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16話
侍女たちの部屋に購入したものはなかった。だが代わりに、彼女たちには似つかわしくないものがいくつも見つかった。
古書であったり、香水であったり、飾りであったりと種類はさまざまだったが、共通しているのはどれも高価なものだということだ。
「じ、実家から送られてきたもので――」
どうやって入手したのかと問い詰めてでてきたのは、あまりにも拙い言い訳だった。
王族に仕える侍女や執事は誰もが高貴な生まれだ。高位貴族の次女や三女が行儀見習いとしてくることも珍しくはない。
だから裕福な実家であれば、そういうこともあるだろう。だがクリスティーナのもとに残された三人の侍女は下位貴族の生まれで、実家が困窮している者もいた。
彼女たちが不正を働いたのは明らかで、ことの次第を聞いた彼女たちの実家はみな揃って、自分たちは関係ないと、何もしていないと否定した。
文書の偽造に、印章の無断利用、そして公費の横領。そのどれもが重罪に値する。しかもそれがみっつも重なったとなれば、たとえ関わっていても否定したくなるだろう。
「家族のためにしかたなかったのです」
涙ながらにそう主張する者もいた。当然ながら、その家族は否定したわけだが。
もしも本当に、困窮している家族のため、やりたくもないことに手を染めたのならわずかに同情の余地があったかもしれない。だが彼女たちの部屋にはそれぞれ、高価なものが置かれていた。自分のために使ったのは間違いなく――三人にはそれ相応の罰が下されることになり、牢に連れていかれた。
だがそれで、話が終わるわけではない。
「……誰が、どこまで関わっているのか……」
執務室で、ラファエルはうなだれながら書類を眺める。クリスティーナの注文書を通した者たちの名前に目を通す。
この中には賄賂を渡され、精査することなく書類を受理した者もいるだろう。あるいは、侍女たちに知恵を授け、自らもその恩恵にあずかった者もいるかもしれない。
だがそれでも、全員が全員関わったと断言することはできなかった。中には、予算内だから問題ないと判断し、おざなりに受理した者がいる可能性があるからだ。
職務怠慢ではあるが、ほかの者と同列に罰することはできない。
侍女が捕まってから二週間。いまだに調査は終わっていない。誰も彼もが自分は関わっていないと主張し、尻尾を掴ませようとはしなかった。
「どうして、誰も気づかなかった」
漏れた言葉は、自らにも向けられた。クリスティーナが注文しているのなら大丈夫だろうと、彼女なら印章をしっかり管理しているはずだと――信頼していたから、見逃してしまった。
自らの不甲斐なさと、完璧な王を目指すのであれば誰が相手だろうと手を緩めてはいけなかったという自責と、信頼を裏切られた悲しみがラファエルの顔を歪める。
「――失礼します」
ノックのあとに扉が開く。ラファエルは誰も入ってこないようにと命じていた。
それなのに開かれた扉と聞こえてきた声に、顔を上げる。そこには、二週間ぶりの彼の弟、ルシアンが立っていた。
「状況は聞いたので把握しております。……ご心労、お察しします」
自然に下げられた頭に向けて、ラファエルは座るように促した。ルシアンは執務机の近くに置かれている椅子に腰を下ろすと、静かにラファエルを見据えた。
「義姉上は散財されていなかったようですね」
「ああ、そうだな。それにしても、印章を勝手に使われるとは……嘆かわしい。あれほど、保管には注意しろと言ったのに」
はあ、とため息をともに愚痴を漏らす。クリスティーナをよく知る弟にだからこそ、抱いた思いのうちを吐き出すことができた。
彼女の変わりようを一緒に嘆けると――そう思っていたからだ。
だが返ってきたのは、ラファエルが思っていたものではなかった。
「……それほどに憔悴されていた、とは考えないのですか」
古書であったり、香水であったり、飾りであったりと種類はさまざまだったが、共通しているのはどれも高価なものだということだ。
「じ、実家から送られてきたもので――」
どうやって入手したのかと問い詰めてでてきたのは、あまりにも拙い言い訳だった。
王族に仕える侍女や執事は誰もが高貴な生まれだ。高位貴族の次女や三女が行儀見習いとしてくることも珍しくはない。
だから裕福な実家であれば、そういうこともあるだろう。だがクリスティーナのもとに残された三人の侍女は下位貴族の生まれで、実家が困窮している者もいた。
彼女たちが不正を働いたのは明らかで、ことの次第を聞いた彼女たちの実家はみな揃って、自分たちは関係ないと、何もしていないと否定した。
文書の偽造に、印章の無断利用、そして公費の横領。そのどれもが重罪に値する。しかもそれがみっつも重なったとなれば、たとえ関わっていても否定したくなるだろう。
「家族のためにしかたなかったのです」
涙ながらにそう主張する者もいた。当然ながら、その家族は否定したわけだが。
もしも本当に、困窮している家族のため、やりたくもないことに手を染めたのならわずかに同情の余地があったかもしれない。だが彼女たちの部屋にはそれぞれ、高価なものが置かれていた。自分のために使ったのは間違いなく――三人にはそれ相応の罰が下されることになり、牢に連れていかれた。
だがそれで、話が終わるわけではない。
「……誰が、どこまで関わっているのか……」
執務室で、ラファエルはうなだれながら書類を眺める。クリスティーナの注文書を通した者たちの名前に目を通す。
この中には賄賂を渡され、精査することなく書類を受理した者もいるだろう。あるいは、侍女たちに知恵を授け、自らもその恩恵にあずかった者もいるかもしれない。
だがそれでも、全員が全員関わったと断言することはできなかった。中には、予算内だから問題ないと判断し、おざなりに受理した者がいる可能性があるからだ。
職務怠慢ではあるが、ほかの者と同列に罰することはできない。
侍女が捕まってから二週間。いまだに調査は終わっていない。誰も彼もが自分は関わっていないと主張し、尻尾を掴ませようとはしなかった。
「どうして、誰も気づかなかった」
漏れた言葉は、自らにも向けられた。クリスティーナが注文しているのなら大丈夫だろうと、彼女なら印章をしっかり管理しているはずだと――信頼していたから、見逃してしまった。
自らの不甲斐なさと、完璧な王を目指すのであれば誰が相手だろうと手を緩めてはいけなかったという自責と、信頼を裏切られた悲しみがラファエルの顔を歪める。
「――失礼します」
ノックのあとに扉が開く。ラファエルは誰も入ってこないようにと命じていた。
それなのに開かれた扉と聞こえてきた声に、顔を上げる。そこには、二週間ぶりの彼の弟、ルシアンが立っていた。
「状況は聞いたので把握しております。……ご心労、お察しします」
自然に下げられた頭に向けて、ラファエルは座るように促した。ルシアンは執務机の近くに置かれている椅子に腰を下ろすと、静かにラファエルを見据えた。
「義姉上は散財されていなかったようですね」
「ああ、そうだな。それにしても、印章を勝手に使われるとは……嘆かわしい。あれほど、保管には注意しろと言ったのに」
はあ、とため息をともに愚痴を漏らす。クリスティーナをよく知る弟にだからこそ、抱いた思いのうちを吐き出すことができた。
彼女の変わりようを一緒に嘆けると――そう思っていたからだ。
だが返ってきたのは、ラファエルが思っていたものではなかった。
「……それほどに憔悴されていた、とは考えないのですか」
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