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ダンジョン
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「それで、今日の成果はどうだったの、クリス?」
「ばっちりだよ」
公爵令嬢ソフィアに、俺は微笑んだ。
そして、俺はテーブルの上に金貨の詰まった袋をどんと置く。旧カレンデュラ帝国金貨が満杯に入っている。
戦後の混乱で、帝国金貨の価値が下がっている。とはいえ、これだけあれば三人でも良い宿を借りて、二週間は楽に暮らせる。
三人、というのは、俺、妹のクレハ、そしてソフィアの三人のことだ。
ソフィアは驚いた様子で、俺を青い瞳で見つめる。
「あきれた……。あなたって、本当にすごいのね」
「まあ、帝国に遺跡がなければ、こんな報酬は手に入らなかったけれどね」
俺はソフィアに肩をすくめてみせた。
ここは旧カレンデュラ帝国の帝都カレン。その宿の一室だった。
ソフィアとの出会いから一週間が経った。
俺とクレハは、ソフィアとともにアルストロメリア共和国へと逃亡することを決めた。マグノリアの国王から疑われ、王太子から命を狙われたとあっては仕方ない。無実のソフィアを助けるためにも、俺達は亡命という選択を選んだのだった。
ただ、すぐにアルストロメリアへと出国することはできない。マグノリア王国とアルストロメリア共和国は緊張関係にあるし、お尋ね者のソフィアもいるから、警備が強化されている。
アルストロメリア共和国は、レーゲンスブルク専制公国へと、ソフィアを迎える使者を送ったらしいけれど、そのことを告げる手紙はマグノリア王国の手に落ちた。そうである以上、かえってレーゲンスブルクに向かうのは危険だ。
その点、旧帝国の帝都は、身を隠すのに都合が良い。連合軍の複数の国の兵士や商人が出入りしているからだ。
帝都カレンは、マグノリア王国とその同盟国の管理する西側、そして、アルストロメリア共和国の管理する東側に分割されていた。
東側と西側のあいだには、厳重な魔法障壁が設けられ、簡単には行き来できない。アルストロメリア共和国の内部の人間の手引を待つしかなかった。
それまでのあいだ、俺たちは、帝都カレンで生きていく必要がある。
ソフィアは言う。
「でも、たとえ遺跡があったとしても、クリスのような実力のある魔導師以外に、財宝を持って来ることはできないわ」
「それ、褒めてくれているの?」
「ええ。喜んでもいいわ」
「それはどうも」
俺の言葉に、ソフィアはくすくすっと笑った。ソフィアの笑顔を見て、俺は思わずどきりとする。
可愛い子だなあ、と思う。さすが王太子の元婚約者だ。
かつて大陸最大の繁栄を誇った帝都カレン。しかし、帝都には、大戦の末期に新兵器のアストラル弾が二度にわたって投下された。その結果、多くの人が死に、街は破壊しつくされた。
しかし、アストラル弾の影響はそれだけじゃなかった。アストラル弾は、これまでのエーテルを使う魔法とは異なり、アストラルと呼ばれる新たな元素に働きかけるものだった。
その結果、帝都の街は、特異な変化を見せた。爆発の影響で、帝都の歴史的な建物や財宝が地下深くに落ちていき、さらにアストラル魔法の影響で、貴重な金属や資源が生成された。
同時に、そうした場所には、アストラル元素が変化したことで、凶悪化した動物……いわゆる魔物が生息するようになった。
遺跡には、多くの魅力な財宝があるが、同時に魔物の危険もともなう。だから、大戦で職を失った元軍人たちが、帝都の遺跡に挑み、金を稼ぐようになった。
俺もそこに目をつけた。もともとの所持金だけでは、生活が成り立たないので、遺跡攻略で生活費を調達することにしたわけだ。幸い、なんだかんだで大戦七英雄と呼ばれていた俺なら、問題なく、難易度の高い遺跡を攻略できた。
あまり目立たないようにしないといけないけれど、良い稼ぎになる。
部屋の奥からひょこっと、クレハが顔をのぞかせた。
俺の顔を見ると、クレハがぱっと顔を輝かせる。
「クリス義兄さん、帰っていたんですね!」
「ああ。安心してよ。だいぶ報酬が良かったから、ご馳走が食べられるよ」
クレハは微笑み、ふわりと銀色の髪を揺らした。
「そんなことより、義兄さんが無事で良かったです。遺跡は危険なところだと聞いていましたから……」
最初、俺が遺跡の攻略に参加すると聞いて、クレハは自分もついていくと言い張った。「義兄さんが心配だから」、と。
けれど、クレハが来るとかえって危ないので、俺はどうにかなだめすかして、宿に残ってもらっていた。気持ちは嬉しいのだけれど、クレハはまだ魔術師としても軍人としても、未熟な存在だった。
クレハは俺のことをかなり心配していたのか、ほっとした表情で、そして、俺に近寄ると抱きついた。
「く、クレハ……?」
「……はやく、わたしも義兄さんの役に立てるようになりたいです。いつも、わたしは義兄さんに守ってもらってばかりで……」
クレハは俺にぎゅっとしがみつき、俺を上目遣いに見つめた。その頬は少し赤い。俺はぽんぽんとクレハの頭を撫でた。
「クレハは俺よりも九歳も年下なんだから、気にしなくていいんだよ」
そんな俺たちを見て、ソフィアも柔らかい笑みを浮かべていた。
ソフィアは、マグノリア王家に、幼い弟を殺されている。
彼女の気持ちを思えば、アルカディア公爵家の粛清の経緯を詳しく聞くのは気が引ける。だが、事情をきちんと聞いておくことは、今後のためにも必要だった。
それにソフィアの言っていた、「四人の悪役令嬢」とは何のことだろう? ソフィアは何か大きな秘密を隠しているんじゃないだろうか?
ソフィアもだいぶ俺に慣れてきたようだし、このあたりで尋ねてみても良いかもしれない。
「ソフィア……夕食後に話があるんだ。時間、とれる?」
「ええ。もちろん」
ソフィアは抵抗なくうなずいた。そんな俺たちに、クレハが頬を膨らませる。
「義兄さんとソフィアさん……仲良しですね」
「ばっちりだよ」
公爵令嬢ソフィアに、俺は微笑んだ。
そして、俺はテーブルの上に金貨の詰まった袋をどんと置く。旧カレンデュラ帝国金貨が満杯に入っている。
戦後の混乱で、帝国金貨の価値が下がっている。とはいえ、これだけあれば三人でも良い宿を借りて、二週間は楽に暮らせる。
三人、というのは、俺、妹のクレハ、そしてソフィアの三人のことだ。
ソフィアは驚いた様子で、俺を青い瞳で見つめる。
「あきれた……。あなたって、本当にすごいのね」
「まあ、帝国に遺跡がなければ、こんな報酬は手に入らなかったけれどね」
俺はソフィアに肩をすくめてみせた。
ここは旧カレンデュラ帝国の帝都カレン。その宿の一室だった。
ソフィアとの出会いから一週間が経った。
俺とクレハは、ソフィアとともにアルストロメリア共和国へと逃亡することを決めた。マグノリアの国王から疑われ、王太子から命を狙われたとあっては仕方ない。無実のソフィアを助けるためにも、俺達は亡命という選択を選んだのだった。
ただ、すぐにアルストロメリアへと出国することはできない。マグノリア王国とアルストロメリア共和国は緊張関係にあるし、お尋ね者のソフィアもいるから、警備が強化されている。
アルストロメリア共和国は、レーゲンスブルク専制公国へと、ソフィアを迎える使者を送ったらしいけれど、そのことを告げる手紙はマグノリア王国の手に落ちた。そうである以上、かえってレーゲンスブルクに向かうのは危険だ。
その点、旧帝国の帝都は、身を隠すのに都合が良い。連合軍の複数の国の兵士や商人が出入りしているからだ。
帝都カレンは、マグノリア王国とその同盟国の管理する西側、そして、アルストロメリア共和国の管理する東側に分割されていた。
東側と西側のあいだには、厳重な魔法障壁が設けられ、簡単には行き来できない。アルストロメリア共和国の内部の人間の手引を待つしかなかった。
それまでのあいだ、俺たちは、帝都カレンで生きていく必要がある。
ソフィアは言う。
「でも、たとえ遺跡があったとしても、クリスのような実力のある魔導師以外に、財宝を持って来ることはできないわ」
「それ、褒めてくれているの?」
「ええ。喜んでもいいわ」
「それはどうも」
俺の言葉に、ソフィアはくすくすっと笑った。ソフィアの笑顔を見て、俺は思わずどきりとする。
可愛い子だなあ、と思う。さすが王太子の元婚約者だ。
かつて大陸最大の繁栄を誇った帝都カレン。しかし、帝都には、大戦の末期に新兵器のアストラル弾が二度にわたって投下された。その結果、多くの人が死に、街は破壊しつくされた。
しかし、アストラル弾の影響はそれだけじゃなかった。アストラル弾は、これまでのエーテルを使う魔法とは異なり、アストラルと呼ばれる新たな元素に働きかけるものだった。
その結果、帝都の街は、特異な変化を見せた。爆発の影響で、帝都の歴史的な建物や財宝が地下深くに落ちていき、さらにアストラル魔法の影響で、貴重な金属や資源が生成された。
同時に、そうした場所には、アストラル元素が変化したことで、凶悪化した動物……いわゆる魔物が生息するようになった。
遺跡には、多くの魅力な財宝があるが、同時に魔物の危険もともなう。だから、大戦で職を失った元軍人たちが、帝都の遺跡に挑み、金を稼ぐようになった。
俺もそこに目をつけた。もともとの所持金だけでは、生活が成り立たないので、遺跡攻略で生活費を調達することにしたわけだ。幸い、なんだかんだで大戦七英雄と呼ばれていた俺なら、問題なく、難易度の高い遺跡を攻略できた。
あまり目立たないようにしないといけないけれど、良い稼ぎになる。
部屋の奥からひょこっと、クレハが顔をのぞかせた。
俺の顔を見ると、クレハがぱっと顔を輝かせる。
「クリス義兄さん、帰っていたんですね!」
「ああ。安心してよ。だいぶ報酬が良かったから、ご馳走が食べられるよ」
クレハは微笑み、ふわりと銀色の髪を揺らした。
「そんなことより、義兄さんが無事で良かったです。遺跡は危険なところだと聞いていましたから……」
最初、俺が遺跡の攻略に参加すると聞いて、クレハは自分もついていくと言い張った。「義兄さんが心配だから」、と。
けれど、クレハが来るとかえって危ないので、俺はどうにかなだめすかして、宿に残ってもらっていた。気持ちは嬉しいのだけれど、クレハはまだ魔術師としても軍人としても、未熟な存在だった。
クレハは俺のことをかなり心配していたのか、ほっとした表情で、そして、俺に近寄ると抱きついた。
「く、クレハ……?」
「……はやく、わたしも義兄さんの役に立てるようになりたいです。いつも、わたしは義兄さんに守ってもらってばかりで……」
クレハは俺にぎゅっとしがみつき、俺を上目遣いに見つめた。その頬は少し赤い。俺はぽんぽんとクレハの頭を撫でた。
「クレハは俺よりも九歳も年下なんだから、気にしなくていいんだよ」
そんな俺たちを見て、ソフィアも柔らかい笑みを浮かべていた。
ソフィアは、マグノリア王家に、幼い弟を殺されている。
彼女の気持ちを思えば、アルカディア公爵家の粛清の経緯を詳しく聞くのは気が引ける。だが、事情をきちんと聞いておくことは、今後のためにも必要だった。
それにソフィアの言っていた、「四人の悪役令嬢」とは何のことだろう? ソフィアは何か大きな秘密を隠しているんじゃないだろうか?
ソフィアもだいぶ俺に慣れてきたようだし、このあたりで尋ねてみても良いかもしれない。
「ソフィア……夕食後に話があるんだ。時間、とれる?」
「ええ。もちろん」
ソフィアは抵抗なくうなずいた。そんな俺たちに、クレハが頬を膨らませる。
「義兄さんとソフィアさん……仲良しですね」
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