6 / 18
第6話 告白。
しおりを挟む
マンションの入り口で、陽花里が顔を真っ赤にして、震えながら私を見下ろしていた。
ぷるぷる震えている。膝ががくがくしているのが分かる。
身体の震えに合わせて、握りしめたスマホから下げられたタコのストラップがゆらゆらと揺れている。
汗。
汗をかいている。今は6月下旬。だんだんと暑くなりかけている時期だけど、まだこんなに汗を流すような時期でもない。むしろ今は真夜中。少し肌寒いくらいだ。
つまり。なんていうか。
陽花里は無茶苦茶緊張していた。
そして同じかそれ以上に、私も緊張していた。
(陽花里の…さっきの…言葉…)
黙って陽花里を見つめたまま、受け取った言葉を反芻する。
(私は、三崎陽花里は、凛ちゃんのことが…好きです)
好きです。
好きです。
聞き間違えなんかじゃない。
よくあるラブコメ漫画みたいに、不自然に聞き間違えるような余地すらなかった。完全に、完璧に、一切合切無駄の入る必然性もなく、弱弱しかったけど、決して壊れることのないダイヤモンドのような告白だった。
(陽花里が…私を…)
気づかなかった。ううん。気づかないふりをしていた。私もたぶん心の中では陽花里は私のことを好きでいてくれるんだろうな、とは思っていた。
でも、その想いは愛情ではなく、友情方面の方が強いのだろう、と思っていた。
だって。
(私が、そうだから)
答えなきゃいけない。
陽花里は勇気を出して告白してくれたんだ。
それを受け取った私は、ちゃんと答える義務がある。
「陽花里…私は…」
「ごめんっ、凛ちゃんっ」
私の言葉を遮るように、陽花里がまた大きな声を出した。
そしてそのまま、マンションの入口を出て、たったったと段を駆け下りて、私のそばへとやってくる。
先ほどまで、下から上に覗きあげていた陽花里が、今は私の視線の下で、肩を上下に揺らしながら、見上げてきていた。
「突然、こんなこと言って、困らせちゃったよね。ごめんね。凛ちゃんを困らせたいわけじゃないの」
「陽花里…」
「あのね…私がね…凛ちゃんを好きだっていうのは…本当だよ。前から、ずっとずっと好きだった。いつから好きだったかはもう忘れちゃった。気が付いたらもう好きだった」
いつもならここで私にくっついてくる陽花里が、今は触れてこなかった。触れそうで触れない、存在を感じるけど触ることが無い、そんな微妙な距離にいる。
だから、夜風が吹いてきて、少し寒さを感じてしまった。
「今日、凛ちゃんから、私のことを大事な友達だって言ってくれて、その言葉がとっても嬉しくて…そしてね、ごめんね。とっても、悲しかったの」
「…」
「凛ちゃんが私のことをこんなに大事に想ってくれているのに、それ以上を望んじゃってる自分がいるのが分かって…駄目だね、私。こんなこと言ったら、また凛ちゃんを困らせちゃう」
震えてる。
陽花里の肩が震えている。寒いから…だけじゃないよね。怖いから、震えているんだよね。
私は、ごく自然に、当たり前のように、一歩陽花里の傍に近づくと、そっとその小さな肩を抱きしめた。
「陽花里。有難うね。気持ちを聞かせてくれて有難うね。そして、私、こんな性格だから、うまく言えないんだけど、だけど本当のことを言うね。私も、陽花里のことが大好きだよ。でもね、すごく大事な友達だとは思うけど、でも付き合って彼女になって、とかいう方の好き、じゃないの」
腕の中で、陽花里がびくっと動いたのが分かった。
私の言葉がそうさせた。そうなるだろう、って分かっていて、言った。
だからこれは、私の責任なんだ。
「前からずっと…話したことあると思うけど…私、好きな人がいるんだ。昔から、ずっと、ずっと、ずーっと好きな人。中学生の時に好きになって、中学生の時に告白して、中学生の時にふられて、高校生になってからもずっと好きで、諦められなくて、高校生の時にまた告白して、また…ちゃんと、ふってもらった子がいるんだ」
「凛ちゃん…?」
「その子はね、今、結婚してる。好きな人と一緒に暮らして、幸せになっている。私は最後まで一度も選ばれなかったけど、でも、それでいいの。あの子が今幸せでいてくれるんだって思うだけで、私は幸せなの」
「そんなの、凛ちゃんが可哀想すぎる…」
「陽花里は優しいね。そんなところが大好きだよ。でもね、違うの。私は可哀想なんかじゃない。私は幸せなの。こんなにも想える人に出会えたなんて、出会えずに、恋を知らずに死んじゃうよりも、ずっと幸せなの」
分かる。
たぶん、私は間違っている。
あの子だって…私がこんな風になるのを望んでいないだろうってことくらい分かる。
あの子が私をきっぱりとふってくれたのは、あの子が優しいからだ。
凝り固まった未来に執着することなく、新しい未来に向けて動けるように、ちゃんとその余地を作ってくれたんだ。
「じゃぁどうして…凛ちゃん、いま、泣いているの?」
私が泣いて…
泣いてた。
また泣いちゃってた。
昼間に映画を見た時も泣いたのに、いったいどれだけ、私の中にまだ水分が残っているんだろう。
「これは…違うの」
「違わないよ。だって、私も同じだもん」
涙で視界がぼんやりと揺れながら、見てみた陽花里の顔が濡れていた。
私の涙が落ちたのかな、と思ってけど、違った。
陽花里の涙は、陽花里自身の涙だった。
可愛らしい顔がめちゃくちゃだ。拭いてあげないと、と思っていたら、逆に泣いてる陽花里の方が私の涙を拭きにくる。
「凛ちゃん泣いてる」
「陽花里だって泣いてる」
「うん…私ね、いま、好きな人にふられちゃったの」
「ごめんね」
「あやまるぐらいなら、付き合ってください」
「…ごめん」
「いいよ、許してあげる」
凛ちゃんの方が、私よりもっともっと、泣いているから。
「私のこと、まだ友達でいてくれる?」
「私には…陽花里しか友達いないよ…」
「凛ちゃんなら、その気になればいくらでも友達できるよ」
「陽花里しかいらない。私、友達なんて、陽花里だけいればいい」
「そんなの…まるで愛の告白みたいだよ、凛ちゃん」
「告白だよ」
私と、お友達でいてくださいっていう、愛の告白。
「卑怯だなぁ、凛ちゃんは」
「ごめんね」
「ううん。いいよ。今は」
陽花里は、私の大事な友達は、「最後に一つだけ、聞いてもいい?」と聞いてきた。私は「うん、もちろん、何でも聞いて」と答えた。
「凛ちゃんの好きな人の名前、教えて」
「星野未来」
「どんな漢字?」
「空の星に、野原の野、そして過去現在に続く、未来」
「そうなんだ…じゃぁ…」
陽花里は下から私をぎゅっと抱きしめてくれて、そして私の耳元で、小さく、宣言をしてきた。
「私…これから…凛ちゃんの…星の先の野原の未来にある…ひかりを目指すから、ね」
それは、これから先も、私のことを好きだという宣言であり、恋を失ってもまだその恋を忘れられない私には否定することが出来ない言葉でもあり…
私の大事な友達の告白だった。
ぷるぷる震えている。膝ががくがくしているのが分かる。
身体の震えに合わせて、握りしめたスマホから下げられたタコのストラップがゆらゆらと揺れている。
汗。
汗をかいている。今は6月下旬。だんだんと暑くなりかけている時期だけど、まだこんなに汗を流すような時期でもない。むしろ今は真夜中。少し肌寒いくらいだ。
つまり。なんていうか。
陽花里は無茶苦茶緊張していた。
そして同じかそれ以上に、私も緊張していた。
(陽花里の…さっきの…言葉…)
黙って陽花里を見つめたまま、受け取った言葉を反芻する。
(私は、三崎陽花里は、凛ちゃんのことが…好きです)
好きです。
好きです。
聞き間違えなんかじゃない。
よくあるラブコメ漫画みたいに、不自然に聞き間違えるような余地すらなかった。完全に、完璧に、一切合切無駄の入る必然性もなく、弱弱しかったけど、決して壊れることのないダイヤモンドのような告白だった。
(陽花里が…私を…)
気づかなかった。ううん。気づかないふりをしていた。私もたぶん心の中では陽花里は私のことを好きでいてくれるんだろうな、とは思っていた。
でも、その想いは愛情ではなく、友情方面の方が強いのだろう、と思っていた。
だって。
(私が、そうだから)
答えなきゃいけない。
陽花里は勇気を出して告白してくれたんだ。
それを受け取った私は、ちゃんと答える義務がある。
「陽花里…私は…」
「ごめんっ、凛ちゃんっ」
私の言葉を遮るように、陽花里がまた大きな声を出した。
そしてそのまま、マンションの入口を出て、たったったと段を駆け下りて、私のそばへとやってくる。
先ほどまで、下から上に覗きあげていた陽花里が、今は私の視線の下で、肩を上下に揺らしながら、見上げてきていた。
「突然、こんなこと言って、困らせちゃったよね。ごめんね。凛ちゃんを困らせたいわけじゃないの」
「陽花里…」
「あのね…私がね…凛ちゃんを好きだっていうのは…本当だよ。前から、ずっとずっと好きだった。いつから好きだったかはもう忘れちゃった。気が付いたらもう好きだった」
いつもならここで私にくっついてくる陽花里が、今は触れてこなかった。触れそうで触れない、存在を感じるけど触ることが無い、そんな微妙な距離にいる。
だから、夜風が吹いてきて、少し寒さを感じてしまった。
「今日、凛ちゃんから、私のことを大事な友達だって言ってくれて、その言葉がとっても嬉しくて…そしてね、ごめんね。とっても、悲しかったの」
「…」
「凛ちゃんが私のことをこんなに大事に想ってくれているのに、それ以上を望んじゃってる自分がいるのが分かって…駄目だね、私。こんなこと言ったら、また凛ちゃんを困らせちゃう」
震えてる。
陽花里の肩が震えている。寒いから…だけじゃないよね。怖いから、震えているんだよね。
私は、ごく自然に、当たり前のように、一歩陽花里の傍に近づくと、そっとその小さな肩を抱きしめた。
「陽花里。有難うね。気持ちを聞かせてくれて有難うね。そして、私、こんな性格だから、うまく言えないんだけど、だけど本当のことを言うね。私も、陽花里のことが大好きだよ。でもね、すごく大事な友達だとは思うけど、でも付き合って彼女になって、とかいう方の好き、じゃないの」
腕の中で、陽花里がびくっと動いたのが分かった。
私の言葉がそうさせた。そうなるだろう、って分かっていて、言った。
だからこれは、私の責任なんだ。
「前からずっと…話したことあると思うけど…私、好きな人がいるんだ。昔から、ずっと、ずっと、ずーっと好きな人。中学生の時に好きになって、中学生の時に告白して、中学生の時にふられて、高校生になってからもずっと好きで、諦められなくて、高校生の時にまた告白して、また…ちゃんと、ふってもらった子がいるんだ」
「凛ちゃん…?」
「その子はね、今、結婚してる。好きな人と一緒に暮らして、幸せになっている。私は最後まで一度も選ばれなかったけど、でも、それでいいの。あの子が今幸せでいてくれるんだって思うだけで、私は幸せなの」
「そんなの、凛ちゃんが可哀想すぎる…」
「陽花里は優しいね。そんなところが大好きだよ。でもね、違うの。私は可哀想なんかじゃない。私は幸せなの。こんなにも想える人に出会えたなんて、出会えずに、恋を知らずに死んじゃうよりも、ずっと幸せなの」
分かる。
たぶん、私は間違っている。
あの子だって…私がこんな風になるのを望んでいないだろうってことくらい分かる。
あの子が私をきっぱりとふってくれたのは、あの子が優しいからだ。
凝り固まった未来に執着することなく、新しい未来に向けて動けるように、ちゃんとその余地を作ってくれたんだ。
「じゃぁどうして…凛ちゃん、いま、泣いているの?」
私が泣いて…
泣いてた。
また泣いちゃってた。
昼間に映画を見た時も泣いたのに、いったいどれだけ、私の中にまだ水分が残っているんだろう。
「これは…違うの」
「違わないよ。だって、私も同じだもん」
涙で視界がぼんやりと揺れながら、見てみた陽花里の顔が濡れていた。
私の涙が落ちたのかな、と思ってけど、違った。
陽花里の涙は、陽花里自身の涙だった。
可愛らしい顔がめちゃくちゃだ。拭いてあげないと、と思っていたら、逆に泣いてる陽花里の方が私の涙を拭きにくる。
「凛ちゃん泣いてる」
「陽花里だって泣いてる」
「うん…私ね、いま、好きな人にふられちゃったの」
「ごめんね」
「あやまるぐらいなら、付き合ってください」
「…ごめん」
「いいよ、許してあげる」
凛ちゃんの方が、私よりもっともっと、泣いているから。
「私のこと、まだ友達でいてくれる?」
「私には…陽花里しか友達いないよ…」
「凛ちゃんなら、その気になればいくらでも友達できるよ」
「陽花里しかいらない。私、友達なんて、陽花里だけいればいい」
「そんなの…まるで愛の告白みたいだよ、凛ちゃん」
「告白だよ」
私と、お友達でいてくださいっていう、愛の告白。
「卑怯だなぁ、凛ちゃんは」
「ごめんね」
「ううん。いいよ。今は」
陽花里は、私の大事な友達は、「最後に一つだけ、聞いてもいい?」と聞いてきた。私は「うん、もちろん、何でも聞いて」と答えた。
「凛ちゃんの好きな人の名前、教えて」
「星野未来」
「どんな漢字?」
「空の星に、野原の野、そして過去現在に続く、未来」
「そうなんだ…じゃぁ…」
陽花里は下から私をぎゅっと抱きしめてくれて、そして私の耳元で、小さく、宣言をしてきた。
「私…これから…凛ちゃんの…星の先の野原の未来にある…ひかりを目指すから、ね」
それは、これから先も、私のことを好きだという宣言であり、恋を失ってもまだその恋を忘れられない私には否定することが出来ない言葉でもあり…
私の大事な友達の告白だった。
11
あなたにおすすめの小説
恋してしまった、それだけのこと
雄樹
恋愛
小学3年生の女の子が、母の妹に恋をした。
星野未来(ほしのみく)は、母の妹である水瀬沙織(みなせさおり)に恋をした。
出会ったとき、未来は8歳。
沙織は20歳の大学生だった。
優しくて、少し不器用で、どこか寂しそうなその人が好きな人は、私ではなく…私の「母」だった。
一生でたったひとつの初恋。
言葉にできない想いを抱えたまま、少女は季節を重ねていく。
あなたは私の叔母で。
あなたは私と同性で。
あなたは私と12歳も歳が離れていて。
あなたが好きな人は…私じゃなくて。
それでも、この初恋を諦めることは出来なかった。
これは、ひとりの少女の、恋のはじまりと記憶の物語。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
白雪様とふたりぐらし
南條 綾
恋愛
高校1年生の紫微綾は、生きることに疲れ、雪の山で自らの命を終えようとしたその瞬間――
美しい御小女郎姿の少女・白雪が現れ、優しく彼女を救う。
白雪は実は古の仏神・ダキニ天の化身。暇つぶしに人間界に降りた彼女は、綾に「一緒に暮らそう」と提案し……?
銀髪の少女と神様の、甘く温かなふたりぐらしが始まる。
【注意事項】
本作はフィクションです。
実在の人物・団体・宗教・儀礼・場所・出来事とは一切関係ありません。 作中で登場する神仏や信仰に関する表現は、物語の雰囲気づくりを目的とした創作によるものであり、特定の宗教や思想を推進・否定する意図は一切ございません。
純粋なエンターテイメントとしてお楽しみいただければ幸いです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる