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最終決戦

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「アリアがいなくなった?」

「ええ」

 ソフィアは俺の問いに、うなずいた。

 翌日、朝の会合で、俺、ルシア、マクダフ、ソフィア、そして滞在先の屋敷の女当主ライラさんの五人が集まっていた。

 屋敷一階の食堂を会議室代わりにしている。
 反乱軍の幹部となるメンバーだ。決起の準備も整いつつある。

 けれど、クレハの姿が見当たらない。

 しかも、聖女アリアもいなくなっているという。
 聖女アリアは、厳重に監禁していたはずだ。それがなぜ……。

 俺は考えて、一つの可能性に思い当たる。

「もしかして、精神作用系の魔法で、クレハを操って逃げたのか……」

「その可能性が高いでしょうね。クレハちゃんの部屋に、アストラル魔法の痕跡もあったもの」

 ソフィアの言葉に、俺は青ざめる。つまり、アリアはクレハを人質にとって逃亡したということだ。

 アリアが自殺未遂を起こしたせいで油断したけれど、まだ反抗心を捨てていないということなのだろう。

 いや、アリアがいなくなったのはまだいい。問題はクレハだ。
 クレハは悪役令嬢で、王太子のもとへと連れ去られれば、どんな目にあうかわからない。

「俺はすぐにでもクレハたちの後を追う」

 俺がそう言うと、ソフィアが俺の手を握った。
 急に手を握られて、どきりとする。ソフィアは青い瞳で真剣に俺の目を見つめた。

「冷静になって。この屋敷は王宮からそう遠くないし、アリアとクレハは王宮に戻っている。それをあなた一人で助けに行くつもり?」

「ルシア様のときは、俺とソフィアの二人で救出できた」

「今は状況が違うわ。相手も警戒しているはずでしょう」

 ……ソフィアの言うとおりだ。次に俺たちが王宮へ乗り込むのは、反乱軍を率いて決着をつけるときでなければならない。
 ソフィアは続ける。

「それに、クレハちゃんが出ていったのは、精神操作だけが原因じゃないかもしれないし」

「え?」

「クリスとルシア殿下、昨夜はお楽しみだったみたいじゃない?」

 ルシアはその言葉を聞くと、顔を真っ赤にした。もじもじと「お、お楽しみというわけでは……」とつぶやく。
 ルシアがお風呂に入って来たこと以外、何もやましいことはしていないのだけれど。
 
 しかし、マクダフは目を剥き、屋敷の女当主ライラさんも「あらあら」と興味津々という目で俺たちを見ている。
 ライラさんは茶髪茶目の王国の伝統的な風貌の美人で、そんな人にいたずらっぽく見つめられると照れてしまう。

 ソフィアもジト目で俺たちを見ていた。

「まあ、クリスがどうしようがわたしには関係ないのだけれど、クレハちゃんはだいぶヤキモチ焼いていたでしょう? そこにアリアの精神操作が付け入る余地があったのかもしれないわ」

 たしかに、昨日、クレハは目に涙をにじませていた。走り去ったクレハを、俺は追いかけるべきだったのかもしれない。

 ルシアも気まずそうに目をそらしている。
 話を打ち切ったのは、マクダフだった。 

「ともかく、王太子打倒を果たせば、クレハも救出可能なはずだ。我々が今集中するのは、決起のことだ」

 そう。マクダフの言うことは正しい。だが、宮廷を追放された直後、俺の目標はクレハを守ることだった。
 クレハは俺のたった一人の家族だ。そのクレハが連れ去られた状況で冷静ではいられない。

 一方で、俺は反乱の実質的な指導者だった。その責任を果たす必要もある。

「聖女が逃げた以上、この屋敷も安全とは言えない。王太子側に陰謀が露見している可能性も……」

 そのとき、屋敷の外で轟音が響いた。
 
「な、なに!?」

 ソフィアが慌てた表情できょろきょろとあたりを見回す。一方、ルシアとマクダフははっとした顔をした。

「これは……襲撃!」

 次の瞬間、屋敷の壁の一部が吹き飛び、ライラさんを巻き込んだ。ぐしゃり、と嫌な音がする。ライラさんは地面に叩きつけられ、気を失っていた。

 そして、崩壊した家屋の外、屋敷の庭園に兵士たちが立っていた。近衛騎士団、宮廷魔導師団、魔法剣士団あわせて百人はいるだろう。
 
 その先頭に立っていたのは、赤髪の美形の青年だった。彼は剣を振りかざし、言う

「逆賊クリス・マーロウとその一党、覚悟せよ。王太子たる私自らが誅殺してくれよう!」

 王太子エドワードが、俺たちを倒しに来たのだった。
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