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23話
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「子供の扱い方なんて知らないよ」
「あなたもじゅうぶん子供でしょう。私はお子さんを預かっていると手紙を書かなければいけないので、あとは任せました」
「……わかった。まあ精々、誘拐犯に間違われないよう気をつけなよ」
「神官からの手紙を誘拐だと思う方はいませんよ」
「ああ、思われるとしたら脅迫だったね」
「脅迫だと思うのであれば、その方にやましい気もちがあるからでしょう。私はただ事実を述べるだけですので、心配はいりません」
そんなやり取りを経てから、ローレンスの顔がリネットに向いた。こちらを探るような眼差しにリネットはぴくりと体を震わせる。
「こんな日に迷子になるなんて運がないね。せっかくの祭りなのに」
「おま、つり?」
「そ。どこぞの侯爵様が竜を討ち取ったとかで、みんな飲めや歌えの大騒ぎをしているんだよ」
あーあ、嫌んなるよね。そうぼやくローレンスにリネットはぱちくりと目を瞬かせた。
祭りに参加したことは――今日をのぞけば――ないが、それ自体は悪いものではないはずだ。今日で歩いた王都を行き交う人たちの顔には明るい笑顔が浮かんでいた。
それなのにどうして嫌なのかわからず、首を傾げる。
「竜を討とうと何を倒そうと、僕たちの資金が増えるわけでもなければ、ごちそうがもらえるわけじゃないからね。祭りだろうとなんだろうと、ここには関係ないんだよ。周りが楽しそうにしているのを見ているだけなんて、退屈だろ」
「……退屈なの? 悲しくなるんじゃなくて?」
屋敷にいる人たちが楽しんでいるときに、リネットやシゼルが彼らと同じように笑うことはなかった。彼らが笑っているときはたいてい、ひどい目に遭っているときだったからだ。
そしてアメリアが明るく笑い、メイヴィス伯に褒められる姿を見るたび、胸が痛んだ。
同じ子供であるはずなのに、どうして扱いがここまで違うのか。どうしてアメリアは気兼ねなく笑えるのに、自分は笑えないのか。
「羨んだところで何が変わるわけでもないし、ここにいると決めたのは僕だからね」
「……そっか」
はっきりとした物言いに、リネットは少しだけ羨ましく思った。自分も彼と同じぐらい割り切れたら、少しは楽になれるのだろうか。だがリネットは自ら選択したわけではない。選択できるほどの自由が与えられることはなかった。
「……それにしてもずいぶんと元気がないね。そんなに親とはぐれたのが不安?」
こくりと、小さく頷いて返すと「ふぅん」と気のない返事が聞こえてきた。
そのあとはこれといって話すこはなく、しばらくして血相を変えたシゼルがリネットを迎えに来た。
「ばいばい。もう来るなよ」
ローレンスはそう言うと、ひらひらと手を振る、というよりは、しっしと追いやるように手を動かした。
だがそれからというもの、リネットは足しげく教会を訪れた。そのたびにローレンスに嫌そうな顔をされたが通い続けた。
ここに連れてきた少年にもう一度会いたいと――優しくしてくれた彼に、しっかりとお礼を言いたいという一心だった。
だが、嫌味ばかりだったローレンスが呆れて迎え入れるようになるぐらい長い間通っても、少年ともう一度出会うことはなかった。
(――ようやく出会えたけど、お礼を言うことすら許してはくれなかった)
向けられた嫌悪と、明確な拒絶。昔のローレンスを思い出していたはずが、気づけば当時彼に抱いていた思いまでよみがえってしまった。
教会に通っていたのがエイベルに会うためだったのだから、当然といえば当然かもしれない。
しかも、竜を討ったという侯爵を讃えるためのパーティーが開かれたが、リネットとシゼルは迷子になった責任を問われ、屋敷でメイヴィス伯とアメリアの帰りを待つだけになったことも思い出してしまう。
「まだ元気がないようですね。何を気に病まれているのですか?」
「……いえ、結局……一度もお祭りに参加することができなかったな、と思っただけです」
気遣う様子をみせているローレンスに、リネットは苦笑し、肩をすくめた。
「あなたもじゅうぶん子供でしょう。私はお子さんを預かっていると手紙を書かなければいけないので、あとは任せました」
「……わかった。まあ精々、誘拐犯に間違われないよう気をつけなよ」
「神官からの手紙を誘拐だと思う方はいませんよ」
「ああ、思われるとしたら脅迫だったね」
「脅迫だと思うのであれば、その方にやましい気もちがあるからでしょう。私はただ事実を述べるだけですので、心配はいりません」
そんなやり取りを経てから、ローレンスの顔がリネットに向いた。こちらを探るような眼差しにリネットはぴくりと体を震わせる。
「こんな日に迷子になるなんて運がないね。せっかくの祭りなのに」
「おま、つり?」
「そ。どこぞの侯爵様が竜を討ち取ったとかで、みんな飲めや歌えの大騒ぎをしているんだよ」
あーあ、嫌んなるよね。そうぼやくローレンスにリネットはぱちくりと目を瞬かせた。
祭りに参加したことは――今日をのぞけば――ないが、それ自体は悪いものではないはずだ。今日で歩いた王都を行き交う人たちの顔には明るい笑顔が浮かんでいた。
それなのにどうして嫌なのかわからず、首を傾げる。
「竜を討とうと何を倒そうと、僕たちの資金が増えるわけでもなければ、ごちそうがもらえるわけじゃないからね。祭りだろうとなんだろうと、ここには関係ないんだよ。周りが楽しそうにしているのを見ているだけなんて、退屈だろ」
「……退屈なの? 悲しくなるんじゃなくて?」
屋敷にいる人たちが楽しんでいるときに、リネットやシゼルが彼らと同じように笑うことはなかった。彼らが笑っているときはたいてい、ひどい目に遭っているときだったからだ。
そしてアメリアが明るく笑い、メイヴィス伯に褒められる姿を見るたび、胸が痛んだ。
同じ子供であるはずなのに、どうして扱いがここまで違うのか。どうしてアメリアは気兼ねなく笑えるのに、自分は笑えないのか。
「羨んだところで何が変わるわけでもないし、ここにいると決めたのは僕だからね」
「……そっか」
はっきりとした物言いに、リネットは少しだけ羨ましく思った。自分も彼と同じぐらい割り切れたら、少しは楽になれるのだろうか。だがリネットは自ら選択したわけではない。選択できるほどの自由が与えられることはなかった。
「……それにしてもずいぶんと元気がないね。そんなに親とはぐれたのが不安?」
こくりと、小さく頷いて返すと「ふぅん」と気のない返事が聞こえてきた。
そのあとはこれといって話すこはなく、しばらくして血相を変えたシゼルがリネットを迎えに来た。
「ばいばい。もう来るなよ」
ローレンスはそう言うと、ひらひらと手を振る、というよりは、しっしと追いやるように手を動かした。
だがそれからというもの、リネットは足しげく教会を訪れた。そのたびにローレンスに嫌そうな顔をされたが通い続けた。
ここに連れてきた少年にもう一度会いたいと――優しくしてくれた彼に、しっかりとお礼を言いたいという一心だった。
だが、嫌味ばかりだったローレンスが呆れて迎え入れるようになるぐらい長い間通っても、少年ともう一度出会うことはなかった。
(――ようやく出会えたけど、お礼を言うことすら許してはくれなかった)
向けられた嫌悪と、明確な拒絶。昔のローレンスを思い出していたはずが、気づけば当時彼に抱いていた思いまでよみがえってしまった。
教会に通っていたのがエイベルに会うためだったのだから、当然といえば当然かもしれない。
しかも、竜を討ったという侯爵を讃えるためのパーティーが開かれたが、リネットとシゼルは迷子になった責任を問われ、屋敷でメイヴィス伯とアメリアの帰りを待つだけになったことも思い出してしまう。
「まだ元気がないようですね。何を気に病まれているのですか?」
「……いえ、結局……一度もお祭りに参加することができなかったな、と思っただけです」
気遣う様子をみせているローレンスに、リネットは苦笑し、肩をすくめた。
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