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あなたの敵はわたしよ!

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 目の前のルシアは、信じられないという顔で俺を見上げていた。俺の手を恐る恐る握る。

「どうして……クリスが私なんかを助けに……来てくれるんですか?」

「助けに行くに決まっていますよ。ルシア殿下は俺の大事な人なんですから」

 そう言うと、ルシアはぐっと言葉に詰まった様子で、涙に潤んだ瞳で、俺を上目遣いに見つめた。五年前、はじめて会ったときから、俺はルシアを守り、俺もルシアに助けられてきた。

 ルシアは、ボロ布一枚しか着ていなくて、髪は乱れ、殴られた跡があった。王太子たちへの怒りが沸騰しそうになるが、俺はそれを抑えて、ルシアに微笑みかけた。
 ルシアはしばらくぽろぽろと涙をこぼし、けれど、嬉しそうに笑った。

「ありがとう、クリス。私は……あなたのことが……」
 
 ルシアは何かを言いかけて、それからはっとした表情をした。

「く、クリス。近くに聖女アリアが……」

「安心してください。敵は倒します。ですから、ここから逃げ出しましょう」

 ともかく、この地下牢からルシアを連れ出さないといけない。

 ここまで来るのは、楽ではなかったが、さほど難しくもなかった。

 王都への侵入は、予想外に上手くいった。これは、近衛騎士のマクダフのおかげだ。脅されているとはいえ、協力的だったのは、きっとマクダフも現在の王政に疑問を持っているからだと思う。

 俺やソフィアは指名手配されているから、彼の協力無しに検問をくぐることはできなかっただろう。

 王宮の警備は厳重とはいえ、宮廷魔導師団副団長だった俺にとっては、自分の家の庭と同じぐらい構造を熟知している。衛兵の一人を倒して、ルシアが捕縛されている場所を聞き出したのだ。

 問題はここからだ。
 白煙の中から、純白の衣装に身を包んだ少女が現れる。
 彼女は黒い瞳に、強い敵意を浮かべていた。

「あなたが……白魔道師のクリスですね?」

「そういう君が聖女アリアか」

「そうですね。ああ、私は残念です。物語に違わず、かっこいい人なのに……ここで倒さないといけないなんて」

 アリアは美しい顔に、残忍な笑みを浮かべ、そして右腕を胸の前へと突き出した。
 魔法を使うつもりなのだろう。俺と同じく、右腕を魔法器にしているのだ。

「残念ですが、ここで英雄クリスも、天才ルシアも終わるんですよ! 私には勝てません!」

 アリアの叫びとともに、魔力の奔流が起きる。しかもエーテル元素には一切の動きがない。アストラル魔法なのだ。

 たしかに、俺には防げない。使い方次第では一つの大都市を破壊し尽くし、数百万の人を死滅させる魔法なのだから。

 ルシアが「ひっ」と悲鳴を上げて、俺の服の裾をつまむ。
 俺はアリアの攻撃を避けなかった。

「なっ……!」

 アリアの攻撃は俺達の手前ですべて弾き返された。もちろん、これは俺一人の力でなし得たわけではない。
 俺の協力者がアストラル魔法を防ぐ障壁を作ってくれたのだ。

「残念ね、聖女アリア」

 通路の奥、アリアの背後から澄んだ少女の声が響いた。

「その声は……!」

 アリアははっとした顔で、さっと牢の通路の脇へと跳躍する。次の瞬間、アリアがいた場所を射抜いたのは、アストラル魔法だった。

「聖女アリア、あなたの戦う相手はわたしよ」

 元公爵令嬢のソフィアが、黄金の銃を構え、そう宣言した。ソフィアは地味な黒魔道士の服で変装しているが、その気高さと美しさは思わず息を呑むほどだった。

 対するアリアは、「あら」と手を頬に当てて微笑む。

「悪役令嬢ソフィアが、自分からやってきてくれるなんて好都合ですね」

「好都合なんて言ったのを後悔させてあげるわ。あなたも転生者なんでしょう?」

「ええ。ソフィアさんと同じ転生者。けれど、私は主人公、あなたはただの悪役です!」

 アリアはふたたびアストラル魔法を発動させようとし、ソフィアは青い瞳でまっすぐにアリアを見つめていた。
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