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第3話 私をライブに連れてって ~前編~
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ライブの始まりは19時からだったから、それくらいの時間に集合しようか?と陽花里に聞いてみたところ、
「えー、せっかく凛ちゃんとデートできるんだから、一日中楽しみたいー!」
と頬を膨らませながらぽかぽか叩いてきたので、心の中でこの子、本当にリスみたいだな…と思いつつ、「じゃぁお昼前に集まって、映画見たり買い物したりしてから行こうか」と提案しかえしてみた。
「やったー!楽しみー!」
陽花里は嬉しそうに両手を上に掲げると、その場でくるくる回り始めた。身体が回るのに一瞬遅れて陽花里の柔らかな栗色の髪の毛がふわっと綺麗な円を描いてまわり、まるで一人で舞踏会で踊っている踊り子さんのようにみえた。
(…まったく)
こんなに全身で喜ばれるから、この子をもっと喜ばしてあげたい、って思わざるをえなくなるのだ。鉄面皮の私ですらそう思ってしまうのだから、いわんや他の一般の人たちならもっともっと、この子の為に何かをしてあげたくなるのも仕方ないだろう。
何もしなくても、ただ普通にしているだけで愛されずにはいられない陽花里なのだけど、向いてる興味のベクトルがもっぱら私の方ばかりなのは、少しもったいないような気がする。
(私なんかに絡むより、もっと他の、普通の人たちに絡んでいった方が、陽花里の魅力が広まっていくでしょうに…)
そんな事を思いながら、私は腰に手を当てると、いまだ嬉しそうにくるくる回っている陽花里を眺めていた。
眺めていた…って、少し長すぎない?
「陽花里!?」
「凛ちゃーん…」
案の定、回りすぎて目がぐるぐるになってしまった陽花里は、ふらふらしながら倒れこみそうになる。
「もう、このお馬鹿っ」
どうして同い年の女の子に対してお馬鹿なんて言わなければいけないのか…とりもかくにも、私は目を回した陽花里が倒れないように抱きしめると…その勢いに負けて結局、その場に2人でぺたんと尻もちをついてしまっていた。
「ごめんね…凛ちゃん…」
「まったく、陽花里はもう少し、なんていうか、そうね、…っぷ」
あははははははは。
思わず、笑い声をあげてしまった。天真爛漫なこの子は、本当、見ていて飽きることがないなぁ。永久凍土みたいに凍っているはずの私の心なのだけど、陽花里を前にしたらすぐに雪解けしてしまい、暖かい感情の波が溶けて零れ落ちていってしまうようだった。
「もう…凛ちゃんのいじわるー」
「そうですよー。私、意地悪ですよー」
笑いながら、陽花里の頭をぽんぽんと叩く。
この子が喜んでくれるのなら、二度と会うことはないと思っていたあの女のライブに参加するのだって、よしとしよう。
晴れた6月の空を見上げながら、私はそんなことを考えていた。
■■■■■
週末。
前日までの天気予報では梅雨らしく雨がふるだろう、って言っていたのだけど、天気も空気をよんでくれたのだろうか、逆に雲一つない見事な晴天に恵まれていた。
私はベーシックなホワイトのインナーにアイスグレーのカーディガンをまとい、センタープレスしたデニムを履いて、待ち合わせ場所に立っていた。
(思ったより、暑くなりそう…)
そう思いながら、ふと、ビルのガラスに映った自分の姿を見てみる。高校時代と比べて、気が付いたら着ている服装も変わったな…としみじみ思った。東京だもんね、大学生だもんね、と自分に言い訳をしてみる。
「凛ちゃーん!遅れてごめんー!」
ぱたぱたぱたっという足音と共に、陽花里が私めがけてまっすぐ走ってくる。淡いベージュのワンピース姿の陽花里は本当に可愛らしくて、周りの視線が自然に集まっているのが分かる。
「別に遅れていないよ。私が先についていただけ」
「凛ちゃんはいつも時間に正確だね。すごいね」
陽花里はそう言って笑うと、ごくごく自然に、すっと私の腕に絡みついてきた。
この子、本当に私と腕を組むのが大好きだな…
「お腹すいてる?」
「ううん。大丈夫だよ。朝沢山食べてきたもん」
「そうか、じゃぁまずは映画みようか。陽花里、なんか見たい映画があるって言っていたよね」
「そう!そうなのー!」
6月末の暖かい太陽の下、人ごみの中をそんな会話をしながら私たちは歩いていた。映画みて、少し買い物とかしていたら、ちょうどライブ開始の19時に間に合うんじゃないかな。今日は陽花里の行きたいところに全部いってしまおうか…と思っていたのだけど。
「…ねぇ、陽花里」
「なぁに?凛ちゃん」
「陽花里が見たいって言っていた映画、これ?」
「そう!昔、どこかの学園祭で公開されていた自主製作映画なんだけど、カルトな人気を誇っていて、もう知る人ぞ知る隠れた名作として界隈では有名な作品なの!私も噂でしか聞いたことが無かったんだけど、実は今回、ミニシアターでひっそりとリバイバル公演がされるということで、私、絶対絶対見て見たかったの!これ、義務だもん!」
好きなことに対して長文になる陽花里は可愛い。
可愛い、のだけど…
さびれた映画館の前にたち、そのポスターを見て、私ははぁ、とため息をついた。そこにはこう書かれていた。
『恐怖!双頭の巨大怪蛇ゴウランガ!南米アステカ文明の秘境に蛇島ククルカンの吸血鬼は実在した!!』
私が高校時代、所属していた文芸部が自主製作した映画が、そこにいた。
(まさか、ねぇ。自分の過去に殴られるとは思ってもいなかったわ)
やれやれとため息をつく。
やめとこうよ…とは、隣で目をキラキラさせている陽花里に対してとてもいう事が出来ない。なんていうか、ショーウィンドウに飾られたトランペットを見る黒人の男の子、っていうような目してるんだもの、陽花里。
一応、私も出演しているんだけど、あまり目立つ役じゃなかったから、まぁ見る前に陽花里に伝えるのはやめておこう。それに、何より。
(主演・星野未来)
私の好きな子。私が世界で一番大事な、宝物のような女の子。この子が主演なのだから…心を高校生に戻すのもいいかもしれない、ね。
「じゃぁ、行こうか」
「うんっ」
私と陽花里は手をつないだまま、映画館の中へと入っていったのだった。
■■■■■
「凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃーーーん!!!」
「そんなに何度も呼ばなくても、一回で分かるわよ」
「なんで!?なんで凛ちゃんが出てたのーーー!?」
「なんでって…そりゃぁ…この映画、作ったの私の高校時代の先輩だもん」
映画を見終わって、映画館から一歩踏み出してすぐ、陽花里が興奮しながら私にまとわりついてきた。目の中に星がキラキラと輝いているのがみえる。もう、みえない尻尾がちぎれんばかりにぶんぶん振られているのも分かる。
「すごいすごい、すごーい!教えてくれればよかったのに!」
「びっくりした?」
「びっくりしたよー!」
島でたこつぼあげた時、中に1匹じゃなくって2匹入っていたのを見た時くらいびっくりしたよ、と分かるような分からないような例えで伝えてくる陽花里を見ていて、なんとなく心がほっこりとしてきたので、黙って頭をぽんぽんと撫でてあげた。
「えへへー」
嬉しそうにとろんとしている陽花里を見つめながら、私は別のことを考えていた。
(…未来、やっぱり、可愛かった…)
高校時代の、動いている未来の姿をスクリーンで見た時、私は自分でも気づかないうちに泣いていた。
もう二度と戻らない時間、もう二度と戻れない場所。
でも、あの時、たしかに私たちは一緒にいたし、想いは届かなかったけど、同じ青春を過ごすことが出来ていたんだ。
「来て、よかった」
「えへへー。嬉しいー」
私がぽつりとつぶやいた言葉に反応して、陽花里も嬉しそうににこーっと笑ってくれた。
本当、この子の笑顔の中には何の不純物も紛れ込んでいないなぁ、純粋すぎて、逆に不安になっちゃうくらい。
そんなことを想いながら、ライブ開始の19時まで、私と陽花里は2人でいろんな場所をめぐって買い物を楽しんだのだった。
■■■■■
6月は陽が長い。
19時近くになったのに、あたりはまだまだ明るかった。
「それにしても…」
たくさん、買い物したねぇ。
私もそれなりに買い物をしたのだけど、陽花里はさらに輪をかけて沢山買い物をしていた。
「だって、可愛い服沢山あったし、可愛い小物もたくさんあったし…」
大きな買い物袋を何個も手に持った陽花里は、陽花里が買い物袋を持っているというより、買い物袋が陽花里を持っているといった方が正しいのではないか?と思えるような状態だった。
「島にはお店がほとんど無かったから、東京に来て世の中にはこんなにたくさんのお店があるんだって、びっくりしたもん…おばあちゃん、ごめんなさい…陽花里は悪い子に育ってしまいました…」
「陽花里が悪い子認定されるなら、人類すべてが悪い子になるよ」
そう言いながら、さすがに荷物が多すぎるので、ちょっとどうしようかと悩む。
このまま家に帰るのなら問題ないのだけど、今日の目的はライブなのだ。さすがに、ライブ会場にこれだけの大荷物を運びこむのは、お店にも他のお客さんにも迷惑になるだろう。
「とりあえずコインロッカー探そうか」
「ごめんね、凛ちゃん。私が調子に乗って買い物しすぎたせいで…」
「私だって買い物しちゃったし、お互い様だよ」
そう言いながら、スマホで近隣のコインロッカーの場所を検索する。あったあった。そこの角をまがったところにあるみたい。しかし、こんなに簡単に調べ物ができるなんて、便利な時代になったものね、と思う。
「ライブ、楽しみ!」
「うん。そうだね…そういえば陽花里、この…えーっと、金色の…闇、だったけ。このバンドのファンなんだよね」
「そうなの!紫苑さんと色葉さんの2人組のバンドで、金色の闇の由来は紫苑さんが綺麗な金髪だからそう決めたらしいんだけど、色葉さんのキーボードに合わせて歌う紫苑さんの歌声がもうすっごくて、あ、アルバムも出されているんで当然保存用鑑賞用布教用と複数枚買っているのは義務としてジャケットイラスト描かれている紫苑さんの絵柄がもうすごくてそれで…」
「はい、はい、ストップストップ」
黙って聞いていたら延々と続いていきそうだったので、とりあえず無理やり止めることにする。陽花里はまだまだしゃべりたそうだったけど、よしよしと頭を撫でてあげるとすぐに大人しくなった。
「コインロッカー、到着ー」
一番大きなコインロッカーを開けて、とりあえず大きな荷物を全部中にいれることにする。陽花里も持っていた買い物袋を全部入れたのだけど、少し考えこんだ後、手を伸ばしてごそごそとして、買い物袋の中から小さな人形のついたストラップを2つ取り出してきた。
「これ、ね、凛ちゃんとおそろいにしたいな、って」
そう言いながら、おずおずと差し出してくる。
そんな陽花里の姿はとてもいじらしくて可愛いのだけど…
(タコ)
差し出されたストラップは、タコのストラップだった。しかも、イラスト調であるとか、デフォルメされたもの…というわけでもなく、ものすごくリアルで精密な、まるで海洋堂のフィギュアのような、タコのストラップ。
「…ごめん、迷惑、だったかな…」
「ううん。そんなことないよ」
少し心配そうな表情を浮かべている陽花里の頭を、またぽんぽんとたたく。この子が選んでくれたものが、可愛くならないわけがないのだから。
「有難う。さっそく、つけてみるよ」
そう言って、私のスマホにタコのストラップをつける。それを見た陽花里はとたんにぱぁーっと顔色を明るく染めて、そのままいそいそと自分のスマホを取り出すと、私と同じようにすぐタコのストラップを取り付ける。
「えへへー。凛ちゃんとおそろいだー」
嬉しそうに笑うその姿があまりにも可愛らしかったから、思わず抱きしめたいという衝動に駆られてしまう。それをぐっと我慢して、コインロッカーを閉じてしっかりと鍵をかけると、
「もう19時だね。じゃぁ、行こうか」
「うんっ」
陽花里はにこにこ笑顔で私の腕をとると、
「楽しみ♪楽しみ♪楽しみだー♪」
と即興でなんか変な歌を歌い始める。
「なによ、それ」
「えへへー。凛ちゃんと楽しむデートのうたー」
楽しみ♪楽しみ♪楽しみだー♪
そんな陽花里の歌を聞きながら、私たちはゆっくりと歩いて、ライブ会場の前につき、階段をゆっくりと降りて、扉に手をかけて。
開けて。
そして。
光と渦に、飲み込まれた。
「えー、せっかく凛ちゃんとデートできるんだから、一日中楽しみたいー!」
と頬を膨らませながらぽかぽか叩いてきたので、心の中でこの子、本当にリスみたいだな…と思いつつ、「じゃぁお昼前に集まって、映画見たり買い物したりしてから行こうか」と提案しかえしてみた。
「やったー!楽しみー!」
陽花里は嬉しそうに両手を上に掲げると、その場でくるくる回り始めた。身体が回るのに一瞬遅れて陽花里の柔らかな栗色の髪の毛がふわっと綺麗な円を描いてまわり、まるで一人で舞踏会で踊っている踊り子さんのようにみえた。
(…まったく)
こんなに全身で喜ばれるから、この子をもっと喜ばしてあげたい、って思わざるをえなくなるのだ。鉄面皮の私ですらそう思ってしまうのだから、いわんや他の一般の人たちならもっともっと、この子の為に何かをしてあげたくなるのも仕方ないだろう。
何もしなくても、ただ普通にしているだけで愛されずにはいられない陽花里なのだけど、向いてる興味のベクトルがもっぱら私の方ばかりなのは、少しもったいないような気がする。
(私なんかに絡むより、もっと他の、普通の人たちに絡んでいった方が、陽花里の魅力が広まっていくでしょうに…)
そんな事を思いながら、私は腰に手を当てると、いまだ嬉しそうにくるくる回っている陽花里を眺めていた。
眺めていた…って、少し長すぎない?
「陽花里!?」
「凛ちゃーん…」
案の定、回りすぎて目がぐるぐるになってしまった陽花里は、ふらふらしながら倒れこみそうになる。
「もう、このお馬鹿っ」
どうして同い年の女の子に対してお馬鹿なんて言わなければいけないのか…とりもかくにも、私は目を回した陽花里が倒れないように抱きしめると…その勢いに負けて結局、その場に2人でぺたんと尻もちをついてしまっていた。
「ごめんね…凛ちゃん…」
「まったく、陽花里はもう少し、なんていうか、そうね、…っぷ」
あははははははは。
思わず、笑い声をあげてしまった。天真爛漫なこの子は、本当、見ていて飽きることがないなぁ。永久凍土みたいに凍っているはずの私の心なのだけど、陽花里を前にしたらすぐに雪解けしてしまい、暖かい感情の波が溶けて零れ落ちていってしまうようだった。
「もう…凛ちゃんのいじわるー」
「そうですよー。私、意地悪ですよー」
笑いながら、陽花里の頭をぽんぽんと叩く。
この子が喜んでくれるのなら、二度と会うことはないと思っていたあの女のライブに参加するのだって、よしとしよう。
晴れた6月の空を見上げながら、私はそんなことを考えていた。
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週末。
前日までの天気予報では梅雨らしく雨がふるだろう、って言っていたのだけど、天気も空気をよんでくれたのだろうか、逆に雲一つない見事な晴天に恵まれていた。
私はベーシックなホワイトのインナーにアイスグレーのカーディガンをまとい、センタープレスしたデニムを履いて、待ち合わせ場所に立っていた。
(思ったより、暑くなりそう…)
そう思いながら、ふと、ビルのガラスに映った自分の姿を見てみる。高校時代と比べて、気が付いたら着ている服装も変わったな…としみじみ思った。東京だもんね、大学生だもんね、と自分に言い訳をしてみる。
「凛ちゃーん!遅れてごめんー!」
ぱたぱたぱたっという足音と共に、陽花里が私めがけてまっすぐ走ってくる。淡いベージュのワンピース姿の陽花里は本当に可愛らしくて、周りの視線が自然に集まっているのが分かる。
「別に遅れていないよ。私が先についていただけ」
「凛ちゃんはいつも時間に正確だね。すごいね」
陽花里はそう言って笑うと、ごくごく自然に、すっと私の腕に絡みついてきた。
この子、本当に私と腕を組むのが大好きだな…
「お腹すいてる?」
「ううん。大丈夫だよ。朝沢山食べてきたもん」
「そうか、じゃぁまずは映画みようか。陽花里、なんか見たい映画があるって言っていたよね」
「そう!そうなのー!」
6月末の暖かい太陽の下、人ごみの中をそんな会話をしながら私たちは歩いていた。映画みて、少し買い物とかしていたら、ちょうどライブ開始の19時に間に合うんじゃないかな。今日は陽花里の行きたいところに全部いってしまおうか…と思っていたのだけど。
「…ねぇ、陽花里」
「なぁに?凛ちゃん」
「陽花里が見たいって言っていた映画、これ?」
「そう!昔、どこかの学園祭で公開されていた自主製作映画なんだけど、カルトな人気を誇っていて、もう知る人ぞ知る隠れた名作として界隈では有名な作品なの!私も噂でしか聞いたことが無かったんだけど、実は今回、ミニシアターでひっそりとリバイバル公演がされるということで、私、絶対絶対見て見たかったの!これ、義務だもん!」
好きなことに対して長文になる陽花里は可愛い。
可愛い、のだけど…
さびれた映画館の前にたち、そのポスターを見て、私ははぁ、とため息をついた。そこにはこう書かれていた。
『恐怖!双頭の巨大怪蛇ゴウランガ!南米アステカ文明の秘境に蛇島ククルカンの吸血鬼は実在した!!』
私が高校時代、所属していた文芸部が自主製作した映画が、そこにいた。
(まさか、ねぇ。自分の過去に殴られるとは思ってもいなかったわ)
やれやれとため息をつく。
やめとこうよ…とは、隣で目をキラキラさせている陽花里に対してとてもいう事が出来ない。なんていうか、ショーウィンドウに飾られたトランペットを見る黒人の男の子、っていうような目してるんだもの、陽花里。
一応、私も出演しているんだけど、あまり目立つ役じゃなかったから、まぁ見る前に陽花里に伝えるのはやめておこう。それに、何より。
(主演・星野未来)
私の好きな子。私が世界で一番大事な、宝物のような女の子。この子が主演なのだから…心を高校生に戻すのもいいかもしれない、ね。
「じゃぁ、行こうか」
「うんっ」
私と陽花里は手をつないだまま、映画館の中へと入っていったのだった。
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「凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃーーーん!!!」
「そんなに何度も呼ばなくても、一回で分かるわよ」
「なんで!?なんで凛ちゃんが出てたのーーー!?」
「なんでって…そりゃぁ…この映画、作ったの私の高校時代の先輩だもん」
映画を見終わって、映画館から一歩踏み出してすぐ、陽花里が興奮しながら私にまとわりついてきた。目の中に星がキラキラと輝いているのがみえる。もう、みえない尻尾がちぎれんばかりにぶんぶん振られているのも分かる。
「すごいすごい、すごーい!教えてくれればよかったのに!」
「びっくりした?」
「びっくりしたよー!」
島でたこつぼあげた時、中に1匹じゃなくって2匹入っていたのを見た時くらいびっくりしたよ、と分かるような分からないような例えで伝えてくる陽花里を見ていて、なんとなく心がほっこりとしてきたので、黙って頭をぽんぽんと撫でてあげた。
「えへへー」
嬉しそうにとろんとしている陽花里を見つめながら、私は別のことを考えていた。
(…未来、やっぱり、可愛かった…)
高校時代の、動いている未来の姿をスクリーンで見た時、私は自分でも気づかないうちに泣いていた。
もう二度と戻らない時間、もう二度と戻れない場所。
でも、あの時、たしかに私たちは一緒にいたし、想いは届かなかったけど、同じ青春を過ごすことが出来ていたんだ。
「来て、よかった」
「えへへー。嬉しいー」
私がぽつりとつぶやいた言葉に反応して、陽花里も嬉しそうににこーっと笑ってくれた。
本当、この子の笑顔の中には何の不純物も紛れ込んでいないなぁ、純粋すぎて、逆に不安になっちゃうくらい。
そんなことを想いながら、ライブ開始の19時まで、私と陽花里は2人でいろんな場所をめぐって買い物を楽しんだのだった。
■■■■■
6月は陽が長い。
19時近くになったのに、あたりはまだまだ明るかった。
「それにしても…」
たくさん、買い物したねぇ。
私もそれなりに買い物をしたのだけど、陽花里はさらに輪をかけて沢山買い物をしていた。
「だって、可愛い服沢山あったし、可愛い小物もたくさんあったし…」
大きな買い物袋を何個も手に持った陽花里は、陽花里が買い物袋を持っているというより、買い物袋が陽花里を持っているといった方が正しいのではないか?と思えるような状態だった。
「島にはお店がほとんど無かったから、東京に来て世の中にはこんなにたくさんのお店があるんだって、びっくりしたもん…おばあちゃん、ごめんなさい…陽花里は悪い子に育ってしまいました…」
「陽花里が悪い子認定されるなら、人類すべてが悪い子になるよ」
そう言いながら、さすがに荷物が多すぎるので、ちょっとどうしようかと悩む。
このまま家に帰るのなら問題ないのだけど、今日の目的はライブなのだ。さすがに、ライブ会場にこれだけの大荷物を運びこむのは、お店にも他のお客さんにも迷惑になるだろう。
「とりあえずコインロッカー探そうか」
「ごめんね、凛ちゃん。私が調子に乗って買い物しすぎたせいで…」
「私だって買い物しちゃったし、お互い様だよ」
そう言いながら、スマホで近隣のコインロッカーの場所を検索する。あったあった。そこの角をまがったところにあるみたい。しかし、こんなに簡単に調べ物ができるなんて、便利な時代になったものね、と思う。
「ライブ、楽しみ!」
「うん。そうだね…そういえば陽花里、この…えーっと、金色の…闇、だったけ。このバンドのファンなんだよね」
「そうなの!紫苑さんと色葉さんの2人組のバンドで、金色の闇の由来は紫苑さんが綺麗な金髪だからそう決めたらしいんだけど、色葉さんのキーボードに合わせて歌う紫苑さんの歌声がもうすっごくて、あ、アルバムも出されているんで当然保存用鑑賞用布教用と複数枚買っているのは義務としてジャケットイラスト描かれている紫苑さんの絵柄がもうすごくてそれで…」
「はい、はい、ストップストップ」
黙って聞いていたら延々と続いていきそうだったので、とりあえず無理やり止めることにする。陽花里はまだまだしゃべりたそうだったけど、よしよしと頭を撫でてあげるとすぐに大人しくなった。
「コインロッカー、到着ー」
一番大きなコインロッカーを開けて、とりあえず大きな荷物を全部中にいれることにする。陽花里も持っていた買い物袋を全部入れたのだけど、少し考えこんだ後、手を伸ばしてごそごそとして、買い物袋の中から小さな人形のついたストラップを2つ取り出してきた。
「これ、ね、凛ちゃんとおそろいにしたいな、って」
そう言いながら、おずおずと差し出してくる。
そんな陽花里の姿はとてもいじらしくて可愛いのだけど…
(タコ)
差し出されたストラップは、タコのストラップだった。しかも、イラスト調であるとか、デフォルメされたもの…というわけでもなく、ものすごくリアルで精密な、まるで海洋堂のフィギュアのような、タコのストラップ。
「…ごめん、迷惑、だったかな…」
「ううん。そんなことないよ」
少し心配そうな表情を浮かべている陽花里の頭を、またぽんぽんとたたく。この子が選んでくれたものが、可愛くならないわけがないのだから。
「有難う。さっそく、つけてみるよ」
そう言って、私のスマホにタコのストラップをつける。それを見た陽花里はとたんにぱぁーっと顔色を明るく染めて、そのままいそいそと自分のスマホを取り出すと、私と同じようにすぐタコのストラップを取り付ける。
「えへへー。凛ちゃんとおそろいだー」
嬉しそうに笑うその姿があまりにも可愛らしかったから、思わず抱きしめたいという衝動に駆られてしまう。それをぐっと我慢して、コインロッカーを閉じてしっかりと鍵をかけると、
「もう19時だね。じゃぁ、行こうか」
「うんっ」
陽花里はにこにこ笑顔で私の腕をとると、
「楽しみ♪楽しみ♪楽しみだー♪」
と即興でなんか変な歌を歌い始める。
「なによ、それ」
「えへへー。凛ちゃんと楽しむデートのうたー」
楽しみ♪楽しみ♪楽しみだー♪
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