私のことが大嫌いな婚約者~捨ててから誤解だったと言われても困ります。私は今幸せなので放っておいてください~

由良

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30話

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 教会に戻り、与えられた部屋でリネットは小さく息を吐いた。
 ジゼルの葬儀に参列――とまでは言えなくても見送れてよかったとは思う。だけど、家族として参列できなかったことが、娘としてジゼルを見送れなかったことが、そしてこれまでの仕打ちがなかったかのように泣くアメリアと、それに寄り添うエイベルの姿が、胸の奥底に沈んだ澱のように沈んでしまっている。

「……どうして」

 罪の意識がどうこうと、言われなくてはいけないのか。罪を意識を抱くのも、悔い改めるのも、リネットではないはずだ。

「お母さまが死なないといけなかったの。なんであの人たちは、平気そうにしているの」

 自分がいなければ、と何度も考えた。自分のせいで、と何度も嘆いた。
 だけど、葬儀にいた人の誰も、リネットのように嘆き、悔み、涙を流す人はいなかった。アメリアにいたっては、自らを心優しい継子に見せるための振る舞いしかしていなかった。
 これまで、考えないようにしていた。ジゼルが亡くなるまでは、どうにもならないからと蓋をして、ジゼルが亡くなったあとも深く考えないように別のことに意識を向けて。

「……お母さま、私、私……」

 だけど葬儀で見た光景が、受けた仕打ちが、これまで考えないようにしていたことが、一人になったとたん溢れ出してくる。

「あの人たちが、許せない」

 父親も、アメリアも、蔑み見下してきたすべての人が、どうしようもなく許せない。

 ジゼルが起きてきたときを考えて、心配かけないように、これ以上ジゼルが嫌な思いをしないように、我慢して従順に振る舞ってきた。だけどもう、ジゼルはいない。もう二度と笑うことも、リネットに話しかけてくることもない。

「ねえ、お母さま。私は……どうすればいいの」

 だけど、リネットに彼らを断罪する力はない。魔力がないリネットでは、彼らに一矢報いろうとしても傷ひとつ負わせることはできないだろう。
 そして何もなせないまま罪状だけが積み上げられ、罰を受けることは目に見えている。

「……なんで私は、こうなんだろう」

 どんなに憎くてもやり返す力すらない。いやそもそも、力があればもっと大切にされていただろう。
 何を思おうが、願おうが、結局は無意味だ。憎しみを自覚してしまったからこそ、無力な自分が情けなくて、どうしようもなく涙が溢れてくる。

「ごめんなさい、ごめんなさい……お母さま。私が、無力なせいで……」

 だからただ、謝罪だけが積み重なっていく。
 ごめんなさい、と何度も何度も繰り返される部屋の中に、こんこん、と控えめなノックの音が響いた。

「リネット様。少しよろしいでしょうか」

 続いて聞こえてきたのは、ローレンスの声。リネットはうわ言のように呟いていた言葉をぐっとこらえ、代わりに「どうぞ」と短く返した。

「失礼します。……大丈夫ですか?」
「私は、大丈夫です。だけどこんな見苦しい姿を見せて……申し訳ございません」

 泣いていたのがわかったのだろう。心配そうな顔をするローレンスに、リネットは静かに微笑んでから小さく頭を下げた。

「そんなことはありませんよ。ただ……あなたの魔力がほとんどないという体質について話に来たのですが……もう少し落ち着いてからにしましょうか?」
「……いえ、今、お願いします。私なら大丈夫ですので、どうか教えてください」

 少しでも、別のことを考えていられるならそうしたい。
 リネットは涙で濡れる頬を拭い、ローレンスをじっと見つめる。その視線にローレンスが少し悩むような顔をするが、すぐにいつもと変わらない微笑みを浮かべて部屋にある椅子に腰を下ろした。

「……ほとんど魔力がなく、それでも永らえていた者についての文献が見つかりました。あなたも同じ、とは限りませんが……おそらく、似たような体質である可能性が高いです」

 そこで一度言葉を切ると、ローレンスは小さく息を吐いてから言葉を続けた。

「稀に、特異な体質を持つ者が生まれることがあります。たとえば魔眼……魔力が瞳に集中し、通常の方法では魔法を発動できない代わりにその瞳を通して特殊な力を使うことができる者、眼に限らず手や足……変わったところでいけば魂なんかに力が宿る者もいるのですが……あなたの場合はより特殊な体質といえるでしょう。それこそ百年に一度……いえ、千年に一度、現れるかどうかの。だから、誰も気づかなかったのでしょう」

 ローレンスの唇が弧を描く。穏やかで、優しく、安心できるような笑みなのに、なぜか不安になる。
 聞いてはいけないような、知らないほうがいいような、そんな予感がする。

「魔力食い。あなたは他者の魔力を食らうことによって、永らえています」
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