? 長い間治療してくれてありがとう。疲れただろう? 帰ってよく休むと良い、修道院には後日必ずお礼に寄らせてもらう」
意識は無かったが、あの退却の日から幾日か過ぎているようだし、先ほどの説明からも相当世話になったのは間違いないだろう。感謝しているのは本当だ。
「アレクス様、お願いがございます」
跪き、両手で祈りをささげたまま頭を上げ、そっと言う。
「癒官たる私が、このような事を申し上げてはならないのでしょうが、アレクス様は決して助かるような状況ではありませんでした。あの黄金の光が示すように、これは女神シュマリナ様の奇跡に違いありません」
「ほう、それで?」
「私の知る限り、修道院や教会でも女神様の奇跡を見た者はおりません。書物を紐解いてもこの数百年誰もいないのです。いかにも怪しい者は数件記録されておりますが……」
ふむ、そうは言われてもな……。
だが、確かにこれは女神様の奇跡? なのかもしれん。
私が目を覚ましたのは事実なのだからな。
「続けてくれ」
「これは、それほどの奇跡なのです。女神様の奇跡が、この世に一体何をもたらすのか……、私は見てみたいのです。見届けたいのです」
ユリシスが金色の瞳に決意を滲ませて、私を見ていた。
「側に置いていただけませんか?」
美しい女性に懇願されて嫌と言える男がいようか。
だが、どうにも気が進まない。
「それは妻にしろと言う事か?」
悪いがそれは無理だ。
「ち、違います」
顔を真っ赤にし、否定するユリシス。
「私は見てみたいのです、貴方様の行く末を、奇跡の果てを」
誤解を解こうと、真っ赤な顔で一生懸命説明する彼女を見ながら考える。
当家は伯爵家であり、今後の領地運営を考えれば、優秀そうな人材は1人でも多く欲しいところだ。ましてや北があの状態である。
だが私は宗教家ではない、信者が欲しいわけでは無いのだ……。
「では当家に仕えるという事かな? それとも客人という事でよいかな?」
「御側で仕えさせて頂けるのなら何でも」
と再び頭を下げる。
そうは言うが、客人に側仕えをさせる訳にもいくまい……、うーん。
「わかった、では宜しく頼む」
ユリシスが頭を上げ、パアッと花が咲いたような笑顔を見せる。
「ただし1つだけ条件がある」
「条件ですか?」
私の突然の条件提示に、彼女が首をかしげてしまう。
「私が助かったのは女神様のお陰かもしれないが、私はただの人間であり、いち貴族の子でしかない。仰々しいのは辞めてくれ、一人の人間として扱ってくれるなら許そう」
神や、神に近しい何かと思われてはたまらんからな。
「わ、わかりました」
膝まづいていた彼女はすっと立ち上がりお辞儀をした。
いいぞ、頭の良い人は嫌いじゃない。
誰もいなくなった部屋で、ベッドに横たわり過去へ思いを馳せる。
こんなこと誰に言っても信じてもらえないだろうが、前世の記憶に、今世の記憶と、今の自分には2人分の記憶が存在している。
1人はローゼリア伯フランツの嫡子、アレクス・フォン・ローゼリアの記憶であり、もう1人は失われし先の王国の王太子アレクシア・ヴィルヘルム・フォン・ローゼンクランツの記憶なのだ。
アレクシアの記憶は悲しいかな、家臣の裏切りにより父王を失い、母や幼い家族を守るため寡兵の近衛を率いて戦うも散ってしまいそこで途切れていた。
だがアレクスとして数々の本を読んだお陰で、その後の経緯は何となくわかっていた。
狡猾な裏切り者が起こした国が、今も帝国として続いている事もな……。
まさか200年ほど経った世界に再び……、ん? まてよ?
この事象は何て表現すれば良いのだ?
生まれ変わりか?
違う、仮にそんな事がありえたとしても、生まれ変わるなら赤子からだろう?
こんな中途半端な年齢はおかしい。
では蘇生か? しかしなぁそれだと肉体は朽ちているだろうし、何よりアレクスの件が説明つかない。 なら転生だろうか。
転生と言う言葉が、なぜか妙に収まりがいい。
転生した先はアレクスの体で、元々1つの肉体に2つの魂があって、アレクスの代わりに私が目覚めたという事だろうか?
ただ本当にそんな事があり得るのだろうか?
ユリシスの言う通り、本当に神の奇跡とやらのお陰なのか?
神の奇跡については流石に専門外すぎるな。この世には考えてもどうしようも無い事が多々あるものだ。
ここで私は思考を放棄した。
ふぅ、小難しい事を色々考えたせいか肩が凝った。
湯に浸かりゆっくりするのもいいか。
この時代、いや過去も含めて貴族の部屋には必ずと言って良い、入口付近に人が待機できる造りになっている。私は入口に向けてそっと人を呼んでみた。
「すまん、湯あみがしたいのだが……」
恵具を用いれば比較的簡単に湯を沸かすことができるので、大きい屋敷には大抵浴場がある。もちろん我がローゼリア家の屋敷にも浴場はあるぞ。
それにしてもだ。下肢に力が入らずふら付くものだから、浴場へ向かうのにさえ女性2人の手を借りねばならんとは、何とも情けない。
2人の手を借りながら、浴場手前にある脱衣用の小間へからくも到着すると、アンネマリーのみ私の着替えを取りに離れて行く。
「……」
「あー、服くらい自分で脱ぐ」
「ですがお足元が」
気持ちは有難いが迷惑だ。
よくよく考えるとだ、あの戦いから意識を失って幾日がたった?
結構な期間湯浴みをしていないはずだ。汚い体や服を見せる訳にはいかん。
元王太子の沽券に関わるというものだ。
ユリシスを小間の外に放り出し、転ばないように気を付けながら服を脱ぐ。
湯を何度か掛けてから、待ちに待った湯へ身を投じる。
「ふぅ」
弱った体に湯が何とも心地良く、ジワリと全身に染みていくようだ。
湯がこんなにも気持ち良いものだったとは知らなかったな。
今世は前世より湯の回数を増やすのも良いかもしれん。
そんな事を考えながら、久しぶりの湯を全身で堪能していると小間で何やら人の動く気配がする。アンネマリーあたりが新しい服と汚れた服を替えてくれているのだろう、後で礼を言わねばな。
と思いきや、湯浴み着へと着替えたユリシスがそっと礼をし、浴場へと入って来るではないか。
「失礼します」
湯浴み着とは、湯浴みの際に肌を隠したい女性や、メイドが主人を洗う際に着用する貫頭衣のようなもので、白く薄い衣なんだ。
これが湿気を吸うと肌に張りついてしまい、体の線が浮かび上がり、何とも艶めかしいのだ。これはなかなかに刺激がきつい。
「ア、アンネマリーは?」
「アンネマリー様はまだお戻りではありません」
「そ、そうか、ならユリシス、君がこんな事までする必要はない。湯浴みくらい一人で入れる」
と言い聞かせようとするが、彼女は心配そうな表情でこう返してきた。
「長く湯浴みされますと、血の巡りが活発になり危険かもしれません。アレクス様はまだお目を覚まされたばかりなのですから」
「──本当は、湯浴みも明日以降にして頂きたいくらいです」
そう言われると、もう何も言い返せない。
彼女の方が正しい。
しょうがないと受け入れた矢先、再び開かれる浴場の扉よ。
「若様大丈夫ですか?」
今度はアンネマリーが入って来るのである。
体を洗おうと浴槽から立ち上がると。
「えっ?」
と言い、ユリシスがまじまじとこちらを見ていた。
その態度にびっくりしたのか、アンネマリーは逆にユリシスを見つめている。
前世は王太子であり、今世は伯爵の嫡子様だぞ? 着替えだの、風呂だの、世話だの裸を見られる事には慣れている。慣れているつもりであったが、異変を見つけたような声と共にマジマジと見つめられると流石に恥ずかしい。
ど、どこかおかしな所でもあるのだろうか……。
「あ、失礼しました」
と頬を赤らめながら、ユリシスが慌てて視線を外した隙に洗い場へと急ぐ。
糸瓜を乾燥させた繊維で出来た垢すりたわしを使い、アンネマリーが背中を洗ってくれるのだが、これが実に気持ち良い。
「ふぅ」
いけない、気持ちよさに顔が緩み切ってるかもしれない。
気を引き締めなければ。
「アレクス様、その紋様はいつから?」
ユリシスは、先ほどから私の体の痣のような物が気になるようだ。
洗うのをそっちのけで見ている。
「ああ、これか?」
「はい」
「そういえば以前は無かったな、さっき服を脱いだ時に気づいた」
「やっぱり」
何がやっぱりなのかさっぱりわからん。
おっと、高貴なるものは言葉使いに気をつけよと、幼少より父王に散々叩き込まれたものだ、たとえ心中であっても気をつけねば。
「これは……、聖紋ではありませんか?」
「聖紋? なんだそれは」
「聖紋を授かった方は不思議な力が使えたり、周りで不可思議な現象が起こったりするそうで、過去に聖人と称された方々はその紋を持つ方が多かったそうです。昔から言い伝えや伝承に事欠きません」
普通に接するようお願いしてからかなりマシになったと思っていたのだが、この聖紋とやらを見つけてからまた怪しげだ。目が爛々としている。
体を洗ってくれていたアンネマリーも手が止まってしまっていた。
「不思議な力か」
「何かこう、感じませんか? 力が沸いてくるとか、凄い事が出来そうとか」
↓ 湯浴み着を着たユリシスです ↓
興奮気味なのか、前のめりになるユリシス。
その姿勢は何とも艶めかしく、官能的な曲線を描く美しい丘が、白い湯浴み着の隙間越しからちらりと見えてしまう。
思わず体が反応してしまいそうになった私は、慌てて目線を外した。
「ユリシス様? それと模様が違うようですが、背中にも大きいのがありますよ?」
「そうなのですか? ちょっと待ってくださいね」
とユリシスが私の背中側へと移動する。
アンネマリー助かったよ。
ありがとう。
私だって年頃の男なのだ。
あのような美しい曲線を見れば体が反応してしまう。
「えっ? 凄い、これ文字かもしれませんよ」
真剣な表情で人の背中を見つめる美女が2人。
本音を言うと、最後まで洗って欲しいのだが……。
「せ……よ、れば……ん?」
「凄い、ユリシス様読めるのですか?」
驚きつつも邪魔にならないよう横へとずれ見守るアンネマリーに、ユリシスは残念そうな表情を見せつつ首を振り、答える。
「難しくて駄目ですね」
眉根へ微かに皺を寄せ思案するユリシス。
「ちょっと修道院へ調べに戻ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わないが、夜の移動は気を付けるように」
「はい、ありがとうございます」
なんか色々中途半端に終わってしまったが、湯浴みをし綺麗な服に袖を通すとさっぱりして気持ちいい。
今日は気持ちよく寝れそうだ。
皆はまだ残りたそうにしていたから、今ごろ食堂あたりでハーマンが集中砲火受けているかもしれないな。
少し見てみたい気もするが、どうだろう。
歩き回れるほど回復しているだろうか……。
それよりも、今せねばならぬ喫緊の問題がある。
どう見ても私の寝室に3人いるのだ。
ゴホンと、わざとらしく咳き込んでみたが変わらない。
動かざること山の如しとはこの事か。
「あー、ユリシス? 長い間治療してくれてありがとう。疲れただろう? 帰ってよく休むと良い、修道院には後日必ずお礼に寄らせてもらう」
意識は無かったが、あの退却の日から幾日か過ぎているようだし、先ほどの説明からも相当世話になったのは間違いないだろう。感謝しているのは本当だ。
「アレクス様、お願いがございます」
跪き、両手で祈りをささげたまま頭を上げ、そっと言う。
「癒官たる私が、このような事を申し上げてはならないのでしょうが、アレクス様は決して助かるような状況ではありませんでした。あの黄金の光が示すように、これは女神シュマリナ様の奇跡に違いありません」
「ほう、それで?」
「私の知る限り、修道院や教会でも女神様の奇跡を見た者はおりません。書物を紐解いてもこの数百年誰もいないのです。いかにも怪しい者は数件記録されておりますが……」
ふむ、そうは言われてもな……。
だが、確かにこれは女神様の奇跡? なのかもしれん。
私が目を覚ましたのは事実なのだからな。
「続けてくれ」
「これは、それほどの奇跡なのです。女神様の奇跡が、この世に一体何をもたらすのか……、私は見てみたいのです。見届けたいのです」
ユリシスが金色の瞳に決意を滲ませて、私を見ていた。
「側に置いていただけませんか?」
美しい女性に懇願されて嫌と言える男がいようか。
だが、どうにも気が進まない。
「それは妻にしろと言う事か?」
悪いがそれは無理だ。
「ち、違います」
顔を真っ赤にし、否定するユリシス。
「私は見てみたいのです、貴方様の行く末を、奇跡の果てを」
誤解を解こうと、真っ赤な顔で一生懸命説明する彼女を見ながら考える。
当家は伯爵家であり、今後の領地運営を考えれば、優秀そうな人材は1人でも多く欲しいところだ。ましてや北があの状態である。
だが私は宗教家ではない、信者が欲しいわけでは無いのだ……。
「では当家に仕えるという事かな? それとも客人という事でよいかな?」
「御側で仕えさせて頂けるのなら何でも」
と再び頭を下げる。
そうは言うが、客人に側仕えをさせる訳にもいくまい……、うーん。
「わかった、では宜しく頼む」
ユリシスが頭を上げ、パアッと花が咲いたような笑顔を見せる。
「ただし1つだけ条件がある」
「条件ですか?」
私の突然の条件提示に、彼女が首をかしげてしまう。
「私が助かったのは女神様のお陰かもしれないが、私はただの人間であり、いち貴族の子でしかない。仰々しいのは辞めてくれ、一人の人間として扱ってくれるなら許そう」
神や、神に近しい何かと思われてはたまらんからな。
「わ、わかりました」
膝まづいていた彼女はすっと立ち上がりお辞儀をした。
いいぞ、頭の良い人は嫌いじゃない。
誰もいなくなった部屋で、ベッドに横たわり過去へ思いを馳せる。
こんなこと誰に言っても信じてもらえないだろうが、前世の記憶に、今世の記憶と、今の自分には2人分の記憶が存在している。
1人はローゼリア伯フランツの嫡子、アレクス・フォン・ローゼリアの記憶であり、もう1人は失われし先の王国の王太子アレクシア・ヴィルヘルム・フォン・ローゼンクランツの記憶なのだ。
アレクシアの記憶は悲しいかな、家臣の裏切りにより父王を失い、母や幼い家族を守るため寡兵の近衛を率いて戦うも散ってしまいそこで途切れていた。
だがアレクスとして数々の本を読んだお陰で、その後の経緯は何となくわかっていた。
狡猾な裏切り者が起こした国が、今も帝国として続いている事もな……。
まさか200年ほど経った世界に再び……、ん? まてよ?
この事象は何て表現すれば良いのだ?
生まれ変わりか?
違う、仮にそんな事がありえたとしても、生まれ変わるなら赤子からだろう?
こんな中途半端な年齢はおかしい。
では蘇生か? しかしなぁそれだと肉体は朽ちているだろうし、何よりアレクスの件が説明つかない。 なら転生だろうか。
転生と言う言葉が、なぜか妙に収まりがいい。
転生した先はアレクスの体で、元々1つの肉体に2つの魂があって、アレクスの代わりに私が目覚めたという事だろうか?
ただ本当にそんな事があり得るのだろうか?
ユリシスの言う通り、本当に神の奇跡とやらのお陰なのか?
神の奇跡については流石に専門外すぎるな。この世には考えてもどうしようも無い事が多々あるものだ。
ここで私は思考を放棄した。
ふぅ、小難しい事を色々考えたせいか肩が凝った。
湯に浸かりゆっくりするのもいいか。
この時代、いや過去も含めて貴族の部屋には必ずと言って良い、入口付近に人が待機できる造りになっている。私は入口に向けてそっと人を呼んでみた。
「すまん、湯あみがしたいのだが……」
恵具を用いれば比較的簡単に湯を沸かすことができるので、大きい屋敷には大抵浴場がある。もちろん我がローゼリア家の屋敷にも浴場はあるぞ。
それにしてもだ。下肢に力が入らずふら付くものだから、浴場へ向かうのにさえ女性2人の手を借りねばならんとは、何とも情けない。
2人の手を借りながら、浴場手前にある脱衣用の小間へからくも到着すると、アンネマリーのみ私の着替えを取りに離れて行く。
「……」
「あー、服くらい自分で脱ぐ」
「ですがお足元が」
気持ちは有難いが迷惑だ。
よくよく考えるとだ、あの戦いから意識を失って幾日がたった?
結構な期間湯浴みをしていないはずだ。汚い体や服を見せる訳にはいかん。
元王太子の沽券に関わるというものだ。
ユリシスを小間の外に放り出し、転ばないように気を付けながら服を脱ぐ。
湯を何度か掛けてから、待ちに待った湯へ身を投じる。
「ふぅ」
弱った体に湯が何とも心地良く、ジワリと全身に染みていくようだ。
湯がこんなにも気持ち良いものだったとは知らなかったな。
今世は前世より湯の回数を増やすのも良いかもしれん。
そんな事を考えながら、久しぶりの湯を全身で堪能していると小間で何やら人の動く気配がする。アンネマリーあたりが新しい服と汚れた服を替えてくれているのだろう、後で礼を言わねばな。
と思いきや、湯浴み着へと着替えたユリシスがそっと礼をし、浴場へと入って来るではないか。
「失礼します」
湯浴み着とは、湯浴みの際に肌を隠したい女性や、メイドが主人を洗う際に着用する貫頭衣のようなもので、白く薄い衣なんだ。
これが湿気を吸うと肌に張りついてしまい、体の線が浮かび上がり、何とも艶めかしいのだ。これはなかなかに刺激がきつい。
「ア、アンネマリーは?」
「アンネマリー様はまだお戻りではありません」
「そ、そうか、ならユリシス、君がこんな事までする必要はない。湯浴みくらい一人で入れる」
と言い聞かせようとするが、彼女は心配そうな表情でこう返してきた。
「長く湯浴みされますと、血の巡りが活発になり危険かもしれません。アレクス様はまだお目を覚まされたばかりなのですから」
「──本当は、湯浴みも明日以降にして頂きたいくらいです」
そう言われると、もう何も言い返せない。
彼女の方が正しい。
しょうがないと受け入れた矢先、再び開かれる浴場の扉よ。
「若様大丈夫ですか?」
今度はアンネマリーが入って来るのである。
体を洗おうと浴槽から立ち上がると。
「えっ?」
と言い、ユリシスがまじまじとこちらを見ていた。
その態度にびっくりしたのか、アンネマリーは逆にユリシスを見つめている。
前世は王太子であり、今世は伯爵の嫡子様だぞ? 着替えだの、風呂だの、世話だの裸を見られる事には慣れている。慣れているつもりであったが、異変を見つけたような声と共にマジマジと見つめられると流石に恥ずかしい。
ど、どこかおかしな所でもあるのだろうか……。
「あ、失礼しました」
と頬を赤らめながら、ユリシスが慌てて視線を外した隙に洗い場へと急ぐ。
糸瓜を乾燥させた繊維で出来た垢すりたわしを使い、アンネマリーが背中を洗ってくれるのだが、これが実に気持ち良い。
「ふぅ」
いけない、気持ちよさに顔が緩み切ってるかもしれない。
気を引き締めなければ。
「アレクス様、その紋様はいつから?」
ユリシスは、先ほどから私の体の痣のような物が気になるようだ。
洗うのをそっちのけで見ている。
「ああ、これか?」
「はい」
「そういえば以前は無かったな、さっき服を脱いだ時に気づいた」
「やっぱり」
何がやっぱりなのかさっぱりわからん。
おっと、高貴なるものは言葉使いに気をつけよと、幼少より父王に散々叩き込まれたものだ、たとえ心中であっても気をつけねば。
「これは……、聖紋ではありませんか?」
「聖紋? なんだそれは」
「聖紋を授かった方は不思議な力が使えたり、周りで不可思議な現象が起こったりするそうで、過去に聖人と称された方々はその紋を持つ方が多かったそうです。昔から言い伝えや伝承に事欠きません」
普通に接するようお願いしてからかなりマシになったと思っていたのだが、この聖紋とやらを見つけてからまた怪しげだ。目が爛々としている。
体を洗ってくれていたアンネマリーも手が止まってしまっていた。
「不思議な力か」
「何かこう、感じませんか? 力が沸いてくるとか、凄い事が出来そうとか」
↓ 湯浴み着を着たユリシスです ↓
興奮気味なのか、前のめりになるユリシス。
その姿勢は何とも艶めかしく、官能的な曲線を描く美しい丘が、白い湯浴み着の隙間越しからちらりと見えてしまう。
思わず体が反応してしまいそうになった私は、慌てて目線を外した。
「ユリシス様? それと模様が違うようですが、背中にも大きいのがありますよ?」
「そうなのですか? ちょっと待ってくださいね」
とユリシスが私の背中側へと移動する。
アンネマリー助かったよ。
ありがとう。
私だって年頃の男なのだ。
あのような美しい曲線を見れば体が反応してしまう。
「えっ? 凄い、これ文字かもしれませんよ」
真剣な表情で人の背中を見つめる美女が2人。
本音を言うと、最後まで洗って欲しいのだが……。
「せ……よ、れば……ん?」
「凄い、ユリシス様読めるのですか?」
驚きつつも邪魔にならないよう横へとずれ見守るアンネマリーに、ユリシスは残念そうな表情を見せつつ首を振り、答える。
「難しくて駄目ですね」
眉根へ微かに皺を寄せ思案するユリシス。
「ちょっと修道院へ調べに戻ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わないが、夜の移動は気を付けるように」
「はい、ありがとうございます」
なんか色々中途半端に終わってしまったが、湯浴みをし綺麗な服に袖を通すとさっぱりして気持ちいい。
今日は気持ちよく寝れそうだ。
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